酒場にて
要領を得ないスミカの取り乱し具合に、結局仕事が終わった後にゆっくり聞くという話になった。
だが難しい話ではない。 難しい話ではなかったが言いにくい話である。 つまり、プリンは彼との将来を真剣に考えていて、更に姉のスミカの事も真剣に考えていて。 どちらも大事なのだが天秤にかけるならどうするのが良いのか? 悩んだ末に女将に相談し、ザックレイの事を聞き出したのだ。
プリンとスミカは2人姉妹で、姉のスミカの夢を全面的に妹のプリンがバックアップという姿勢でこれまで過ごしてきた。 2人の両親は先の戦争で戦死していて孤児になったが、それでも戦争を恨まずにむしろ戦いに生きた両親2人を誇らしく想っている。
そして、だからこそ両親の様に戦いの道を選んだ姉とその支援を買って出た妹の絆が生まれる。 その絆を信じていたし貫きたかったから話せなかった。
スミカが戦いのことばかりに集中出来ていたのもプリンの支援があればこそだ。 だが、プリン自身に出来た彼との将来を真剣に考えるなら……その日その日で食べていくスタイルではかなり不安が残る。 姉の事を応援したいのはやまやまなのだが、どうしたら良いのか分からなくて……。
プリンの相談の内容はこんな所だ。
それに対して女将さんの答えは「面倒を見てもらえて、修行が出来れば良いって訳だね? それなら当てがある事はあるよ」という、あるけども他にも何か含んだような回答だった。
酒場の中にあって酒を全く頼まずにメシばっかりを注文するグループが一つ、異様な盛り上がりをしているのだが、そこに顔を向けあれがそうだという合図を送る。
「あの方たちがどうかしたんですか?」
「あの中心に居る無精ひげのやつさ、ザックレイ、昔は闘士もやってたんだがねぇ……」
「お強かったんですか?」
「そりゃあ昔はね。 今じゃあ腑抜けてるけど」
すぐにでも話しに行こうとするプリンを仕事中だからと呼び止めて、ザックレイには後で時間を作ってくれるように取り図った。 これでザックレイの方も少しは昔のようになってくれればいいのだが、などと言うのは女将さんの勝手な言い草ではあるが。
当の本人、ザックレイは何ゆえ腑抜け扱いなのかと言うと。 戦いからは離れた職業に就いていたからだ。 その名もフィギュア職人。 萌えも人形も理解されないこの世界において、ザックレイはフィギュア作りという職業がどれだけ金になるかをいち早く気付き、先駆者としてこの界隈で名を知れ渡していたのだ。 萌えというモノを売る発想は彼にとっては発見であり、生きがいでもあった。
なのに、世間の目は冷たい。 天才は理解者が少ないのだ……これが昨日の話である。
店が閉店してスミカ、プリン、ザックレイ、女将の4人が静かになった真夜中の1時に一つのテーブルに席を寄せている。
「昨日の夜は店を出たら突然プリンちゃんに捕まってね。 それで、まあ、弟子って言っても女の子ならOKって気軽に返事しといたんだよ」
「待ってろって言ったのにまったく……そんな言い方じゃあ紹介したこっちが馬鹿みたいだ」
「あ、それで……スミ姉、どうだったの?」
「今日も、負けました……」
一気に沈みそうな空気をザックレイが制する。
「ま、悪くなかったよ。 ちょいと修行に時間はかかりそうだけど、主に精神面の方が問題のように見えたしね」
「「「え?」」」
3人が3人共、同じタイミングで同じ様に疑問を持ったのか、見事なハモり具合である。
「や、まあ、悪くなかったよ。 動き。 あの通過儀礼は本当に見てられないような奴は野次すら飛ばないからさ、それから周りの野次の中にもヒントがあった。 こいつは大怪我はしなそうだなっていうね。 笑って見てられる程度って事。 まあ、笑いを取るのが闘士の仕事じゃあないんだけどね」
