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幸福

「……どう言うことだ、ベルベット?」


聞かなくても何となく予想は立っていた。

聞いてしまったら事実を受け入れ無ければいけない、そう分かっているのに気付いたら声になってしまっていた。


「あの少年の命はあと僅かだ。拙者には何もできない。だからこれ以上ここにいても時間の無駄だと言う事だ」


幸いにも西陽の当たる部屋の隅にベッドに戻ったブラッドは初めて家に来てくれた客人がよほど嬉しいようでフレディにしきりに話しているから二人の耳には入っていないようだった。

色を失った家の中であの二人だけがオレンジ色の光に包まれていた。

運命はあの光さえも奪おうと言うのか?


「ジョディさま?」


ベルベットの呼ぶ声を無視して私は二人に近寄ると、すぐにブラッドが目を輝かせてた。


「お姉ちゃん」


「……ジュディでいい」


「ジュディ!お姉ちゃんジュディって言うの?」


ブラッドは目をくるくると動かして兄のフレディの方を見ると、フレディの方も驚いたように私を見ていた。


「どうした?」


「すごい。ママと同じお名前だ!ねぇ、お兄ちゃん、知ってたの?」


「……いや」


「いいお名前だね!」


自分の母親と同じ名前と言う事が相当嬉しかったのか、よく動く水色の瞳をキラキラさせていた。


「ジュディ達今日うちに泊まってくでしょ?」


「え?いや、それは…」


「ねぇ、泊まって行ってよ!たまにはお兄ちゃん以外とご飯食べたい!」


ねぇ、いいでしょう?と、キュっと力無く握るか細い指に心が締め付けられる。

この子を見ているとやはり監獄のシャルル王子を思い出してしまう。


『ねぇ、ジュディ行かないで!ジュディが行ってしまったらまた僕は一人になってしまう。もう殴られたくないんだ。お願い、僕を助けて』


そうやって私の腕を握るシャルル王子とこの少年を重ねてしまう。

何も無いシャルル王子よりこの子の方が幸せだと言う事は分かっている。

もうすぐ命の灯火が消えようとも、この子には彼を心から愛する兄がすぐ近くにいるのだから。

束の間の幸せが彼にはまだ残っている。

だがしかし。

幸福のまま天に召される事が本当に幸せなのだろうか?

残された人間はいつでもキレイに物語る。

そもそも天国と言うのが本当に存在していたのして、たった一人でそこに行く事が本当に幸せなのだろうか?

そこで先に亡くなった両親と会えるとでも?

そんな真実かどうか分からないことを残された人間はよく語れる物だ。

この少年はこれからも生きていたい、生きていけると思っているのに。

これから一人で残される兄の方はどうなんだろう?

未来を無くす少年と過去にすがって生きる少年どちらが幸福なのだろうか?



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