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光と闇の勇者  作者: ピポゴン
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終わりへのプロローグ①

あるところに1人の少年がいた。少年はある国での有力な貴族の生まれで、幼いながらも気品がよく、とても出来た子供だった。


その年で6歳を迎える少年には4歳になる妹がおり、中も睦まじかった。


また、5歳という幼さですでに"選ばれた属性"である光属性を出現させた少年。


誰もが少年を将来の勇者と信じて疑わなかった。将来勇者である彼のパートナーが務まる人などいるのかと懸念された。誰もがうわっつらでは少年を祝福した。




だが、少年の6歳の誕生日の日の夜、それは起こった。



「フレストアール!!出てこい!!!!ぶち殺してやる!」


「悪魔がああ!!てめーのせいで俺たちは!!」



少年の家であるすこし大きめな一軒家。そこにたくさんの民衆が集まっていた。

もちろん、少年の誕生日を祝うためとか、そんな幸せな動機ではない。

ただ、民衆の顔を見れば大体の想像はつく。

----憎悪----

民衆の表情は、まさにそれだった。



「あ、あなた!!」


「わかっている!」


「!?!!?」


「に、兄様!!」


家の中の少年一家はこの事態をうまく飲み込めていない。



「フレストアール!!俺らが重税で困ってる間、お前らは贅沢な暮らしをしてたんだよなぁ!?」


「信じてたのに!!」


「俺らから金を搾り取って、独り占めしてたんだろ!?あぁ!?」


外の民衆の怒りはなおも増していき、いつ何をしてもおかしくない状態へとなっていた



「な、何を言っているのだ!!いつ私達が税を搾り取って独り占めした!!」


この少年の父親の困惑も当然のことであった。事実、この少年の家、フレストアール家は周りの貴族と比べて税を遠慮している節があった。さらにその受け取った税からも、貧困に苦しむ民のためにと寄付金を出していた。そう、このフレストアール家は貴族の中でも最も慈悲深い一族として有名であった。

それ故に、民もフレストアール家を慕っていたのだが



「出てこねーつもりならこっちから行くぞ!!」


「オラァ!みんなやっちまえ!!」


この状況からは民が慕っていたなどとは想像もつかない。

民衆はとうとう我慢の限界を迎え、フレストアール家の門ににたいして火の攻撃魔法を放った



「っ!!まずい!乗り込んでくる気だ!」


少年の父はそう言うやいなや少年とその妹をクローゼットの中に押し入れた。


「いいかい、アッシュ、ルーチェ。クローゼットの奥には裏へと続く隠し通路がある。ここに人が流れ込んできたらすぐにそこを通って裏へ出るんだ!いいね?」


少年は事態が未だ飲み込めずテンパっていたが、父親を困らせまいと無言で頷いた


「いい子だね、アッシュ。ルーチェを頼むぞ。なあに、父さんはきっと大丈夫さ。お前らがいると、話し合いの邪魔だからな」


そう言って少年の父親は笑って少年の頭に手を置いた。


「さあ、アリア。お前もアッシュとルーチェと共に行くんだ。」


「いいえあなた。私も残るわ」


「何を言っている!!何があるかわからないんだ、お前にはアッシュとルーチェを」


何か言おうとしている少年の父親にたいして、その妻はそっと唇に人差し指を置いた


「大丈夫。みんなきっと話せばわかってくれる。それに、私がいた方が話し合いも進めやすいでしょ?最初から諦め思考ではダメよ、あなた」


「……ああ、そうだな。お前にはいつも助けられてばかりだ」


「いいのよ」


少年の父親は最後に少年とその妹に対してニッコリと笑いかけた。少年の母親は少年とその妹を優しく抱きしめ、クローゼットを閉めた。



やがて、人が流れ込んできた。

少年は言われた通り、裏へ出ようとした。しかし、どうしても気になった。本当に大丈夫なのか。

少年はクローゼットの隙間から部屋を見渡した。すぐ前には両親が立っている


「おうおう、ちゃんと家の中にいるじゃねーかフレストアールご夫妻よお」


「あれれー?このケーキは坊ちゃんのですかね?坊ちゃんとその妹はどこにいるんですかね?」


「2人ならまだ魔法塾から帰ってきていないよ。」


「へへへ、そうっすか。まあ、そんなのは後でどうにでもなる。まずはてめーらからだ。報いをうけろやフレストアール」


部屋になだれ込んできた民衆たちは手に色々な武器を持っている。それを掲げながらジリジリと少年の両親に近づいてくる。


「待ってくれ!私達がそなた達に何かしただろうか!何かしたなら謝る!まずは理由を教えてくれ!」


「理由ダァ?んなもんてめーらが税を搾り取っていたからだろうが!重税に重税を重ね、俺らが苦しんでる間におめえらは贅沢な暮らししやがってよ!この家が豪邸じゃないのもフェイクだろ?本当はどっかにたんまり金を隠し持っているんだろ?」


