#9 かけがえのない友達
8年にわたる、ラスへのわだかまりが解けた。
想いを通わせて、迎えた朝。私たちの耳に聞こえてきたのは、チュンチュンという小鳥のさえずり…ではなく。雷のような怒った声だった━━。
「バカ、バカ!!ラザラスのバカ!バカラス!このバカ犬!」
エスターの大きな声に、私は重いまぶたをこすりながら、ゆっくりと目を開けた。そして、飛び込んできた光景に、呆然としちゃったの。
「おいっ!やめろよ、エスター!!」
隣で寝ているラスが、エスターに枕でバンバン叩かれている…。寝ぼけている私には、この状況が理解出来ず、ふたりの様子をただ眺めていた。
「リアのそばで、枕をバンバンするなよ!!埃のせいで咳が出るだろ!?」
ラスがそう言うと、エスターがピタっと枕を振り下ろすのをやめた。枕をそっと置くと、今度は素手でラスの頭を叩きはじめた。
「バカ!バカ!大バカ!」
エスターはなにをそんなに怒っているのか、ラスに向かって、『バカ』と連呼している。
「おまえ、朝から元気だな…。」
「『朝』??あんた、今、何時だと思ってるのよ!?」
「知らない。今、何時なんだ?」
「もう10時過ぎてるわよ!!」
えっ!?10時を過ぎていると聞いて、びっくりして一気に目が覚めた。
「リアに無理させたんでしょ!?かわいそうに。こんなに、ぐったりしちゃって!」
「やだ、エスター。私、ぐったりなんてしてないわよ。ぐっすりはしちゃったけど。」
「あぁ、リア!!起きたのね。大丈夫?体は、平気??」
「うーん…。今は、平気みたい。ラスが、治癒と回復魔法をかけてくれたから。」
「今"は"?治癒?回復?」
エスターは怪訝そうな顔で聞き返してきた。いつもより低い声に、ぶるっと震えてしまう。
「ねぇ、リア。治癒とか回復魔法ってどういうこと??」
エスターは笑みを浮かべながら、枕をラスの口へ押し当てていた。
「あのね。最初は痛かったんだけど、ラスがこの痛みを覚えていて欲しいって言うから我慢したのよ。それからなぜか、体が動かせなくなっちゃったのよね。でも、ラスが治癒と回復をしてくれたから、今は平気よ。」
「リア?私、『待て』って言うように教えたわよね??」
「言われた通り、『待て』って言ったのよ。だけど…。エミリオに会いたくて…。」
「エミリオに会うためって、言われたのね??」
私が頷くと、エスターはまた、枕でラスを叩きはじめてしまった。
「もう!待ても出来ないなんて、このバカ犬!!なにが、エミリオに会うためよ!この詐欺師!ペテン師!数日前には、エミリオにリアを盗られるって、この世の終わりみたいな顔していたくせに!!」
「くそっ!相変わらず、バカ力だな。さすが、あの伯爵夫人の娘だよ!」
ああ…。もう、ラスってば。それは言っちゃダメって、言ったのに。
「一緒にしないでよ!」
怒ったエスターが、勢いよく風をおこしたから、部屋中の空気が流動した。そしたら、案の定…。
「ゲホッ、ゲホッ…。」
『リアっ!』
私を呼ぶ、ラスとエスターの声が重なった。
「だから、言っただろ!!咳が出るって!」
「なによ!あんたが、リアの服を脱がせたのが悪いんじゃないの!?」
「今の咳はおまえのせいだろ!?」
「へっくゅん…。」
ものすごく間の悪い、私のくしゃみを聞いて、ふたりが同時にこちらを見た。
「ほらっ。やっぱり、服のせいでもあるじゃない。まったく、医者が聞いてあきれるわ。」
「…医者の立場が仇になったけどな。リアは、服を脱がされても平然としてたから。まるで、診察を受けるみたいにな。俺は、恥じらう姿が見たかったのに!!」
エスターは、バシッとラスの頭を叩いた。
「バカ!想像出来ちゃったじゃない!そんなの、聞きたくないのよ。」
「おい。汚い物を見るような目で見るなよ…。」
エスターが目を細めて、ラスのことをじーっと見ている。
「あっ、でもね。昨夜のラスは、お医者様じゃなく、赤ちゃんみたいだったのよ。」
私の話に、ラスを見ていたエスターの目が、ものすっごく細くなった。
