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第十二話:夏祭り一日目

第十二話

 幸か不幸か、期末テストのちょっと前に三日間夏祭りが行われる。確か、恨みの神様を祭っていたんだっけか?うーん、まぁ、疫病神的扱いだったらしいけど、茉莉を行う事によって神様の心を癒したとかなんとか。

「今日から夏祭りだよね」

 いつの間にか昼のメンバーに中原さんが加わっている。その事に文句を言う他の二人(田畑は無表情、そして中州も無表情)でもなく、ただ淡々と昼飯を食べている。

「ん、そうだなぁ」

「風太郎君、一緒に行かない?期末までほんのちょっと時間あるから」

「そうだな、行こうかな」

「そっか、よかったぁ…」

「田畑はどうだ?」

「え、あ~…わたしはいいよ。だって、期末は頑張らないといけないから」

 どこだか遠いところを見ているようだった。

「そうか。って、俺が教えないといけないんだったな。悪いな、中原さん」

 嫌そうな顔をしているようにも見える。見えるけどしょうがないといった感じだった。

「僕が引き受けますよ」

 それまで黙っていた中州がそういった。

「え?中州が俺の代わりに中原さんと一緒に夏祭りに行くのか?」

「違いますよ。僕が代わりに田畑さんに勉強を教えるんです」

「なるほどなぁ」

「というわけで田畑さん」

「何?」

「お昼も食べ終わった事ですし、早速図書館に向かいましょう」

 あんな小さな体にどんなパワーを秘めているんだろう。いやがる田畑を引っ張って連れて行ってしまった。

「えーと……」

「うん?」

「学校の帰りにすぐに行けばいいのか?」

「それはまずいよ。学校帰りに寄ったりしたらいけないんだからさ」

 こんなときでも真面目である。

「学校終わって、着替えて校門前に集合でどうかな?」

「それでいいよ」

「じゃ、あたし用事があるからちょっと行って来るね」

「ああ」

 中原さんが教室から出て行くとクラスの男子が俺を囲む。

「時が経つのは早いでござるな」

「気が付いたら夏、そして夏祭りイベントでござったか」

「羨ましいでござるっ。圧倒的、絶対的に羨ましい存在でござるよっ」

「他の男子全員には厳しいでござるがそれでもやはり、このクラスのアイドルでござるよ」

「ござるござる」

 こいつらは何がしたいんだろうか。首をひねったところで答えは出ず、無駄な時間を過ごしているようにしか思えなかった。

 午後から中原さんは絶好調のようであった。頻繁に手を上げ黒板に問題を解いたり、英文法を一人で全訳したりと先生も少し驚いていた。掃除時間もその効果は持続していたようで一緒に掃除していた女子は『まるで三人いるように見えた』と語っている。

 帰りHRもあっさりと終わり放課後。

「じゃ、着替えたらすぐに校門前に立ってるから」

「わかった」

 嵐のように去って行った。

「新戸、帰ろ~」

「ああ」

 中州と田畑と共に校門を後にする。

「新戸と夏祭り行って楽しいのかなぁ」

「世の中、もの好きと呼ばれる方はいますからね」

「お前ら失礼だな。でもまぁ、それは否定できないか」

 恋は盲目って奴だろうか。俺も先輩と一緒に夏祭りとか行けたらあんな感じになっちゃうんだろうね。

「新戸君、頑張ってください」

「おう」

「またね~」

 分かれ道で中州と別れ、田畑が残る。

「新戸と夏祭りかぁ~楽しいのかなぁ」

「あのなぁ、そこまで疑問視する事なのかよ」

「うーん、ほら、中原さんってすっごく真面目で間違えたりしないけど、新戸の事になると間違えそうだなって、ちょっと、周りが見えない時があるからさ」

「それは……どうだろうな」

「ともかく、わたしは期末の勉強があるからね。明日以降、わたしたちの前じゃ夏祭りの思い出なんて言わなくていいから」

「ああ、それは注意しておく。それと、明日から覚悟しておくことだな……くくく……中州以上に張り切ってお前を教えてやるからな」

「それは望むところだよっ」

 明後日ぐらいにはへばっている田畑の姿が容易に想像できるのは何故だろうか。しかし、友人は時として鬼にならねばいけないのだ。

 家に帰りついてさっさと準備をする。女の子を待たせるのはいけないことだとテレビで誰かが言っていた。一応、身だしなみの為に鏡の前に立ってみたけど、かっこいいとはいえない顔が映される。

