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第十三話:夏祭り二日目の思いで

第十三話

 中原さんと一緒に夏祭りに行った次の日の昼休み。

「風太郎君と行った夏祭り、すっごく楽しかったよ」

「そうですか、それはよかったですね」

 中原さんの話を聞いているのは中須ただ一人。田畑と俺はもう何度目かわからないその話題に正直疲れてきているのだ。

「すごいね」

 熱弁している中原さんを見ながらどうでもよさげに田畑がつぶやく。

「ああ、正直中州があそこまで耐えているのは驚きだ」

「もう七回目だよ」

「そんなに少ないのか?二桁はいってるって思ったんだけど」

「一回が長いし、面倒に感じることほどそんなもんだよ…」

 箸をかじりながら田畑はこっちをじーっとみている。

「なんだよ?」

「ん、いやさぁ、よかったじゃん。また仲良くなれたみたいで」

「……多分、今日行っていたらもっと熱弁をふるっていただろうな」

「ん、ああ、そっか。確かにそうだね今日の方が思い出に残るって思ったけどなぁ……で、どうするの?」

「どうするって…何の事だよ」

「とぼけちゃって」

 人差し指と中指を立てる…つまりはVサイン。それを逆さまにする……つまりは二股。

「ど、どうするって…」

「最低最悪碌でなし」

 ばっさり切り捨てられる。事実だ、そうなんだけど反論したくなったりする。

 俺が何か言い返せないかと考えていると放送をつげるチャイムが鳴り響いた。

『二年生の新戸風太郎君、至急生徒会室までお願いします。繰り返し放送します…二年…』

 田畑がさっきよりも険しい顔をしている。

「あのさ、もしかしてばれたんじゃないの?」

「ば、ばれたってなにが?」

「うん、何がばれたの?」

 いつの間にか中原さんまで会話に参加してきているようだ。

「それはともかく新戸、早く行ってきなよ」

「そうですよ」

「あ、ああ…」

 中州、田畑のおかげで中原さんに詳しく突っ込まれる前に教室を後にする事が出来た。

 生徒会室までやってきてさっきの田畑の言葉が思い出される。



『あのさ、もしかしてばれたんじゃないの?』



 夏祭りだったしな。真面目君が帰るにはちょっと遅い時間だったからな。視界の端に生徒会っぽい人がいたような気がしないでもない。

 未だ扉は開かれていない生徒会室。中では誰が待っているのか非常に気になる、気になるんだけどとりあえず開けないとまずいだろう。

「し、失礼しま~す…」

 どうせ先輩が俺に用事で呼んだだけだろう。そう思って足を踏み入れる。

「はぁ~い、新戸君」

「浅野先輩…」

 バンドでまとめられた長髪で眼鏡、浅野副生徒会長が机に足を組んで座っていた。足は椅子の背もたれに乗せられている。

「あの、浅野先輩が俺を呼んだんですか?先輩…えーっと、加賀美先輩じゃないんですか?」

「今ちょっとトイレに行ってるわ」

「あ、そうなんですか」

 ちょっとだけ寿命が延びた気がした。

「あ、そうそう、見ちゃったの」

「み、見ちゃった?」

「うん、そう」

 足を組みなおす。生徒会に入っている癖に短いスカートとかなんで何だろう。ああ、いかん。そっちに視線をもっていってはいけない…。

 浅野先輩を睨むように顔を上げる。

「あら、そんなに怖い顔しなくたっていいじゃない」

「別にしてませんよ」

「まぁ、いいわ」

 先輩は立ち上がって俺に近づき、人差し指で顎を触る。

「昨日の事、黙っておいてあげるわ。ま、どうしようもない状況に陥っているとは思うけどさ…」

 まるで悪魔のような微笑み方だった。

「悪い事をしている人間は遅かれ早かれ酷い目に会うのが道理よ。気をつけなさい」

「……」

 浅野副生徒会長はそれだけ言うと生徒会室から出て行ってしまった。

 それから少し経って先輩が入ってきた。

「新戸、すまない。言い訳になってしまうが放送の後、浅野が私の髪にケチャップを間違えてこぼしてしまったんだ。さすがにまずいだろうと思って洗ってきた……ん、どうした?顔色が悪いぞ」