「もう…、こっちを見ないでくれ…。」
「リア、体をきれいにしてもらうといいわ。」
ラスの言葉を無視して、エスターは、私を毛布でぐるぐる巻きにした。
「お願いね。」
エスターが声をかけた方を見ると、ドアのところで、メイドが両手で顔を隠して、指の隙間から私たちのやり取りを見ていた。
「リア。治してやるから、ちょっと待って。また目が腫れてる。」
「自分で泣かせておいて、『治してやる』なんて、恩着せがましいわね。」
「お前、さっきから辛辣だな。」
私が泣いたのは、エスターの未来を想像したら悲しかったからで、ラスのせいじゃないのに…。あ…、でも待って。
「そういえば昨夜、初夜には私を泣かせたいとずっと思ってたって、意地悪なこと言われたわ。」
治癒のため目をラスの手で覆われ、なにも見えない状態の私の耳に、バシッという音と、ラスの『痛っ!!』という声が聞こえた。
「ほら。治ったぞ。」
自分の頭をさすっているラスに、私はお礼を言う。
「ラス、ありがとう。やっぱり、ラスの力ってすごいわね。」
「どういたしまして。それとな、リア。ベッドでのことは、ふたりだけの秘密…」
「ほらほら、リア。メイドが待ってるわよ。お風呂へいってらっしゃい。」
エスターは、ラスの話を遮って、私にメイドのもとへ行くようにと言う。メイドとともに浴室へ向かう際にちらっと振り返り、ふたりの様子を見たら、また、エスターが枕でラスを叩いていた。
エスターの提案で、温室でブランチをとることになり、入浴を終えた私は温室へ向かった。使用人は席を外していて、温室にいるのは、ラスとエスターと私。気の置けない三人だけ。
私が席につくなり、エスターが突然、テーブルに両肘をつき、顔の前で両手を組み、真剣な顔つきで話しをはじめた。
「これは、由々しき事態よ。」
なんのことかわからず、ラスと私は首を傾げる。
エスターは人前では猫をかぶっていて、社交界では、冷静沈着、聡明な令嬢だと思われている。
でも。私とラスに見せる、取り繕わないエスターの姿は…。大胆不敵、豪傑、苛烈、理性より本能、直感で行動してしまう、それから子どものようなところがあるのよ。
それで、今。これは…。会議ごっこが、はじまったのかしら?
「リアの氷の仮面が、溶けてしまったわ。」
…由々しき事態だと言うから、何事かと思えば。氷の仮面??真面目な顔して、なにを言ってるのよ!?そう思っていたら…。
「そうだな。また、勘違いする奴らが出て来るだろうな…。」
テーブルに肘をつき、顔の前で両手を組んで、ラスまで会議??に参戦しだした。
「あぁ、もう。見てよ!!この無防備な笑顔。こんな微笑みを向けられたら、一度は諦めた令息たちも、玉砕覚悟でアプローチしてくるかもしれないわ。」
エスターが、私の顔を見て、無防備な笑顔だと嘆いている。ちなみに私は今、真顔よ。
「リアは俺のだって、散々見せつけてきたのに。往生際が悪い奴らだな。」
「アプローチくらいなら、まだかわいいものよ。氷の鉄壁が消えたリアをお酒で酔わせて、部屋に連れ込もうとするかもしれないわ!!」
「俺のリアに、手出しはさせない!」
「手を出したのはあんたでしょ!このバカ犬!よくも、私のリアを穢したわね!!」
「急に、手の平返しかよ!べつに俺は、いいだろ。俺とリアは、もうすぐ結婚するんだから!!」
私はお茶を飲みながら、ラスとエスターへ視線を交互に向けて様子を伺う。これは、なにを見せられているのかしら??氷の仮面に、氷の鉄壁?私の属性は、氷じゃなくて水なのよ?それから私、酔わされて、部屋に連れ込まれちゃうみたい…。物騒な話だけど、一体誰がそんなことするのよ??完全にふたりの妄想よね?
「そうよ!結婚まで、"もうすぐ"だったのよ。それなのに、婚前性交だなんて!!もう少しだけ、我慢なさいよ!このダメ犬!あぁ、私のリアが。」
「俺のリアな!!」
「私のリアよ!!」
ふたりの言っている、『リア』って、私のことよね??本人が目の前にいるの、見えてないのかしら?これって私、水でも、氷でもなく、空気じゃない?
