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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#7 ラザラスの見た未来

廊下から聞こえてきた足音と、カップとカップが当たる、カチャカチャという音に、俺は、ハッと我に返った。

物置から出ると、エスターがお茶を運んでいるところだった。両手の塞がっているエスターは、リアの部屋の前で、声をかけていた。

「リア、お茶を淹れてもらって来たわよ。」

「…うん。」

中からは、か細いリアの返事が聞こえた。俺はドアを開けると、エスターから、お茶を乗せたトレイを奪うように取り上げた。そして、自分だけ部屋へ入り、エスターが中に入るのを阻止した。閉め出される形になったエスターは目を見開き、"信じられない"とあきれ返った顔をしていた。それからため息をつくと、小声で、『よく話し合いなさいよ。』と言ってドアを閉めた。

リアは窓辺のソファで、毛布に包まって夜空を見ていた。ローテーブルにトレイを置くと、こちらを確認せずに、部屋に入って来たのがエスターだと思い込んで話しかけてきた━━━。



「ありがと、エスター。でも、私ね。やっぱり、眠るのが怖いの…。だから、そのお茶は、エスターが飲んでくれる?」

先程、よく眠れるお茶を淹れてもらうと言って、厨房へ行ったエスターが、戻って来た。

私のために淹れてもらったのはわかっているし、その気持ちは嬉しいのよ。だけど。帰宅してからも、毎晩、エミリオの夢をみては、泣きながら目を覚ましているから眠るのが怖いの。起きていてもずっと、答えのわからない問題に頭を悩ませている。どの選択が正解なのだろう…。そもそも、正解なんてあるのかしら。

そして。私が、たどり着いた答えは…。

「私ね。エミリオのこと、諦めようと思うの…。」

エミリオを産まなければ、私は、ベッドから動けない体にはならず、もっと生きられるかもしれない。

「ラスの愛がなくたって、私がその分以上の愛をエミリオにあげればいい、そう考えてみたのだけれど。でもそれは、私が決めることじゃないのよね。エミリオは、父親の愛を欲するかもしれないもの。だとしたら、父親に愛してもらえないのは可哀想だわ…。」

それに。父親の愛がなくても、私が代わりにたくさん愛してあげて幸せにすればいいなんて、無責任もいいところよ。私には、ラス以上の愛をエミリオにあげることは出来ないのだから。だって私…。幼いエミリオを残して、逝くのよ…。

「ラスも、親に決められた相手じゃなく、自分で選んだ相手となら、幸せになれるだろうし…。私も、ラスが好きな人と幸せになれるように応援するわ…。」

生きるために、ラスとの結婚をやめて、エミリオのことも諦めて。それで命が助かったとして…。私…。ラスが他の誰かと結婚するのを、本当に祝福できるの…?もしも、その相手との間に子どもが産まれて、その子がラスに似ていて、"エミリオ"って名付けられたら…。

そんな未来が訪れたとしたら、正気でいられるわけがない…。

「…やっぱり、嫌よ。応援なんて出来ない…。ラスが誰かと結婚するなんて想像したくない…。でも…でも…。ラスを、私から解放してあげなきゃ…。私は、ラスに与えてもらってばかりで、なにも返してあげられないから…。」

ラスと結婚しても迷惑をかけるだけ…。それは、わかっているのに。だけどもし、出産してもしなくても、私の寿命が変わらないのだとしたら。残り少ない命だからこそ、あともう何年かだけ、私のわがままにラスを付き合わせたらダメかしら??

堂々巡りする自問自答に、私の思考回路は壊れそうだった…。

「それに私…。やっぱりエミリオに会いたい。」

本音が漏れてしまったら、一気に涙があふれ出てきた。

ヒクヒクと泣いていると、また呼吸が乱れ、苦しくて胸を押さえたら━━。

「俺も…、エミリオに会いたい…。」

突然、思いがけない人の声がして振り返ると、すがりつくように抱き締められた。驚き過ぎて、心臓が止まるかと思ったわ。だって…。ここにいるはずのない、ラスの声がいたから。

「…ラス??」

ラスは返事もせず、私の首元に顔をうずめたまま動かない。

(えっ?…なんで??エスターは?…もしかして、これも夢?)

