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『元首相、暗殺』 『前首相、広瀬氏暗殺される』
夜が明けた次の日、どの新聞も広瀬創治の死を一面に取り上げていた。
中にはこんな見出しのものもある。
『犯人は息子、広瀬杜一か』
彼が殺害されたことは微量ながらも内閣に緊張感を覚えさせ、警察組織には多大なる圧力をかけることとなった。
死因は出血性ショックと見られ、腹部と胸部にナイフが一本ずつ刺さっている姿で発見された。琴も同様である。
不穏なムード漂う県警本部で、高槻は上からの指示を待っていた。心には1つの不安を抱えている。
「四宮さん、例の執事は?」
「今黒崎さんが事情聴衆してるらしい、昨日から2回目だ。急なこと過ぎて情緒の安定が取れていないそうだが。」
四宮とともに第一発見者となった苫利は、警察の保護を受け、県警に駐留していた。
「彼が家を出ている間に2人は被害にあった、僕たちがついた時にはすでに殺害されていたと考えるべきですよね。」
「…確かにそれならインターホンの応答がなかったのにも納得できる。しかし…」
しかし?高槻は疑問を投げかける。
それに答える間も無く、黒崎が部屋へとやってきた。
「今終わった。みんなを集めてくれ。」
厳しい顔つきをした彼は、片手に資料を抱えながらそう言った。
四宮と高槻は言われた通りに捜査班を集める。誰もが死んだような顔をしている。
高槻はパソコンで作業をする杖志摩を見つけ、彼にも声をかけた。
「杖志摩さん、会議始まります。」
黒い眼差しで高槻を見つめた後、パソコンを閉じてはとことこと歩いて行った。
彼の足音が高槻の頭に急激に鳴り響いた。後頭部を鐘つきで何度もつかれているかのようで、少々その場に立ち止まったままだった。
ふと我に返り、会議室へと歩き出す。
「広瀬家に雇われていた苫利追衣の発言からだが、有益な情報はあまり得られなかった。何しろ、彼は今感情のコントロールができていない。今の段階でこれ以上のことを聞き出すのは不可能だ。-----杖志摩、彼の経歴を調べておいてくれ。」
杖志摩を体をしならせて頭を下げる。上司に媚びているような態度が、高槻には否応に見えた。
「それから----------、指紋検査の結果が上がってきた。」
手に持っていた資料を班員に配る。あまりに検査結果が出るのが早いため、高槻はある悪い予感を感じた。
「検出された指紋は、広瀬杜一。-----だけじゃない、利光謙の指紋も発見された。つまり、利光謙は脱獄後、広瀬杜一たちと合流した可能性が高い。」
「待ってください!」
大声で高槻は叫び出した。彼の元に視線が集まる。
隣にいた四宮は彼の肩を抑え、落ち着かせようとするが、高槻はそれに気づいてすらいなかった。
「広瀬杜一がこの時間に広瀬創治を殺人するなんて不可能です!」
「なんでだ?」
黒崎は順当な質問を返した。
高槻はそれに対する完璧な解答を持っていた。
しかし、そのことを話してしまっては自分の立場が危うくなってしまう。はっとそのことに気づいた彼は、思考を巡らせハッタリの答えを考えた。
「…その時間は、利光謙の捜索で町には多くの警察官が繰り出されていました。そんな中に飛び込むのは、彼らからしてはさすがに危険すぎます…。」
「…お前は忘れたのか、今までの奴らの行動を。6人もの命が奪われている、奴らの頭に危険なんて言葉はない。」
完全に論破を受けた高槻は身を縮こまらせる。自分の正義の儚さを知った。
「奴らの行為は止まりはしないだろう。なんとしても捕まえる。以上。」
声のトーンを変えないまま、黒崎はそう言い放った。
会議終了後、自分の無力さを再確認した高槻は、自動販売機のコーヒーで気を落ち着かせていた。
そんな彼に黒崎が四宮が駆け寄る。
「高槻、いったいどうした?」
「いえ何でも、先ほどは変に口をさしてすみませんでした。」
湯気の上がる缶を下に降ろし、彼は頭を下げる。
その姿を見たことで、四宮は部下の異常を認識した。
「何かあるなら全部話せ。-----黒崎さんには黙っておいてやる。」
その言葉に耳を寄せ、高槻は目を見開く。真剣な顔つきをした上司が見えた。
-----「広瀬杜一と会った?」
2人は県警前の椅子に腰掛け、いかにも重大そうな話し合いをしていた。
「はい、四宮さんと別れた後、駆け回る彼を見つけて…。」
「どうして捕まえなかった?」
「…自分にも、わかりません。」
警察としての悪を行なった彼に対して、四宮は怒りをぶつけようとするも、これ以上から彼を咎めるようなことはしなかった。
「つまり、広瀬創治が殺害された時、広瀬杜一はお前とともにいた。」
「…だから、彼に広瀬創治を殺すなんてことは不可能なんです。」
事件の核心の発芽を見た四宮は、高槻の発言を再度頭の中で分析し始めた。
しかし、それを背後からの声が制止させる。
杖志摩だった。
「四宮さん、黒崎さんがお呼びです。」
四宮を呼びに来た彼だったが、その目線は確かに高槻の方を向いていた。
腰を上げて四宮は室内へ戻っていく。取り残された高槻は、ある1つの結論を導き出していた。
(広瀬杜一は、今までの事件の犯人じゃない)




