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Harness1/2  作者: キャラメルポップコーンさん
14/27

XIV

 蒼の死から1週間が経った。

 Y県を脱出した杜一たちは水曽町に戻り、事件があった現場を次々に訪ねていた。

 日中はもちろん警察が警備をしているため散策ができない、人気のない深夜を狙って現場に訪れていた。

「ダメだ、ここにも何にもない。」

 萊輝がもの惜しそうにそう言った。

 彼らは今、4番目の事件現場である草野駅に訪れていた。

 そこのところはさすが警察といったとこだろうか、事件の鍵となりそうなものや跡は何1つ残されていない、調査のため持ち帰ったのだろう。

 思ったように成果を得られずにいた彼らは、その徒労にイライラを重ねていた。

 駅周辺の街灯の光を頼りに足元を見つめる。あるのはただの粒石ばかり。雑草も見える。

「杜一、ここもこれ以上探っても何にも出なさそうだから。そろそろ戻ろう…。」

 益弥はライトを顔面で受けながらそう言った。

「…うんわかった。」

 杜一の返事はあどけなかった。


 以前までは平和に歩いていたはずの道を、今は世間の敵として恐る恐る歩いている、その違和感が彼らの頭の中を巡っていた。

 いつもの金木犀の香りも、いつものコオロギの鳴き声も、いつもの山に囲まれたこの土地も、『いつも』ではない奇妙さを放っていた。

 月は絵に描いたような三日月型をしていた。三日月に寝転がりたい。子供の頃抱いていた無謀な夢が自然と蘇ってきた。

 しばらく歩くと、掘っ建て小屋のようなボロ屋が見えてきた。

 水曽町に戻ってきてから、活動拠点にできそうな場所を探し続け、結果見つかったのがこの小屋であった。

 長年人の手が通っていないような外観で、少しの揺れが起きても、一瞬で崩れてしまいそうな。強度的には砂の城同然のようだった。

 かつての『本部』とは対極の存在だった。

 その新しい本部で夜を明かす。周りに家屋など1つもなく、人の歩く姿も全く見えない土地だったゆえ、安心して眠りにつくことができていた。


 日が昇っても、彼らはここで日がまた沈むのを待つほかなかった。

 益弥は電波の繋がらない携帯を意味もなく眺め、萊輝は小屋にあった木材を片手に持って足踏みをしている。

「ごめん、ちょっと行きたいとこあるから。絶対戻ってくる。」

 杜一が立ち上がり、薄暗い声で口にした。

「行くってどこへ?危な…」

 萊輝の忠告も聞かず、どんよりとしたオーラを発しながら、杜一は本部を出ていった。

「萊輝、やっぱりあいつ、一昨日のこと…。」

「…だよな…。」


-----夜行性として4.5日活動していたため、久しぶりに浴びた日光は、なんだか懐かしい味を出していた。

 明るい山中を歩き続けると、かつての本部が頭を出しているのが見えた。

 いつも通りの目立ちたがり屋だ。

 今となってはもう過去のこの環境の中で、一昨日耳に入った出来事を思い出した。

 父であり、内閣総理大臣であった父創治が、首相退任、政界からの退却を発表した。

 次男を失い、長男は連続殺人犯として現在も逃亡中。世間からの批判も受けてしまい、この結果に至った。

 紛れもなく自分の責任であると自覚していた杜一は、そのことにまた新たな罪悪感を覚え、自分への嫌悪感を募らせていた。

 物心ついた時には既に父は政治の世界で名を馳せていた。いつの日か父のようになりたいと思った時期もあった。

 父への憧れもまた、過去のものになってしまっていた。

 そんなことを考えているうちに、杜一は今自分が向かうとしていた場所を忘れてしまっていた。元から行く宛なく歩いていただけかもしれない。

 陽の光が痛い、それから逃げるために、杜一は一本の木陰に身を寄せた。

 背中をその高木に密着させる。背後にもう1人自分がいるようだった。

 疲れが全身から吸い取られて行くのを感じる。今背を預けている木が、自分の最大の理解者であった。

「お前も苦労してるんだな…。」

 伝わるはずのない言葉を伝えるように、柔和な表情でそう口にした。

 自然と目が閉じそうになったその時だった。

「…広瀬くん??」

 自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 以前は聞きたくてたまらなかったはずが、今は一番聞きたくない声だった。

「富田さん…。」

 日光が照らし、そこに見えた姿は、かつては夢に見ていた『彼女』の姿だった。

 

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