「迷-しんじつ-宮」 10
「目覚めた時 本人であればいいのだが・・・」
ジャニスは心の中で彷徨う、紗江の意識を強制的に現実へ排出させた・・・
ベット上で、数回バウンドし、その後、徐々に呼吸の乱れが納まり始めた・・
「・・・」
ジャニスは紗江自身から目覚めるのを待った
呼吸の乱れが止まり、薄らと目には涙を浮かべているようだった
「泣いている?それ程 辛い状況下だったのか・・?」
その数分後、紗江は目を開けた・・・
天井をぼんやりと見つめ、何を話すわけでもなく・・・
動くわけでもなく・・・ただ、ただ、そのまま静かにベットに横たわっていた・・
ジャニスとしては、こちらからの問いかけではなく、紗江自身からの反応が見たかった
その理由としては、目覚めたのち、現在の意識はどこに置かれているかを知りたかった
小川 京介が現れてから、小川 愛美を中心とし、紗江の意識をコントロールしているように見えたからだ、
現在も尚、建屋内には「小川 京介」が存在している。
彼の登場が、紗江に大きな変化をもたらしているのは事実、故に気になった
それと、もう一つの疑問としては、データ上、「小川 愛美を」入れ込んでいる事だ
過去の歴代の傀儡とは、もう既にこの世にいない・・、現に今も愛美は「存在」しているという部分だった、
愛美は、今も尚、存在し、精神病院の中で生き続けている・・
精神的なリンク、波長の同調などがあり、紗江自身に影響しているのか・・そこが謎ではあった・・
だが、ジャニスとしては、特例としてこう考えるのが妥当だと判断した
愛美は、哀川 京介による、電波ジャックの衝撃と、突然の失踪が原因で
彼女を現在のものとした。そして彼女は精神崩壊をしてしまった。
現在、彼女を構築するものの軸として「哀川 京介」の存在を中心に構築されたのであろう。
何故、そうなったかは判らないが・・恐らく、哀川 京介による、プログラムであったのではないかと考える
紗江のように、人間本体の意識を空にし、構築した存在じゃない故、実際の行動としては実に無理があるが
哀川 京介という男は、それすら可能な人間・・いや・・存在だったのかもしれない・・
現に、彼が残した傀儡 「新垣 紗江」が良い例である・・・
未知数な傀儡、「新垣 紗江」と今も尚を存在し、もしかするとプログラムが進行中かもしれない
「小川 愛美」・・そして・・運命に引かれるように現れた・・「哀川 京介」と「小川 愛美」の息子、「小川 京介」
「どちらにせよ・・この三人が、京介さんのプランを完成させるか・・否か・・といったところなのかもしれない・・もしかすると考え過ぎなのかもしれない・・・いや、ならば、何故、紗江を残して彼が命を絶つ?・・全部抹消するするのが一番の方法だったのではないか?・・あの・・綾瀬 千佳のように・・・」
幾つもの疑問があったのは確かだった・・
現に目の前に存在する「傀儡」は生き証人であり、現在までの答えであり、先にあるであろう傀儡プランの答えを出すものである・・・
ジャニスは紗江の顔をじっと眺めた・・・
紗江は数分後、視線に気づいたのか、人の気配を感じたのか、ゆっくりとジャニスの方を向いた
「ぁ・・・」
紗江はジャニスの存在に気付くと言葉を漏らした・・
『お前は誰だ?』
ジャニスは現在誰の場所に意識があるかを確認した
『・・紗江・・新垣 紗江・・』
『私の名はなんだ?』
『ジャニス・・』
『よし・・起きるんだ』
『うん・・』
紗江は起き上がり頬を伝う涙を手で触れた
『涙・・私・・何で泣いてるの?』
『判らない・・恐い夢でも見たんじゃないか・・』
『恐い・・夢・・いつも・・見てる・・』
『どんな夢だい?』
『沢山の人が・・私の身体に入りこもうとする・・そして私が私じゃなくなる・・』
『そうか・・沢山の人というのは男性かい?女性かい?』
