義理チョコくれた女子に間違えて3000倍返してしまった
「はぁ~めんどい」
自室のベッドに横たわりながら頭を抱えてしまった。学年末テストがようやく終わったっていうのに、どうしてまだ考えなきゃならねーんだよ。
それもこれも、あの女のせいだ。
『ホワイトデー期待してるからね~』
ふざけんな!
チ〇ルチョコ一個投げてよこしただけだろうが!
『え~マジ!?一個も貰えてないの!?クソダサじゃん!』
『ならこれやる。この前の授業で助けてくれたお礼ね』
お礼でくれたなら、更にそのお礼を返すのはおかしいだろうが!
まぁ向こうが揶揄っているだけでホントは期待してないことくらい分かってるさ。
でも男として挑発されて何もしないなんて情けなさ過ぎるだろ。無茶な要求をされてるわけでもないし、この程度の気遣いすら出来ないからモテないんだよなんて言われるに決まってる。
…………それにあいつ、口は悪いけど顔や体はまぁ、その、うん。
チョコ一個は大体三十五円くらい。定番の三倍返しだと百円くらいか。
ならジュース一本渡せば丁度良さそうだ。
でもなぁ、それって普通過ぎてつまらねぇよな。
あの女にそう言われそうってのもあるけど、俺自身が捻りたくなる性格なんだ。
変なジュースでも買って笑いを取りにいくか。
いやそれよりも、あの女が予想できそうにないものを渡して驚かせたい。
だとすると食べ物は外した方が良いか。
なんとなくだが、どれを選んでも予想外さは薄い気がする。
しかし食べ物以外だとより一層気を使わないと捨てられたり下心ありまくりで警戒されたりしそうだ。そうならない物で何か……文房具、はアリだけど面白くはないよなぁ。
「あ、そういえば!」
最近クラスの女子がポ〇モンカードに嵌まってるらしくて、一日中その話ばかりしている。それならホワイトデーっぽくないから面白いかも。
それにわざわざあの女のためにお金を使う必要も無くなる。
確か小学生の頃に買ったカードを押入れのどこかにしまってあったはずだ。
「あった!」
クラスのブームに乗せられて買ったは良いものの、特に興味が無かったのですぐに封印してしまったカード達。ほとんど触らず缶の中で冬眠していたからか、まるで新品であるかのように綺麗だ。
今の俺にとっては価値などないゴミのようなもの。だが捨てるのは気が進まないし、二束三文にしかならなそうなのに売りにいくのもめんどい。
くっくっくっ、ゴミを押しつけて処分するチャンスだぜ。三倍以上になってしまうがサービスで多めにプレゼントしてやるよ。
「ん~すっきりした!」
悩みの種が解消され、これで気持ち良くゲームが出来るってものだ。高校生にとって年度末テストから新学期までの間は授業も宿題もない最高の休日だからな。遊び尽くすぜ!
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「お、いたいた」
三月十四日。
登校したら例の女が自席で一人でスマホを弄っていたので、これ幸いとホワイトデーのプレゼントを渡しに行った。教室内では義理チョコを貰った男子が女子にお返しをしている姿がチラホラあり、渡しやすい空気になっているので今がチャンスだ。
「よお、ご期待のものを持って来たぜ」
「は?」
俺の顔を見て怪訝な顔をしてやがる。
この女、昨日挑発して来たくせに忘れてやがる。
しかもなんかイライラしてそうな雰囲気だ。
「なんだよご機嫌斜めか」
「あんたには関係ないでしょ」
「チッ、何だか知らんが拒否すんなよな」
「だからなんだって……え?」
せっかく考えて用意したのに突き返されそうな予感がしたので、お返しのポ〇モンカードを机の上に置いて強引に渡した。
「ホワイトデーのお返しだ」
「…………」
おや、様子がおかしいぞ。
目を見開いてカードをガン見しながら硬直してる。
イラついていたから投げつけられて叩き返されるかと思ったが、そんなことはなくて一安心だ。むしろ狙い通りに驚いてくれたのでスカっとしたわぁ。
「じゃあな。邪魔したな」
俺は真摯だからチ〇ルチョコ一個でお返しを求められたことをいつまでもネチネチと文句を言ったり煽ったりするようなことはしない。なんでもない風を装って踵を返し颯爽と帰るのさ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
なんだよ、せっかく紳士ムーブしてたのに邪魔すんなよ。
仕方なく振り返ったら、すげぇ困惑した顔になってた。しかしまぁ、こいつの顔ってどんな表情でもやっぱり綺麗だわ。
「あんた、これの価値分かってるの!?」
ん?
どういう意味だ?
ポ〇モンカードの価値って一枚数十円程度だろ。それなのにまるで貴重品であるかのような言い方……あ、そうか、分かったぞ。
思い出の品を軽々しく他人に渡すなって注意してくれてるのか。
なんだよこいつ良い奴じゃん。
少し誤解してたわ。
「気にするな」
「気にするわよ!」
さらっと流してはくれないか。
しかし返品されても邪魔で困るだけだから、ここは多少強引な手段を使ってでも受け取ってもらおう。
「確かにそれは俺にとって想い出深く価値あるものだ。だからこそお前に貰って欲しいんだよ」
「え?」
「それにお返しなんだから、相手にとって価値あるものを渡さなきゃダメだろ」
「そ、それって……」
あれ、おかしいな。
これで納得してくれるかと思っただけなのに、何故か顔が赤くなってる。
ヤバイ。
下手な言い訳をしようとして怒らせてしまったか!?
