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第二十話:一時の恋の終わり

第二十話

 結局、先輩を見つける事が出来なかった俺はファミレスにも戻らず、中原さんの家に戻る事もなく、自宅に戻ってそのまま眠った。

 先輩と中原兄が一緒にいたのは事実。それでも俺は未だ先輩の事を信じていたりするものだから……きっと愛夏に笑われてしまうだろう。途中、ひっきりなしにかかってくる中原さんからの電話がうるさくて目を覚まし、電源を消した。その後、俺は冗談抜きで翌日まで寝続けた。

「……はぁ」

 朝、寝すぎたためか身体がだるかった。夏休み期間中でよかったと思う。でも、生徒会長の事について引き継ぎか何かの理由で学校に行かなくてはいけない。

 制服に着替え、携帯の電源を入れる。時刻は六時半。母さんは既に出ており、父さんも既に家にはいない。あの二人は休日以外に家にいないことが多いからな。パパ~ママ~とか言う歳でもないし、甘える歳でもないだろう。

「着信…127件か。結構、中原さん頑張ったんだな」

 その着信の中には愛夏のものもあった。メールも相当数あり、大抵が中原さんのものだったが(どれも内容が違い、最後の方はネタが無くなってきた感がある)愛夏からのものは今日の六時半、校門前に集合というものだった。

「……間に合わないだろ」

 そういいつつ部屋から飛び出す。戸締りそこそこ、上半身は焦って鍵を閉め、足は学校へと行きたがっている。辺りはもうそれなりに明るく、途中走っている人とすれ違ったりもした。

 予定の時刻より十分程度遅れて校門前へと着く。しかし、誰もいないようだった。

「なんだよ、時間に厳格すぎやしないか?」

 無駄に走って汗でシャツがべとつく。そういえば昨日の朝食が最後だ。すごく腹が減っている……コンビニでも行くか。

 立ち去ろうとしたその時に携帯電話がなりだした。この着信音は愛夏からの物だ。

「もしもし?お前いまどこにいるんだよ」

『生徒会室だよ。昨日もメールとかしたんだけど?』

「色々あって昼以降ずっと寝ていたんだよっ」

『ふーん、そんなにショックだったんだ?』

「………」

『ともかく、今すぐ来てね』

 返事もできず、一方的に通話は切られる。しょうがない、ここまできたんだから予定時刻より早いが生徒会室に行こうじゃないか。

 学校ってこんなに早く開いているもんなんだろうかと疑問に思ったが、普通に用務員のおじさんとかはいるようだった。まぁ、生徒会室にたどりつくまで誰一人として会わなかったけどな。

 一応、生徒会室という事もあって声をかけることにした。

「失礼します」

「兄貴、おっはよー」

「風太郎、おはよう」

 生徒会室の中にいたのは愛夏、田畑……そして元生徒会長である加賀美美奈子先輩だった。

「………」

「………」

 お互い、何もしゃべることなど出来ない。俺は近くのパイプ椅子へと腰掛けた。

「で、こんな朝早くに俺を呼んで何の用だよ」

「何って、わたしたちが捕まえた生徒会長…いや、元生徒会長から今回の事を詳しく聞く為だよ」

「今回の事ぉ?どういうことだ」

 愛夏は後頭部をかきながら愛想笑いを浮かべていた。

「傷心中の兄貴には塩を塗るような形で悪いけどさ、まぁ、大人しく聞いていてよ。じゃ、元生徒会長さんお願いします」

「……ああ」

 先輩は決して俺の方を見ることなく喋り始めた。

「…うまく、説明する事は出来ないかもしれないが一から説明しようと思う…あれはまだ私が中学生になりたての頃だった。別にすさんでいたわけではないが、少しだけ性格の悪かった私はある日、当時の生徒会長……中原健吾さんに出会ったんだ」

「あー、そうなんすか。どうせそこで一目ぼれして…」

 やさぐれる俺に田畑は蹴りを入れた。

「しっ、黙って」

「………へぇへぇ」

「…最初に出会ったのは偶然だったか、生徒会室前で健吾さんに出会ったんだ。彼が持っていたプリントを私がぶちまけてしまい、手伝って……それがきっかけで一緒にいる時間が長くなってきた。気が付いたら、つい姿を探してしまうような人になっていたんだ」

