第二章 暴君王女
第二章
暴君王女。
民衆達は私の事をみんなそう呼ぶ。
この国の建物、この国の人間、この国の風景、この国の空気さえも、この国のモノ全てが自分のためにある。
誰かに言われるまでもなく、生まれた時からそうなんだと自覚していた。
誰もが私の言う事に従った。
自分の意思など持っていないまだ幼子の自分の言う事は絶対だった。
この頃から私には好きな遊びがあった。
屋敷内の東側にある塔、父に逆らった人や必要無くなった人間を閉じ込めておくだけの塔。
いつもかび臭いその塔の一番上まで駆け上るのが大好きだった。
いつも小さな犬や猫を抱っこして一番上まで駆け上る。
東の塔はこの屋敷の中で一番高く、街一体を見渡す事ができる。
その景色を見ながら、抱えていた動物を下に落とすのが大好きだった。
悶えながら亡骸になってゆく姿を見るのが大好きだった。
そう言うのを見ると、ああ私は生きているんだと強く思う事ができた。
私は私のままこのまま永遠に生きていける、そう、そう思ってきた。
それは、この世で最も尊敬する大好きな父親がいつも私に言ってた事だから。
この世は全て自分の思い通りになる、それだけの力を私達は持っていると。
私はそんな父の言葉を心の底から信じていた。
あの時までは…。
あの時、父と町外れの小さくて汚いあの家に行った時から私の心が激しく動いた。
あの家にいた私そっくりの少年を見るまでは。
私と同じ金色の絹のような髪の毛、私と同じくっきりとした大きな青い瞳。年端もいかないだろうに、整った顔立ちのせいで大人びて見えるのも私と同じ。
だから、父にその少年が私の弟と聞いた時、驚きはしなかった。
驚きはしなかったが、生まれて初めて父に不審感を抱いた。
父を軽蔑した。
父と愛人との間に生まれた哀れな弟。
愛人と言う言葉は言い過ぎだ。
こんなみずぼらしい、こんな不浄場のようなとこで生きている人間がいる事が信じられなかった。
こんな汚いとこで生きてる女を父が好きになるなんてある訳が無いと思った。
シルバーグレイの瞳をした質素なその女を父は優しい目をして見ていた。
そんな父の顔初めて見た。
今まで大好きだった父はもうそこにはいなかった。
その日の夜、父を東の塔に呼び出し、今まで子犬や子猫にしてきたように、と言っても抱える事は出来なかったので、背中を押した。
一瞬こっちを振り返り目を見開かせた父はそのまま地面に落ちた。
子犬や子猫よりあっさりと動かなくなった父を見て、自分が何でこんな遊びに夢中になっていたのか分からなくなった。