魔女狩り
「おお、ジョディ、今日も来たのか?」
シャルルが閉じ込められている塔の遥か北側に位置する酒場。
静まり返った路地裏に建てられているこの酒場は、扉を開けた瞬間に酒の臭いと男たちの臭いで溢れていた。
「いつもの」
私はカウンター席に座り、持っていた茶色い革ノートを開いた。
「何だ何だ、その辛気臭い面は?ははーん、また例のプリンスを口説けなかったんだろう?」
マスターが下品な笑い声を上げる。
「その言い方は不適切だぞ、アベル」
差し出されたロックのウィスキーを一気に飲みながら、白いレースの手袋を外しそのノートに文字を書き始めた。
「ジョディ?お前まさか本当にあの禁忌魔法を習得しようとしているのか?」
私の左手を見たアベルはぎょっとした表情で、声を潜めて言った。
「あ、ああ、これ」
私の左手は火傷を負ったように赤くただれていた。
「それ以上続けたら、お前の体が魔法に負けて呪い殺されるぞ」
私の両親が唯一遺してくれた物。
『ジョディ、私達の大切なジョディ…これを…』
悪徳女王にこの村には魔女が住んでいると言われて有無を言わさず私の住んでいる村を焼かれたあの日。
消え行く命の灯火を前に、母親が胸元から出した一枚の黒い紙。
『ごめんね、ジョディ』
数々の禁忌魔法が殴り書きされた薄い紙。
幼い私はその紙をぎゅっと握りしめながら泣き続けた。
「この紙を貰うまでは、まさか、私が魔女の血を受け継いでいるなんて思いもしなかった」
悪徳女王はいつもの気まぐれで魔女がいると思い火炙り行為を行ったのかもしれないが、結果、あの村に魔女はいたのだ。
よくよく考えれば、あの村にいた女たちは全員魔女だったのかもしれない。
だって…。
「ジョディ、瞳の色が…」
アベルの声ではっとなる。
グラスに写った私の瞳が赤くなっていたのだ。
この赤い瞳こそが魔女の証なのだ。
小さい頃、村でこの赤い瞳をした女に遭遇した事が何度かあったから。
何をすれば瞳が赤くるのかは人それぞれだが、私の場合考え込むと赤くなってしまうらしい。
「心配してくれるのは嬉しいが、これは私の復讐なんだ、私としては見守っていてくれるとありがたい」
アベルはそれ以上何も言わなかった。
今は仲間を集めること。
それだけを考えねば。
あの監獄のプリンス、シャルルを救い出すための。