表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

3話 兄のホッカイロ

私は三年生になった。


兄は五年生。


私達は少年団を辞め、新しくできたばかりのチームに入ることになった。


人数は少なく、私はその中で一番年下。


唯一の女の子だった。


周りはみんな年上のお兄さん達。


最初は少し不安だったけれど、少ない人数の方が私には合っていたのかもしれない。


お兄さん達はみんな優しくて、とても明るかった。


一番年下の私にたくさん話しかけてくれた。


寒い練習の中でも笑わせてくれたり、励ましてくれたり。


その頃から少しずつ、スケートが楽しいと思えるようになった。


頑張って練習へ行こうと思えるようになった。


それでも寒い日はやっぱり苦手だった。


一年生の頃みたいに声を出して泣くことはなくなったけれど、静かにメソメソする日はまだたくさんあった。


厚手の靴下も。


厚手の手袋も。


何の意味もない気がしていた。


冷たい。


寒い。


早く温かいお家に帰りたい。


そんなことばかり考えていた。


そんな私に気づいてくれたのは、五年生の兄だった。


「ゆき、これ使いな」


そう言って、自分のホッカイロを差し出してくれた。


「ありがとう」


私は嬉しくて、そのホッカイロを受け取った。


でも、私もホッカイロは持ってきていた。


兄だって寒かったはずなのに、自分のものを私にくれた。


寒かったはずなのに。


兄だって、こっそり泣いている時があるのを私は知っていた。


親達の前では泣かないところまで、兄と私はよく似ていた。


だから分かっていた。


兄も寒くて、辛かったことを。


なのに兄は、自分のホッカイロを私にくれた。


私はそのホッカイロをぎゅっと握りしめた。


冷え切った手が少しずつ温かくなる。


だけど今思えば、あの日温めてもらったのは手だけじゃなかったのかもしれない。


小さい頃、お母さんから聞いた話がある。


私が生まれた時、兄は嬉しそうに


「僕はゆきのしんご兄ちゃん!」


そう言っていたらしい。


その話を聞くたびに、なんだか嬉しかった。


そしてずいぶん大人になってから。


私はまた兄に助けてもらった時があった。


その時の兄の優しさが嬉しくて、お母さんにその話をした。


すると後日、お母さんは教えてくれた。


「お母さんも、しんごにその時の事聞いてみたんだ。

ゆきの事助けてくれたんだねって。


そしたらしんごが、

『ゆきのしんご兄ちゃんだからね〜』

って言っていたよ」


私はその言葉を聞いて、涙が出た。


兄はあの頃のことを覚えていたのだろうか。


本当のことは分からない。


だけど私は思う。


兄はずっと変わらなかった。


多くは語らないけれど、ずっと私の味方で、ずっと見守ってくれた。

 

そう気づいた時、子どもの頃に「ゆきのしんご兄ちゃん!」と言ってくれた意味が、ようやく分かった。


そう思うと、また少し涙が出た。

子どもの頃は、兄が自分のホッカイロをくれたことがただ嬉しかった。


でも大人になって振り返ると、あの優しさは決して当たり前じゃなかったんだなと思います。


小さい頃に「僕はゆきのしんご兄ちゃん!」と言っていた兄。


その言葉をずっと覚えていたのか、本当のことは分かりません。


だけど私の中では、寒いリンクでホッカイロを差し出してくれた兄も、大人になってそっと助けてくれた兄も、全部同じしんご兄ちゃんです。


普段は多くを語らない兄だけれど、その背中に何度も助けてもらいました。


この話を書きながら、あの時のホッカイロの温かさを久しぶりに思い出しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