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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#5 幸せな夢は、目覚めて夢だと気づいた瞬間に絶望が訪れる

もうすぐ王宮で、舞踏会が開かれる。

私たちも参加するため、もともと一緒に王都へ向かう約束をしていて、エスターが私の家へ寄ることになっていたのだけれど…。一刻も早く話を聞いてもらいたかった私が、エスターが家へ来るのを待ちきれずに伯爵邸を訪ねたから、予定を再調整したの。

これからの日程は。今晩は、エスターの家に泊まり、明日、私の家へ移動して一泊する。そして次の日王都へと出発し、天候にもよるけれど、タウンハウスには3日ほどで到着する見込みでいる。

今の体調を考えると、ラスが同行してない状況で3日も馬車に揺られるのは、正直言うと不安がある…。


その夜。私たちは行儀悪く、ベッドの上でお茶やお菓子を口にしながら、時間を気にせず語り合った。

「ねぇ、ねぇ。エスターの話も聞かせてよ。最近、お相手探しに進展はあったの?」

「候補は何人かいるのよ。でもねぇ。完璧な人って、そうそういないものね。やっぱり、私の理想が高過ぎるのかしら?」

「理想が高いというか…。エスターの場合、条件が多過ぎるのよ。あれを全部満たす人なんているのかしら??」

『かしら?』と聞かれたことに、『かしら?』を返したら、エスターはニヤリと笑った。

「ねぇ、リア。完璧な人が見つからないからといって、妥協する私なんて、想像出来る?」

「……出来ないわね。」

想像は、出来ないけど。だからと言って、条件を満たす人が見つかるとも思えないのよね。

それに、たとえ見つかったとしても…。私は、素直に祝福出来ないかもしれないわ。エスターの求める完璧な結婚相手というのが、ものすごく変わった条件だから…。

伯爵家には、子どもは、エスターひとりだけ。本来なら、我が家のように婿に入ってもらい、相手が爵位を継ぐのが定石だけど…。

これまでエスターへ届いた求婚状は山ほどあったのに、伯爵様はいまだに結婚相手を特定していない。ご両親は、後継者問題をどう捉えているのかしら。

本人は、口出しされないのをいいことに、数年前から自分で理想の相手を探しはじめた。でも。探しているのは、後継者になってくれる相手ではなく、自分が幸せになれる相手。エスターは、伯爵家を出るつもりでいるから。そうなれば、伯爵家には後継者がいなくなるとわかった上でね。それは、貴族の役目を放棄する行為だけれど、私は、エスターの幸せを応援するわ。

だから。貴族の義務なんていいから、一日も早くこの伯爵家を出て欲しい…。


おしゃべりをしていた私たちはいつの間にか、ふたりして眠りに就いていた。

だけど。今夜もエミリオの夢をみて、目が覚めてしまった。夢の中で、『かあさま』と呼びながら、エミリオが笑顔で駆け寄って来る。ものすごく幸せな気持ちになる夢だった…。だからこそ、目が覚めて夢だったと気づいたとき、絶望が大きくなるの。あの幸せを手にすることは出来ないのだと…。どんなに幸せでも、夢は、しょせん夢だから…。

エスターを起こさないよう、そっとベッドから抜け出し、窓辺に腰をかけた。窓から、伯爵領を見渡すと、この地での思い出が浮かんでくる。


エスターと、はじめて言葉を交わしたのは、6歳のとき。うちの領地でのことだった。

家に来ていたラスと町へ向かっている途中で、伯爵家の馬車が立ち往生しているところに遭遇したの。そういえば、あのときラスは、エスターからなにか言われて怒っていたわね。ラスってば、なにを怒っていたのかしら。

その後私たち三人は、仲良くなり、互いの領地を行き来するようになった。この伯爵領にも、数え切れないくらい足を運んだわ。その分だけ、思い出が増えた。

エスターはよく、この領地のことを、『何もない』と言っていた。そんな彼女に、私は、この地の好きなところを教えたの。伯爵領には、季節によって色を変える山がある。その山にはいくつもの滝があって、それらはやがてひとつの川に流れ着く。その川は流れ流れて、私とラスの住む領地の境をまたいでいくの。

"私たちの住む領地は、川で繋がっている。"

そう思うと、なんだか素敵だと思わない?

