1話
はじめまして。
「はぁ…」
清々しい青空のもと、陰鬱なため息をついている男子見かけはごく普通の高校生だ。
ただ一つ、腰に差している刀を除いたら。
ここは「オッド・ティラント学園」、異様な才能の持ち主たちが集められる学校だ。
俺、東城ソーマもこの学校に在学する生徒の一人だ。
「なに新学期早々ため息なんてついてんだよ東城」
そんなことを言いつつ、俺の横に並んで歩くのは中学からの腐れ縁である男、名前は神山ハヤテ。
身長は俺と同じくらいだが、肩まである髪を後ろで縛って、つり目がちな目は睨みつけたものに威圧感を与える。
男子からは恐れられている。が、なぜか女子の人気は高いのである。
俺なんてこいつのオマケみたいなものだ。
「ため息も吐きたくなる、今日から2年なんだぜ?お前みたいに”騎士”クラスのAランクには分かんねーよ、俺みたいに才能のない奴の気持ちなんてさ」
「ん?お前は何を言っているんだ?この学校に入るには才能が無ければ無理なんだ。つまり、この学校にいる時点で才能があるということだぞ」
こいつは何を言っているんだ?
ここはあらゆる所から才能のある持ち主が集められているんだぞ?
俺なんてお前達に比べたら凡人だろーが。
「胸を張れよ、お前の能力は世界にお前一人しか使えないんだぞ。お前の”創造者”は」
才能にはクラスというものがある。
例えば神山の”騎士”は剣や槍で戦う前衛戦闘タイプだ。
他にも後衛タイプの”術師”や支援タイプの”歌手”などがある。
これらのクラスは全て、”イビル”と呼ばれる化け物と戦うことが目的の才能者たち。
そしてイビルなどを分析する”分析者”や武具を作る”鍛冶屋”、薬を作る”薬師”などの裏から支える才能者たちにクラスが分かれる。
俺は一様裏方のクラスに所属している。
クラスは”創造者”その才能は「どんなものでも創ることが出来る」というものだ。
一見物凄く強力で使えそうだろう。
しかし
「なーにが”創造者”だ名前負けとはこーゆう事を言うんだよ。それに俺はもともと戦闘タイプのクラスだったんだぜ?」
そう、俺は入学当初は”武士”だったのだ。
それがいつの間にか”創造者”が才能に増えていて、”武士”のランクが最低のEだったから周りが”創造者”の才能しか頼ってこなくなったのだ。
しかもこの”創造者”の才能には秘密があるのだ。
「まぁ、そう言うな。いくら相手の望むものも、自分の望むものも作れない才能だとしても使い所はきっとあるさ」
こいつはさっきから喧嘩を売っているのだろうか?
いちいち俺の気にしていることを言いまくりやがって。
そう、この才能は望むものは絶対、何が起こっても作れないのだ。
つまり、誰も望んでいないもの、あったら困るものなどしか作れない。
今まで作ったものといえば、10メートルを超える槍や、100キロを超える杖、死の音を奏でるハープ、何も切れない剣、超強力なイビルが封じ込まれた石、etc.etc…。
しかも厄介なのがその全ての物の力は本物だということだ。
だから俺が作った物はほとんど学園の倉庫に封印されている。
「こんな才能いらねーよ…俺の作る道具とか武具欲しがるのは物好きだけだし」
「なら俺もその物好きの1人というわけか、俺のイノセンントキラーはお前から貰ったからな」
善人や聖人しか切れない役立たずの剣でこいつは一体何を守るつもりなんだ?
