HERE COMES A NEW CHALLENGER!
格闘ゲームでソロプレイヤーにはあまり関係ないワードだった「 HERE COMES A NEW CHALLENGER!」というフレーズも、ソロプレイでも見られるようになったのは大きい進歩だと思う。 突然挑戦者が現れて、(対戦といってもCPU戦だが)それにじゃじゃーんと登場してくる演出は面白いサプライズだ。
格闘モード5戦目、その戦闘が終わったところでストーリーの中継ぎが入るのは最近の格闘ゲームのお約束で、このアスタートサーガにしてももちろん期待を裏切らない。
プリンのところへ顔を見せに行こうかと、例の酒場へ向かう途中に見知らぬ女性に声をかけられる。
「そこの貴方、お待ちなさい」
「へ? アタシ?」
「先程の試合、見せてもらいました。 どうしてあんな下手な芝居をなさるのですか」
ありゃ、この人良く見てるなという第一印象。 一応とぼけておく事に決め込んだスミカだが、とぼけてばかりも居られない。 何しろ、この女性の言っている事は正しいし。 そして、どのような目的でスミカに近付いてくるのかも不明のままだし、相手の正体をここで暴かなければ後々面倒な事になりそうな予感もする。
「どうすれば納得してくれるの?」
「私と手合わせを願いたい」
「アタシはこの勝負で、どんなメリットがあるのよ」
「……少なくとも実力を見せて頂ければ、そしてもしも私が負けるようなことがあれば今回の件は報告せずに黙っておきましょう」
このセリフから察するに、この子は相当な強さで、誰かに実力を測ってくるように言われた……と、そんなところか。 だとすると少し矛盾する。 実力を測ってくることが目的ならその目的の戦闘を果たして、それを報告しないというのはおかしい。 どんな裏があるのか?
「誰かに雇われてるのかな……? 正直、これで勝ってもアンタの言葉をそのまま信用するのは難しいね」
「私は嘘は言いません。 戦わないのなら隠した実力を見せないためだと報告させて頂きます」
相手の得物は刀。 東の国の主力装備である。
よくヒガシの国だとか、ジパングだとか言って、ファンタジーモノのストーリーだけでなくとも登場数の多い刀。 その刀にまつわるエピソードはとどまる事を知らない。 その内の最たるものが人を斬る為に特化した武器であるという点であろうか。
また、東の国と言われる最大の理由は世界地図にある。
ニンジャ、サムライ、といったいわゆる日本をモチーフとしたその国は何故東の国なのか。 結構単純な理由である。
説明するとしたら、手っ取り早いのは世界地図を思い浮かべてもらえば一目瞭然。 地図の真ん中にある訳だが。 これが何故東の国なのか?
少し考えれば分かる事だ。
日本で市販されている世界地図を思い浮かべたからだ。
日本で買った世界地図と、他国で買った世界地図とでは何が違うのか? 説明されるまで考えた事もなかった人に対しての言葉になるが、それは思いっきり日本が真ん中にある世界地図なんだ。
それしか思い浮かばなかった人は少しグローバルに考えてみるのも面白いだろう。
他国で買った世界地図は当然のように日本なんか真ん中には無いのだから。
そして、大陸のどちらを真ん中に置こうが大抵の場合に東にある小さな島国としてしか認識されていないものだ。 実際、中国は知ってるよ、でも日本という国は知らないなぁという子供の多いこと。 そして、その子供たちは必ず、英才教育のように吹き込まれる。
この東にある小さな国が日本だよと。
とまあ、そんなこんなで。 刀使いの剣士とはそれすなわち東の島国の剣士というイメージが全世界に広がっているのだ。
そして、目の前に居る女性もまたご他聞に漏れず日の本として名高いジパンヌという国の出身だ。
「負けたら報告しないなんて、ちょっと信じられないけど、いいよ。 相手になってあげる」
「手間をかけますね」
「ただ、ここも人通りは少ないけどもうちょっと少ないところ行こうか」
ロゼッタの指示で私闘は避けるようにと言われている。 もちろんそんな事は師匠ザックレイからも言われてるし、簡単に自分の能力を見せて言い訳は無いのはスミカも理解していた。
それでも、独断でこなさなければならない用事が出来た時、例えば今のような状態に陥ったとしたら。 そんなことはスミカはいつも考えている事だったので対処は正しい。 なんでいつもそんな事を考えているのかと言えば、それは最悪を想定した所からまず考えるのがクセになっているからだ。
「街から大分、離れているように思いますが?」
「こっちにはアタシの住んでるところがあるんだよ、そこなら人目は殆ど無い。 師匠が居るくらいだから安心して」
私闘を挑んでくる者に対して安心してってのも変な話だが、稽古場なら地の利もこちらにある。 異様なのは、こんな状態でも黙って付いてくるこの女性だ。
普通だったら、こんな林の中は何が出て来るやら分からないはず。 なのに物怖じしていないと言うのはそれだけでたいした度胸だと心の中で相手を賞賛する。
「稽古場なら剣の何本かはあるから、真剣で勝負する?」
「相手の力量も分からないのに、大した自信ですね」
手頃な剣を見繕うと、下段の構えで相手を見据える。 お互い、自分が負けることなど考えていないのは先程の会話で明らかだ。 ザックレイ以外の人間で真剣で勝負するという行為はスミカにとっては初だが、それでも負ける気はしない。 だが。
「お前ら、人の庭でなにやってんの」
速攻で試合は中断された。
「スミカ、そちらさんはなんの用事?」
「あ、紹介しまっすね……って、名前聞いて無かったです;;」
「そう言えば名乗ってませんでしたね。 澄香と申します」
「えええ! それ割りとアタシの名前なんですけど!!」
日本語間違ってるけど、慌てたらしょうがない時もある。 いいよね、ファンタジーなんだし。 同じ名前の人間に会った事が初めてだったスミカにとって、これは大事件であって、騒ぐなって言われても収まらないテンションのまま感動しっぱなし。
訳が分からないようなテンションのスミカをよそに、ザックレイが聞き込みを開始する。
彼女の名は澄香、ジパンヌから遥々と大陸へ渡って来て剣術の腕と刀鍛冶の腕を磨くために諸国を回り続けているのだという。 その旅先で、自分と同じ名の闘士が勝ち続けているという噂を聞き闘技場へ。 そこで行われているのは真剣に刀を振るう者としては見ていられないような試合内容だった……。
「まあ、もうそろそろバレても平気だと思うがね」
「え、師匠! そんな簡単に認めちゃっていいんですか」
「嘘か誠か、どちらにせよ面白そうだって事になれば問題ないんだろう? 姫さんよ、誰になにを報告しようが結果は大して変わらないよ」
「ヒメさん、というのは私の事ですか? 私はそういった身分ではありませんが……」
「同じ名前だし言葉遣いが丁寧なんでね、呼び分けるのにとりあえずそう呼ばせてもらう。 あれは闘士には必要なんだよ。 場を盛り上げるってのはね」
「あれで、なにが盛り上がると言うのです?」
「盛り上がるのはもうちょっと後の試合になるんだけどね……と言えば分かるかな?」
最後の試合まで見てくれという事ですかと、納得した様子にザックレイもニヤリとして返す。
これがスミカと澄香の初の顔合わせだったが、この2人が共に旅をするようになるのはもう少し先の話になる。