そして。私の一番のお気に入りの場所は、湖だった。それは、ものすごく大きくて、きれいな湖なの。晴れた日は、きらきらと太陽の光が反射し、夕暮れ時には、茜色や黄金色に染まる。夏には、山の緑、秋には、紅葉が湖面に映し出されるの。湖面に映れば、ただの雲や、木々でさえ、その美しい水鏡に心が踊ったわ。冬にはね、真っ白な雪景色が広がるのよ。いつ訪れても、それぞれの季節のよさを見ることが出来るから、私はこの湖が大好き。そう、エスターに伝えたの。

それから、数年後。ものすごく幸せで特別なひとときを、この湖で過ごしたの。それは、ラスと見た星空━━。

あれは、10歳のとき。

空気がキーンと冷えた、寒い冬の夜のこと。湖を訪れていた私たちは、伯爵邸ではなく、湖畔にある別荘に泊まっていた。

みんなが寝静まると、ラスがこっそり私を起こしたの。ラスが、『しーっ』と静かにするよう、人差し指を口元に当てていたから、私も、『うん』と頷いて、人差し指を口元に当てた。私たちは足音を立てないよう静かに歩き、誰にも気づかれずに別荘を抜け出すと湖へやって来た。

「きゃーっ!?見てみて、ラス。星がこんなに、たっくさん、きらきら光ってる!!」

「リア、もう少し静かにな。」

そう言いうと、ラスはまた人差し指を口元に当てた。感動している私を見て、穏やかな笑みを浮かべているラスは、敷物を敷いて座ると毛布に包まり、私を招き入れた。

「リア、大丈夫?寒くない??」

「大丈夫。寒くないわ。この毛布、保温の魔法がかけられてるのね。」

「咳は出ないか??」

「咳も大丈夫よ。熱の魔石のおかげで、ランタンが暖炉みたいにまわりの空気を暖かくしているもの。それにラス、別荘を出るときから咳が出ないように、治癒の力をつかってくれてるでしょ??いつも、ありがとう。」

小さい頃から私は、季節のかわり目や、寒暖差が大きい日に咳が止まらなくなってしまっていた。その様子を何度も見てきたラスは、その度に背中をさすってくれた。はじめは治癒の力が弱く、咳を止めることは出来なかった。そのことを、ラスは申し訳なさそうに何度も謝っていたわ。

月日が経つにつれ、ラスの治癒の力は強くなっていき、背中をさすられてから、咳が止まるまでにかかる時間はだんだん短くなっていった。そのおかげで私は、ラスと一緒なら遠出を許してもらえるようになったの。

こうして、エスターのもとを訪ねることが出来るのも、こんなにきれいな星空を見ることが出来たのも、ラスのおかげなの。

でもね。治癒の力なんてなくても、ラスが背中をさすってくれるだけで、私の心は癒やされていたのよ。


「あっー!流れ星!?ラス見た??星が、たくさん流れていく。」

生まれてはじめて見た流れ星に、私は興奮して、ラスの首にしがみついた。

「ねぇ、見て!!湖にも、流れ星が映ってるわ!」

見上げれば、満天の星。視線を下ろしても、湖面いっぱいの星。

「天も地も、星でいっぱいね。まるで、星の世界にいるみたい。」

大はしゃぎする私とは対象的に、ラスの反応はない。

「ラス??」

不思議に思い、顔をのぞき込もうとしたら、目の前にラスの顔があって、こちらを見ていた。ほんの数センチの距離で目が合い、ラスの瞳に吸い込まれてしまいそうだった。時間が止まったような静寂に包まれたふたりだけの星の世界で、見つめ合っていると…。ラスの顔が、近づいてきて、唇と唇が重なった━━。