「逆にこれで切れない奴は悪人てことだろう?そうやって使うんだよ」
「まさに、使いようだな…」
「てかおい、急がないと遅刻するぞ。新学年初っ端から遅刻なんて嫌だぞ」
「はいはい、急ぐか」
そして俺たちは始業式のある体育館へ急いだ。
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始業式は他愛なく終わり、クラスごとに移動となった。
ここでいうクラスは、ランクごとに分けられた集団のことである。
俺もクラスに移動を始めた。
ここはクラスをA,B,C,D,Eと分けており、さらに戦闘系クラスと生産系クラスに分かれている。
その中で例外的にどちらも所属しているクラスがある。
それがSクラスである。
俺のクラスはS、別にすごいわけではなく”特殊”ということである。
このクラスは戦闘、裏方関係なく”特殊”な才能の持ち主が集められている。ちなみにこのクラスは変わり者で変人の集まりであり、通称”あぶれ者の集い”大変不本意だが俺もここに所属してしまっているのだ…。
「お、来たねー東城君。今年もよろしくね」
この話しかけてきたのは都下ハルキ、戦闘タイプのクラスでその名も”狂戦士”敵味方なく暴れまわるはた迷惑な才能の持ち主だ。狂戦士モードで無ければ普通のやつなんだが…。
「あぁ…またお前と同じクラスになれるなんて嬉しいよ…」
「ははは、そんなこと全く思ってないくせに」
「そうだな、お前とお別れするのが一番嬉しかったよ!」
「そんなこと言わないでよ〜、ユイ傷ついちゃう」
このちっちゃい女の子は天城ユイ。
とても可愛らしく、すごく愛らしい性格をしているがこいつの持っている才能は戦闘支援の”狙撃手”しかも支援戦闘職では学校ナンバー1の呼び声も高い。
甘く見ているとえらい目にあう。
「この程度でお前が傷つくのかよ」
「傷つくよ〜、今年も3人のパーティーで頑張っていこ〜」
そう、俺はこの2人とパーティーを組む羽目になっている。パーティーとは、簡単に言うとをイビルと戦う時に共に戦う仲間のことだ。
大体は4〜5人で組むのだが、俺たちは3人。これは都下の才能と天城の実力のせいである。
”狂戦士”はさっきも言ったように敵味方関係なく暴れまわるから味方がいたら邪魔なのだ。そして天城は強すぎるのだ。2キロ離れたところからイビルの弱点である胸を撃ち抜き。
拳銃を持てば30体以上のイビルを一瞬で殲滅した記録もある。つまり、都下が前衛で暴れまわり、天城が後衛から撃ちまくる。この布陣で俺たちのパーティーは、学園トップの成績を誇っている。
・・・俺?パーティーの足手まといですがなにか?
「そうだよ東城君、僕達はもう切っても切れない縁で結ばれているんだ」
あ、なんかやばい雰囲気に…
「特に東城君と僕は出会うべくして出会ったんだ」
こいつは一体何を言っている⁉︎俺にそんな趣味はないぞ!
「君の作る呪い系の武具は僕しか使えないからね」
あぁ…そういうことね…少しびびったわー…。
都下は俺の作る使えない武具を扱える数少ない人間なのだ。
俺の望まれない武具は大まかに分けると、超人系、神魔系、呪い系、になる。
超人系はその名の通り、人間が扱えない武具だ。10メートルを超える槍だとか、100キロを超える杖とかはこれだ。
神魔系はイビルが封印された石とか、神が作りし武具だとかになる。
そして、呪い系は持つものに呪いを付加する武具だ。これらに当てはまらないものは本当に使えないものしかない。
そして、”闇系”の才能の持ち主は呪い系の武具を使えるのだ。俺の作る呪い系の武具は強力すぎて生半可な”闇系”では扱えないが、都下は”闇系”の中でもかなり強力な”狂戦士”なので、俺の武具を扱えるのだ。
「あー、そうだったな。お前にあげた武具は…えーと、なんだっけ?覚えてねーや」
「わー、トージョー君ひどい〜、君があげたんでしょ〜覚えててあげなよ〜」
もちろん冗談である。人にあげたものを忘れるほど馬鹿ではない。
「”オーガアックス”と”ゴッドスレイヤー”と”魔剣ネビロス”の3つだろ」
「ふー、よかったよ。東城君が覚えててくれて」
・・・我ながらなかなか恐ろしいものをあげたものだなと、自分でも呆れる。
”オーガアックス”鬼の呪力が付加されている斧。圧倒的な破壊力があり、常人が扱うと鬼の呪力に負け、使い手自身が鬼になってしまう。
”ゴッドスレイヤー”神を殺すために作られた武具というより兵器。使い手に人知を超える力を与えてくれる、呪われしガントレット。未熟な者が扱えばその与えられる力に耐え切れず、死んでしまう。
”魔剣ネビロス”これは…万が一にも使う機会があってはならないだ。
