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Harness1/2  作者: キャラメルポップコーンさん
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------「N県水曽町で起こっていた学校長連続殺人事件の犯人と思われる男性4人が昨日、警察が包囲していたシャトーから脱走し、現在も行方をくらましています。」

 つばのついた帽子を深くかぶる大学生たちは、喫茶店のテレビから流れるキャスターの声に耳を傾けていた。

 カウンターから漂うコーヒーの香りは、その苦味を深いほどに感じさせる。

 店内は多くの客で埋まっている。ここは近所では有名な喫茶店らしい。

 背中からは男性2人の会話が聞こえてくる。初デートはどこがいいだとか、なんとか。

--------「事件の犯人と思われているのは、同町の大学に通う大学生、広瀬杜一、千歳萊輝、白河益弥、小野蒼、の4人です。なお、広瀬杜一容疑者は現首相広瀬創治氏の息子であり、先日の事件で殺害された広瀬光留さんの兄です。」

「総理大臣の息子が暗殺とはねぇ、いい政治だと

思っていたんだがなぁ。この人ももう終わりか。」

 中年ぐらいの男性が、独り言のように店の店長に呟く。店長は軽い苦笑いを見せ、コーヒーつぎを再開する。

「容疑者たちは、協力者と思われる者が操縦するヘリコプターに屋上から乗り込み、そこから脱出したと……」

「杜一、行こう。-----すみません、代金ここに置いときます。」

 キャップをさらに深く被り、その大学生たちは颯とその店を出ていった。


「思ったよりニュースになってるな。」

 鼠色の帽子を脱ぎ、萊輝はカリカリとその頭をかく。髪の毛は普段より平らに収まっている。

 益弥は周囲の様子を眺めた。警察は徘徊していないかどうかの確認だ。

 太陽は今にも頂点に達しようとしている。風は全く吹いておらず、降り注ぐ日光が彼らの頭上を刺激した。蒼はまだ帽子をかぶっている。

 シャトーを脱出し、苫利と別れた後、杜一たちはN県を抜け出すことに成功し、隣のY県に到着していた。

 先程のニュースによると、県警は未だヘリで逃げ出したと勘違いしており、その行方を追っているという。

 作戦がなんとかうまくいっていることに対する康寧さが彼らを包む。

「でも杜一、こっからどうするんだ?証拠を探すっていっても、またN県に戻る必要があるし。」

 周囲にパトカーのようなものが見えないことをジェスチャーで伝えながら、益弥はその疑問を口にした。

「まずは情報を整理するんだ、証拠探しはそれから。県警いつもより敏感になってる、N県に居座って考えるのはやっぱり危険だったから。」

 あっさりと彼は納得。

 かといって、ここも安全とは言えなかった。事件はN県のみで起こっていたとはいえど、首相の息子が犯人である、このことは全国の警察に影響し、指名手配されるのも時間の問題だった。

 ここの環境は彼らの地元とほとんど変わらなかった。山に囲まれ、街灯なんて逆の意味で数えられないくらいだ。人通りもまったくない。

 その静けさが、逆に彼らの不安を仰いだ。

 見慣れたようで見慣れない土地を歩きながら、彼らは今持ちうる情報の整理を開始する。

 


------多くの人員を動員するも、犯人を捕まえることができなかった、その屈辱を味わった県警は、彼らの居場所を突き止めるのに尽力していた。

 その裏で、次こそ確実に彼らを捕らえるため、捜査班の編成が行われていた。

「それでは、捜査班指揮は黒崎さんが。」

「ああ、四宮、寿都、お前たちにも捜査班として動いてもらう。」

 高槻はその命令に頷く。以前のように心を揺らす彼はそこにはいなかった。

「そして、新しく警視庁から捜査一課に配属されたやつがいる-------------。入れ。」

 パタッとドアが開く。蛇のように腕をしならせながら、彼は部屋へと入ってきた。

「今日より、警視庁よりN県警捜査一課に配属された、杖志摩陸貞(じょうしまりくさだ)と申します。どうぞよろしく。」

 軽い自己紹介をするも彼が頭を下げることはなかった。

 体は少しよろよろとしている。二日酔いのサラリーマンのようだった。

「杖志摩は去年警視庁で俺が組んだ相手だ。寿都、お前と同じ、ここの養成学校の卒業だ。」

 同期にはこんな人見たことない、先輩だろうか。そっと高槻は彼に一礼した。

 その姿を見て黒崎は人笑い。

「杖志摩、祭りの件はどうなってる?」

「町内会に問い合わせたところ、開催するかどうかはまだわからず、審議中とのことです。」

 かつてのパートナー同士ということもあり、彼らの会話はアイススケートのようにすらすらと進んでいく。

 横目で上司を見つめる部下がいた。

「よし、捜査班を全員ここに集めてくれ。最初のミーティングだ。」


「------んぐん、失礼。ここN県水曽町で起こった、学校長連続殺人事件の犯人が今もなお逃走している。君たちには奴らを追う捜査班として動いてもらう。私は総指揮を務める黒崎厭だ。よろしく頼む。」

 打ち合わせでもしていたかのように、集まっていたものたちは一斉に頭を下げる。そして上がる。

「最初の方針だが、寿都、頼む。」

「はい、N県警捜査一課、高槻寿都です。まず前提として、犯人の中には総理大臣の息子が含まれています。捜査は慎重に行ってください------。犯人はあの時、ヘリでシャトーを脱出、その後行方をくらましています。」

 一呼吸起き、再び続ける。

「恐らくは、すでにN県からは抜け出しているそう思われます。県内の捜査が厳重になるのは彼らもわかっているはずです------。そこで我々がまず実行するのは、他県への捜査を開始することです……。」

 黒崎が彼の前に出る。その背中は普段より広く見えた。

「3時間後、まずはY県への調査を開始する。解散!」


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