 はいはい、そんな純愛ストーリーなんて余所でやってくださいよ。俺が目指していたような話だけど、それは俺にとって無関係と言っていいものだ。

「私は一年で、健吾さんは三年。出会って一年も一緒にいることもできず、健吾さんは卒業し、私は生徒会長になった」

「そしてお邪魔虫の俺が降って湧いたってことですか」

「別に私はお前の事をお邪魔虫とは…新戸、私と一緒に少しすさんだ生徒たちの相手をした事を覚えているか?」

「いや、そんなものもう覚えていませんね。さっさと続けてくださいよ」

 田畑が何やら口出ししようと思っていたのか、俺の肩を掴もうとする。それを愛夏が止めていた。

「……健吾さんはこの高校に一カ月だけいたらしいが別居していた両親がよりを戻したということで彼だけ単身、海外に行ったそうだ。私もそこで縁がなかったのだろうと健吾さんの事を忘れることにした。再び高校で生徒会長になり、二年になって新戸が私に告白してくれた」

「……」

 もし、タイムマシンが開発されたのなら告白しに行こうとしている俺を捕まえて懇々と説得していた事だろう。絶対に告白するんじゃない、お前は酷い目に会うぞ……ってね。

「告白されたその日の放課後、もう夕日は殆ど沈んでしまった時間帯に中原美奈子という生徒がここにやってきた」

 そこでちょっと首をかしげる。中原さんは何の為に先輩の元へ来たのだろうか?

「中原美奈子とは以前一度だけ会っていたのだが……何と言うか、信じられないほど私の事に詳しかった。中原健吾は自分の兄という事、自分の言う事さえ聞いてくれれば兄との仲をお膳立てをしてやると言ってきたんだ」

「何を頼まれたんですか?」

 少しだけ言うのをためらっていたようだったけど、先輩はそれを静かに口にした。

「……最終的に新戸とは別れてほしい。というものだった。ああ、言葉足らずだな。簡単に言うのなら中原美奈子と新戸が仲良くなるのを手伝ってほしいというものだったよ。私は……躊躇なく頷いてしまった。あとは時折中原から連絡が入り、それを実行した。通風孔の事もあいつの考えていた事だが…そこにいる田畑さんが助けてしまったからな。何をしようとしていたのかはわからんが、失敗に終わった」

 田畑がピースをしていた。俺は中指を立ててそれに応える。

「あのな、新戸」

「何ですか」

 以前は先輩に声をかけられるだけで心が開放されたような気持ちになっていた。今じゃ、不快なものにしかとらえる事が出来ない。現金なものだ。

「もし、中原美奈子から夏以降…正確には夏祭り以降にそんな申し出を受けても頷きはしなかったと思うんだ」

 先輩が俺に何を伝えたいのか、さっぱりわからない。

「先輩、うるさいです。続きがあるのなら続けてください」

「……悪かった。そうだな、夏休みになってすぐに私は中原美奈子の計らいで健吾さんに会う事が出来た。私はその場で想いを告げ、健吾さんはかなり迷っていたようだが頷いてくれた」

 そりゃ迷うに決まっている。あっちには結衣さんという人が既にいたんだからな。

「それ以降、たまに会って遊びに行ったよ。プールでお前を見かけたときはかなりひやひやした」

「……ああ、なるほど」

「田畑さんがお前を連れだした時はほっとした。本当に情けないな」

 こんなに疲れた表情の先輩なんて見たことなかった。見たくもないね。

「それで……昨日の事が起こった。中原美奈子はあの女性のことなんて私に教えてくれなかったし、居たら手を出す事もなかったと思う」

 結衣という女性の存在が中原さんの計画とやらに支障をきたしたのだろうか?うーむ、まぁ、今の俺には関係のない事か。

「私が今回の事について知っている情報というか……そういったものは以上だ。新戸、質問はあるか?」

「…今でも、中原健吾さんの事をどうせ好きなんでしょう?」

 突如として出されたその名前に先輩は驚き、そして……そして頬を朱に染めた。

「あ、お、お前には悪いと思うが……好きだ」

 完全に俺はふられた……という事か。




俺の気持ちは先輩にとって踏み台のようなものだった。だが、俺に先輩を攻める事が出来るわけもない。

 俺は先輩に近づいて胸倉をつかむ。田畑が止めに来ようとしたが睨んで退かせた。

「……じゃあ今すぐにでもあの人のところに行って奪い取るとか何とかして手に入れてください。俺はもう、先輩の事なんて忘れますから。今後一切知りません…諦めるなんて先輩らしくもないっ」