そこで言葉を区切って、スミカの方へ視線を走らせる。 今度はお前が喋る番だよ、と。
「アタシ……そうやって褒められたの初めてな気がする……」
「今までは誰に習ってたの?」
「どっ、独学です」
ふうむ、と腕組みをしながら親指で無精ひげをカリカリとやる。 自己流の武術なんてはっきり言って論外。 なのに動きは悪くないってのはどうだ? 気持ちに焦りがある……やっぱりそこだよなぁ。 どうして焦る? 心の中が分かる訳じゃない。 分からない事は聞いてみる。
「どうして闘士目指してるの? 両親が戦士だったから?」
「それは、もちろんです」
「でも、プリンちゃんだって良く働いてくれてるよ。 アンタだってウチで働いたって良いんだよ?」
当然の疑問だ。 妹は割り切っているのか給料をもらって働く、割と落ち着いた職業を選んでいるのだ。 姉のスミカには何故割り切れないのか。 それに対してのスミカの答えは割と因習めいたものを感じさせる重々しいものだった。
「アタシが闇の月、闇曜日の真夜中に生まれていて……忌み子だなんて言われてて」
ほんの少し躊躇いながら、説明してくれたその内容は。 それは迷信だと言えばそれまでなのだが、戦時中にあってそのようなゲンの悪い話は、やや疎まれるような風潮があった。 当然か、命のやり取りをするのだから。
「つまり、両親が死んだのも自分のせいだって思ってるのかい?」
「分からないです……でも、アタシ、」
「あーあー、分かった。 皆まで言うなってやつだ。 なるほどねぇ、ま、前は勢いで誘っちまったけどもさ、やっぱ、お前は俺の弟子になるといい……勝たせてやる」
ぶっきら棒な物言い。 だが、勝たせてやるなんて言い方の指し示す意味は、物凄い自信に満ちた頼りがいのある言葉で、頼ってくれて良いよと言っているのだ。
親子ほどに歳の離れた2人の提案。 ザックレイ、女将の2人がまるで両親の様に親身になってスミカの話を聞いてくれていたのが、そのまま両親に背中を押してもらっているような錯覚を覚える。 そう、この時に確かに両親は背後に居て背中を押してくれていた。
「あ、アタシ、その、お世話になります!!」
「おう、任せろ」
かくして、スミカの修行の日々が始まろうとしているのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ゲーム進行に伴い、新たなモードが追加されました。
> スローライフ
闘技場モード
スローライフモードはいわゆるスローライフ、農業や釣り、狩り、を楽しみながら、キャラクターの育成が出来るゲームモードです。 戦いに疲れたらいつでもこの修行場に戻ってきてゆったりとした時間を過ごして息抜きをするのも良いでしょう。
闘技場モードはこの時間帯よりも更に1年後を舞台とした2D格闘モードです。 対人戦はもちろん、CPU戦もストーリーを含めて進むストーリーモードや、与えられた条件をクリアしていくサバイバルモード、キャラクターの育成も出来るゲームモードです。 対戦アクションが好きな方にはお勧めです。
ゲームの序盤はどうやらこの2つのゲームモードで遊べるようだ。 パパッとモードの選択を迷ってカーソルを動かしていたら、それに併せてキャラクターの衣装が変わる。 赤とオレンジの派手な衣装は闘技場モードで、スローライフの方は闘技用の修練着だろう。 少し衣装はボロッちいのだが、だとすると1年かけて修行をしてこの姿になるのか。
ふむふむ、とりあえず流行りだしね、スローライフ。 やってみたいとは思ってたんだよな。 闘技の方は1年後なんだからストーリーを追うならスローライフからか……丁度いい。
見た目も派手に割りと理想に近い自信に満ちた女戦士の成長する姿を見てから、それから成長した後の話を見たほうが順番的にはいいのだろうし。
まずはスローライフからだ。