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第二十二話:俺は先輩の事を一生、絶対に許しませんよ

第二十二話

 二学期の一日目、俺は自分の家にいた。時刻は午前十時十一分二十九秒である。

「……俺もお人好しな男だよなぁ」

 お人好しが最終的に掴むものは大抵、幸せ……ではない。ただ他人に利用され保証人になって借金の紙をつかんだり、実際に借金するって感じだろうな。

 何故俺が登校せずに自宅にいるのか?当てる事が出来たらすごい。もし当てる事が出来たのなら近所のデパ地下案内人を引き受けてもいい。

 俺、新戸風太郎は嘘をつくのが得意なのである。

「せ、先生っ。元生徒会長である加賀美先輩が暴力事件を起こしたのは俺をかばっての事なんですっ。本当は俺が原因で、先輩はただかばってくれただけなんですぅ」

 涙を流し、中州に証人になってもらい、先輩が暴力をふるったと言う相手(まさかのあの中学生三人組)をつれてきて証言させたのだ。元より、先輩ほど優秀な人間がそんな事をするはずがないと学校側は思っていたのだろう。なんだかんだと言って問題を起こしていた俺は担任ただ一人が反対していたようだが、先輩の罪は全て俺のものとなった。

 無論、俺が先輩の事を助けただなんて本人には内密にしてもらっている。何度も確認を取ったから大丈夫だろう。

ただまぁ、海外の学校の推薦は取り消されたままなので先輩はこれから他の大学を受けなくてはいけなくなったけどな。

 ああ、あと俺は生徒会長をやめさせられた。中原さんが一人生徒会長で、副生徒会長は他の人がなるそうである。まさかの田畑焔が候補の一人らしい。

 俺の自宅謹慎……元は二カ月分だったそうだ。ただまぁ、学校側の配慮で夏休み初日から既に始まっていたと言う事になりあと二週間程度で学校に行く事が出来る。

 こんなバカげた芝居が通るとはちょっと思っていなかった。当然、両親が呼ばれたわけだ。両親は頭を下げて俺を家に連れ帰り、にやけていた。

「お前、何考えているんだ?」

「悪い子ね」

「あー、いや、本当だよ。僕が暴力事件を起こしてしまって迷惑かけてごめんなさい」

 愛想笑いを浮かべる俺に親父は一発チョップをくれて、母ちゃんの方はお小遣い三カ月停止を言い渡した。

 愛夏には直接『窓ガラスをふざけて割って停学を喰らった』と説明しており、田畑には中州を通じて『雑巾野球をしていたら窓ガラスを割ってしまった』と説明してもらっている。中原さんにもその程度の説明がされているだろうし、先輩にいたってはもう縁を切ったと言ってもいい。

 完璧、完全な布陣である。反省文も『真実を話してくれた』という事でたったの二枚というこの少なさ。夏休みの友を二日で終わらせた俺には敵ではなかった。

「あー、暇だ」

携帯電話を取り上げられている為、誰かにメールを送る事も出来ないが面倒な返答をする必要もない為、いいかもしれない。

 やりつくしたゲーム、何度も読み直した漫画、ラブコメのちょとしたラノベももう飽きた。んじゃ、愛夏の置いて行ったどろどろの小説を読むのかと聞かれるとそれも嫌である。

 強制的引きこもりとなった俺は将来引きこもりになる事はないだろう。

 この時間帯に誰かが遊びに来てくれるわけでもないし、学校側の特別調査委員(中州調査員、田畑調査員)が夕方ぐらいには来てくれるからまだましか。

 そんな時、ぴんぽーんとインターホンが鳴りだした。

「はいはーい」

 どうせ聞こえていないだろう相手にそう返事して俺は玄関へと赴く。どうせ昨日のような訪問販売の女性だろうけどパンツ一丁で扉を開けてウェルカームしたら逃げ帰ったからな。まさかあとで穴が開いていたとは思いもしなかったけど……もう二度と来ないだろう。

「どちら様ですか?」

「……」

 相手は無言、チャイムを一度鳴らした。うーん、怪しい。もしかして昨日の姉ちゃんが復讐しにやってきたのだろうか?ならパンツも脱いだほうがいいかもしれない……いや、警察を連れていたら俺はどうすればいいのだろう。

