#41 氷のチャペル
氷のチャペルを建造しはじめてから、1ヶ月。
「もう、ほとんど完成してるじゃないか。」
ラザラスは、チャペル内を見回して驚いている。
「そうよ。今は、感染症が流行していて出歩けないじゃない。それで。氷を削るのに専念していたからね。もうほぼほぼ完成しているわ。」
年が明けてすぐ、たちの悪い風邪が流行し、ラザラスはその対応に追われていたため、ここへ来たのははじめてだった。
ヴェルナー辺境伯領は、人の行き来が少ないから感染症を発症する者はいなかった。私とウィル様も、感染源を持ち込まないようヴェルナー領から出ずにいたからね。
リアとエミリオも、ずっと辺境伯邸に滞在していたわ。体の弱いリアが感染症に罹ったら大事になるから、心配したラザラスが、リアを辺境伯邸に送り出したの。
昨夜、自分がこちらへ来る際には、自身へワクチンを打ち、感染が広がらないよう徹底していた。
「ラス。感染症は本当に落ち着いたの??」
「ああ。今回の感染症に効く薬ができたんだ。ワクチンと、その予防効果を高める補助剤もな。薬は、魔道具がフル稼働で量産しているから、人々に行き渡れば次第に落ち着くだろう。」
「特効薬ができたのはよかったけど、薬だけじゃなく、ラスも患者さんを診てあげた方がいいんじゃない?」
「俺は、特効薬に、ワクチンと補助剤を製造したんだんだから、役目を果たしているだろ。薬だって、俺の代わりに魔道具が量産しているから、問題ない。だって。ロックハート家の仕事は、薬をつくることだからな。」
「そうね。感染症が流行り出してから、わずかな期間で特効薬をつくったのは賞賛に値するわ。そのやつれ具合からして、かなりムリしたんでしょう。一刻も早くリアに会うためにね。まさかとは思うけど、イーサンとネイサンから没収した"例の"魔道具を使ったの??」
ラザラスの沈黙が、肯定を表している。
こいつ、イーサンとネイサンがつくった、不眠不休不食を可能にする魔道具を使ったのね。それで、特効薬とワクチンをつくるところまでが自分の仕事だと割り切っているのよ。ご大層な治癒の力を持っているにもかかわらずね。
「確かに今は、ロックハート家の人間だけど。あんたの生家のエヴァンス家は、医者の家系じゃない。」
「そうよ、ラス。あなたの力を必要としている患者さんは、たくさんいるはずよ?だから。何日か休息したら、苦しんでいる人たちを助けに行ってあげてね。お義父様やルーカス様も、ラスの力を頼りにしていると思うわ。」
「リアがそう言うなら、仕方ないな…。」
「治癒の力を持ち、薬もつくれるラザラス殿が、宮廷医に推薦されるのも頷けますね。そしてそれを、陛下に却下されたわけも理解できました。必要最低限の仕事を終えたら、フィリアさんのところへ帰ってしまうからですね。」
「こいつは、リアに会いたい一心で、わずかな期間で特効薬をつくったんですのよ。昨夜、リアとエミリオと会ったときなんて、まるで何年も離れ離れだったような再会ぶりでしたわよね。」
感染症の流行が終息していないのに、リアに会いに来ているラザラスは開き直っていたわ。
「収束してきているんだから、俺が現場にいなくても終息するだろう。それに俺は、お祖父様のように王宮に縛られるのは、ごめんだからな。」
「それはわかるわ。私も、王宮勤めなんてお断りよ。リアに会う時間がなくなるものね。」
「あはは。陛下の見解通りですね。僕も、おふたりに、王宮勤めは向いていないと思いますよ。」
私だって、陛下の犬になるのも、王子殿下の妃になるのも嫌だわ。陛下は、私を王子妃にすることで手綱を握り、私の持つ情報や事業を国のために活かしたかったみたいだけど。
「それにしても。内装まで氷でつくるとはな。シャンデリアに、祭壇、柱、花瓶、花まで。でも。ステンドグラスと椅子は氷じゃないんだな。わざわざ運んだのか??」
「そうよ。氷の椅子だと、敷物をしても足元から冷えちゃうの。だからって、式をささっと終わらせるわけにもいかないじゃない。それで、辺境伯様とお母様に運んでもらったの。ステンドグラスも一緒にね。」
「辺境伯様とシルヴィア様に運ばせたのか!?いくら、転移魔法陣があるからって…。もしかして。それが、シルヴィア様への罰なのか?」
「違うわよ。辺境伯様が運んでいるから、手伝ってくれただけよ。だいたいお母様は、私に悪いことしたなんて思ってなさそうじゃない。だからね。罰じゃなくて、お願いをしたのよ。イーサンとネイサンの見守りをね。」
「…うわぁ。それ、最悪の罰じゃないか。」
今。イーサンとネイサンの関心は、転移魔法陣に向いているの。私たちは舞踏会の最中、王宮内にあると言われる転移魔法陣を探し出したのよ。そして、見つけた魔法陣をリアが暗記して、あとから紙に書き出したの。それを見て、イーサンとネイサンが転移魔法陣を完成させたのよ。
ひとつ目の転移魔法陣は、ヴェルナー辺境伯邸とチャペルを繋げたわ。これから、この転移魔法陣を各地と繋げていく予定なの。そうすれば、移動時間の心配がいらないから、遠くの場所に住む方にも結婚式に列席してもらえるでしょう?魔法陣に魔力を組み込むから、魔力量の少ない人も転移できるしね。
