表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

まだまだスローライフ

 ザックレイは酒が呑めないがスミカは呑める。 というか呑める歳になり酒にも興味があったので、機会があれば呑んでみたいと思っていたのだが……ザックレイは誘っても呑みには来てくれない。 なので夜な夜な1人でプリンの元を訪れている。


「そっかぁ、スミ姉ザックレイさん相手に勝てるようになったんだ」

「あ、でもまだそれは内緒なんだよ。 なんだかね、試合に出るのももうちょっと後にするように言われてるんだ」


 スミカのスローライフ&修行は順調で、今は小屋も作り終わって修行の他に小遣い稼ぎみたいな子供用のおもちゃ等を作って雑貨屋に下取りしてもらっている。 近くにある竹林から竹を伐採して来ては竹トンボだとか水鉄砲だとかを作っている訳だが……意外に童心に返れて楽しい。

 他にも収入はあるのだが、それを作る為には余裕が必要で。 漁だとか畑仕事だとか……スミカが闘技にこだわってない事がプリンには意外であった。


「スミ姉、なんだか変わったような気がするなぁ……」

「アタシ? 変わったのかなぁ……何にも実感ないけど?」

「だって、前は試合に出たいってそんな事ばっかりだったじゃない……もしかしてザックレイさんと何か進展あったとか?」

「進展? ……何の話よ、それは。 プリンは自分が幸せだからって……アタシがあんなオジサン相手にする訳ないじゃん。 アタシは、アタシのままだよ」


 たまに来る酒場での会話で、プリンの相手との距離もだいぶ近付いているのが分かっているスミカ。 プリンにしてもなんとなくは聞いていたのだけど、それでも闘技の事しか頭にないような姉がそれを忘れてしまったかのように澄ましているのだから……これは何かあると。 男女が揃って一つ屋根の下だというのだから探りを入れたくなるのも当然だ。


「そうだ、小屋を建てたって聞いたけどどんな事してたの?」

「今になってみるとお粗末な出来具合だから、また手直ししたいなとは思ってるんだけどね。 見に来る? 部屋にはベッドと粗末なクローゼットしかないけどね」

「え、でも周りは一面の林で何も無いんでしょ?」

「そうなんだけどね、意外に自分でも驚いてるんだ……なんかね、アタシ、そういう場所が合ってるみたい」


 そういう場所とは街からかなり外れている森林。 川も木も畑も全部が揃っているのだからこれはこれでいい場所だ。 だが、これらは最初からそこにあっただけで、住みやすさ、特に住居やら畑やらは後から付いて来たものだ。 畑に関しては、幅の広い剣を2本、これを鍬の変わりに土に突き刺して掘り起こしていたり……ろくな使い方をしていないし、手にマメが出来た。


 小屋の方はまず穴を掘って、そこに砂利を撒きながらハンマーで慣らして土台を作る。 その上に大き目の石を積む。 基礎が出来たら木材を乗せて水平な状態を作る……。

「それでね、材木が必要になってくるんだけど、木が倒れるぞーー!! ってやつ。 あれも初体験だったなぁ」

「それじゃキコリさんみたいだね」

「うん、なんか師匠が彫ってるフィギュアって大体の素材が木材なの」

「その、ふぃぎゅあ? って……売れてるの?」

「あれのおかげであの土地を貸して貰えてるんだって。 この街の貴族、地主さんが師匠の顧客らしくてね」


 木工像に石から取れた塗料。 服なんかも作れるのだが、これがなかなか際どい? いやいや目を引くような服、衣装で。 これが自由に取れるようになってくるとスローライフ・クラフトもかなり自由が利いてくる。 もちろん既成の製品を買って着せたっていい。


 それに大きさも自由だし、作れるものも幅広い。 ドラゴンの彫像なんか精巧な作りで出来た日には目の飛び出るような値段が付いたりする。 スミカはまだその域には達してないのだが、ザックレイの作るフィギュアは本当に幅広く、大きなお友達から由緒正しい貴族の庭に置けるような置物まで。 上には上が際限なく伸びている。