 家の中だし、大丈夫か。

 こういう場合はどうすればいいか。

 とりあえずチェーンのまま扉を開ける。何かに、いや、誰かに扉がぶつかった。

「いたっ」

「あ、すみません先輩…」

 これはもう条件反射。知っている声、以前とっていた態度がまるまる出てしまった。

「出鼻を挫くとはやるな、新戸」

「帰ってくださいっ。もう先輩の事は忘れたんですっ」

 俺はさっさと扉を閉めようとする……が、相手もドアノブをひねり、引っ張ってくる。

「うおっ」

 女の子のそれとは思えない恐ろしい力、慌てて両手で握りしめる。潜在的な俺の直感が扉を隔てた向こうの相手が強敵だと俺に教えてくれた。

「な、なんだこのプレッシャーは……」

 額に汗を浮かばせながら俺は踏ん張る。でも、駄目だ。徐々に扉の隙間は大きくなっていく。



 引きこもりたい……



 そんな心の声が俺に力を与えてくれる。でも、異界との扉は徐々に開かれて行ってしまい、相手はそこに指を挟んできた。

「新戸、お前に扉を閉める事が出来るか?」

「……くぅっ……」

 結局、俺の負けは時間の問題だったのだろう。だって、片手で俺と張り合っていたようだからな。こっちは両手だぜ?この人本当に人間かよ。

「わかりました、俺の負けです。ちゃんと開けますから手を離してください」

「…信用できないな」

「あのですねぇ、ちゃんと信用してくださいよ。俺は先輩の…」

「先輩の……なんだ?」

「何でもないです」

 先輩が手を放したようなのでチェーンを外し、ちゃんと扉を開けた。

「……本意じゃないですけど、どうぞ」

「邪魔する」

 先輩をリビングに通し、お茶を出す。

「どうぞ」

「悪いな」

「それ飲んだら帰ってくださいよ。俺、忙しいんですから」

「用事が終わったら帰る」

 先輩はちびりちびりとお茶を飲んでいる。俺はいらいらし始めた。

「先輩、俺の家にわざわざお茶を飲む為に来たんですか?」

「お前、これまでと態度が違うな。私に好かれる為に、尻尾を振っていたのか?」

「はぁ?そんなわけありませんよ。俺はずっとこうです。別に先輩だから先輩に対してちゃんとした態度を取ってきただけですよ」

「そうか、それなら……先輩の起こした不祥事を後輩が責任取るのもそういう態度ということかっ?」

 いきなりテーブルを叩きつけるものだからつい、変なポーズをとってしまった。

「いきなり怒鳴らないで下さいよ」

「お前が余計な事をするからだ。前に座れ」

 立っていてもしょうがないので前に座る。べ、別に先輩が怖いから座ったわけじゃないんだぜ。

「しかし先輩が中学生に手を上げるとは思いもしませんでした」

「ああ、そうだ。私はそんな女だ。何せ、二股するぐらいだからな」

 これほど不機嫌そうな顔は見た事がない。う、うーむ、ここは冷静になったほうがいいんじゃないだろうか。

「それで、なんであんな事件を起こしたんですか?」

「お前のせいだ」

「俺のせいですか。はいはい、まぁ、それなら俺がこうやって自宅謹慎くらっているのはいいんじゃないんですかね」

「……あくまでお前は要因で、実際に暴力をふるったのは私だ。自制できなかったのは私の責任だ」

 ふんぞり返って腕を組む。俺はため息しか出なかった。

「相変わらず堅苦しい考えしているんですね」

「新戸、これまで私の事をそんな目で見ていたのか?やはり媚びへつらっていたんだな」

「へぇへぇ、そういう事でいいですよ。俺はどうせお邪魔虫ですから」

 しかし、先輩は何をする為に此処に来たのだろうか?俺が自宅謹慎になっている事もどこで聞いたのだろう……俺の住所だってたしか知らないはずだ。

「先輩は中原さんのお兄さんにまたふられてそれで中学生に襲いかかったって事ですか」

「または余計だな……」

 不愉快そうに眉を動かす。

「そりゃすいません」

「すみません、だ。まぁ、いい。私はお前に励まされてすぐに健吾さんの元へと走って行こうとした……だが、途中ではやる気持ちはお前に対しての怒りに変わったんだ。それがあの結果だ」