「ねぇ、ふたりとも。さっきから、俺のリアとか、私のリアっていうのは、なんなの?」
「リアは、俺の婚約者だろ!?」
「リアは、私の親友でしょ!?」
ふたりの同じ熱量に、圧を感じる…。
「まさかとは思うけど…。ラスとエスターは、ふたりでいるとき、いつも、こんな会話をしているの??」
「そうだな。お互い、リアのことばっかり話してるな。」
「だから言ったじゃない。私たちはいつも、『リア、リア。』言ってるって。ね?本当だったでしょ??」
ふたりにとって、私は共通の友人だから、会話に出ることもあるだろうと思ってはいたけれど。想像していたのとは違ったわ。まるで、ふたりで私を取り合ってるみたい。
「ラザラスは昨夜、リアの部屋に入るまでは情けない顔をしていたのよ。リアも、思い詰めていたから心配していたのに…。今朝、ふたりがなかなか起きて来なくて、様子を見るためにドアを開けた私がどれだけ驚いたかわかる?ちなみにそれは、8時のことよ。」
8時…??エスターが、ラスのことを枕で叩いていたのが10時だから…。
「ホントはその時点で、こいつを叩き起こしてやりたかったのよ。でも。ずっと眠れてなかったリアがやっと眠れたのに、起こすのは可哀想だから我慢したわ。それから、10分置きに部屋に入ろうとしては、使用人たちに止められて。ほんとよく2時間も我慢したわね、私。」
「10分置きって。それ、我慢出来てないからな。それにしても、よく2時間もこの猛獣を抑えられたもんだな。ここの使用人たちは気が利く上に、勇敢だよな。」
「『猛獣』っていうのは、私のことかしら??」
にっこりと笑うエスターの手のひらには、風が巻きおこっている。その風を見たら、昔のことを思い出して、慌ててラスにしがみついた。
「落ち着いて、エスター。」
「もう、リア。危ないじゃない。あなたまで、風に巻き込んじゃうところだったわ。」
そう言うと、エスターは仕方なさそうに風を消した。
「昔。ラスが、間違ってエスターの風に巻き上げられちゃったことがあったわよね。あのとき、ラスが川に落ちたのに私…、なにも出来なかった。私の力は水を生成するだけで、水を操れるわけじゃないから。なんて役に立たない力なんだろうって、今も思ってるわ。」
「また、役に立たないって言ってる。どうしていつも、その話になっちゃうの。リアの水魔法は、水辺から離れてる植物に水をあげられるし、水不足のときに役に立ったじゃない。」
「水不足のときは、ね。でも逆に。大雨で川が氾濫したとき、なにも出来なかったわ。私に、水を操る力があれば、被害は減ったはずなのに…。」
「リア。そんなこと言ったら私だって、嵐になったとき、止められなかったわ。風をおこせても、自然の風を止めることなんて出来ないもの。言ったじゃない。私たちの力なんて、ちっぽけだって。」
水魔法も、風魔法も、自然の力を借りてるに過ぎない。本物の自然の力の前では、無力さを思い知らされた。
「ああ。俺が川に落ちたのって、あれか。リアが、うさぎを見つけて、俺が捕まえようとしたら、エスターが風をおこして、うさぎと俺が風に巻き上げられたやつだよな?」
「私が、風を使ってうさぎを捕まえようとしたところに、ラザラスが突っ込んできたのよ!?」
「いや。俺の方が先に捕まえようとしてただろ。」
「私の方が先よ!!捕まえて、リアに見せてあげるつもりだったんだから。」
「俺が捕まえて、リアを喜ばせてやろうと思ってたんだよ!」
ふたりは、どっちが私を喜ばせようとしていたかで言い合っている。…あれ??もしかして、ラスが川に落ちたのって…。
「あれって、私にうさぎを見せるために川に落ちちゃったってこと??」
私が聞くと、ふたりはそろって、私のせいじゃないと言い、お互いに責任を押し付け合っている。あのとき。私は、『捕まえて』とは言ってないけれど。ふたりは、私を喜ばせるために、うさぎを捕まえようとしてくれたのね。
「でも結局、咳が出るといけないからってメイドに止められて、リアにうさぎを抱かせてあげられなかったのよね。」
「あれって、7歳のときだったか?あぁ。だから次の誕生日プレゼントに、うさぎのぬいぐるみをくれたのか!?リアは、追いかけ回すくらい、俺たちがうさぎを好きだと思ったんだろ?」
「三人で色違いで持ってる、あのぬいぐるみね。リアがうさぎを好き過ぎて、私たちにもうさぎのぬいぐるみをくれたのかと思ってたわ。」