 ……闘士の道も捨てがたいが、いつか、暇を作ってでもやってみたい気がするところだ。 そうしたら彫像屋? としてもザックレイが師匠になるのだろうか。 闘士としてのスミカとザックレイの対戦戦績は今のところ五分五分。

 それも、新たに顕現出来た技は使用しないという縛り付きで。


 縛り、とは。 まあプレイヤー自身が自分の拘りを反映させた部分のようなもので、例えば武器は自由に選べるけども私個人としては二刀流のみを極めたい。

 それ故にその他一切の武器を使わないか、使用しても試しに使う程度で留めるというのが縛りプレイ。


 別にイヤラシイ単語じゃないですからね。


 それはさて置き、今こうして呑みに来られるのも、多少とは言えクラフトの製品作りが出来てそれが売れているからだが……そんなに高い値段が付く訳も無く、稼ぎというには恥ずかしい程度にしかなっていない。

 なってないけど、出て行くものがないこの自給自足ライフでは例えそれが小遣い程度だとしても、そのままの金額を小遣いとして使えるのだから悪くない。 悪くない帰れる場所。


 これがスミカの新しい住処スミカ


 ……寒いオヤジギャグで正直スマンかった。


「プリンッ!! そろそろ休憩はおしまいだよ!!」

「あ、はぁい! それじゃスミ姉、また今度話聞かせてね」

「うん、プリンも仕事がんばってね」


 たまたま時間が取れたから話していたが、本来夜は一番盛り上がる、稼げる時間帯なのだ。 スミカが呑みに来てくれるのは女将としても嬉しいので、そこはサービスも兼ねて時間を割いてくれる。 女将は酒が呑める人間を好むのだ。

 そりゃあ商売上、どうしたって酒を呑んでくれる方が儲かるのだけどそれだけじゃない。 儲かるから呑んでくれる客が好きな訳じゃない。 では何故か? ひどく単純な理由だが、女将も酒が好きだからだ。 酒は人を幸せにする、と、信じているからこその暖かい雰囲気なのだろう。


 スミカもまた、興味を持った酒はとりあえず呑んでみるというスタイルで手当たり次第に色んな酒を試していたのだけれど、その呑みっぷりが実に美味しそうに呑むのだから女将としては作りがいがある。 ラムをベースに色んなものを混ぜて出してくるその日の気分ブレンドやら、ビールにウイスキー、割と何でもあるので呑み飽きない。

 ちなみに今呑んでるのはラムの蜂蜜水割りで結構甘めのお酒だが、これがスミカのお気に入りになりつつある。


「スミカ、今度ザックレイも連れておいでよ」

「ええ? ダメですよ師匠は……お酒弱いんですから」

「それで良いんだよ、隣でアンタがそうやって美味しそうに呑んでくれれば気が変わるかもしれないしね」

「どうでしょうねぇ、師匠は顧客になった人の接待くらいですしね……来るとしたら」


 女将は無理には酒を勧めたりはしないが、それも常識人である事の証か。 そんな女将がザックレイにも呑んで欲しいと願うのは……親しい仲なので自分の好きなものを分かって欲しい気持ちからなのだろう。


 酒場の暖かな空気がスミカの何かを満たしていく。


 こんな過ごし方もあるんだなと、一人納得するスミカ。 これは独り身だからなせる業なのだが……。 両親を亡くしてから孤児となり、妹のプリンが独り立ち出来る程度の年齢になるまでは孤児院の手伝いなんかをしていた。 そんな過去を振り返りながらいつの間にか大人になっていた自分と大人になりきれない自分と。


 かみ締めながら想う、アタシは強くなったんだ。


 全然、天才でもなんでもない。


 どちらかと言えば落ちこぼれ気味で今までを過ごしてきたのに、今は今までの全部が自分に必要だったような不思議な感覚がスミカにあった。


 アタシはこれで良いんだ。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