第一章 「記-さけび-憶」
数年後・・・
「京介さん、貴方が私の前から姿を消してからもう十数年が経ちましたよ・・」
ジャニスはそう呟いた・・そしてその目先には数十年間、監視の元に置いてきた「小川 愛美」の姿がモニターに映し出されていた、愛美は都内のあるホテルに監禁されていたところを京介に寄って極秘に病院へ収監されていた、
当時、人気グラビアアイドルとして有名だった、てんてん(愛美)を何らかの理由で隠さなければならなかった・・
その理由はジャニスにも知り得ていない・・
だが、後から結びつく答えとして、「愛美の妊娠」がそうだったのではないか・・・と考える節もあった
愛美は哀川 京介の子を出産した、だが、京介に寄る過去の淫らな行為のTVジャック放送と姿を消し去った京介の事で普通の精神状態ではいられなくなり精神崩壊した
我子の世話は母親が行っていたようではあるが、愛美は息子、「小川 京介」に「哀川 京介」を求め、異常なまでの溺愛と異常なまでの執着をしているようであった
ジャニスはその状況を冷ややかな目つきで眺めていた・・・
「主役はお前らではない・・・」
「カツカツカツ・・・」
ジャニスはあるビルへと向かった
「(株) MIO」そのビルには薄れかけた文字が微かに残っていた
ジャニスは哀川 京介の亡き後、このビルを買い取っていた
好き好んで自殺のあったビルを買うものはそうそういない・・だが、ジャニスにはここから始まらないと意味が無いと考える事があった・・それは「新垣 紗江」の保存場所にもっとも相応しいと考えていたからだった・・・
正面玄関を入り地下室へ降りた
そこには新垣 紗江の部屋と呼ばれる部屋があった、室内は以前の研究室の様ではなくモダンな作りになっていた
紗江は部屋から出ることなく過ごし、普段は物静かで何かを一人でブツブツと呟いている・・
長きに渡り、本人の意を消し去り、今までの哀川 京介と過去の傀儡のデータを組み込んだ紗江は元の可愛らしい紗江ではなかった、容姿こそは変わりはないが、いつも夢に怯えるように睡眠を拒んでいた
酷く、外出を嫌いビルから一歩も出る事は無かった
言葉も単語で話し、会話に至る事は数少なかった
膨大な情報量で構築された影響が本人の意思の中で上手く作動していないとジャニスは分析していた
『紗江』
ジャニスは紗江に声を掛けた、すると紗江はゆっくりジャニスの方を向いた
『少しは寝れたか?』
『恐い夢・・見る・・』
紗江はそう言い手元の人形を握りしめた
ジャニスは紗江に人形、ぬいぐるみ、洋服などを定期的に与えていた
紗江はジャニスにより目覚めさせらてから少し知能の低下の傾向が見受けられた
その姿は、綾瀬千佳の時の「自我」の様で子供に帰っているようにも感じた
「目覚めて間もない、いづれ時が来れば変化はある」
『食事を持ってきた、食べるがいい』
『・・・うん』
おぼつかない手でスプーンを持ち食事を始めた・・
食事はジャニスの運ぶものしか食べる事はなかった
何度かHEAVENS関係者「Ⅹ」と呼ばれる男に食事を運ばせたが一切手を付ける事は無かった
「代表、あの子は使い物にはならないのではないでしょうか?私が彼女の前に行くだけで物凄い奇声あげ襲い掛かってくるんですよ・・」
「・・・京介さんが残した最後の傀儡だ・・お前には理解しえない部分が多いだけだ・・」
「・・・そうなのでしょうか・・出過ぎたこと言ってすみません」
「・・・彼女は今までの情報を整理できていないだけだ、何れ普通になるだろう・・」
実際、Ⅹを拒む紗江の姿は異常なものがあった・・
扉の前に立つだけで奇声をあげ、怒りの形相で爪を立て噛みつこうとしたりしていた
紗江自身、過去の記憶から見ても「Ⅹ」との接点はなかった、拒む理由は特に見当たらない
恐らく過去の記憶から来るもので、「真美」と呼ばれた傀儡の記憶が無意識にそうさせているのだと分析していた
「データの修正が必要かもしれない・・・」
ジャニスはもう少し様子を見た上で紗江のデータの修正を行おうと考えていた
数日後・・
紗江はジャニスの買ってきた服を色々着始めた
最初の頃は何時までも同じ服ばかりを着て着替える事をとても嫌がっていた
日々が経つにつれて紗江の中でも普通の女の子としての意識が戻り始めた証拠であるとジャニスは考えた
鏡の前で何着も服を着替えてはぼんやり座り続ける・・そんな傾向にあった
『紗江、この部屋から出てビルの中を自由に動いてみるといい』
『・・・いや・・恐いものがくる・・』
『大丈夫だ、恐いものは何も来ないよ』
『女の人があの扉の向こうで私をずっと見てる』
紗江は部屋の入口のドアをじっと眺めた
『女の人が見えるのかい?』
『うん・・』
『それはどんな人だい?』
『分からない・・髪が長い・・人』
『そんな人はどこにもいない、ここには私と紗江しかしない』
『紗江・・私の名前・・紗江・・』
『そう・・君の名は「新垣 紗江」だ』
『あら・・がき・・さえ・・分からない・・・分からない・・』
『うううっ・・・うあぁぁぁぁ-----』
紗江は両手を頭に抱え半狂乱に暴れだした
「チッ・・まだ早かったか・・・自己認識が完全ではない・・」
ジャニスは何時も携帯しているボイスレコーダーをだし、再生した
「ガラスの破片・・・」
レコーダーからは「哀川 京介」の肉声で呪文が発せられた
『うぐっ・・あっ・・あぁぁ・・・』
紗江は倒れるように床へと倒れ込んだ・・
「もう少し調整が必要だ、このままでは「彼」に出逢わせることは出来ない・・」
ジャニスは紗江をベットに横にさせ、プログラム修正を行う事にした・・・
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