荒れ果てた国
ほとんどの者が飢餓に苦しみ、何とか生き残ろうと力のある者は弱き者から食べ物や金を盗んでいく。
誰も誰かを助けようなどとは思わない。
悪臭が立ち込め色で言えば灰色に包まれた世界。
餓死や病気、はたまた暴行を受けて亡くなった者達の亡骸が道の端端に横たわったいた。
その異臭に包まれた亡骸に群がる虫や動物。
そんな景色にも見慣れてしまうほど、この国は異常だった。
「ひどい世界になったものだな、拙者が以前ここに出た時も荒れ果ててはいたがここまででは無かった。人間と言うのはどうしてこうも愚かな生き物なのだろうか。他者を傷付けると言う事はいずれ自分も傷付くと言う事を学ばない生き物なのだな」
肩までの金髪を革紐で結びながら、蔑むように冷たい視線で街並みを見ているベルトラムの水色のガラスのような瞳に非人間的な空気を感じてしまう。
まぁ、こいつは悪魔なのだからその表現は正しくないだろうが。
「お前のような悪魔にそのような事を言われるほど人間は落ちぶれてはいないぞ」
「クックックッ。確かにそうですね。だが、オレはこう言う人間は嫌いでは無い。自分が生きるために他者を犠牲にするなんて本能に従っていていいではないですか!オレが嫌いなのは…」
ベルトラムが視線を南の狭い狭い路地裏の方にずらしたので、私もそっちに目をやると、そこには数人の少年達が紙袋を抱えた小さな姉弟にナイフを突き出しているのが見えた。
私は向きを変えそちらに向かい走った。
少年達の動きを一瞬足りとも見逃さないように目に映し、少年達のやろうとしている事を何としてでも止めてやる、そう
思っている気持ちも空しく、少年の一人がせせら笑いながら怯える姉弟を見下ろし、持っていたナイフを弟の体に突き刺した。
間に合わなかった!
瞬間目を閉じてしまった私は自分の弱さを恥じながら、その光景を見た。
姉弟は無事だった、無事であったように見える。
変わりにさっきまではいなかった一人の少年が赤く染まった手でナイフの刃を握りしめていた。
「……っつ」
小柄な体を汚い身なりで包んだ少年から感じる獣のような気配を纏い、長い前髪からかいま見える鋭い眼光は相手を相手を威圧するのには十分過ぎるものだった。
結局弱き者しか相手にできない少年達は突如現れたその少年の圧倒的な空気に逃げる事を選んだ。
「もう大丈夫だよ、早く家にお帰り」
先程ナイフを取り上げた人物とは思えない優しい笑顔で子供たちに言うと子供たちは少年の鮮血に顔をひきつらせながらもくるりと身を翻し、路地裏を出ていった。
「オレが嫌いなのは、むしろああ言う人間です」
いつの間来たのだろうかベルトラムのしゃがれた声が私の後ろから聞こえた。