Ⅺ
すでに暗く染まった風景を横目に、犯人逮捕に向けてパトカーを走らせる。
家屋のようなものが全く見当たらない。辺りは無音とまで言えるほどで、タイヤの動く音が騒音のように聞こえる。
街灯の一本も、自動販売機の一つも設備されていない。頼りになるのは星の光のみ。そんな中目を凝らして外を見渡すのは無理があった。
「こんな暗闇じゃ見つけられるものも見つかりませんよ。まずこんな山の中に逃げるんでしょうか…。」
自然と口からこぼれた愚痴に、高槻はハッと驚愕する。冗談です、なんて誤魔化しておこうか。
その隣で、四宮は手すりに爪をぶつけてカタカタ鳴らしている。
「こんな暗闇だからこそ、わずかな明かりが目立つ。奴らも火やライトは使ってるはずだ。」
なるほど、高槻は納得した。いつも四宮に論破されて納得している、経験の差を実感させられた。
ハンドルを握りながら、窓の外を見渡す、少しの光を求めて。
「あれ…」
恒星のように光る何が見えた。
「四宮さんあれは!?」
顎を突き出し自分の見つけたものの方角を指し示す。少々時間を有したが、四宮はその存在に気づくことができた。
プツープツー
ノイズが走る。
「…こちら四宮です。犯人が潜伏すると思われる山麓にて、奇妙な光を発見、今からそこへ向かいます。」
-------------「…う!しっ…りし…!…んなと…ろ……ん…ゃだ……ろ…」
どふっ!鳩尾に強烈な一撃が入った。
「杜一!早く起きろ!」
半開きの目をこすり、辺りの様子を見渡す。目に映ったのは、ただの暗闇と、その中にいる焦った様子の3人だった。
「何でお前らここに…?」
つまらない話でも聞いたかのような目で萊輝は彼を見つめた。
「冗談なんて言ってる場合じゃないから!あれ見ろ!」
彼が指差す方には赤とオレンジの光が動いているのが見えた。少し黄色も混じっている。
なぜか状況をつかめなかった杜一は、その明かりを見て、その場の緊張感を理解した。
------俺は今追われる立場だった。
「なんでここに逃げてるってわかったんだよ。」
そう言って蒼は唾を吐き捨てた。
たしかに、あまりに速すぎる警察の対応は、驚くに値するものだった。
N県を抜けたといっても、多くの県と県境を共にするそこからどこへ逃げたなんてすぐにわかるはずがなかった。
「この火が原因かもしれない、まずはここから逃げよう!」
荷物を背負い、全速力でそこから走り出す準備を整える。火を消そうとした蒼を益弥が止めていた。囮に使えるかもしれないからだ。
「杜一、どこいく?」
横に並んだ萊輝が問いかけた。
ここは一本道の山の中。登ってしまうといずれ行き止まりになるだろうし、何より体力が持つかどうかわからない。
つまり、彼らに許された選択肢は、山を下ることしかなかった。
そしてそれは、警察とすれ違うということも意味していた。
深夜に向けて、空はさらに暗さを深め始めている。
「この茂みに隠れながら山を下ろう。警察はここに勢力を集めてくるはずだから、そこからはN県にもう一度戻る。それでいく…。」
杜一の判断に反対するものはいなかった。そんな暇がなかったからかもしれないが。
赤い光は徐々に自分たちとの距離を縮めていく。
そして彼らも、その閃光との距離を狭めていった。
恐怖感を抑えながら、腰をかがめて走り出す。すれ違ったパトカーには、見覚えのある人間がハンドルを握り座っている。
-------あの時の警察官。
その視線を感じたのか、杜一と彼の目があってしまった。
ドクンと心臓が脈打つ。それと同時に、回るタイヤが仕事をやめた。
「っ!走るぞ!ダッシュで!」
杜一の掛け声とともに、彼らは緩やかな傾斜を走り出す。運動会の徒競走のよう、と言えば聞こえはいいかもしれない。
振り向くと、やはり警察2人が追いかけてきていた。テレビで見たことのある風景を自分が受けていると実感した瞬間だった。
(--------ここで絶対に捕まえないと…彼らのためにも…)
犯人を目の前にして全力で山を駆け下りる。高槻の頭の中には、「逮捕」という目的しかなかった。
(捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる捕まえる)
「逮捕」の二文字が彼の頭を埋め尽くす。自我のようなものが戻った時、彼らの手には一丁の銃が握られていた。




