XXII
旧本部からの帰り道、萊輝と益弥は杜一の気を伺いながら距離を置いていたため、終始3人の間には沈黙が生まれていた。
新本部に帰ってきてからもそうだ。一言も話そうとしない杜一をよそ目に、残り2人は気の毒とも残念とも言えない気持ちで彼を見つめていた。
時刻はすでに12時を回っている。新しい絶望と出会ったのはすでに昨日のこととなっていた。
寝ようと床に身を置く彼に便乗しようとする。すると急に彼は振り上がり、2人と顔を合わせてその口を動かし始めた。
「2人とも、聞いてほしいことがある。」
ポケットに手を入れ、一枚の名刺を2人の前に見せつける。湿気を吸ったためか、綺麗な湾曲をなしていた。
それに映る文字を見た2人は驚愕し、その表情のまま杜一に再び視線をやった。
「…警察の名刺? なんで…?」
驚きの原因を目に近づけながら、萊輝は呟く。益弥は口も開かずに唖然としている。
「この前、その人から手渡された。理由はわからないけど…、俺たちが無罪だって信じてくれてる。」
「信じてくれてるって…。罠かも…」
「こんな回りくどいことしなくても、あの時俺を捕まえることはできた。本当にこの人は、俺たちの味方だって俺は思う。」
高揚した様子で益弥が身を乗り出す。甲高い声が2人の耳を刺激した。
「じゃあこの人を頼れば、俺たちの無罪が証明されるかもしれないってことか…?」
杜一は無言で頷く。萊輝は口元が緩ませ、益弥は思わず笑みをこぼしつつ、
「…これでやっと。やっと成果が出たんだな!」
そう口にした。
-----杜一は喜ぶそぶりを見せようとしない。
「この人には頼らない。」
2人の希望溢れた表情を、杜一のその一言が一変させた。
「頼らないって、なんで??力を借りる以外ないだろ。」
反発する萊輝の顔から目をそらし、下の名刺に視線を向ける。拳を強く握っていた。
「蒼を殺したやつなんだぞ。たとえ俺たちを信じてくれていたとしても、俺はそんなの御免。悪が正義を信じるなんて馬鹿げてる…。」
蒼の死との関係を暴露し、威厳に満ちたその一言だったが、萊輝はそれに再び敵対心を見せた。胸ぐらを掴み、杜一を壁へと押しやる。
「かっこつけてる場合じゃないだろ!せっかく光が見えたんだ、どんな人であっても頼るべきだ。自分に固執する今のお前の方がよっぽど馬鹿げてる。」
自分への怒りを露わにする萊輝を久しぶり見た、杜一はそう感じた。負けじと彼も幼馴染の肩を蹴り出し、自分への拘束を解く。
「この人についたからって俺たちが助かるって決まったわけじゃない。それに----------、この人は警察官、この人を頼るってことは、この人を犯罪人にするってことなんだぞ。こんな気分味わうのは俺たちだけで充分、それはわかってるだろ…。」
彼の目には涙が溜まっていた。益弥が急いで2人の仲裁に入る。しかし収まったのは肉弾戦のみ、口論は続こうとしていた。
「じゃあ、このままおとなしく捕まるのを待つしかないって言うのか?ここまで探索して何にも見つからなかったんだぞ。」
「自分たちの正義は自分たちで証明する。」
「…は?」
あんぐりとしてそう言う萊輝とともに、益弥も同じような顔つきをしていた。
「『超人祭り』だよ。ここまで事件が進めば、警備は絶対厳重になる。つまり警察はいつも以上に人数を動員してくるはず。日本中からの参加者だって集まる。そこで俺たちの正当性を証明するんだ。」
力強くそう口にした杜一の顔に、絶望を感じるようなものはなかった。かといって、希望が感じられるとも言えない。
つい益弥も疑問を投げかけてしまう。
「証明するって?」
「樹湖で1番目立つようなところから、今思ってることを全部吐き出す。それだけ。それに、真犯人も、謙も、絶対祭りに現れる。」
興奮を抑えていた萊輝は、彼の言わんとすることをわずかながら理解していた。
『真犯人』という言葉が彼ら2人の耳を激しく刺激する。
「それだけで警察が動くのか?」
「動かすんだよ。」
根拠のない返答ではあったが、今の萊輝と益弥には、何にも勝る心強さを感じた。
「俺たちが動けば、真犯人も何かしらの行動を見せるはずだから。」
その後押しが、2人の心を突き動かす。
3人の心は再び輪となってまとまり始めた。