夢かと思って、目の前にあるラスの髪を触ってみると、ちゃんと感触があるの。それに。背中に感じるのは、紛れもなくラスの魔力だった。呼吸が乱れた私に、治癒の力を使ってくれている。

だけど、なんで…。

「ねぇ、ラス??どうしてここに?王都にいるはずじゃ…。いいえ、それより。エミリオに会いたいって…。まさか、殴るつもりじゃないわよね!?」

私は、エスターの話を思い出して警戒した。ラスが、『エミリオを見つけて殴る』と言っていたと、聞いていたから。

「殴るわけないだろ…。俺とリアの子どもなんだから…。」

あぁ。エスターに、私の夢のことを聞いたのね。エミリオの正体も…。ラスとの子どもを想って、泣いていたことを知られてしまい、羞恥心でいっぱいになった。

「髪の色は俺と一緒で、顔も俺に似ているけど、瞳の色は、ブルートパーズみたいな水色だよな。俺の青色と、リアの翡翠色を混ぜた色だ…。」

確かに瞳の色は、ラスよりも淡い青色だと思ったわ。そっかぁ…。エミリオの瞳の色は、私たちの瞳の色が混ざった色だったのね。

(あれ…??でも、待って…。)

私は、エミリオの容姿について、エスターに話していない…。だって。夢に、ラスとの子どもが出てくるって、話すのでさえ恥ずかしかったのよ?その上、その子が、ラスに似ているだなんて。私が、ラスに似た子どもを欲しがってるみたいで恥ずかし過ぎるから、話せなかったの。

それなのに…。ラスは、どうしてエミリオの容姿を知っているの?それも私でさえ気づかなかった、エミリオの瞳の色まで正確に…。

エミリオの容姿を知る方法。それは…。

「もしかして、ラス…。姿見を見たの…?」

顔を上げたラスと視線が合うと、彼の瞳は揺れていた。

「…ああ。見たよ。そこで、エミリオと会った。」

「どうして…。だって、エスターは見えなかったって言っていたのに…。ねぇ…。ラスは、なにを見たの??」

本当は、ラスが見た未来が私と同じだったらと思うと、聞くのが怖い…。けどね、それ以上に。ラスが見た未来に、エミリオが存在した。その事実に、期待で胸が高鳴っているの。

私のつくり出した架空の人物じゃない。空想でも幻想でも妄想でもなく、私とラスの未来にエミリオはいるって━━━━━━━。




物置でふらついた俺は、意図せず姿見を見ることになった。そこに映った、あまりにも情けない自分の顔を眺めていると……。


気づけば俺は、馬に乗っていて、手綱を力強く握り締めていた。見覚えのある景色を通り過ぎ、橋を渡り、薬草畑を駆け抜ける。そして町に入って、ロックハート侯爵邸へと向かう。

さっき通って来たばかりの道を、再び通っている現状に戸惑っていると、リアの家に着いた。門番が、『おかえりなさいませ。』と門を開けてくれたが、吐いた息は白くなかった。不思議に思いつつ馬小屋へ行くと、厩番がすたすたと歩いているのが目に入った。『腰は大丈夫なのか』と訪ねたら、『いつの話をしているのですか』と笑っていた。

先程と同じようで、違う…。既視感を覚えながら屋敷へ入り、階段を駆け上がった。そして。廊下で遭遇したのは、エスターではなかった。

「とうさまっ!!おかえりなさい。」

「ただいま。遅くなって、ごめんな。エミリオ。留守の間、母様を守ってえらかったな。」

そう言って俺は、自分によく似た子どもの頭をなでてやった。

(この子ども、エミリオっていうのか。…いや待てよ。エミリオだって??まさか…。この子が、リアの言っていた、"あの"エミリオなのか?)

