時間とは
フレディの家は街からさほど離れていない所にあった。
彼の身なりから判断して小さな家を想像していたのだがそこそこキレイな大きい家だったの事に驚いた。
「父さんと母さんが生きていた頃はそこそこ幸せに暮らせてたんだ」
贅沢と言うのにはほど遠い暮しだったけど、お金なんかよりずっと大切な物に囲まれていたあの頃。
暖炉の前で過ごすクリスマスや誕生日には必ず家族そろってのディナー。
いつも暖かかったこの家の灯火が消えてしまうあの日までは…。
暖炉にたまったススを手で払いながらフレディは目を伏せた。
花瓶に刺さっている花は枯れホコリと共に床に落ち、割れた窓から入ってくる冷たい風がそれ等を動かした。
端っこの棚の上に飾られている家族写真だけがこの家の温かみを残していた。
ベルベットは勝手にグラスにポットの水を注ぎ口に含み苦い顔をして飲み込んだ。
「けど…二人が死んでからは悲惨だったよ。払いきれない程の借金と病気がちの幼い弟…オレ一人だって生きていくのがやっとなのに…」
二階の部屋に案内されると、ドアを開ける音に気付いたのか、西陽を受けたベッドに眠っていた一人の男の子が体を起こした。
「お帰り、お兄ちゃん」
ツヤの無くなったブロンドの髪が真っ白の痩せこけた頬に張り付いたその姿は…監獄のプリンスシャルルによく似ていた。
ここにもこんな哀れな子供がいた事に胸が張り裂ける思いだった。
「お兄ちゃんその人達はお兄ちゃんの友達?」
笑顔を見せて布団を剥いでベッドから出て来た。
フラフラの足取りで近付き、生気に満ちた目で私達を見上げる。
「ブラッド、起きて来なくていいから、ちゃんと寝てて」
「だって、お兄ちゃんがお友達を連れて来てくれるなんて始めてだよ。僕とっても嬉しい。僕、ブラッドこんにちわ」
そう言って小さな小さな右手を私に差し出した。
折れてしまいそうな小さな小さな冷たい手。
ブラッドは今度は臆する事なくベルベットに手を差し出した。
当然ベルベットはその手を払いのけたがブラッドの表情は輝いたまま話し掛ける。
「僕の家に来てくれてありがとう。僕、他の人に会うの久しぶりなんだ。だから、すごく嬉しいよ。…ゴホっ」
一気に言葉を捲し立てるから咳き込み始めその場にうずくまってしまった。
「ほら、ブラッド。大丈夫。お客さんはそんなにすぐは帰らないよ、だからベッドに戻って」
さっきまで見せていた顔とは全く正反対の柔和な表情で弟をベッドに連れて行くフレディを穏やかな陽が包んでいる。
あの小さな男の子にはまだ兄と言う希望が残っている。
そこがシャルルとは違うとこだ。
だが…。
その僅かな幸せが終わる瞬間はいつだって至極残酷だ。
「可哀相に。あの少年の命はあと僅かだな…」
運命も…時間も…全て誰にも……。
悪魔でさえも変えられない。