監獄のプリンス2
「シャルルさま…。本日は私が貴方さまの話を聞きたくてやって参りました」
私ジョディは硬く重い扉の前で腰を屈め、食事しか通らない小さな入口に顔を近付けた。
「僕の話し?」
まだあどけない可愛らしい男の子の声が返ってくる。
「僕は人に話せるような話し何も無いよ」
だって僕はこんな光も射さない部屋に閉じ込められ、来る日も来る日も拷問の毎日を送っているのだから。
昨日も殴られ過ぎて左目が開かないんだ。
もう死にたいよ…。
愛らしい声で語られる言葉はあまりにもむごたらしい内容で聞く方として胸が張り裂けそうになるほど苦しくなる。
「シャルルさま、いつか私がシャルルさまを必ずこの場所から明るい陽のもとに連れ出してみせます。なので、生きることを諦めないでください」
「どうして?どうしてジョディはそんなこと言うの?」
それは…ただ単に幼きシャルルをここから救いたいとかそんな安易な気持ちでは無かった。
私にはこれから先やろうとしている大きな意義にシャルルがどうしても必要な人間だった。
私は兼ねてからこのシャルルと言う少年に色々な疑問を持っていた。
どうして、何の罪もない少年がこんなひどい所に監禁されているのか?
それなりの刑を犯したものならすぐに処罰してしまうのが今の女王のはずだ。
それが生かしておいてると言うのは何かしらの意味があるのでは?
それはきっとシャルルの出生に秘密があると思い、今調べていた。
だが、しかし、ここからシャルルを救うのにも一人ではできない。
もっとたくさんの力がいる。
味方をつけなければ…。
「それにどうしてジョディは僕のことシャルルさまって呼ぶの?」
シャルルが右足を引きずって、小さな戸口から顔を覗かせた。
肩まで伸びたブロンドの髪、空のように美しい青い瞳、透き通るような白い肌、端正の取れた顔立ちは、私のよく知る人物にそっくりだった。
そう、あの悪徳女王のカトリーヌによく似ていた…。
「シャルルさま、今はまだそのことを話す訳にはいきません。ここから助け出したのち必ずお話します。して、シャルルさまはこの国の王にお会いしたことはございますか?」
去年の暮れに無くなった我が国の国王ルイス16世。
不慮の病で亡くなったらしいが真相は明らかにされていない。
この点にも疑問はある。
何故なら亡くなる前まで国王は風邪一つも引かない健康な体だったからだ。
「うーん、一度だけ…。何でもお忍びで村に来たついでに僕の家に寄ったって。僕のママは国王のこととても優しい国王だっていつも話してた」
国王がお忍びで村に出ることなんそうあるはずがない。
これは…、やはり…。
「食事係、いつまでそこにいるんだ!」
入口から大きくて不快な兵士の声がした。
「シャルルさま、先程の約束は私とシャルルさま二人の秘密でございます。何とぞ口外なさらないようにお願いいたします」
そして。
「いつか二人で明るい村に参りましょう」