「そんなものはない!誤解だ!私達は確かにそなたらの税で暮らしているが、過度にはとっていない!!」


「嘘つくんじゃねーよ!」


「キャアッ!」


男が斧を振り下ろす。テーブルの上にあった少年の名前が書かれたケーキは無惨に飛び散った。


「やめるんだ!誰だ、そなた達にそんなデタラメを吹き込んだのは!」


少年の父親の問いにニヤリと笑う男。

それを見て、少年の父親はあることに気づく


「ま、まさか。そなた達をたぶらかしたのは」


「みんなああああ!!フレストアールご夫妻には話が通じねえらしい!!やっちまえええ!!」


その一言で


民衆達の凶器が、少年の父親と母親に振り下ろされる。


「っ!!!」


それを見ていた少年は咄嗟に妹の目を隠す。


ドギャ!グシャ!


クローゼットの中の少年の目の前で、父親は剣に貫かれていた。


「っっ!!」


やがて、剣が引っこ抜かれ、父親はフラフラとクローゼットにもたれかかる。

そして、呟いた


「アッシュよ。まだいるのか……。早く行きなさい……」


それはいつもの父とは思えないほど、弱々しい声だった


「いいかい。この一件で決して民を恨んではいけない。ゴフッ!本当にゲスな輩は、民の心につけ込み、たぶらかして操っているものだ。なあに、父さんは大丈夫だ。ほら、さっさと行きなさい。生きていれば、なんとかなるんだからな」


少年は頭が良かった。故に、何も言わずに妹を連れてすぐその場から去った。


「何ごちゃごちゃ言ってやがんだよ!!」


グチャ


後ろでそんな音が聞こえた。

少年は今すぐにでも両親の元へ駆け寄って名前を叫びたかった。今すぐにでも泣き叫びたかった。しかし、妹を不安にさせまいと必死に耐え切った。



やがて、家の裏側へでた少年達。

今、民衆達は家の前方へ移動していて、抜け道は十二分にあった。


息を潜めゆっくりと出ようとした時、その光景が目に飛び込んできた


「ふはは、これは感謝量とでも思って受け取っておいてくれ」


「ははあ!ありがたき幸せ!」


「いやいやいいのだ。おぬしが民衆を焚きつけてくれなければ、ここまで大きな規模にはならなかった。」


「こんなものちょろい仕事ですよ」


それは、2人の男のそんな会話だった。

だが、少年には一方の男に見覚えがあった。それは、たった今お金らしきものを渡していた人物。


(ラグナおじさん…!)


そう、少年も何度かあったことのある、知り合いの貴族のおじさんであった。

少年に会う時にはいつも優しくしてくれていたこの中年男性。

しかし、今その笑みはない


「フレストアールめ、いい気味だ。慈善を気取って、子供にも恵まれ、私達は幸せですみたいな顔しやがって」


「しかし、よかったんですかい?こんなこと他の貴族にバレでもしたら」


「ああ、心配ない。これは過半数の貴族が賛成している。誰が騒ぎ立てようと、デタラメでもみ消せる。」


「旦那も人が悪いこって」


「ふ、何を言っている。今や悪者は、フレストアール、だろ?」


「ちげえねえや!はははは」


「くくく、ふははは!」


少年はすべて理解した。噛み締めた唇からは血が流れ始めた。


「あ、ラグナおじんむぅ!!」


妹の口を押さえ、必死にその場から駆け出した。夜の街を妹を負ぶさりながらひたすら走った。


やがて、走るのにも限界が来て、歩き始めた。


「………兄様。もう、戻れないの?」


妹のそんな発言。少年はドキリとした。


「何言ってるんだ。お父様達の話し合いの邪魔だから、外に出されてるだけだよ」


「なんでこんな遠くまで来るの?」


「……ほら、僕たちあんま出歩いたことなかったろ?だからさ、ちょっと探検してみたいと思って…」


「そう…なんだ」


「ああ……」


無言で歩く。


ふと、背中にしがみついていた妹の力が強まった気がした


「……ひっく…うぐ……えぐ…」


声を押し殺し切れない泣き声


「うぅ、うわああああん!!あああ!」


とうとう、泣き始めた。少年は宥めなければいけないと思った。自分が落ち込んでいたら妹はさらに不安になるだろうと思った。


しかし、もう我慢の限界であった


「うああああ!!ああああ!!」


「ひっぐ、うええええん!!」


夜の街に、2人の子供の泣き声が響き渡った。少年は、それでも歩みを止めなかった。


こうして少年は誕生日の日、両親を亡くした。

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