フォローしなければ。
でもどうやってフォローすれば良いんだ。
この女が怒った原因はなんだ。
思い出を軽々しく扱おうとしたからか?
女ってそういうの大事にしそうだもんな。
逆効果だったか……なら現実路線に方向転換しよう!
「な~んてな。ちょっと臭かったか。想い出ってのは冗談で、単に金額的に丁度良いのがそれだったってだけのことさ」
「丁度……良い……?」
「そうだ。三倍返しにはちょっとばかり多めだけど、そこは俺の気持ちってことで」
「き、気持ち?」
「ああ。だから出来たら無下にしないでくれると助かる」
具体的には処分が面倒だから返さないでくれ。
その処分料みたいなものさ。
「こ、これが、あんたの気持ち……」
しまった、しくじった。
さっきよりも顔が赤くなってる。
安物なのが俺の気持ちなんて伝えたら相手を馬鹿にしているようにしか聞こえないじゃないか。完全に怒らせてしまった。
あ~あ、こりゃもうダメだ。
ここから挽回する手段が思いつかない。
こうなったらひたすら謝り倒すしかない。
だって放置したらこの女に俺の悪口を女子の間で広められて、絶対に彼女が作れなくなってしまう。俺はまだ青春を諦めて無いんだ!
「わる……」
「あんたは」
おっと謝ろうとしたら被ってしまった。
ここはじっと我慢だ。いくら謝罪とはいえ言葉を遮られたら良い気はしないだろうからな。
「どうしてそこまでするの?」
「どうしてって……そりゃあバレンタインチョコを貰ったから? あんなんでもお返しは必要だろ」
それにお礼を催促したのはお前だろうが。
催促されなくても何かしら返したかもしれないが。
「俺はこういうイベントは大事にするタイプなのさ」
「…………じゃ、じゃあ彼女の誕生日とかは?」
「彼女いないって。まぁ忘れるわけ無いけど」
「ホントに?」
「そこ疑う意味あんの?」
それが本当だろうが嘘だろうがこの女にとって何の意味があるんだ。
意味不明だが怒らせている状態で嘘をつくのはまずいので誠実に答えよう。
「証明なんか出来ないけど、結構拘る派だぜ。出会った記念日とか、付き合った日とか、最初にデートした日とか、なんでもかんでも覚えて祝いたくなるタイプだな」
あ、しまった。
以前この話を女子にした時に、重いとかキモイって言われたのを忘れてた。
ほらぁ、ますます顔を赤くして怒らせてしまったじゃないか。
「わ、分かった」
何が?
俺のキモさが?
だとしたら泣くしか無いんだが。
「でも少しだけ時間を頂戴」
「時間?」
「うん。あの馬鹿と別れて来るから」
「え?」
あの馬鹿?
別れる?
何の話だ?
「あ~スッキリした! あいつったらいっつもいっつもいっつもいっつも記念日忘れるんだもん!今日だってホワイトデーなのに忘れてて何も用意してないんだって。ありえなくない!?」
「お、おう……ありえないな」
「でしょお!?マジ信じらんない!しかもあいつ、悪いなんてまったく思ってないんだから!少し顔が良いからって我慢してたけど、もう無理!やっぱり男は顔だけじゃなくて中身も大事ね!」
なんか良く分からんけど、この女が怒ってたのは俺じゃなくて『あいつ』に対してらしい。彼氏とケンカ中だったってわけか。
すまん、彼氏君。
どういうわけか俺のせいでこの女に別れる決心をさせてしまったようだ。
でもホワイトデーを忘れるのは俺もあり得ないと思うから自業自得だぞ。俺なんかと違って本命チョコ貰ってるはずなのにな。
「ということで、あんたの気持ち、う、受け取ったからよろしくね」
「よろしく?」
まだ怒りが収まらないのか、顔が赤いままだ。
しかし受け取ったならそれで終わりのはずなのだが、何をよろしくすれば良いのだろうか。
「なんでそこで疑問系なのよ」
あっ、まずい。
このままだと察し悪い系男子という評判を流されてしまう。
女子にとって察しの良し悪しは大事な評価ポイントだって、ラブコメラノベに書いてあった。正直話の流れが良く分かって無いけど、どうにかして誤魔化さないと。
「いや、それはおま……」
こらああああ!
この流れでおまえ、なんて雑な呼び方したら更に怒られるだけだろ。
ここはちゃんと名字を呼ばなければアウトだ。
…………あれ?
「そこで言い淀むとか、あんた……」
俺が必死に考えていたら、この女も何かを言いかけて止まった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
二人して硬直し何かを考え、やがて同時に同じ疑問を口にする。
「「名前なんだっけ?」」
あのポ〇モンカード十万もするのかよ!
どうりであの時果林が戸惑ったわけだ。
これじゃあ三倍返しどころか三千倍返しじゃねーか。
高校生が『これが俺の気持ちだ』なんて言いながらそんな貴重なものをプレゼントしたら、そりゃあ本気で惚れてると勘違いするわ……
やっぱり返して、なんて今更言える訳ない。
ただ同じ三千倍でも別の三千倍で果林が乱れる姿を見たい……って考えたら睨まれましたごめんなさい。