「は?」

 先輩は立ち上がり、俺の近くへとやってくる。何故か、本能的に椅子から少し腰を浮かせて逃げる準備をしてしまった。

「私がお前を呼ぶときは大抵、一人で来るが…偶然校内で見かけたとき、あった時は女の子と一緒にいた」

「先輩、中州は男ですよ」

「うるさい、そんな事は知っている。挙句、なんだ……私はお前と健吾さんに二股をしてしまった後ろめたさに毎日苦しんでいたのに……」

 生まれて初めて、先輩に対して恐怖心を抱いた。先輩と対峙してきた人たちは足が震えていたもんだが……きっと今の俺もそうなのだろう。

「あのな、新戸」

 真正面から俺の事を見てくる。

「な、何ですか?何かあるなら早く言ってくださいよ」

 相手のペースに乗せられては中州達に笑われてしまう。

「キスというものは恋人同士がするものだ。友達同士がするものじゃない。お前、田畑焔にキスしていただろう?」

 一瞬だけあの場面が蘇る。

「あ、あれは別に俺がしたってわけじゃないですよ」

「それにだ、親戚の新戸愛夏にもキスした事があるそうだな?変態め」

 うぐ……幼少の傷を先輩につつかれるとは思いもしなかった。

「あっちはまだ子供だったから見逃してください」

「わかった……だが、おかしくはないか?」

「何がですか?」

 先輩がその事を知っていること自体、おかしいことだ。愛夏め…あいつ俺が学校にいないからって何かやらかしたに違いない。

「お前、一度も私に対してはキスして欲しいなんて言わなかったな」

「そりゃ……いきなりキスして欲しいなんて言えないですよ。そういうのって徐々に仲良くなってするもんじゃないんですか?」

「してほしいって素振りも見せなかっただろう?」

「……いや、それはそうですよ。それは先輩の方がおかしいです。一体、先輩は何が言いたいんですかっ」

 先輩は俺に顔をぐっと近づけてキスしてきた。

「私と付き合え、これは命令だ」

 唖然としていたが、俺は負けはしない。

「せ、先輩のような二股する女の人とはもう付き合いたくありませんっ」

 傷つけてもいいから出ていってもらいたかった。心の奥底の金庫にしっかりと南京錠でかけ、セメント漬けにして太平洋沖に沈めた思いをまた出してしまったら面倒だからだ。

 しかし、傷ついて引いてくれるだろうと思っていた俺はアマちゃんらしい。

「三股していた男がそんな事を言うのか?」

「さ、三股……俺は別にそんな事してませんっ」

「このまま私が出て言ってもいい」

「じゃ、じゃあ出ていってくださいよっ」

 先輩は意地悪そうな顔を俺に向けていた。

「ただ、そうするとお前は学校に来ても『親戚にキスをするような変態』、『友達の女の子にいきなりキスをする変態』と呼ばれるだけになるぞ。挙句、『二股した男』という事でも有名人になる事が出来るだろうな」

 その時、俺の中で何かがはじけ飛んだ。

「あーもうっ。先輩、俺がどんな気持ちで先輩をあの時送り出したかわかっているんですかっ」

「さぁな?」

「さぁな?じゃあありませんよっ。泣きたいけど泣けない状態で送り出したんですっ。こっぴどくふられてこいやぁ~って感じで送り出したんですっ」

「そうか……で、私に対しての答えはどうなんだ?」

「……やりますよ」

「ちゃんと言ってくれ」

 俺はため息をついてしっかりと立ち上がる。そして、迷うことなく先輩の目を見て言う事にした。

「俺は先輩の彼氏になります……これでいいんですよね?」

「さすが新戸だ」

 満足そうに先輩は頷き、目をつぶった。

「あの、何してるんですか?」

「キスしてくれ。他の女にキスした回数で負けるわけにはいかん」

「……先輩、そう言うのはないと思います」

「うるさい、やれ」

 先輩も何か吹っ切れたんだろうな……まぁ、後輩としては先輩の言葉に従うしかないだろう。

 俺は先輩を軽く抱きよせてキスした。

「これでいいんですよね?」

 相手の目をしっかりと見る事が出来ず、ついそらしてしまう。

「ああ、満足だ。用事は済んだ、私は学校に帰るよ」

「そうですか」

「これから進路のことについて担任と話すよ。進路が決まったら今度はお前に一番に教えるよ」

「……はい」

 先輩を玄関まで見送り、俺は手を振る。

「じゃあ、いってらっしゃい」

「行って来る。なぁ、新戸」

「何ですか?」

「私はお前の事を一生許さない」

 どきっとした。

「え?」

「だから、お前も一生私の事を許さないでくれ。私の事を忘れたなんてもう言わないで欲しい」

「…はい、俺は先輩の事を一生、絶対に許しませんよ」

「ありがとう」

 許さないって言っているのにお礼を言うなんて変な人だ。

 これから数日後、先輩が浮気をしていると勘違いして俺の部屋に居座るようになったのはまた別の話である。



~終~


毎度、完結させるたびに思うことがあります。なんで自分には文才がないんだろうかと。文才ってどこに行けば売っているんですかね?売っている人がいるのなら教えてほしいものです。もうちょい文才ある人ならうまく完結させることができるだろうなぁって思うんですよ。それと、もうひとつ。新戸風太郎は不幸になってしまえばいいんですよ。不幸に不幸に考える、でも、こうなってしまった。これもまた、残念な結果です。ええ、本当に心の奥底から残念です。今回の結末に不満をもったとかそういった苦情は一切受け付けません。ではまた、どこかで会いましょう。

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