そう…。ラスの言う通り。あのとき。うさぎを見て大騒ぎしていたから、ふたりもうさぎが好きなのかと思ったの…。だからふたりの誕生日に、私の持っているものと色違いのうさぎのぬいぐるみを、つくってプレゼントしたのよ。
10年越しに、私の思い違いに気づいて、ふたりが笑っている。
「さっき、ふたりの力がちっぽけだって、言ってたけどな。ふたりの力を合わせたら、非日常をつくり出せるじゃないか。リアの水を、エスターの風で撒き散らして、虹をつくったり。リアの水で雪を固めて、エスターが風で削って雪像をつくったり。」
エスターに、畑の水やりをお願いされた際に、たまたま虹をつくれただけ。雪像だって、つくったのはエスター。私は、水を出しただけなのよ。でも。子どもたちは、大喜びしていたから、私も嬉しくなったわ。
「まぁ…。大惨事になることも多いけどな。」
「大惨事って、あれでしょ!?ラザラスが、"汚物"まみれになっちゃったやつ!」
「"泥"な!!」
ラスが、泥まみれになったのは。『仕方ない』と言われ、私が、ラスと距離をとるようになって間もない頃だった。
風を暴発させ、大地がえぐれたのを見たエスターは、風の力で、畑を耕せるのでは?と考えたの。それで、試しに、うちの領地の空いてる土地に、畑をつくってみることになって。
私とラス、うちの使用人数人と、近くに住む領民が見守る中、エスターが土の中に風を送ったら…。大量の土が巻き上げられ、その場にいた私たちに降ってきたの。私は、ラスが覆いかぶさってくれて、あまり土をかぶらなかったけれど、みんなは土まみれだったわ。それを見て、"きれいにしてあげなきゃ"って思いが先走っちゃって、みんなに大量の水をかけたの。後先考えずにね…。
水を含んだ土はどろどろになって、泥に足を取られて転んだ人たちはもっと泥まみれに…。私は、バランスを崩したところをラスが引っ張ってくれたから転ばずにすんだのだけれど、その反動で転んだラスは全身泥まみれになってしまったの…。
いくら、『仕方ない』と言われてラスに不信感を持っていたとても、助けてもらっておいてお礼を言わないのは人として間違っているわよね…。
「ラス…。ありがと。大丈夫??」
お礼を言いながら、ラスに手を差し伸べた。
ちょうどそのとき、ひとりの子どもが大きな声で言ったの。
「うわぁー。なんか、茶色くてドロドロして、あれみたいだ。ほらこれ、臭くないけど、うん…ごっ━━。」
その子の母親は慌てて子どもの口を塞いでいたけれど、その場にいる全員が言いかけた言葉を想像したと思うわ。そういう、私もね…。それで。差し伸べた手にラスが手を伸ばした瞬間、思わず私、手を引っ込めちゃったの…。泥だってわかってるのに。
「…リア??」
私を見上げた、ラス。驚いた顔をしていたわ。
「あははっ!やだ、ラザラス。汚物まみれみたいじゃない!!」
エスターが大笑いするから、みんなもつられて笑い出した。それで私も、我慢できなくて笑っちゃったわ。使用人たちは、顔を青くさせていたけれど。
「リア…!?」
泥まみれの手を伸ばしまま、ラスが捨てられた子犬みたいな目をしていた。その目に負けて、ラスの手を掴んだの。…もう一度水をかけてからね。
「リア!1回、手を引っ込めただろ!?」
ひどいなと言いながらも、ラスは笑っていた。
こうして。ラスの前では笑わない。ラスとは距離をとる。そう決意したのに、私はラスの前で笑ってしまったのだった…。
そのあとも。次からは、もう笑わない。ラスとは距離をとる。と、何度も何度も決意し直すことになるのよ…。
「あと。リスを追いかけたときも、散々な目にあったよな。」
「あのリス、すばしっこかったわよね。」
…この流れ。嫌な予感がする。
「ねぇ…。リスも、私のせいで追いかけたの??」
「違う、違う。ただ。リアが、リスをかわいいって言ったから、近くで見せたら喜ぶかと思って、俺たちが勝手にしたことなんだ。」
「そうよ。私たちは、リアの喜ぶ顔が見たくて、好きで勝手にやってるのよ。」
それって結局、私のせいなんじゃ…。ふたりは、どうしてそんなに私を喜ばせたいのかしら。
「リアには、内緒にしてたけど。あのとき本当は、ある花の蜜が咳止めに効くって聞いて、探してたんだ。でも、王都で体調を崩してから笑うことが少なくなってたリアが、リスを見て歓声を上げたから、絶対にリスを捕まえてやるって思ったんだ。」
