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第四話:妹分、愛夏

第四話

 田畑焔と約束した日曜日の朝。携帯電話が鳴りだしたので寝ぼけ眼で探して耳に当てる。寝起きの悪い俺としては実にすばらしい反応である。

「………もしもし?」

『おっはよー、昨日はよく眠れたかな?』

「……ぐっすりだよ、お前に起こされて不機嫌だ」

『そっかそっかー、じゃあ十一時にデパート前集合ね。じゃあね~』

 一方的に電話は切られ(いや、別に長電話したいわけでもないが)、俺は身体を起こす。

「………せっかくの休日、思えば先輩から誘われたと言うのにこっちを優先してしまうなんて俺はなんて律儀な人間なんだろうか」

 某青狸の『半分小刀』があれば両方に行けたんだけどなぁ~テクノロジーの進歩と言う奴はローマの一歩みたいでまだまだ先のようである。

 自室から出て顔を洗い、一階へと降りる。テクノロジーの進歩があれば階段も自動になって…いや、瞬間移動でいけるか。

「風太郎、愛夏ちゃんが来てるわよ」

「おはよっ、兄貴」

 リビングには母さんと親戚の愛夏がいた。休日だと言うのに愛夏は制服姿である。新戸愛夏、結構遠い親せきにあたるんだが、幼少のころから住んでいる地域が同じなために小、中、そして高校共に一緒である。兄弟のいない俺の妹分だ。ちなみに、子分とかそんな感じではなく妹分(貴重な俺の妹成分)である。意味がわからない?つまりは心のよりどころみたいなもんだ。

「あれ、今日は休みだろ?」

「うん、そうだけど兄貴に制服姿を見せたかったんだよ」

 じゃーんとか言ってくるりと一回転。スカートがひらひらなって可愛い。さすが俺の妹分である。

「制服姿って、入学式に一緒に写真撮っただろ?」

「違うよ、同じ学校なのに兄貴が会いに来てくれないからしっかり見てもらうために来たんだよ。なんで会いに来てくれないの?」

「そりゃまぁ、用事もないのに一年の教室には行けないだろ」

 えー、ちゃんと愛夏に会うためって言う用事があるじゃん……なんて言われる前に俺は口を開く。

「お前が会いに来ればいいじゃないか」

「あ、そうか」

 来てもらっても困るんだけどな。おもちゃを見つけたら絶対に喜ぶような奴が約一名、俺の近くにいる。ともかく、この場をやり過ごせたからよしとしよう。

「母さんちょっと買い物に行って来るから」

「いってらっしゃーい」

「母さん、シャンプーと歯磨き粉が無くなりそうだからよろしく」

 二人で母さんを見送って俺は席に着く。

「朝まだだよね?」

「ああ」

「何か作ってあげようか?」

「頼むよ」

「りょーかい」

 台所に立つ愛夏を尻目に俺はテレビのスイッチを入れる。

「そういえばさ、兄貴…とうとう加賀美生徒会長に告白して、しかも成功したんだよね?」

「ああ、何とかな」

「よかったじゃん。妹分の愛夏としてはふられるほうに賭けてたんだけど残念だったよ」

「そこは嘘でもいいから成功する方に賭けてくれよ」

 偉い政治家さん達が色々と議論している。俺からしてみればどうせどっかと癒着とかしてるんだろうと思うが、自分がもしも政治家になれた時に癒着とかを話題に持って来られるとテレビの中の政治家と同じで文句を言う事間違いないだろう。

「でもなぁ、ちょっと問題があるんだ」

「どうかしたの?」

「告白したその日に中原美奈子って言うクラスメートに告白された」

「当然断ったんだよね?」

 そうだよ、世間一般的に言って普通ははっきりと断るだろう。

「あ~……適当に『友達からお願いします』ってうやむやにしておいた」

 がたん、という音が聞こえてきて俺の目の前に裏返された目玉焼きが綺麗に着地した。まぁ、黄なみがつぶれちゃったけどな。

「愛夏、いつの間にかこんなにすごいスキルを身に付けたんだな。お兄ちゃん、感心しちゃったわぁ~」

 血相変えた愛夏がこけそうになりながら俺の視界に入ってくる。

「あ、兄貴っ、それはまずいと思うよっ」

 エプロン姿が可愛い愛夏が俺の前の席に座って失敗した目玉焼きを片づけた。

「……やっぱりまずいか?」

「そりゃそうだよっ……ばれたりしてないよね?」

「大丈夫だ。どっちにもばれたりしていないから」

 しばらく愛夏は考えているようだった。

「どうするの?」

「どうするって、いや、どうにもできないから愛夏に相談してみたんだ」

「兄貴ってば変な事をよく引き起こすよねぇ。去年は下着泥棒に間違えられて女子から総スカン喰らったんだって?」

「あれは冤罪だけどな。後日ちゃんと謝ってもらったぞ」

 愛夏は未だ考えているようだった。

「もう、あれだよ。どうせ加賀美生徒会長も兄貴の事を知り合いだから断ったら関係悪化しちゃいそうだし、仕方なく付き合ってあげてるのかもよ」

「そ、そうかなぁ」

「うーん、でも、そのクラスメートの中原美奈子って人もこれと言って取り柄のない兄貴に魅力を感じてるのかなぁ……」

「おいおい、取り柄のないって…」

「じゃあどんな感じで告白されたの?」

 愛夏に言われて思い出そうと頑張ってみる。

「好きだから付き合ってほしいって感じかなぁ…」

「怪しい…もしかしたら兄貴の遺産が目当てなのかも」

「俺の家は別に裕福でもないだろ」

「いや、もしかしたら兄貴に秘めたる能力があってそれが目的で…」

「はいはい、愛夏、さっさと朝食作ってくれよ」

「はーい」

 いまいち真面目にやってくれないのは俺の性格が似てしまったからだろうか。

「でもさぁ、どうするの?」

「どうするのって、そりゃやっぱり先輩優先だろ。いつかちゃんと言わないといけないことだ」

 セリフだけだと格好いいけどやってる事は最低だよねぇと言われた。確かにそうだけどな、優柔不断な自分が悲しいぜ。

「兄貴がそれでいいって言うのなら愛夏も何か手伝うよ」

「おう、その時はよろしく頼む」

 これまで困った時に愛夏が助けてくれると大抵失敗に終わる。しかし、くじけてはいけない。数多くの失敗を乗り越えて成功と言うものは顔を出してくれるのである。


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