XXIII
決意を固めた青年たちの裏で、高槻たち県警は、超人祭りの警備についての会合を行なっていた。
水曽町でこれまでの事件が起こり、警察としては『中止』せざるをえないと考えていたが、町内会や町民からの希望により、続行が決定した。
被害をこれ以上増やさないためにも、今の県警には重厚な警備が求められている。
「----------以上で祭りの警備のことは終了だ。」
黒崎が解散の令を告げた。
集まっていた警官たちが会議室をそそくさと出て行く。高槻はそれに続かず、黒崎のもとへ駆け寄った。
「黒崎さん、やはりシャトーの警備はつけたほうが…。」
警備に必要な人員を杖志摩が算出したところ、シャトーまでに回すほどの人数がなく、結果そこの警備は外す、ということになっていた。
「仕方がないことだ。それに他にもっと警備を厚くしないといけないところがあるんだ。」
「……黒崎さんは、彼らがこの祭りに現れると思いますか…。」
「---------------奴らは、祭りの運営にずっと憧れていたらしいな。お前ならどうする? 身の安全を取るか、それとも自分の夢を見届けるをとるか。」
高槻はその問いにただ閉口した。返すべき答えが見つからなかった。目の前では黒崎がクスッと笑っている。
「とにかく、お前は自分の務めを果たせ。わかったな?」
コクリと頭を下げる。その場を後にして、自分の席へと戻った。
どうしても胸のわだかまりが収まらなかった。
彼らが祭りに現れれば、颯爽と捕まえられる、彼らの無罪を証明できる術も断ち切られるかもしれない。
今彼の頭の中で、『警察』としての正義が、『高槻寿都』としての正義に埋め尽くされようとしていた。
-----ブルルルルルル
机の上で携帯が震えだす。
隣の席から視線を集めたそれを持ち出し、屋内を飛び出して冬の太陽のもとへ駆け出した。
公衆電話からだった。
「もしもし…。」
「…高槻寿都さんですか…?」
いつか聞いた声がした。
「広瀬杜一です。」
その名前を聞いた途端、高槻は急いで周りを見渡した。誰もいないことを確認したのち、再び携帯を耳に当てる。
「広瀬杜一、今どこに?」
「…それは言えません。今日はあることをお伝えするためにお電話させていただきました。」
ゴクリと息を呑み、彼が話を続けるのを待つ。
「…俺たちを信じてくれることには感謝します。でも、俺たちは俺たちで自分たちの正義を証明してみせます。それだけです。それでは。」
「ちょっと待ってくれ!証明って一体どうやって?」
「伝える理由はありません。あなたは…『警察官』です。」
彼の声はそれを限りに途絶えてしまう。
冬の焦燥感とともに、高槻はその場に立ち尽くした。
----------ガチャリ!
受話器を勢いよく戻して、ボックスの中を出て行く。中がモワッとしていたため、外の空気はとても美味しかった。
「杜一、どうだった?」
「しっかり伝えた、自分たちでやるって。」
杜一と萊輝の仲は完全に修復し、いつも通りの会話が成り立っていた。そんな2人を見つめる益弥は顔を崩してついはにかむ。
「それじゃあ、戻ろうか。」
日が傾き始める中、彼らは本部への道のりを歩き続ける。杜一はその一歩一歩を念入りに踏みしめていった。
「なあ、もし無実が証明されて自由の身になったら、何したい?」
益弥は無邪気にその戦友に対して質問を投げかけた。
それにまず萊輝が答える。
「俺は-----、まずは蒼のお墓をしっかりと作ることだな。」
他2人は無言で頷きその意見に同調した。
「それから、警察に対して馬鹿野郎って怒鳴りつけて、海なんかにも行きたい。益弥は?」
「来年また超人祭りに応募して、最後まで運営をやり通すこと。昔からの夢だったし、しっかりやりきらないと気が収まらないしなぁ。」
彼らの発言に、杜一は確かな希望を感じた。
目を輝かした2人は、そのまま杜一は視線を向ける。「お前は?」とその瞳は語っていた。
「俺には…、もう帰るところがないから。」
消極的なその発言を、自分でも雰囲気壊しな一言だったと認識した。
周りを見ると、益弥も萊輝も気まずそうに目を傾かせている。
「で、でも、お前たちが今の俺にとっては家族だから。-----苫利さんにお願いしてこれからも世話を焼いてもらうつもりかな。」
「そっか。自由な生活、楽しみだな…。」
風が3人の背中を押し、彼らの足は加速度を増した。あっという間に本部へ到着。
最初はただのボロ屋としてみていたこの小屋も、今となっては少し愛着すら感じる。
この家の保護もしてみたい、杜一は頭の中でそう呟いた。
-----日が巡る。
全国から人々が水曽町に集まり、樹湖近辺は大きな人溜まりを作っていた。
----------「皆様、本日は超人祭りにお越しいただきありがとうございます。14時より、エントリー確認を開始いたします。お早めにどうぞ、受付までお越しくださいませ。」
例年よりも一層冷たいこの山の中、『超人祭り』が幕を開けようとしていた。