このとき。私は、世界で一番幸せなんじゃないかって、本気でそう思っていた。


けれど。はじめてのキスから、2週間も経たず。

王都で開かれた、同年代の子どもたちとの交流会でのことだった。そこでラスは、友人たちに、私との婚約は、親に決められた仕方ないことだと言ったの。ラスにとって、婚約も結婚も仕方のないことだったのよ…。

あの、星の世界も。世界一幸せな私も。夢や幻だったと気づいた瞬間、絶望が訪れた。ラスが、背中をさすってくれたのも。星空を見せてくれたのも。笑顔も優しさも、全部、仕方なくしてくれたことだったのよ…。

あんなにきらきらしていたラスとの思い出が、真っ黒に塗りつぶされていった。


そのあと。泣き続けた私は、体調を崩した。

馬車での移動にたえられる状態ではなく、領地へ帰ることが出来ず、しばらくタウンハウスで療養することになった。

咳が止まらないのは苦しいのだけれど、王都へ残ることになって、ほっとしていたの。領地へ帰ったラスとは、これでしばらく顔を合わせなくてすむから。

それなのに…。数日後。ラスは、わざわざ王都へ戻って来た。

私を治療してくれている医師の助手をしていたのが、ラスのお兄様だったの。兄のルーカス様に、私の状態を聞いたラスは、お見舞いに来てくれたの。だけど会いたくなくて、あれこれ理由をつけて面会を断り続けたわ。だって、ラスの顔なんて見たくなかったんですもの。泣き腫らした顔を見られるのも嫌だった。ラスに背中をさすってもらうのも…。

それから。ラスに向かって、『お見舞いに来たのも、背中をさすってくれるのも、どうせ仕方なくなんでしょ!?』と口走ってしまいそうなことも怖かった。私は、ラスの言葉で傷ついたけれど、ラスを傷つける言葉を口にはしたくなかったから。だってこれまでを振り返ってみたら、私は、ラスにしてもらってばかりだったと思い知ったのよ。ラスは、背中をさすってくれて、治癒の力で咳を止めてくれる。私を外に連れ出してくれて、いろんな景色を見せてくれた。

それに対して。私が、ラスにしてあげたことを思い出そうとしたけれど…。ただのひとつも、見つけられなかった…。

嘘つきなラスのことも、ラスに甘えるばかりだった自分のことも、大嫌い…。


王都で療養していた私は、お母様が、『体が弱いところが、私に似ちゃったのね。ごめんなさいね、リア。丈夫に生んであげられなくて…。』と、泣きながら自分のことを責める姿を見て、このままじゃいけないと思ったの。ただでさえ、私の力は役に立たないのに、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないもの。

だから…。私も、ラスとのことを、『仕方ない』と思うようにしようと自分に言い聞かせた。相手のことが大嫌いでも、気に入らなくても、私たちの結婚は、親が決めたことだから、仕方ないことなのだと。そう割り切れば、これ以上傷つかないと思ったの。

そして。王都での3ヶ月の療養を終えて領地へ戻ったら、ラスがすぐに家を訪ねて来たわ。心配そうな表情で、手には快気祝いの花束を持ってね。上辺だけ見れば、本当によく出来た婚約者様よね。けど、『仕方ない』って本音を聞いてしまった私は、ラスの行為に冷めた気持ちになっていた。お願いだからこれ以上、いつわりの優しさで、私の心をかき乱すのはやめてよ…。この表情も、この優しさも、この思いやりも、どうせ仕方なくしていることだって、わかっているのよ。

だから。『元気になってよかった』と、ラスに抱き締められても、勘違いしないように感情を無にしていた。冷めた態度をとることで、必死に自分の心を守ろうとしたの。

でも結局、上手くはいかなかったのだけれど…。エスターと三人でいると、ラスと普通に接してしまうから。それでもそれは、婚約者というより、友達として。

それに。距離をとりたいと思っていても、体調を崩して以降、ラスが一緒じゃないと近場でさえ、両親に外出を許してもらえなくなってしまったのよ。だから出かけるときは、いつもラスと一緒。エスターの家へ行くのもね。ふたりきりの馬車の中は、お茶会同様、目的地に着くまで沈黙が続くわ…。