「私はね。ラザラスの事情なんかどうでもよくて、ただ私が、リアを喜ばせたかったのよ。」
うさぎのときもそうだけれど、このふたりは、いつも張り合っていたのね。先に、私を喜ばせようと…。
「蜂のことは、リアも覚えてるだろ?エスターが木に登ったリスに向かって風を放ったら、蜂の巣が落ちてきて、みんなで蜂に襲われたよな。」
「ええ、覚えてるわ。。大量の蜂の"ブーン"っていう羽音が怖かったもの。」
それで私、悲鳴を上げながらラスにしがみついてしまったのよね。
「だけどエスターは、その蜂を捕まえて養蜂をはじめたのよね。まさか…。蜂蜜も、私を喜ばせるため??」
「喜ばせるためでもあるけど。嗜好品っていうより、蜂蜜は咳止めに効くからな。ちなみに泥まみれになった畑で育ててるのも、咳止めに効く茶葉なんだ。」
「バカラス!!なんで、言っちゃうの。リアが、気を遣っちゃうじゃない!?もう!自分だってリアの咳を止めてあげたいからって、魔力切れで倒れるまで無茶して治癒の力を強化させてたくせに!だけどリアの前では平気な顔しちゃって、この格好つけ!!」
「おまえこそ、なんで言うんだよ!?自分なんか、リアの笑う顔が見たいからって湖畔に別荘まで建てたじゃないか!!」
「なによ!あんたも、領地のどこにいても1秒でもはやくリアのもとへ駆けつけられるようにって、あちこちに橋を架けたくせに!!」
ふたりは、私のためや、私を想ってしたことを、お互いに暴露し合っている。それらを聞かされ、嬉しさよりも、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。年々強くなっていくラスの治癒の力を、すごいって思っていたけど。それは、私のために努力してくれていたから。エスターが、湖畔に別荘を建ててくれたのは、咳が出る心配があって外に出られない私に、室内から湖を見せてくれるためだった。茶葉も、蜂蜜も、咳止めに効果があるから育てていたということを、知らなかった。私のためだったなんて…。
ふたりがしてくれたことに、私はなにを返したらいいの?このままだとお返しする前に、エスターも、私も…。
「あっー!ほら。リアが泣いちゃったじゃない。自分のためだって知ったら感動して、こうなるって思ったわよ。リアは、感受性が強いものね。」
ごめんね、エスター。この涙は、違うのよ。確かに嬉しいけど、感動してじゃないの…。ふたりに、なにも返せないことが悔しい。
「リア。そんなに泣いたら、また目が腫れるぞ。」
抱き寄せられ、ラスの胸にしがみつく。ラスは、私の涙の理由に気づいたのだと思う。だって、ラスの腕が震えているもの。
「…ごめんね。今まで、ずっと…。エスターが、風を暴発させる度…。ストレスを発散させているんだと、思ってたわ…。」
「えぇー!?リアったら、ひどい!」
「まぁ。あの母親にして、この娘ありだよな。」
「ラザラスっ!!リアから、離れなさいよ!」
「やだよ。離れたら、風で吹き飛ばす気だろ!?おまえ。似てるっていうのは、そういうところだからな!」
ふたりの物騒なやり取りを聞いて、肩を震わせ笑ってしまう。
エスターの未来を聞いてから、普通に接することが出来るか不安だったけれど。不安を忘れちゃうくらい、彼女のパワーに圧倒されて、今の今まで泣くのを我慢出来ていた。結局は泣いてしまったけれど。私が感動して泣いていると思ってくれたから、エスターに涙の本当の理由を知られずにすんでよかった…。
私たち三人は、親友で、腐れ縁で、素の自分でいられる関係。代わりなんていない、かけがえのないの存在なの。だから婚約者としてのラスには、冷たい態度をとれるのに。親友としてのラスには、冷たくできなかったのだと思う。
ラスは今、不安を表に出さないよう気丈に振る舞っているけれど、私とエスターがいなくなる未来を見て、内心ではどんな思いでいるんだろう。ひとり残された未来で、捨て犬みたいになったラスが想像出来てしまう…。
いつも涼しい顔をしているけど、本当は甘えたがりで、意外に子どもっぽくて、泣き虫なことを昨夜知ったから。
今までふたりからもらった優しさを返していきたい。もらってばかりじゃ、親友とは呼べないもの。
ふたりにもらったものが多過ぎて、数年じゃ返しきれないわ。だからエスターには、長生きしてもらわなきゃ。もちろん、私自身も。