「あ、いや…そんなことないです。ところで俺を呼び出した理由は何ですか?」

「ああ、そうだったな。実は今日の放課後、また手伝ってもらいたい事がある」

「そうですか、わかりました。帰りのホームルームが終わったらすぐに生徒会室に来ます」

「うん、頼んだぞ」

 先輩からの頼み事はいつもこんな感じで軽く終わる。いつもの事なのだが、今日はやけに緊張してしまった。やっぱり、後ろめたいって気持ちがあるんだろうか。

 時間が経つのが早いなと思っているとあっという間に放課後になった。

「…おーい、新戸~」

「え?何だよ?」

「ぼーっとしてるけどどうしたの?やっぱりばれちゃったの?」

 田畑のその言葉に俺は首を振った。

「それはよかったと言うか……複雑なところですね」

 中州の言葉に俺はため息をつくしかなった。

「じゃ、俺これから先輩の手伝いがあるからまた明日な」

「うん、また明日」

「それでは失礼します」

 つい中原さんを目で探してみたけどクラスにはいないようだった。

「あれ、中原さんはいないのか?」

「うん、もう帰っちゃったよ」

「そうか」

 別に未練があると言うわけじゃないのでそのまま生徒会室へと赴く。

「先輩、きましたよ」

「そうか、じゃあ今日何をするのか言わなくてはいけないな」

 先輩は腰まで長い髪の毛をまとめており、箒をもっている。何をするのか大体想像がつく。

「見ての通りだが、生徒会室の掃除を行う。他の生徒には私と新戸が掃除を行うと言う旨を伝えて帰ってもらった」

「わかりました」

「新戸は私の机が無い方を掃除してくれ」

「はい」

 身の回りの事は自分でやりたいのだろう。まぁ、私物があるからな。たとえ彼氏といえどみてもらいたくないものがあるのかもしれない。

 他の生徒の私物はあっても筆記用具ぐらいだろうか?比較的重たい机のところも何とか動かして掃除をする。

「こちらは終わったからそっちを手伝うぞ」

「あ、こっちももう少しで終わります」

 先輩より少し遅れて俺も掃除を終える。粗末に扱うと股間を殴打すると言われる狸の置物を拭いた時は縮みあがっちまったぜ。

「新戸、御苦労さま」

「お疲れ様です……あの、先輩」

 思ったより終わった時間は早かった。これからお祭りに行っても十分楽しむ事が出来るだろう。先輩をお祭りに誘うつもりで口を開きかけたが、口から出た言葉はお祭りに誘う言葉ではなかった。別のいい方法を思いついたのである。

「ん?どうした?」

「えっと、ちょっと待っててくれませんか?」

「ああ、いいぞ」

「すぐに戻ってきますんでっ」

 俺は誰もいない廊下を全力疾走で駆け抜け、階段も気合で飛びおり続けた。そして、靴を履くと先ほどと同じで全力疾走……お祭り会場まで五分程度でたどり着けた。

「ふぅ……はぁ……はぁ…」

 たこ焼き屋を見つけ、二パック購入する。

「まいどあり~」

 たこやきのパックを二つ持って学校へと戻ろうとした……その時だった。

「風太郎君」

「え?な、中原さんか…」

 祭り会場にいたのは普段着の中原さんだった。

「風太郎君、今日も来てたんだね?一日じゃ足りなかったの?」

 身体から異様なほど汗がわき出てくる。

「はは、いや、違う。見ての通り走って此処までわざわざたこ焼きを買いに来たんだよ。たこ焼きとか普通ないからな」

「そっか、今一人?」

「そりゃ全力疾走で来たから一人だよ」

「ふーん、そっか」

「中原さんも一人?」

「ううん、今日は友達と一緒」

「そっか、じゃあ俺急いでるから。また明日」

「うん、またね」

 学校へと帰る途中、俺は気が気じゃなかった。もし、俺が先輩を誘って夏祭りに行っていたらどうなったんだろうか。奇跡的に中原さんと出会わない?いや、多分それはないだろう。中原さんがいたのは入り口前ぐらいだったし、絶対に目についてしまうこと間違いなしである。

「ただ今戻りました」

 とりあえず危険は回避されたんだからいいとしよう。俺は気持ちを入れ替えることにした。

「お、祭りに行っていたのか?」

「ええ、先輩、たこ焼き好きでしょう?」

「ああ、大好きだ」

 俺からたこ焼きを受け取った先輩は早速食べようとしたが、待ったをかける。

「先輩、屋上に行きませんか?」

「屋上か?」

「ええ、先輩なら鍵持っているから開けられるでしょうし」

「うーん……新戸の頼みじゃ仕方がないな」

「ありがとうございます」

 その後、先輩と一緒に屋上に上がってたこ焼きを食べ始める。

「少し、冷めてますね。すみません」

「いや、暑くても食べられないから気にするな」

 ちらっと腕時計を見るとそろそろ時間である。

 大きな音がしたかと思うと夜空に花火が撃ちあがった。

「そうか、今日は花火が撃ちあがるのか…」

「特等席です。先輩じゃないと見ることできないでしょうね」

「そうだな…」

 あまり大きな祭りではない為に花火は長い間撃ちあげられると言うわけじゃない。十分程度で花火も終わってしまう。先輩の驚いたような表情もそれで終わってしまった。

「さぁ、そろそろ帰りましょうか。見周りの人が来るでしょうし」

「……ああ、そうだな。新戸、すまない」

「何がですか?」

「いや、色々と新戸は考えているんだなぁと今日は勉強になったよ」

「特に何も考えてないですけどね」

 先輩の心に少しでも残ってくれればいいなぁと思いつつ、俺は屋上を後にする。ただ、ちょっと気になったのは先輩がどこか暗い表情をしていた事であった。


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