ロゼッタの企みと初戦
貴族のお屋敷ってのはスミカにとってはこれまで全く縁の無い場所だった。 ピカピカに磨かれた大理石の床は、その表面があまりにもきれいに手入れが施されている為、反射してスカートの中までも映し出してしまう。
なるほど、貴族のお嬢様方は長めのスカートを履くのはこの為なのか。(それだけじゃないだろうが)
スミカの格好は闘技衣装のままで、ハッキリ言ってローアングルからのカメラワークには耐えられない。 なんとも居心地の悪さを感じながらキョロキョロと辺りを見回す。 こんな挙動不審な態度を見たロゼッタがスミカの衣装を変更する事を提案した。
「え、好きなの選んでいいんスか!」
「闘士ってのはこの街一番の見世物だからね、見た目も客の人気を集めるのに一役買ってくれるのさ」
衣装のズラッと並んだ部屋に通されて色々なものを試着してみる事にした。 ザックレイ曰く、そうして目を奪わせる事も戦略のうちに取り組めるのなら取り入れるべきだと……そんな言葉がスミカの脳裏に刻み込まれていた。
そんなこんなで、脚はある程度露出のあるもので長い袖で腕の動きをある程度カモフラージュ出来るような、それでいて色彩は割りと派手な衣装を選択する。
「全く……そんな派手な衣装じゃ悪目立ちしちまうよ」
「いやー、でもこれが気に入っちゃって」
「それも狐火の影響かい?」
ザックレイの2つ名、狐火のザックレイという戦闘スタイルについて少し解説しておくとしよう。 それは、炎をただの火力として扱うのではなく目くらましやフェイントに使うことを重点に置いた戦い方なのだが、それが相手の裏を付く戦い、まるで相手を化かしているかのような戦い方になっている。
その、化かすという戦闘スタイルがキツネやタヌキの化かす事をイメージさせる事から。 妖狐を模した戦い方のようだという事から、この2つ名が曲がり通るようになった。
そしてこの人を化かすという事について、火よりも闇属性のほうが戦い方としてはザックレイの目指す理想に近かった。 これもスミカがザックレイを師匠にして修行をする事にプラスに働くことのなったのだ。
だから、袖の長い服で相手の距離感を少しでも狂わせるような衣装を選ぶのは当然の事ではある。
「ロゼッタさんって、師匠の事知ってたんですか?」
「昔ね、何度かアプローチしてたんだけど断られ続けててね……。 ってなんて顔してんだい、アプローチってのはウチのお抱え闘士にならないかって誘いだよ」
「あわ、そっちか、びっくりしたぁ」
「まさかアンタ、ザックレイと出来てんのかい?」
「いえぇ! そんな事はないですけど……びっくりしたのはロゼッタさんが結構綺麗な方なのになんで師匠に? ってそれだけですよぉ」
なるほどと、一応の納得の後。 ロゼッタが本音の部分について語りだす。
「本題に入ろうかね。 まず、アンタはチャンピオンと戦いたいって話だったけども……そりゃあやれるって自信があんのかい?」
「……やってみないと分からないって思ってますけど」
「まあ、その話はずっと勝てるんだったら叶えられる様に試合を組んでやるよ。 だけどね、その為にはちょいとパフォーマンスが必要なのさ」
「パフォ……?」
「そうだねぇ、これから指定する戦い方が全部出来たら……」
ここでニタァとイヤラシイ笑みを浮かべて全容を話して聞かせた。 ロゼッタが闘技の仕切りをするのは当然貴族同士の大一番。 そこで出来るだけ派手に、しかし実力は分からないくらいでまず1勝する。 何故かって?
「良い新人を手に入れやがったな、位に思わせといてそうして対策を立てさせるのさ」
「アタシやれるかな……」
「スミカ、アンタはウチのナンバー1を軽く捻ってくれたんだ。 ちょいとは自信持ったっていいよ。 それで次からはあえてギリギリを演出するんだ」
これが出来たらどうなるかって? 要するに勝ってる限りは儲けがかなり大きいという事だ。 そして儲けというのもまた一筋縄では行かない。 ただ、単純にギャンブルで儲けるのとはどう違うのかというと。 それは客なのか店なのかの違い。
分かりやすくパチンコや競馬で考えてみよう。 客は勝ったり負けたり、総合的に見ればお金を払う量の方が多い。 客の出したお金のトータルの中からどれだけ主催者側にお金をバックするのか。
これは俗に言う『寺銭』だ。
テラ銭の稼ぎ方は至って単純な事で、つまり、どうやって盛り上げるかなのだが。
このテラ銭、日本では一番大きいものってなんだか分かりますか? 宝くじですよ? 国を挙げての詐欺行為だよって思うのだけども(笑)。 まあ、夢を買ってるという謳い文句でどれだけの人からお金を巻き上げているか……ってところで詐欺行為じゃんかっていう一意見を述べましたが。
確かに当たれば凄いですよ。 でもね、一番儲けてるのは国。
それから、これを個人でやろうとしたら法に触れます。 つまり美味しいところは国の管理なんですよ。 ギャンブルは日本では法律で禁止されてますからね。 パチンコも競馬もギャンブルじゃないの? いえいえ、黒に近いグレー(笑)。
換金する場所って、店と違うところでしょう。 あれで裏で繋がってない体で通ってますけどもこれはいかがなものか。 法律違反じゃないのかといって取り締まったりはしない。
結局は国にとってみればそれらすらも含めて客。
税金納めてくれればそれでOK。
良いのか日本!!
……ちと暴走しすぎた。
さて、ロゼッタの企みもこの部分なのであるが……つまりどうやって盛り上げるか。 このシナリオを描いているのだ。
「うわ、師匠が断るわけだ……」
「なんだい、不服かい?」
「いえいえ! やってみたくなりました」
「ほう? 本当のところはどうなんだい」
「アタシと師匠は別人ですよ。 アタシはアタシです。 それに貴族の誰かが絡んでくるってのも師匠の読みのうちでしたからねぇ……アタシがここでOKするのも全部読んでると思いますよ」
「……全く、とんだタヌキ、いやキツネか」
格闘モードのストーリーがここまでで、これに勝つとメインストーリーに行けるのがこの闘士という職業のようで、ここからのアクションは結構遊べた。
ただ、ストーリーがどうであれ、格闘ゲームのお約束というのがあるので。 なかなかストーリーに沿った試合展開というのは見る事は出来ない。
その最たるものが、3本勝負になる事であろうか……。
あのストーリーでどうして3本勝負になるのやら分からないが、まあ、過大解釈したとしたら。 まさかの同時リボン奪取!! ここからはルールにのっとり『KO』か『参った』の2択になります!!
という展開がずっと続いたという事になるのだろう。
初戦なんてそれでもおかしい。 何故ならそれは相手が棒立ちだから。 なんなんだ? ただ歩いていって攻撃ボタンを押しただけで「グアァ!!」とか当たってくれる対戦相手って!?
これ、どうやってもドラマにならないって!
それでも一応ロゼッタの要望通りの大勝になるのかな?
新しく使用可能になった技の練習とか、試合の最中に確認する感じで。 昇〇拳コマンドとかでミスってただのパンチ出したり、かなり無駄な動きが目立ったけども。
とりあえず、他のゲームで培った格闘ゲームの勘があるのである程度の動きは出来たのは良かったかな。 でも、勝ち台詞と負け台詞がやっぱりオカシイ。
「アタシはこんなとこで立ち止まってられないんだ。 悪いけど勝ちはいただき!」
「俺の地導ブラスナックルを破るとはな、次は容赦せんぞぅ」
お前、技出せてなかったですやーん。