第五話:田畑焔との友情
第五話
田畑との待ち合わせ場所に十分前到着完了。
「や、新戸」
「お前にしちゃ早かったな」
「そりゃそうだよ。だって家の前集合に変えたんだからさ」
昼飯を取っているときにメールが来た。『集合場所はあたしの自宅に変更』という内容である。
「しっかし、相変わらずおしゃれさんだな」
「身なりはちゃんとしてないと駄目なんだよ」
Tシャツジーパンの俺とはだいぶ違う。男っぽい見た目の服装の為に女子に人気の田畑焔。これは噂だが、男子の中で彼女を盗られた奴がいるとかいないとか……。
「で、俺は何をすればいいんだよ」
「実に簡単なことだよっ」
こいつの簡単は九十超えるおばあちゃんが逆立ち町内一周をするぐらいの難易度である。
「さっさと内容言ってくれよ」
「それは着くまでのお楽しみだからね」
あ~あ、どんな事が起こるかもわからないのに安易に助けを求めたのが失敗だったな。あとちょっと待っていれば先輩が助けに来てくれて今頃デートしているはずだったのに。
デパートについて俺と田畑が向かった先は女性用下着売り場。何、田畑だって身なりは男っぽいが脱がせば女子である。ブラにぱんち~は必要だろう。ちなみに俺一人がこの売り場に入ると女性店員から変な顔をされること間違いなし。この前なんてアマチュア作家の人が店員さんに連れて行かれていたからな。
「いや、違うんです。俺は別にそういった目的で来たわけでは……小説に使うネタですよ~」
あれは可哀想だったな。同じ男として合掌しておいた。
「で、此処で何するんだよ?」
「決まってるよ」
びしっと右手で指差してくる。
「下着を買ってきてもらうんだっ」
「……はぁ?あのな、俺が買いに行ったら連行されるぞ」
「そこは大丈夫、ここにあたしがいるからさ」
にこやかーにそう言われる。そして親指立てて俺に言うのだった。
「がんばっ」
「ちっ、しょうがねぇな」
足取り重く、店員さんに目をつけられない様に手近な下着を手に取る。
「上下セットで頼むよ」
「へいへい」
サイズは適当でいいのか?ブラジャーとか付けたことなんて一回もないからわからんぞ。知り合いの中に標準的な人物がいるかどうか……愛夏は胸ないしなぁ、先輩は結構あるし、そういえば俺は女子と一緒に来ているんだからそいつに買えって言われているんだから基準をそいつにすればいいな。
じーっと田畑の方を見る。
「何、どうしたのさ?」
にやにやしているところをみると俺がなんで田畑の事を見ているのかわかっている節である。
「……すまん、田畑」
「失礼だよ」
「すまん、すまん……」
愛夏と変わらないぐらいだった……ええい、こうなったら適当に上下セットで買えばいいはずだ。
男らしくブラジャーを掴み、パンツもついでにあさる。
「あれ、風太郎君?」
どこかで聞いたことあるような声が耳に入ってきた。回らぬ首を無理やり回して声の主を視界にとらえる。
「な、中原さん…」
「……なんで風太郎君がブラジャー鷲掴みしてるの?」
こういう時、変に緊張したりしてはいけない。いつもと同じようにふるまえばいいのだ。
「田畑に頼まれたんだよ。下着上下セット買えってさ……あれ、いねぇ」
「田畑さんに?」
「ああ、諸々あっていわば罰ゲームってやつかな。でも、いなくなったし戻してもいいだろ…」
「あの~お客様」
「はい?」
遂にきたか……連行されたらどうなるんだろう。
「さすがにそこまで力強く握られたものを返されては困ります」
「え、あ、ああ……すみません。これ、買いますから」
愛想笑いを浮かべながらレジまで持っていく。もちろん、ぱんちーも買ったさ。ああ、着用しない女性用下着をそれはもう堂々と買ってやった。
「ママ―、なんで男の人なのにぶらじゃー買ってるの?」
「よく見ておきなさい。あれが変態予備軍よ」
もう二度とこのデパートには来れないやと思いつつお金を払う。それなりに高かった……でもまぁ、中原さんが近くにいてくれたおかげで精神的に楽だった。
その後、逃げるようにその場を後にしてデパート内の飲食店に入る。本格的なコーヒーのあのお店である。
「それでその下着どうするの?風太郎君がつけるの?」
「まさか、つけるわけないよ」
「じゃあそれ、あたしにくれないかな?」
愛夏にでも上げようかと思ったが、このサイズじゃちょっと愛夏には大きいしなぁ。
「いいよ。あげる」
「お金、払おうか?」
「いや、いい。はいどうぞ」
紙袋を中原さんに渡してため息をつく。
「しっかし、田畑のやろ~どこに行ったんだろ」
「きっと急に用事が出来たんだよ」
「そうかなぁ」
「だと思うよ」
本当にそうなんだろうか、でもいないんだからその通りなんだろうな。後で聞いておくとしよう。
「この後暇なら一緒にカラオケでも行かない?」
「いいよ」
結局、この後中原さんと休日を過ごしたわけだ。悪くはなかったし、女の子とデートなんてラッキーだなと思ったさ。でもさ、やっぱり先輩とデートしたかった。