第1話的な始まりの予感
戦争孤児、それがスミカとプリン、2人姉妹の肩書きだった。
だが、その戦争で孤児になった事に関しては少しも恥じては居ない。 むしろ誇らしく思っているくらいだ。 しかし子供は言葉をオブラートに包むような知恵はなく、その事を無神経に逆撫でる。 お前らの両親は無駄死にだったんだろ、と。
孤児だった頃には、それはもうスミカとプリンの事はこのネタでからかえば必ずムキになって反論してくると周りの孤児たちに知れ渡っていて、そしてよく詰られた。
子供は加減を知らない。
それを知る前に周りの空気がどうなのかを知る事のほうが優先される。
周りの人間が苛めていればそれに同調し、自分が苛める側へと回る事で自分の身を守る。 大局的に見れば、そんなのは一時的な付き合いなのだからそれほど問題ないように見える。
でも、よく考えてみれば……。
生まれてこの方、社会と言うものを経験していない子供が最初に出会う社会というのが、この子供同士の付き合いで成される子供社会だ。
つまり、一番最初の人付き合いのあり方の根源的な部分を印象付けるかなり重要なポジション。
だから、大きく間違っていれば大人が導いてやる必要があるのだ。
「これ! 弱いものいじめはやめなさい!」
「アタシは弱くなんかない!」
そんなシーンから一転、ガバッと跳ね起きて辺りを見渡す。 昔の夢を見ていたのだ。
「これから旅に出ようって言うのに、なんでこんな夢見てんだろ」
独り言だったから、誰も答えてはくれない。
ずっと、何かを守り続けてきた。
心の中にある言葉に形容できないような大切な何かだ。
それは言葉に出来ないけれど確実にあるもので、そしてそれを守り続けた結果が先日の闘技の勝利に繋がったのだ。 もしかしたら、この大事なものはザックレイなら分かるのかも知れない。
何しろ、スミカの事はどこか見透かされているような……とても深いところを理解してもらえているようなそんな気がしているからだ。
実際、ザックレイの功績は大きい。
空回るスミカの想いを一点に集中させるような、それが出来れば今度は回った分だけ力が付く。 外れていた歯車をそっと直してくれたかのような、目には見えない心の中の歯車の様なナニカだ。
……いざ、旅立とうと思うとこれまで感じられなかった、いや、感じていたけれども心の隅においていた、ザックレイに対する感謝の念が強くなっている。
「ちゃんと師匠にはお礼言ってから旅に出たいな……。 どんな言葉がいいんだろう」
何も思いつかない。
でも、それでもいい。
多分それは考えても出てこない答えなんだ、だからタイミングを変えて考えてみると案外答えが見つかったりするものだし、今は別のことを考えよう……。 なんてのもザックレイの言葉であったりする。
こんな時ですら、ザックレイの言葉に助けられる自分が、実はそれほど嫌ではない。 むしろこんな自分でも良いんだといつも師匠に教えられてきて、身になって。 ザックレイの口癖や、考え方なんかもかなりの精度で出来るようになっていた。
「これは2代目キツネを名乗ってもいいのかな、なんてね」
多分それが一番嬉しい言葉なのかも知れないと納得するスミカ。
水汲みの時間になり、川へ向かうとそこでザックレイとばったり鉢合わせになったが、先程思いついた2代目を口にする前にザックレイの方から声をかけられる。
「いよいよ出立か」
「はい、なんだか早いって気もしますけど」
「いいさ。 思いついた事をやれるってのは幸せな証拠だ。 ……っと、それよりも昨日のうちに話せれば良かったんだが、ロゼッタのところから手紙を預かってるよ」
「アタシに? ですか」
水汲みを終えて、切り株に腰を下ろしつつその手紙に目を通す。
差出人は澄香、もう一人のスミカからだ。
突然のお手紙でさぞや驚かれたかも知れませんが、火急の用事でしたので早速ですが本題から失礼いたします。 防衛拠点都市アスタートはご存知かとは思いますが、今、私はそのアスタートに居ます。
アスタートは魔の者と戦う為の最前線、私も拠点に身を置いて少しでもゲートの探索に協力するつもりでしたが、ここアスタートでは4人1組でしか任務が受けられません。
誰とも分からないメンバーを組むよりも、少しでも信頼の置けそうな人物をとメンバーに誘われる者全てに真剣の勝負で勝てたならと条件を出した結果誰も私に及びません。
大陸に渡って以来の腕の持ち主である貴方様のお力が必要なのです。
この手紙が届いている頃には、もう勝ち上っている頃でしょう。 そして誰も貴方様に勝てる相手など居るようではなかった。 あのような場所で力を隠して戦うよりも、思い切り力を使って人の役に立てたらとは思いませんか?
もしも、返事が無い様ならばこちらでそれなりに腕の立ちそうなものを選別してメンバーを組む事になるでしょうが、出来ればご助力を頂ければと存じます。
何卒、お考えください。
「師匠、この手紙の内容……ちょうどアタシも向かおうとしてたところじゃないですか!」
「そうだな。 おあつらえ向き、とはよく言ったモンだ。
闘技の方ももちろん参加はして欲しいが、何よりこの澄香ってのやはり只者じゃなかったか」
「勝負に勝てたら、って、そこから誰も勝てないなんて……アタシより強い?」
「それは興味があるな。 会場中の誰も見破れなかったスミカの実力を見抜いた事も充分に驚きだったが、強さも持ち合わせていたとはね」
師弟が揃ってニヤリとする。
答えはとうに出ているのだから。
「それじゃ、師匠! 気になる事も出来た事だし、出発しますね!」
「おう、行って来い」
本当は少し、止めて欲しかった。 それは寂しさから来るもので、街から街へ定住する場所の無かったスミカにとってはここはある意味出発の場所。
未練が無いと言えばウソになる。 なにしろ出会いが多すぎたのだ。
そのもっとも大きな出会いであった人物に止めて欲しいと願うのは当然と言えば当然か。
だが、そのザックレイがこれほどまで気持ちよく送り出してくれるのだ。
そして唐突に、朝目覚める前の夢の内容を思い出した。 どうしてあんな夢を今更見たのだろう? それは昔の自分との別れの時が来たのだと言う予知夢のようなモノだったのかも知れない。
少し感慨にふけっていたところへ「小屋はそのままにしとく、心配するな」と、後押ししてくれた。
そのままにしておく。
これは帰ってくる場所があると言う事を遠まわしに言ってくれた訳だ。
「行って来ます」
表情を固く結び、前だけを見て歩くスミカ。 振り返りはしない。
何故なら、薄っすらと浮かべた涙を見せない為に。
いよいよ、大きく育った雛が旅立っていったのだ。




