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歩み
彼は、”美”には何かが欠けていると知っていたので、
優しくびっこを引いていた。
彼の歩みはゆっくりだ。
しかし、決して遅いのではない。
彼は歩むとは何かを、良く知っているだけだ。
彼は一歩進むごとに、囁きかける世界の言葉を受け取る。
彼の明るい眼は、
人々が瞳に映していながら気付けないものを、愛おしむ。
崩れかけたコンクリート塀にしがみつく小さな花や、
流れる早さの違う雲が語る空の深さや、
燃え尽きた星の命の名残を、愛おしむ。
彼の寄り道は、まるで遠い日の忘れ物のよう。
柔らかに積もる落ち葉の林で、
ドングリを拾ってお守りにし、
虫食いの枯葉を本に挟む。
少し遠回りをして通る草深い脇道で、
忘れ去られたようなお地蔵様に挨拶する。
そして、まるで大切な秘密のように、
恥ずかしそうに笑うのだ。
今日も彼は、あの独特のゆったりしたリズムで歩く。
一歩、一歩、呼吸に合わせて大事に進む。
美しい世界を引き連れて。
びっこは差別用語ですが、私は全くネガティブなイメージを持っていません。
言葉の響きが優しくて、どうしても使いたかったので使用しました。
不愉快に思われる方がいらっしゃいましたら、お詫び致します。