「呪われし武具を3つも扱えるなんて、ハルキ君はすごいね〜」
「そうでもないよ、僕よりもたくさん呪われし武具を持ってる人はいるし別に全部同時に使ってるわけじゃないしね」
「当たり前だ!呪いの武具を同時になんて絶対使うんじゃないぞ!」
「そんなのわかってるさ」
本当にわかってるんだろうな。
「トージョー君は心配性だな〜」
「はぁ」
今日のため息カウントが一つ増えた。お前らがそんなんだから心配になるんだよ。
そんな無駄話をしていると、教室のドアが開いた。きっと先生が来たのだろう、まぁ今年もどうせ去年と同じ先生だろう。
Sクラスは特殊な才能の持ち主しかいないから、担当できる先生は限られているからだ。しかし、驚いたことに入ってきたのは一人の見知らぬ女性だったのだ。
「ほら、お前ら2年にもなってギャーギャー騒ぐな」
おかしい、Sクラスの担当の先生は1人しかいないはずだけど。
「去年担当だった高尾先生は先日イビルとの戦いで怪我をなさって退職した」
そう言ったらにわかに教室が騒がしくなった。
高尾先生はAランクの”聖騎士”だったから驚きはすごい。
いや待て、たしか高尾先生は…
「65にもなってイビルと戦いに行って攻撃を仕掛ける前にこけて足と腕を骨折なさった」
高尾先生…年を考えてください。
「お前らはこんな馬鹿なことしないように」
するわけねーだろと、教室の所々から呟きが聞こえた。
・・・先輩の先生を馬鹿呼ばわりするこの先生も大概だと思うが。
「そういうわけで今年からSクラスの担任をする櫻井アヤノだ、よろしく」
どういうわけかわからないが櫻井先生の自己紹介は簡潔に終わったと、思ったが
「今日は特別にお前らの質問に答えてやろう、質問があるやつは挙手」
なんだかとても高圧的な人のようだ。しかし早速一人の男子が質問をした。
「先生はけっこ…」
「あぁん?、なんだって?」
鬼のような形相をしながら男子生徒を睨みつけている。超怖えぇ…
「いや、あの、先生はけっこう珍しい才能の持ち主なんですか…?」
なんとか?誤魔化したようだ。
しかしその質問には俺も大いに気になるところだ。
このクラスに赴任した以上、生半可な才能では務まらないからだ。すると櫻井先生がにやっと笑った。
「私の才能か?私の才能は…”聖天騎士”だ」
その瞬間クラスに静寂が訪れた。
”聖天騎士”それは、世界最強の才能者。"騎士"のクラスの中で最上位に位置するものだ。
「まじかよ」
「いや嘘だろ」
再び教室が騒がしくなる。
天城や都下すら言葉を失っている。俺自身も信じられない。
信じれるはずがない。世界最強の人間が学園の先生をするはずがない。
と
「・・・やはり誰も信じないか、ならば親睦を深める意味も込めて模擬戦をしようではないか」
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第3体育館
「よーし、集まったな」
そこには戦闘服に着替えた櫻井先生が立っていた。
「では模擬戦を始める、まずは各パーティーごとに分かれろ」
ぞろぞろとみんなが移動を始めて、5〜6人のパーティーに分かれた。俺たちを除いて。
「ん?お前たちは3人なのか?」
予想通り聞いてきたので俺が答えた。
「あぁ、君たちが噂のパーティーか。3人でありながら常に成績上位にいる異常パーティー」
とても聞き捨てならない通り名を聞いたがここはスルー。
「よし。ならばお前たちが相手だ準備しろ」
半分予想通り俺たちが相手するようだしかし、その次に続いた言葉は予想外だった。
「いつでも好きな時にかかってこい。あぁ、安心しろ私は武器を使わない。だから遠慮せずにこい」
この先生は何を言ってあるんだ?万が一世界最強の才能持ちだとしても俺…というよりこいつらを素手で相手する?
「あの…僕たち3人を同時に相手するのはいいとしても、素手で相手するのは無茶ではありませんか?」
「大丈夫だ。気にせずかかってこい」
「・・・そこまで言うなら。いきます!」
都下が宣言して突っ込んだ。
疾い!春休み中にまた力を上げたようだ。しかし
ぱしっくるっドゴォ
・・・は?
「おっと、力加減を間違えたか。おーい、生きてるか?」
高速で突っ込んだ都下の動きを完全に読んでぶん投げた?
馬鹿な、あいつはただ無知に突っ込んだわけではない。
直線的に近づきカウンターを狙ってきた相手を追撃するのは技なのだ。
それを難なく見破り、誘いにあえて乗り、その上で見切り、完封した。
クラス全員が戦慄した。これが世界最強の力…。
「おいおい、どうした?これで終わりではないだろ?」
クラス全員が言葉を失った。
閲覧ありがとうございました