神子
あの日のことは、今でもよく覚えている。
世界の穀物などが、激減し、異界から神子を呼ぶことになった。
私は、反対だった。
もしかしたら、この時から私は、こうなることがわかっていたのかもしれない。
召喚された方は、金に輝く髪に琥珀の瞳を持つとても綺麗な人だった。
声もとても可愛らしく、召喚の間に居た全ての者が見惚れていた。
異変が起き始めたのは、それから少し経ってからだった。
私の周りに居た人達が消え始めた。
初めは、私の教師の クリッド様とリドム様
勉強の時間になっても一向に姿を見せなくなった。
次に、私の護衛剣士の クードとユーノ
街の視察時間になっても、姿を見せなくなった。
そして、ウィリウム様と現国王クディル様
書類を持って、執務室に行くと無人だった。
気づけば、皆神子様のところに居た。
私が長い月日をかけて積み上げてきたものが、神子様に全て奪われた気がした。
でも、彼女は、この国を救う為に来てくださった救世主様きっと今だけだと思い、部屋に戻った。
でも、何日過ぎても彼らと話す事はなかった。
一緒にお茶をした時間は、彼女とお茶をすると言われ無くなり、視察も護衛剣士が居ない状態で行うことになり、執務の書類が溜まるようになった。
このままではいけないと思い、ウィリウム様と陛下に会いに行くとそこは、異常地帯になっていた。
神子を中心に国の重要人物たちが、政務もせず寛いでいた。
すぐに中に飛び込み国の状態を伝えたが、全員が顔を顰めこう言った。
「マリアと話すほうが大切だ。国は関係ないし、神子を蔑ろに出来ない」
その時の神子様は、キレイに笑ってこう言った。
「何で無理矢理お仕事させるんですか?
マリアがずっとこの国に居るから、衰えることは、ありえないんですよ。
ところで、あなた誰?此処は、選ばれた者にしか入れない場所でしょ?」
「俺の婚約者だ。
俺は、仕事に戻る。仕事が残っているからな」
「ちょっと!?ウィル!?」
彼女は、いつの間にか、彼を愛称で呼ぶのを許していた。
私は、まだ、彼の愛称を呼ぶことを許されていないことが悔しかった。
だが、それより衝撃的だったのが、彼が仕事を残していたこと。
彼は、仕事が終わらない時は、誰とも会わずに執務室に籠っている。
その彼が、仕事を残して彼女と会っていたことに大きな不安を感じたのを覚えている。
コンコン…
ノックの音に意識を向ける。
「どうぞ、開いています」
「失礼します。リリス様おはようございます」
「おはよう。ミーア」
彼女は、ミーア。
幼い頃から、私についている侍女で、とても信頼できる。
「…泣いていらしたんですか?」
ミーアの言葉に首を横に振る。
ミーアは、私と彼の婚約にずっと反対していた。
言ってしまえば、家族全員が反対だったらしい。
ミーアから聞いたが、私の婚約が決まった時、兄様達が、暴れていたそうだが、父は、その暴走を
とことん煽り、母は、笑顔で眺めていたらしい。
でも、私が、本気で彼を好きになった時、渋々認めたそうだ。
「リリス様できましたよ」
「ありがとう。ミーア」
私は、常にシンプルなドレスを着て生活している。
ヒラヒラした服は、苦手だからしょうがない。
「行きましょうミーア。此処からは、ウィリウム様に相応しい女性です」
「はい。リリス様」
部屋を出て、食堂に行くと、彼が既に席についていた。
遅れたことを詫び、そのままお互い無言で食事をとる。
食事を終え彼は、すぐに食堂から出て行ってしまった。
何も聞くことができなかった…食堂に入ってきたとき微かに香ったあの香…神子様の香りで、
彼が今まで誰と居たのかわかり、ただ、俯くしかなかった。