「響-なげき-」3
扉の奥には結衣と思われる女性が体を小さくして座っていた・・・
小川 京介の存在には気づいていないようだった
「何故だ・・俺が見えないのか・・・?」
そう思い京介は扉の中に入った・・・一歩ずつ近づくたびに強烈な眩暈に襲われた・・・
人の過去に入り込むという無謀なやり方がそうさせているのか・・と感じた
『結衣』
京介は声を掛けて見た・・・
女はゆっくりと振り向いた・・・
『誰・・』
「やはり哀川 京介には見えないのか・・・」
『・・・』
『あ・・京ちゃん、京ちゃん!帰ってきてくれたんだ!』
女は即座に椅子を立ち上がり駆け寄ってきた
『・・・あぁ・・寂しい想いをさせて悪かったな・・・』
何故かこんな言葉が発せられた・・・
環境を理解してるわけではない、ジャニスが送信してきた過去の経緯が本能的にその言葉を出させたかもしれない・・そう感じた
『結衣、寂しかった・・京ちゃん』
「結衣で良かった・・」
頭を撫でながら京介は聞いた
『こんな所でどうしたんだ?』
『ジャニスよ・・・アイツが私をここに閉じ込めたの・・・何にもない世界に・・・』
「この紗江の中の空間の事を言っているのか・・・?」
『アイツはお前の事を考えてそうしたんじゃないのか?』
『京ちゃんがそうしろって言ったの?』
「どう答えればいいんだ・・・そして、この眼差しは何なんだ・・?」
京介が黙り込むと結衣が話し始めた・・・・
『そんなことないよね?』
『あぁ・・』
結衣を抱きしめると何もない世界に色が付き始めた・・・室内にどんどん変わり始め最初に見た時の無機質な空間ではなくなっていた
「ロード・・なのか・・・」
記憶のダウンロードにより、結衣の意識が小川 京介と認識し過去の物語を進行させ始めていた
『京ちゃん、あの牢屋から出してくれてありがとう、あのままだったら私どうにかなっていたと思うの・・』
ジャニスが送信済みである過去の結衣の記憶を思い返した・・・
「そうか、これは目覚めた後に位置しているのか・・・どこのシーンに居るのか把握するのも大変だな・・」
「ジャニスのデータによるとこの結衣は、哀川 京介のプランを実行し、その後再び地下の牢屋へ閉じ込められる・・・そして彼女の記憶はここから消え去っている・・・どういう事なんだ・・」
結衣は京介の体を求め、縋るように甘えてきた・・・
俺はそんな結衣に対して何の感情もなく抱いた・・・
体を交わすことでこの娘は満たされるのか・・・自分を必要とされない事に恐怖を感じているようにも見えた
せめて体だけでも貴方の思うがままにされて気に入られたい・・・何となくそんな気持ちが伝わってきたような気がした・・・
『京ちゃん、結衣、京ちゃんの言う事何でも聞くし何でもするから言ってね』
『・・・もう寝ろ・・』
『はぁい・・』
何を話ししていいのかわからない・・・彼女の過去をデータより知った事には知ったが俺は哀川 京介ではない・・・彼女が望む言葉など容易に分かるわけがない・・・
すると・・急に物凄い眠気が襲ってきた・・・
「なんだ・・・」
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数秒もしないうちに墜ちるように意識が消えた・・・そして気が付くと目の前にジャニスが座っていた・・
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『ここは・・』
『戻したんだ・・現世に』
『どうして?』
『君の体への負担が限界だった・・それと、やはりこのやり方は今の君には難しいのかもしれない・・・』
『初めてだからな・・何を話してもいいか、どうしていいのかがわからないよ』
『私が見るからに・・結衣は君を京介さんと認識している、だが、彼女が知る京介さんは君のような優しさなど兼ね備えていない・・・』
『優しさ・・?』
『何故ここに閉じ込められた?と聞かれただろう』
『あぁ・・あんたに指示を出したのは俺かとね』
『あの時の返答は「そうだ」だ・・』
『・・・そうなのか・・哀川 京介という男はどうしようもない男だな・・・人間としての優しさのかけらも感じねーよ』
『・・・彼はそういう男さ・・』
『今後どうするんだ?』
『少し時間をくれ・・・君が彼女と接触したことで彼女の世界に色がついて回り始めた・・・きっと彼女は最終最後まで進んでいくだろう・・・』
『結衣は記憶を失っていたのか?』
『彼女は・・突然殺されたんだ・・・ある人間に・・・それでだろう・・・データは生きていた時の彼女の意識のものだからな』
『哀川 京介に殺されたのか?』
『いや違う・・・同じ傀儡さ・・・』
『自ら傀儡を殺すことはない・・・ということか』
『いや、過去に3名程、彼は殺している』
『傀儡の中にいるのか?教えてくれ』
『真美、千佳、美央さ・・・』
小川 京介はリストを眺めた・・・
「どんな経緯でこの人たちを殺したのだろう・・・残虐に人間を人間と思わないで殺したに違いない・・・」
『君は傀儡達に沢山の事を学ぶだろう・・・』
『学ぶ?ふざけるなよ・・可愛そうな人間達から何を学ぶというんだ!』
『可哀想と思うのか?』
『当たり前だろう』
『既に学び始めているじゃないか・・・人として・・・人間の価値についてな・・・』
『人間の価値・・・ふざけるな!人間は一人一人価値があるんだよ!』
『そう・・それなりに、自分なりの「なり」の価値がな・・・』
『何だよそれ・・・意味わかんねーよ』
『それをこれから学ぶのさ・・・』
『・・・』
『今日の所はゆっくり休んでくれ、君の体にも相当な負担が掛かっている筈だ・・』
『あぁ・・・次も彼女の中に俺は入るのか?』
『それは変わりないと思う』
俺は横たわる 新垣 紗江を眺めた
彼女の中に存在する幾つもの人格・・・人間が人間にこんなことをしてよいのか・・
あり得ることなのか・・・幾つもの疑問が渦巻いた・・・
『君の部屋を準備しておいた、そこで休むがいい』
ジャニスはビル内の部屋を書いたメモを渡してきた
『あぁ・・』
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メモの通りに歩くとそこには「役員室」と書かれていた
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