「とうさま…。かあさまをたすける、おくすり、ありましたか??」

「…っ。ごめん、エミリオ。そんな奇跡みたいな薬、見つけられなかったんだ。」

俺は、罪悪感と不甲斐なさに下唇を噛んだ。

「リオ。母様のところへ行こう。」

エミリオを抱き抱え、リアのもとへ向かう。そしたら、リアは…。自分が死んだのかを確かめに帰って来たのかとか。自分が死んだあと、再婚しても、エミリオを愛してあげてだとか。挙げ句の果てには、プレゼントだと言って、離婚証明書を渡してきた。エミリオには、何通もの手紙が用意してあったのに…。俺は、離婚証明書をビリビリと破った。リアと別れる気なんて、これっぽっちもないからな。けど…。現実は残酷だった。紙切れ一枚破ったところで、結局、リアとの別れを変えられなかった…。

リアとの、永遠の別れを、阻止することは出来なかったんだ━━━。



「未来の俺は、医術でも薬でも、魔道具でも、怪しげな術でも、なんでもいいから、リアを助ける方法をあちこち探し回ったんだ。けど見つけられず、落胆して帰宅したら、リアに離婚証明書を渡されていた。なんとも、憐れだったな…。」

「そうだったの…。何週間も帰って来なかったのは…、私を助ける方法を、探してくれていたからなのね。」

帰って来ないのは、他に想う人が出来たからだとばかり思っていたわ…。

「…ラス。疑って、ごめんね。」

「謝るのは、俺の方だ…。リアを…、助けられなかったんだから。うちの医術も、薬も効かなくて…。最後には藁にもすがる思いで、神殿で祈祷したり、魔道具屋を巡ったり、存在するかもわからない奇跡の石やら果実やらを探してた。医者が、治療を諦めて神頼みなんて、笑えるだろ?」

そう言うと、ラスはまた、私の首元に顔をうずめた。力強くしがみつかれて苦しいけれど、押し返すことは出来なかった。だって…。ラスが、すごく震えているから。抱き締められ、体が密着しているところから、ラスの心臓が早鐘を打つのが、伝わってくる…。こんなに、心臓がはやく動いていたら、苦しいわよね…。

「ラス…??大丈夫?」

「…なんで、人の心配なんかしてるんだよ。…あんな未来を、見たのに。自分の心配をしてくれよ…。」

「ねぇ…。泣いてるの…??」

声をかけたら、しがみつく力がさらに強くなった。気持ちが落ち着くように、ラスの背中をさすってあげる。いつもと逆な、今の状況に気づいて、思わずふっと笑ってしまう。

「…なに笑ってるんだよ?」

私の首元にくっついたまま、こちらを見上げたラスは、怪訝そうな顔をしていた。

「ふふっ。だって、いつもと逆なんだもの。いつもは、ラスが背中をさすってくれてるでしょ?」

「全然おもしろくない…。人の気も知らないで…。」

ラスが、ふてくされたところを見るのは、はじめてじゃないかしら??なんだか新鮮で、かわいく見えちゃって、ラスの頭を何度もなでた。

「よしよし。ラスも、たまには泣いてもいいのよ。」

「リア…。」

ラスは、私の胸に顔をうずめて、声を押し殺して泣き出した。

「…リア。動いてる…。リアの心臓…。」

そう言うと、また抱き締める力が強くなった。

…ラスは、姿見に映った未来で、私の心臓が止まったのを確認したんだわ。だから、今。私の心臓が動いていることに、安心しているのね…。

「ごめんね、ラス。私、自分のことばっかりで、残されたラスの気持ちを考えてなかったわ…。」

私は、ラスの頭に腕をまわし、抱き締めた。ラスは泣きながら、何度も私の名前を呼んでいた…。

「いくら、恋愛感情がなくったって、私たちは家族で友達だもの…。身内が亡くなったら、ラスだって辛いわよね…。」

「…リア!?」

私を見上げたラスの表情が、先程と同じく、なぜか怪訝そうだった…。

「恋愛感情がない??」

「だって私たちは、生まれたときから一緒にいるじゃない??だから。きょうだいみたいな関係なのかなぁ?と思って……。ラ…ラス??怒ってる?」

話してる途中から、ラスの目がスンとなって、怒ってるように見える…。

「リア。さっき、俺が好きな人と幸せになれるように、応援するって言ってたよな。」

「…えぇ。言ったわね…。」

「なら、応援してくれよ。フィリア・ロックハートが、俺の気持ちを、ぜっ〜んぜん、わかってくれないんだ。俺が、こんなに想ってるのに、他に好きな人がいるって思い込んでるし。その好きな人が、自分のことだとは、なぜ思わないんだろうな?なぁ、リア。応援してくれるんだろ??教えてくれよ。どうしたら、伝わると思う??」