体調を崩すことが少なくなり、ひとりでの外出が許可されるようになったのは、ここ2、3年のことよ。でも、エスターの家を訪ねるときは、ほとんどがラスと一緒だった。


改めて思い返してみると…。ラスに、外出の同行を断られたことは、一度もなかった気がする。



エスターの部屋の窓辺に座り、夜空を眺めていると、あの夜ほどではないけれど、たくさんの星が輝いているのが見える。

あれはちょうど、今くらいの時季だったっけ。もう、8年経つのね…。今でも、あの星空が目に浮かんでしまうのが悔しい。あのとき。"この光景を絶対に忘れない。"と、目に焼き付けた私は、簡単に、あの星空の世界に戻ってしまう。真っ黒な思い出になったはずなのに、残り火みたいに8年もくすぶっていて、時々激しく燃え上がるの。

忘れたくて、忘れたくなくて、忘れられない思い出…。


しばらくの間、星空を眺めた私は、夢をみないことを願いながらベッドへ戻り、エスターの隣に横になった。


「リアっ!?ねぇ、起きて、リア!」

「…リオは??」

「リオ…??あぁ、エミリオのことね。…また、夢に出てきたのね。」

エスターに起こされ、夢から覚めたら、現実と向き合わなくてはいけない。

(あぁ…。ここには、エミリオはいない…。)

「リア。我慢しないで、泣きなさいよ。」

エスターは、私を横向きにすると、ゆっくり背中をさすった。…ラスみたいに。

「夢をみて泣くなんて、どんな悲しい夢だったのよ。」

「……幸せな、夢よ。」

「泣くほど幸せな夢だったのね。リアは、エミリオのことが、よっぽど、かわいいのね。」

(そうなの!エミリオは、と〜っても、かわいいのよ。)

うんうん頷いていたら、エスターの笑い声が聞こえた。

「ところで。"エミリオ"って名前は、誰が付けたのかしらね。女の子だったら、"エミリア"って名付けるラザラスを想像出来るのだけれど。だって、あいつ。いつも、『リア、リア。リア、リア。』って、リアのことばかり話してるんだから。絶対に、"リア"の付く名前にするわよ。」

エミリオのいない現実に、喪失感でつぶされそうになっていたのに。エスターが、まるで、エミリオが存在しているみたいに話しているから、心が救われる…。

「あら…??『リア、リア。』言ってるのは、私も同じだわ。」

ふたりで、『リア、リア。』言っているなんて。私のいないところで、ラスとエスターは、どんなふうに私の話をしているのかしら。

「リア、苦しくない?ただ背中をさするなんて、気休めよね。こんなことしか出来なくて、ごめんね。私には、あいつみたいな治癒の力はないから。こんなとき、私の力なんて役に立たないのよ。」

エスターが申し訳なさそうに謝るから、私は首を振った。

「そんなことない…。背中をさすられると、すごく落ち着くのよ。それに私は、エスターの力、すごいと思うわ。役に立たないって言うなら、私の力の方…。」

「私たちの力なんて、そう大差ないじゃない。だって、水と風よ??まぁ。ラザラスの力と比べちゃうと、ちっぽけに思えちゃうわよね。」

「ちっぽけって。ふふっ。でもそうね…。」

私たちの力はちっぽけだと、エスターが開き直るから、吹き出してしまった。

人々の病気やケガを治すラスを、心から尊敬している。でも、その反面。私は、水を出すだけの自分の能力と、ラスの治癒の力を比較しては、劣等感を抱いてしまうの…。


ほとんど眠れないまま朝が訪れた。

今朝も、食欲のなかった私は、『家に来てから、お菓子しか食べてないじゃない!しっかり、食事を摂りなさい!!』と、エスターに叱られちゃったの。それでもあまり食べられず、朝食を終えた。

そして、朝食のあと…。

王都へ行く準備をしているところへ、伯爵様が帰って来たの。

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