無感情
「何?」
私達の視線に気付いた少年は暴漢者から取り上げたナイフを持っていた茶色の布袋に入れた。
「そのナイフどうするんだ?」
「市に行けばそれなりの金で買い取ってくれるだろう。あんた達何?哀れな子供に同情でもしてんの?だったらコインでも恵んでよ」
まだ年端もいかぬその少年を見ていたら牢に閉じ込められているシャルル王子の事を思い出してしまう。
彼もまた子供らしい生活を送れていない一人なのだろう。
果たしてこの国で子供らしく生きれている子供なんているのだろうか?
「少年、両親はいるのか?」
「……聞いてどうすんの?」
前髪から垣間見える眼光がまた鋭くなる。
人ととの関りを完全に遮断したいと言う表れなのだろうか?
冷たいその眼差しを向けられると拒絶せざる得なくなってしまう。
ずっとそうして一人で生きてきたのだろう。
まだこんなにもあどけない横顔をしているのに。
この国はどうしてこんなにも腐ってしまったのだろうか?
砂埃を払い落とし去って行こうとする少年の後姿を見ていたら、引き止める以外の選択権は無かった。
引き止めてどうなるのか?どうするのか?全く考えてはいなかったが。
「そんな少年一人に構っている時間なんてないだろう?そんな小童捕まえてどうするつもりだ?」
ベルトラムの水色ガラスの瞳が冷たく私を見下ろしている。
ベルトラムの言う通りだ。
彼をつかまえてどうするつもりなのだろ
う?
輝きを失った彼の瞳がただ心に沁みて。
一人で生きて行くと言う事がどんなに辛くて哀しい事か…。
嬉しい事があっても悲しい事があっても誰も話を聞いてくれる人がいない。
自分一人の心の中で留めていると、いつの間にか嬉しい事も悲しい事も何の意味も無くなってしまう。
そして自分の感情が1つづつ無くなっていくのかが分かる。
遂には何の感情も無くなり最早人間では無くなってしまう。
私にはその事よく分かる。
私もそうだったから。
私も…。ずっと暗い部屋で一人でいたから。
「少年、お腹空いてないか?これから私達はそこの店でランチをするのだが一緒にどうだ?」
「おいおい、そんな予定無かっただろう」
ブツブツ言うベルトラムの言葉を無視して少年の言葉を待っていたが冷たく一瞥して私達と逆方向に歩いて行く少年の腕を掴んだ。
「何?オレが物乞いにでも見える?哀れな子供に恵を与えて自分に酔いたいならそこら辺にもっとちょうど手頃いい子供たくさんいるだろう?…っつ」
さっき少年からナイフを取る際についた手の平の傷が痛み始めたのかぎゅっと手を握り締め歩を止めた。
「見せてみろ」
彼の手を強引に取ったのは以外にもベルトラムだった。
少年は手を引き離そうとしたもののベルトラムの異様な圧力に負け大人しく引き下がった。
「かすり傷だな」
ベルトラムはフゥーと息を吹き掛けると手の平の傷が氷のような蒸気に覆われたかと思うと一瞬で傷が塞がった。
「な、何?あんた魔法使い?」
能面のようだった少年の顔に感情が戻った。
「お願いがあるんだ、オレの弟を助けてくれないか?」