5話 確信と幻覚
「……………………」
帰り道、俺は何も言わずに手の中にあるペンを見つめる。
今日はこれを連れてバイトへ行った。
最初はこいつは他の人にも見えるのじゃないかと、少し心配していた。
見た目が見た目なだけに、一緒にいると何か説明がいるだろうから。
でも、その心配も不要だった。
「こんにちは、池沼さん」
「やあ、今日はなんかいつもと違ってだるそうじゃないねえ。
なにかあったのかい?」
「え?いや、なにか見えないですか?」
「それって私のこと?」
(おまえは黙ってろ!)
ジェスチャーでペンに言う。
すると、あいつは頬を膨らました後、消えてしまった。
しかし、肝心の池沼さんは
「え?見えるって……幽霊かなんかかい?」
あぁ、彼には見えてないのか。
この瞬間私は確信した。
これは俺の幻覚だ、と。
勿論、この他の人にも尋ねたが同じような答えしか返ってこなかった。
俺は今一度、手の中のペンを見つめる。
こいつ、そういやあの時から出てきてないな。
「おい、……おまえ」
「…………」
うん、返事無し。
もし、ここでこいつを置いて帰ったら、俺の幻覚は終わるのだろうか。
ペンを地面に置いて、俺は家へと歩いて行った。
なんだか可哀そうにも思えたが所詮ペンはペン。
それに、こいつは俺の見ている幻覚だ。
実在などしない。
俺は勇み足で家へと帰る。
暫くして後ろをふりかえると、
「…………おいて行かないで」
そう言って、俺の腕を握っているあいつがいた。
握っているとは言っても、見た目だけで感覚は無い。
でも、俺はあいつを置いていくことは出来なかった。
しょうがない、やっぱ病院にでも行くしかないか。
俺には、こいつを置いていくことなんて出来そうもないしな。