私の胸に顔をうずめたラスが、上目遣いで訴えかけてくる。

「なあ?リア??」

そんな、かわいくお願いしてくるのは、ズルいわよ。甘えてくるラスに、戸惑っちゃう。だってこれまで、ラスに甘えられることなんてなかったから。

「でも…。ラスは、私との結婚を"仕方ない"と思ってるんでしょ!?親に決められたから、仕方なく、私と結婚するのよね??」

「仕方ないなんて思うわけないだろ。俺が結婚したいと思う相手は、リアだけだ。リア以外、考えられない。たとえ親に反対されたって、リアと結婚するに決まってる!」

「だけど…。ラスは、私との婚約は、親が決めたことだから仕方ないって、お友達たちに言っていたじゃない!?10歳のとき、王都で開かれた交流会でのことよ。忘れちゃったの??」

「あいつらは、別に友達じゃない。家同士、取引関係にあるだけだ。リアは、気づいてないけどな。あいつら全員、リアに気があるんだ。だから、仕方ないっていうのは、あいつらに言ったんだよ。」

ラスの言ってること、じつは、よくわかってないの…。だけどここで、「意味がわからない」なんて言ったら…。ものすごく大きなため息をつく、ラスの姿が目に浮かぶわ。『仕方ない』の真意は、理解出来ていないけれど、私が思っていた意味ではないことはわかった。つまり…。私は、勘違いをしていたの。それで、ひとりで傷ついて、怒って、冷たい態度をとってきたなんて…。

「んっ…??10歳の、王都での交流会って…。まさか。リアが体を壊した、あのときのことか!?もしかして、俺の言ったことが原因だったのか?ああ…。だから、会ってくれなかったんだな…。」

「…ごめんなさい。ラスがお見舞いに来てくれたのも、婚約者として仕方ないからなのかと思って…。気持ちはないのに、義務感だけで会いに来られても嬉しくなくて…。だから、会いたくなかったの。何度も会いに来てくれたのに、ごめんね…。」

「俺もごめん…。リアの態度が変わったことに、気づいてたのに、俺の都合で話を聞いてやらなくて…。ところでさ…。リア…。今回、贈ったドレス、気に入らなかったのか??なんで…、物置に置いてあるんだよ…。」

ラスの泣きそうな顔に、罪悪感で胸がぎゅーっと締めつけられる。贈られたドレスを着ないことにしたのも、私が勘違いをしていたせいだから…。

「ほらこの前のお茶会で、ラスに好きな人がいるか聞いたじゃない??そしたら、お茶を吹き出したから、ラスには、好きな人がいるんだって確信したの。だから、着ないことにしたのよ。だって、ラスの瞳の色のドレスを着ていたら、あなたの想い人が、私たちの仲を勘違いしちゃうと思ったから…。ね…、ラス??」

ラスのまぶたがどんどん下がってきて、あきれたような目を向けられている。

「リアの妄想…、想像力には頭が下がるよ。俺の想い人に気を遣って、ドレスを着ないだなんてな…。俺の想い人も、リアの優しさに感謝するだろうな。ものすご〜くな。そうだろ、リア??」

「ラ…ラス??怒ってる?」

ラスがまた、私の胸に顔をうずめてしまって、返事をしてくれない。

「ねぇ、ねぇ。ラス?」

「………。」

どうしよう…。本当に、怒っちゃったみたい。

それは、そうよね。贈ったばかりのドレスが、物置にしまわれてるのを見たのだから…。私だったら、絶対にふてくされるわ。それも、ものすご〜くね。『もう一生、贈り物はしないんだから!!』って。

「ねぇ、ラス。ラスってば。もしも〜し?ふてくされちゃったの??ふふっ。ラス、子どもみたい。よしよし。お姉さんが、大人気なかったわね。ごめんなさい。それから。ドレス、ありがとう。」

