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Harness1/2  作者: キャラメルポップコーンさん
15/27

XV

 いつもの自分なら誰よりも会いたかった相手かもしれない。

 しかし今の自分はそのいつもとは違っている、そう自己認識していた杜一は、彼女の姿が目に映った途端、その場を立ち去る他なかった。

 冷たく吹く風が、彼の心を奮い立たせていた。背後にいるもう1人の自分も同じように体を震わせている。

「待って!」

 富田が杜一の腕を掴む。振りほどくことができたはず、しかし彼はその手を払おうとはしなかった。

 杜一が振り向くのを見てから、彼女は周囲を確認し、もう一度彼を座らせた。

 木陰で大学生が2人身を休めている。

 富田が隣に座っている、このことがこんな形で実現するとは、以前の杜一には想像もつかなかっただろう。

 風が収まり、周囲に森閑とした雰囲気が訪れた。木の影は徐々に狭まっている。

「色々、大変そう、だね…。」

 最初に沈黙を破ったのは富田だった。

 杜一は彼女の顔を見ることなく、コクリと頷きその呟きに対応した。

「そういえば、超人祭り、中止にはならないみたいだよ。今は、町内会の人たちが運営をしてるらしくて、シャトーが使えないから全部最初からで焦ってるって、お母さんが言ってた、ははは…。」

 内心祭りのことを忘れていた彼は、続行の話を聞いて少しホッとした。

 今だけでも自分の背徳さを忘れたいと、彼は心に思っていた。

 初めて杜一が口を開く。

「よかったよ、中止にならなくて--------。」

 頭がうまく働かず、味のない返事しかできなかった。

 彼女を犯罪者の知り合いとしないためにも、いち早くこの場を立ち去りたい、その一心のはずだったが、もう少しこの場にいたい、その感情があったことも、杜一は否定できなかった。

 

「私ね、2月から今の大学離れようって思ってるんだ〜。」

「へぇ、そうなんだ。」

 杜一は薄い受け答えしかできない。

「『警察官になる』っていう夢を叶えるために…。」

 警察官というたった一単語が、杜一の不意をついた。

「警察官か、いいと思うよ、似合いそう。」

 ニカッと彼女ははにかみ、膝を抱え込む。少し身震いをし、話を続けた。

「お父さんが警察官だったの。県警で働いてて、功績賞もとったことがあるって、言ってた。」

 今まで散々苦しめられてきた警察の話を、憧れの女性が夢として話していることに、杜一は一種のちぐはぐを覚えた。

 横目に、彼女が少し俯くのが見えた。

「でも、私が物心ついた時くらいに、お父さんは自殺しちゃったんだ…。死ぬってことが何を意味するかがその時はわからなかったから、お母さんが泣いてる姿しか覚えてない。えらい刑事さんだったのに、もったいないなって、今は思うな…。」

 微笑んでいるその裏で、富田は自分の無力感を否んでいる、杜一はそう思った。

 そして、悲しそうに笑う彼女を、美しいと感じた。

「そんなお父さんが見た世界を私も見てみたい、だから2月からは、水曽町の警察官養成学校に転校することに決めたんだ〜。」

 彼女のその発言を鈴虫の鳴き声が飾り、オーケストラのような演奏を奏でていた。

 太陽が真上に来たのか、影は最小限にまで縮まっていた。

 少し体をくるまらせる、その杜一の真似をして、富田も同じ行動をとった。

「だから…」

 再び彼女は口を開いた。

「……自首してほしい…。」

 全く想像もしていなかった一言が聞こえた。

「今、自首って---------------。」

 できるだけ無口を保ってきた杜一も、ついその口を開いてしまった。

「養成学校に入ったら、いつか事件の調査演習だったり、本物の事件についての講習だってあると思うの。広瀬くんたちが犯人じゃないって信じてる、でもこのまま捕まらなかったら、いつか私は、広瀬くんたちの捜査をしないといけなくなるかもしれないし……そんなことはしたくないから…。」

 杜一は唐突に立ち上がる。両手には握りこぶしができていた。

「ごめん、自首なんてできない。今の俺は、自分の正義を貫くことしかできないから……。ごめん!」

「あ、広瀬くん待って!」

 日光降り注ぐアスファルトを踏み込み、杜一は無我夢中に走り出した。

 涙が頬をつたる。いつぶりの涙だったろうか。

 異様なほどにまで、彼岸花の香りが彼の嗅覚を刺激する。

 また大切なものを失った、走りながら彼はそう感じた。


 本部についた時、その涙はすでに枯れていた。

 泣いたことを2人に悟られいないよう、何度か瞬きする。

 ドアは内から開いた。

 杜一は一瞬目を瞑り、淀んだ気持ちを入れ替えようとする。

 動揺を隠せないような顔の2人が出てきた。

「杜一!よかった、 どこ行ってたんだよ?」

「草野駅に何かないかと思ってもう一回行ってた。」

 偽りを話し、その場を紛らわそうとする。

「こんなに明るいときにか?-----それよりこれ見ろ!」

 益弥は電波の繋がらないはずの携帯を見せてきた。

「さっきたまたま電波拾ったみたいで、ニュース引いたら……」

 画面に写る文字を、目を丸くして凝視した。


『速報 利光謙容疑者 町の刑務所から脱獄か』

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