「…確かに、物好きかもなぁ」

 くしで髪を押さえつけてみたけどいまいち決まらない。しょうがないのでそのまま出ることにした。

「中原さん…」

「よかった、ちょうどチャイム押すところだったんだ」

 玄関からでて少し先に中原さんの姿があった。淡いピンクの浴衣で、お祭りムード漂う姿である。

「どうかな?似合ってる?」

「うん、いいんじゃないかな」

「じゃ、行こうか?」

 道中、雑談をしながらちらっと盗み見る。なるほど、確かに男子に人気があるっていうのはわかる気がするなぁ。

「ん、どうかしたの?」

「え、ああいや…別に何でもないよ」

「見とれてたとか?」

「いや、違うけど…」

「そこは嘘でもいいから頷いてほしかったかな」

「うん、すっごく見とれてたよ」

 中原さんにため息交じりで首を振られてしまった。ただ、その表情は嬉しそうである。

 お祭り会場についてお賽銭を放り込む。なんか罰当たりな表現だけど、事実だ。何かお願い事でもしてみるかと考えてみる……そういえば、俺って中原さんと別れたいって願わないといけないんだよな。

 再び、中原さんを盗み見る。彼女は一生懸命お願い事をしているようだった。直接的に『中原さんと別れたい』とか叶うものなのだろうか?そう言った後ろ向きのお願い事は身の破滅を呼びそうだし、ポジティブな願い事をしておくことにしよう。

『……先輩と仲良くなれますように、先輩と仲良くなれますように……』

 しかし、いつから俺は他力本願な人間になってしまったのだろう。人間って神様に頼ってばっかりじゃあないか……でもまぁ、それでも願い事が叶えばたなぼたである。

 その後は軽く二周ほど屋台を周る。時折きょろきょろと中原さんは辺りを見渡していたのでくじ屋の前で尋ねることにした。

「誰か探してるのか?もしかして彼氏?」

「ううん、そうじゃないよ。周りカップルばっかりだな~って思ってね」

 言われて辺りを見渡すと中原さんの言うとおりだった。いちゃいちゃしまくりやがって目に毒だ。俺も先輩といちゃいちゃしながらお祭りを楽しみたい。

「周りから見たらあたしたちもあんな風に見えるのかな?」

「客観的な意見を言わせてもらうとそうだと思われます。何せ、辺りの男女のペアは実に親密な態度をお互いがとっており、なにより仲良くなければ二人組でこないでしょう」

「そっか、よかった」

 俺の渾身のボケは見事にスルーされてしまった。さらに、さっきの言葉が引き金になったのか俺の腕に手を回してきたのだ。

「あのさ、あたしの立ち位置って風太郎君の中ではちゃんと友達からちょっとくらい進展してる……よね?」

「あ~…どうだろ」

 こんな曖昧な言葉じゃやっぱり怒るだろうか?頬を掻きながら隣の中原さんを見る。いつも通りのようでほっとした。

「うーん、そっか。じゃあ頑張らないといけないんだねっ。だからさ、今日だけ腕組んでもいいよね?」

「う、うん」

 遠慮なく俺の腕に胸を押し当ててくる。なんだかどんどん沼地に足を取られている気がしてならない。こういうところを先輩に見られたらどうなるんだろうか?

 そういえば、学校の近くって言う事もあってちょっと遅くなると先生たちがうろつきはじめるんだったな。ま、隣にいるのは真面目なクラス委員長だからあんまり遅くなる事もないだろう。

「風太郎君、あっちに焼きそばが売ってるよっ」

「よーし、じゃああれで晩御飯の代わりにしようか」

 そんな感じで俺は普通に中原さんとの夏祭りを楽しんでしまった。帰り道、俺はどんな願い事をしたのか中原さんに聞いてみたのだが……

「風太郎君には絶対に教えられないよ」

 と言う事であった。


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