第二話:愛の詰まったお弁当
第二話
澄み切った青空はきっと青春を謳歌している連中の為にあるんだろう。憧れの先輩に告白し、彼氏彼女な関係となった俺だってその青春を謳歌している人間の種類に入るんじゃないだろうか。告白した、された次の日というのはもっと晴れやかでもいいと思うんだけどな。
「っはぁ~…」
「おーい、新戸~そっちにボールがいったぞー」
飛んできた言葉も右から左に抜けて行って俺の心は全く晴れない。たとえ、視界に白球が入ってきてもそれは俺を素通り……
「いたっ…」
することもなく、俺は鼻っ面に当たった白球で見事に転倒した。転倒するはずがないって?がけっぷちで小学生のタックルを不意打ちで喰らってみればいいさ。
「やっりー、新戸のエラーだねっ」
「てめぇ、なんでお前がここにいるんだよっ」
四月の体育、ソフトボール。先ほどの白球はどうやらクラスメートの田畑焔の放ったボールだったらしい。俺の名前も大概変だと言われるが、焔なんて名前つける親の顔が見てみたい。
「いいじゃないの、ソフト。みんなでやったらなお楽しいよ」
バットを乱暴に振り回しながら素人くさいスイングを続ける。ランニングホームランとなったようでイライラした俺は田畑に向かってボールを投げてやった。
かきーん……ごすっ。
「………」
「あ、ご、ごめーん。わざとじゃないんだよ」
悪い事はしちゃ駄目だね、しちゃったら後でひどい事が怒るんだよ…ぐすん。
そんなこんなでお昼休み。お腹の減った高校生にはこの時間が一番うれしいもので早速お弁当を取り出そうとするも、無い。
「新戸君、どうしたのですか?」
坊ちゃん刈りにぐるぐる眼鏡のクラスメートが話しかけてくる。俺としては生徒Aでも構わんが、名前は中州秀作という。それなりに頭がよく、それなりに人が良く、運動が出来ないが彼女(モニターから出てきてくれないのが悩みらしい)がいる少年である。
「俺の弁当が無いんだよ。もしかして中州が食べたのか?」
「食べるわけありませんよ」
「そうだよなぁ…」
購買には今から行ってもパンとか残ってないし、外のコンビニに買いに行くには外出許可申請とか面倒な事をしないといけないしで…どうしたもんだろうか。
「あれ、どうしたの?」
そんな時、中原美奈子さんが俺に声をかけてくれたのだった。
「新戸君のお弁当が消えたらしいのです」
「そっか、大変だね」
「うん、大変だ。しょうがないから中州達からちょっとずつおかずをもらってしのごうかなぁって思ってるところだよ」
「はい、これ」
凹んでいた俺に差し出されたのは可愛いハンカチーフで包まれた俺にとっては小さなお弁当箱だった。
「えーと、これは?」
「お弁当だよっ。新戸君、ううん、風太郎君の為に作ってきたんだよ。こんな言い方したら悪いけどお弁当が無いのなら食べてもらえるよね」
「そりゃもう、心の底から感謝するよ」
もしかしてこの娘っ子は俺の事を好きなんじゃなかろうか……いや、そういや昨日告白されたばっかりだったな。
ともかく、俺は急場をしのぐ事が出来たと言うわけだ。感謝感謝、中原さんには足を向けて寝れないな。
「本当は二人で食べたいんだけどこの後用事があるからごめんね」
「ああ、いや気にしないでいいよ。弁当ありがとう」
さっそうと出ていった中原さんを拝みながら俺は弁当のかわいらしい包みを広げる。
「ははぁ、まさか二人がそういう関係だったとは……でも新戸君、昨日生徒会長を呼び出していませんでしたか?って、結果はわかりきってますね。ごめんなさい」
勝手に勘違いしてくれた中州のことなんて放っておくことにした。別に友達から弁当をもらっただけだ、なんら問題はない。たとえそれが手作り弁当だったとしても、ご飯にハートが作られていたとしてもだ。
「おお、新戸よかったじゃないか」
田畑がこっちに机をくっつけてくるのを足で妨害しながら反論する。
「俺の弁当が無いから仕方がないだろう」
「そっかそっか、うんうん…ほほえましいなぁ」
あははと笑う田畑にこっちは心の中で色々と苦しんでるんだぞと言ってやりたかった。しかし、俺の弁当箱はどこに行ってしまったんだろう。