命の対価
ーーーオレの弟を助けてくれないか?
「少年、お前の名は何と言う?」
少年の言葉にベルトラムはゴミを見るような目で見てから低い声を出した。
たったそれだけの事なのに畏怖を感じる。
先程までベルトラムのように冷淡な目をしていた少年だったが所詮ただの子供。さすがに本物の悪魔の佇まいに太刀打ちできる訳がないものの、最早引く訳にいかないと覚悟を決めていたのだろう。
二、三歩後退りをしながら震える手に力を込めベルトラムを見上げた。
「オレはフレディ。……おじさんに助けて貰いたいんだ」
「人助けか…。拙者が一番嫌いな事だな、諦めろ」
ペロリと親指をイヤらしく嘗めフンと鼻を鳴らし少年に背を向けた。
「か、金か?金が望みならだ、出すから、お願いだ。オレの弟を助けて欲しいんだ」
ボロボロの布きれのようなモノを身に纏い、窃盗少年の集団のナイフを市場に売りに行こうとしているこの少年に金銭を払えるとは思えない。
それほど必死なのだろう。
「金など興味無い、諦めろと言っただろう」
「ベルトラム!少しは話を聞いてやれ」
ベルトラムの話の腰を折ると、些かムッとしたのか、聞き取れないほどの小さく舌打ちをした。
「ジョディさま。あんまり人が良すぎると損しますよ。今はそんな事してる時間などないでしょう。さぁ、行きましょう」
「だが…」
フレディと言う名の少年は赤く腫れるほど唇を噛みしめていた。
確かに私にはそんな時間は無い。
だけど、フレディの深い水色の瞳を見ていたらシャルル王子を思い出してしまった。
「金じゃないなら何をしたら弟を助けてくれる?」
「しつこいガキだな。そうだな。お前の命と交換と言うのならその弟を助けてやってもいいが」
ペロリと上唇を嘗め、腰を屈め、フレディの前髪を引っ張り顔を近付けた。
「オレの命…」
「ああ、そうだ、それぐらいの覚悟はあるのか?」
ベルトラムの黒い影が壁一面を覆い嘲笑う声が路地に低く響く。
フレディはその恐怖に一度は怯みながらも顎を引きじっとベルトラムの目を見つめ返して言った。
「オレの命…分かった。オレの命をおじさんにやるから弟を助けてくれ」
ベルトラムの高笑いが風を起こす。
砂ぼこりが舞い目に突き刺さる。
口に砂が入ったのかフレディが咳き込み始めた。
「そこまで言うのならその弟とやらを見に行ってやろう。だが、直すか直さないかを判断するのはその後だ」