『皆・・女の人・・とても強い意志を持っていて、誰かを強く想っている・・』
『誰かを想っている?』
ジャニスはすぐに、その存在が誰であるかが判った
『うん・・』
『その人を紗江は知っているのか?』
『よく判らない・・でも・・その人の存在は自分の中でも大事であると同時にとても恐い存在であるような気がする・・』
『そうか・・・』
紗江は起き上がり、部屋の片隅を眺めた
『どうした?』
『何処かに・・あの人が居る・・』
『・・あの人とは?』
『男の子・・とても傷ついている・・何かに怯え・・悲しんでいるように感じる・・』
『・・・一階のロビーで、少年が横たわってる・・そいつに会いたいか?』
『私は会いたくない・・でも、彼と共鳴する意志がそこに行こうとしてる・・』
『・・その意思をシャットダウンでいるか?』
『判らない・・今は出来るような気がする・・』
『紗江、その彼は君とって、どんな存在に感じる?』
『鍵・・・彼が鍵を持っている・・そう頭の中に言葉が浮かぶ・・』
「鍵だと?・・・それらしい事を言ってくれるな・・紗江・・・」
『鍵か・・・では、扉も存在すると考えてもいいのか?』
『扉は・・沢山ある・・でも・・よく判らない・・』
先程、紗江が存在していた意識空間でも扉はあったな・・・
『そうか、沢山の質問をして悪かった疲れただろう』
『疲れる?・・よく判らない・・』
『少し休むといい、あの少年の事は私に任せておくといい』
『ねぇ・・教えて・・』
『何をだい?』
『私は誰なの・・』
『君は・・新垣 紗江だ、それ以上でもそれ以下でもない』
『新垣 紗江・・は・・何のために存在するの?』
ジャニスは驚いていた・・・
傀儡が自意識で疑問を感じている・・・
『私は・・何なの・・』
『君は君だ、誰でもない』
『嘘!』
紗江の心拍数が急に上昇した
PCモニターは紗江の変化を捉え、数字上で表していた
「やばい・・普通の数値ではない、これは・・サタン指数だ・・」
『紗江、落ち着くんだ!』
ジャニスは急いで、哀川 京介の肉声の入っているボイスレコーダーを取り出そうとした
哀川 京介の呪文で紗江の意識を固定化すれば紗江の意識移行は止まる、そう考えた
『お前たちが、お前たちが・・・』
身体をブルブルと震わせ、真っ赤な形相へと変化を始めた
ベットから降り、立ち上がりジャニスの方へと近づいた
「ガサガサ・・」
ジャニスのポケットの中にあるはずのボイスレコーダーが見当たらなかった
「何っ!、いったいどこにいったんだ・・」
紗江はジャニスの目の前に立ち、首に手を掛け上へ持ち上げた
『や・・辞めろ・・』
『お前達が、佐原さんを私に殺させた!』
「何だと!そのデータまでもが残っているだと あり得ない・・」
『放せ、放すんだ紗江・・』
『許さない!絶対に許さない!佐原さんを還して!!』
『辞めろ・・辞めるんだ・・紗江・・俺を殺したら・・お前はお前でなくなる・・・』
『うるさい!お前も殺してやる』
ジャニスの意識は次第に遠くなっていた・・・
そんな中、ぼんやりと頭に当時の光景が浮かんだ・・
佐原を紗江が殺したとき、彼女は完全に暴走状態にあった・・・
哀川 京介の呪文により、紗江は佐原を殺した事実を目の当たりにした・・
そして、愛する人を自分の手で殺めたことを嘆いた・・・
彼女は、佐原を心から愛していたんだ・・・
哀川 京介の傀儡たちも、心から彼を愛していた・・
そういう事なのか・・・?
彼女(紗江)の軸は完全に消すのは不可能に近いのかもしれない・・
『死ねぇ!ジャニス!お前さえ居なければ!』
「タッタッタッタ」
「バンッ!」
『辞めろ!』
大きな声が室内に響き渡った
紗江の手の力が少し緩んだ・・そして自室の扉を見た
『辞めるんだ!』
そこには、小川 京介が立っていた・・・
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