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「おはようございます、シャルルさま」


春めいた外の陽気からは想像もできない程塔の中は冷え切っていたのにも関わらず、シャルルは笑顔で言った。


「今日はとても暖かいね、ジョディ。もう春になるのかな?」


自分の背丈よりずっとずっと上の方についてる小さな窓を見上げて笑った。


「外はお花で溢れてるのかな?」


今日のシャルルさまはすごぶる機嫌がいいようで鼻歌を歌いながら瞳をキラキラさせていた。

こんな粗末な塀の中にいながらも、外の穏やかな陽射しの中、風にそよぐ景色を想像しているのだろうか。


「以前前国王の事をお聞きしたのを覚えておりますか?本日は国王の一人娘カトリーヌ女王についてお聞きたしたいのですが、シャルルさまはカトリーヌ女王さまとお会いした事はございますか?」


カトリーヌと名前を口に出した途端、笑顔が消え強張った表情で視線を下にずらした。


「どうかされましたか?」


「カ、彼女には…一度だけ…」


モゴモゴと動いた口を手で抑え、苦しそうな表情を浮かべ、こめかみから流れてくる冷や汗を手で拭き取り、そのままヘナヘナと床に座り込んでしまった。


「シャルルさま?」


「…あの女性(ひと)は人間じゃない」


「…」


「一度だけ、一度だけ…。母さんが亡くなってすぐの頃、一度だけ、僕の家に来たんだ」


あれは母親が亡くなる数日前だった。

まだ幸せだった頃の世界。

世界で一番大切な時間だった頃。

あの悪魔は家にやってきた。

自分の顔によく似た悪魔は何の前触れも無く家に入ってきてすぐに、母親に何か言った。

言葉はあまりよく覚えてないけど、その言葉を聞いた母親膝をつき、わなわなと震え初めた。

そんな母親の髪の毛を掴み目を覗き込むとクスっと笑ってからハサミで、ハサミで…、母親の片目を……。何度も何度も…。

悲痛な叫び声を上げながらも、両手を広げ奥にいる僕を必死で守ろうとしてくれていた。

そんな母親に僕は何もしてあげられなかった。

僕はただ奥の部屋からその状況を見ている事しかできなかった。

そして…。

悪魔がこっちを見た。

僕とそっくりの蒼い目は僕とは正反対の色をしていた。


「ごめん。ジョディ。彼女の事は話したくない」


蹲り大きな目は乾ききった空を見上げていた。

あの悪の女王を貶める事のために私はこんなに傷ついてる少年でさえ利用しようとしているのだろうか?

だけど。


「シャルルさま、私が必ずここから貴方を救って差し上げます」


この言葉に嘘はない。






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