「…お姉さん??」

ガバっと私を見上げたラスは、またまた怪訝そうだった。

「きょうだいみたいな関係って、まさか、俺が弟なのか?」

「えっ!?だって、私の方が先に生まれたんだから、私が姉で、ラスが弟でしょ??」

「出逢ったときのエスターと同じこと言うんだな…。」

不満そうに、ラスがふくれっ面をしてる。それでも。しがみついたまま、私から離れようとしないの。

「リアは、危機管理が足りなすぎるんだよ。こんな薄い夜着一枚なんかで、身を守れると思ってるのか?」

「そうよね…。寒さの本番はこれからだけど、もう肌寒くなってきたもの。私の天敵の、冷気と乾燥、寒暖差に気をつけなきゃいけないわよね。これからは、もう少し暖かいナイトドレスを着るわね!!」

「…それは、そうだけど。違う…。」

そうだけど、違うって、どっちなのよ。

「俺、さっきから、リアの胸に顔を押し当ててるんだけど…。リアは、なんにも思わないのか??」

「うーん。ラスって、意外と甘えん坊??」

「それも…、そうだけど、違う…。」

「もう!そうだけど、違うってなによ!?」

「リア…。俺、初夜まで待てない…。」

初夜??急に??結婚式はまだ先なのに。唐突に、初夜の話をされ戸惑っていると、私の首筋にラスの唇が触れた。

「ラス??なに?くすぐったいわ。」

「リアは、相変わらず過敏だな。なら、ここは?」

そう言ってラスは、私の脇腹を触った。ラスの手から逃げようと、私は、笑いながら身をよじらせた。そんな私の姿を見て、ラスが笑ってる。

「なぁ、リア。初夜で、なにをするか知ってるか??」

なんだかバカにされているようで、ムッとしちゃう。

「結婚してから、はじめて、ふたりで過ごす夜のことでしょ??…そういえば。お母様が、なにをするかは、ラスに聞きなさいって言っていたわ。」

「丸投げってことだな…。」

ラスは、なにか吹っ切れたようで、私を抱えて立ち上がった。そのまま運ばれ、ベッドへ下ろされた私は、慌ててラスを止めようとした。

「ラス、待てっ!」

腕を伸ばし、必死に体を押し返そうとしたら、ラスが目をまるくしていた。

「えっ…、リア?なんだよ今の『待て』って??」

「エスターにね、言われていたの。もし、結婚式の前に、ラスが一緒のベッドで寝ようとしてきたら、『待てっ!』って言うようにって。」

「エスターのやつ。俺は、犬かよ…。けど、あいつの目論見は外れたな。俺はさっき、切り札を手に入れたから。なぁ、リア。はやく、エミリオに会いたいよな?」

エスターから、結婚式が終わるまでは、ラスと部屋にふたりきりになるのも、同じベッドで寝るのもダメだって、何度も言われていたのだけれど…。

「俺は、はやくエミリオに会いたい。リアは、違うのか??」

「私も、エミリオに会いたいっ!」

そう答えると、ラスがにっこり笑うから、私もつられて微笑んだ。

「リア…。好きだ。俺は、ずっとずっと前から、リアのことが好きなんだ。」

「…ラス。私も、好き。ラスのことが好き…。」

ラスの想いを聞いたら、私も、自分の気持ちを素直に口に出せた。エスターに言われたときは、素直な気持ちなんて口に出せないって思ってたのに。私が、好きだと伝えたら、ラスは幸せそうに笑った。

「あんな未来には、絶対にさせないから…。」

ラスの瞳から、強い意志が伝わってくるから、その青い瞳から目が離せなかった。そして。だんだん、青い瞳が近づいてきて…。唇と唇が、重なった━━。


それから。

ラスは、エミリオに会うためには、神聖な儀式が必要だって教えてくれたわ。それは、はじめは痛みを伴うらしいの。治癒の力で痛みを消すことはできるようだけれど、ラスは、少しの間だけ、あえて私にその痛みを感じて欲しいとお願いをしてきたわ。私たちが、はじめてひとつになった??感覚を、ずっと覚えていて欲しいのですって。

いつも、私から痛みを消してくれるラスが、痛みを感じて欲しいって言うのだから、それなりの理由があるのよね。本当は痛いのは嫌だけど、すぐに治癒してくれるって言うから、ラスの言う通りにすることにしたの。


あとになって。

ラスって狡猾だったんだって、気づいたわ…。

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