「新戸……あ、ああ……わかった。お前が許してくれるのなら行って来る」

「いってらっしゃい」

 生徒会室を出て行く先輩を見送ることもなく、ため息しか出なかった。

「終わっちまったか…」

「……ねぇ兄貴?」

「なんだよ」

「兄貴ってば酷いね…」

 ぽつりと言った愛夏の言葉が耳に入る。

「あぁ?」

「え?愛夏ちゃんなんで?わたし、意外と広かった風太郎の心の広さに少しじーんときちゃったんだけど?何だか安っぽいドラマでも見てるみたい」

 そういう田畑に愛夏は見下したような顔をしていた。安っぽいドラマとは何だよ。

「兄貴はさ、あの元生徒会長が絶対に中原健吾って人にふられるってわかっているんだよ」

「え?どーして?わかっていて言うなんておかしくない?」

「あれは兄貴が……」

「田畑、もうそれ以上聞くなよ。まぁ、あれだ。結局二股した俺が悪いんだよ……」

 毎日が浮かれちまって馬鹿じゃないか。中原さんと先輩が鉢合わせした時の言葉とかちょっとは考えていたんだけどなぁ……。

「大体、兄貴には高根の花なんだよ」

「そうだねぇ、それは言えてるかも」

「うるさいっ。お前らな……俺は悲しくて泣こうとしているのを我慢しているんだぜ?だけどまぁ、結果はどうあれ二股って言う問題は片付いたわけか」

 俺の言葉に対しても田畑は首をかしげていた。

「え?もう全部終わったでしょ?物語は新戸風太郎の彼女が他の男に盗られたって言うしょぼい結果でさ」

「あー、そうだな。そういう事にしとこうか」

 パイプ椅子から立ち上がる俺を愛夏は眉をひそめながら見ていた。

「兄貴、何考えてるの?」

「ん?いや何も考えてないから安心しろよ。ほら、朝飯食いにいかねぇか?」

 今回の二股事件は俺が一方的に悪い。そんな俺が高校生活を無事に送ることなんてできなかったんだろうな。それ相応の辛酸をなめさせられたし、しょうがないと思う。

 携帯電話に残っていた先輩のメールアドレスと番号、メールのやり取りから写メ、記憶に残らない様にしっかりと消しておいた。

「ちょっと風太郎っ。奢ってくれるんなら早く行こうよ~。あ、中州君も呼ぼうか?」

「おい、やめろよ。中州、見た目によらず食うんだからよ」

「そうだよ。これ以上人を増やすんなら抜けてよ。愛夏が兄貴と一緒に朝ごはん食べるんだからさ」

 傷心…か。一応こうやって慰めてくれる(効果があるかは不明)周りがいるから俺はまだいいか。さて、今度はもう一つの方をどうにかしないといけないのかなぁ……。




 青空を眺めてため息しか出てこなかった。


これまでご愛読していただいた方々ありがとうございました。今回を持ってこの『チャック全開ですよ』を終わらせたいと思います。こんな灰色決着が適度でしょう。話としては今回で終わりです。炭酸の抜けたコーラみたいになってしまいましたけど、まぁ、残念な結果といえば結果ですね。大体、タイトルが作品内と今のままでは関係ないですからこれももうちょい延長していたら明かそうかとも思っていました。所詮思っているだけで形になっているわけでもありません。元生徒会長が中原健吾とかかわりがあったように新戸風太郎も後輩とかかわりがあったりします。本当はその人物が出てくる予定だったのですが結果としては出ていません。では改め今回まで続けて読んでくれた方ならびにお気に入り登録してくれた方、ありがとうございました。

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