ただね。私の頼みごとと、双子の興味が一致したのはいいんだけど。ふたりの悪い癖が出ちゃってるのよね。ふたりは、寝食もせずに、夢中になって魔法陣を研究しているの。少ない魔力で遠くまで転移させるかとか。転移酔いを防ぐ方法とか。いかに美しい魔法陣を描くか??とかね。だから。腹違いの弟たちの見守りを、お母様へお願いしたのよ。
「ヴェルナー邸での、シルヴィア様の様子を見ていて思ったのだけれど。イーサンさんとネイサンさんに対しては、言いたい放題よね?王都では、ハンスさんとミアさんを相手に、ものすごく他人行儀だったのよ。」
「ハンスたちはね、男爵家の人たちを敬っているんだけど、度が過ぎるのよ。神でも崇めるみたいにね…。だから。お母様もどう接したらいいかわからず、昔から困惑しているのよ。それと。イーサンとネイサンは、他の使用人たちとは違うってことを知らなかったの。お母様が嫁いで家を出たとき、ふたりはまだ幼かったからね。」
「シルヴィア様に任せてほんとに大丈夫なのか?俺だって、あいつらの面倒を見るの無理だぞ。人の言うことをまったく聞かないからな。」
「ほんとに。どうして、こう極端なのかしらね。ハンスたちの忠誠心と、双子の自己中心的なところを、混ぜたらちょうどいい具合になりそうなのに。お母様もイライラしだして、いつもの発作を起こしたわ。お祖父様のは発情で、私は発熱。お母様のは発狂よ。」
「発狂は、おまえもするだろ。…いや。やっぱり全員だな。」
そう言われれば。双子は魔石や素材、ハンスは決算報告書(赤字でも黒字でも)、ミアはいいドレスの生地やオシャレをしたお母様を見て発狂しているわね。
「確かにみんな、発狂してるわ。でもお母様の場合は、発狂するのがストレス発散法なのよ。発狂して発散するの。ちなみに、他のみんなの症状はね、発赤、発疹、発疱。」
「あぁ。皮膚が赤くなったり、ぶつぶつや水ぶくれが出たりな。」
「それから。発咳、発汗、発揚、発露。」
「咳や汗が出るのと、不自然な気分の高揚。感情があふれ出て止まらないやつだな。」
「発火と、発電もあるわね。」
「発火は、イーサンとネイサンだろ。発作を起こすと、火魔法が暴発するからな。で。発電は…、痙攣か?」
「ラザラス殿、よくわかりますね。」
「じゃあ。発明といったら?」
「それも、双子のことだろ。魔道具を発明するからな。けどこれ、もう症状関係ないじゃないか。おまえ、発のつく言葉言いたいだけだろ!?」
ラザラスの言う通り、発作とは関係ないわ。これは。私が思う、おじとおばに関連する発のつく言葉なのよ。
「なら。発案は?」
「発案するのは、おまえじゃないのか??」
「ふふっ。私じゃないわ。」
「エスターじゃないなら、ハンスさんね。ミアさんのお店に来て、いろいろ提案していたもの。」
「じゃあね。発想と発信。」
「流行を発信してるのは、ミアさんよね。でも。ドレスのデザインも発想力が必要だわ。」
「宝石細工にも、発想力と流行発信が当てはまるんじゃないか?」
「そうね。発想と発信は、ミアとコリンナのふたりね。じゃあ、次は。発行。」
「新聞社の社長のジルベスターさんね。」
「なら。発火と発煙は?」
「また発火かよ。火と煙って…。炎上か!?」
「そうよ。ジルベスターが裏で発行してる、ゴシップ誌に載った人たちのことよ。」
「新聞社はおまえが買収したんじゃないか。バーバラの娼館でマナーの悪かった客や、リアの家でつくった薬を粗悪品だと言いがかりをつけた薬師への報復記事をゴシップ誌に載せるよう指示をしたのは、おまえだろ!?」
「この問題って…。僕、かなり不利ですよね?ほとんどの方々には、1度しか会ったことがないんですから。」
王都で暮らしているおじとおばが開いた、新年を祝う会に、私とウィル様も参加したの。ダグラスとメアリーは不参加だったけれど、ウィル様は、ふたりとは伯爵家で顔を合わせているし、ハンスとイーサン、ネイサンとは何度も会っている。ミアとはお店で、ケイトとは王宮でも会ったけど、それ以外のおじとおばには、新年会のときに1度会っただけだから、それぞれの特徴なんて知らないわよね。
それに、あの人たちね。ウィル様と会ったら、みんながみんな口をそろえて、『本当に令息の方だ!?』って私の婚約相手を見て驚いていたのよ。そのせいでウィル様は、終始複雑そうにしていたわ。私が、辺境伯様の後妻の座を狙っていたのをみんなが知っていたから、本気で父親との再婚を考えていたのかってね…。
「ごめんなさい。ウィル様には、わからない問題だったわね。発毛ならわかるかしら??」
「ああ。庭師のダグラスですね。」
「発毛って。確かに、ダグさんの毛量は多いけどな。」
「じゃー、反対に。光る方の、発光!!」
「ブっ。それ、頭が光ってるって意味だろ!?」
「もう!ふたりとも、失礼でしょ!?」
誰のことを言っているのかわかっているから、リアは注意しているの。
「あの中に、薄毛の方なんていませんよね??」
「頭が神々しく光ってるのは、お母様の2番目のお兄様ですわ。男爵家を出ているので、ウィル様とは会ったことがありませんでしたね。」
「"神々しく"って言えば、なんでもいい意味に捉えられると思うなよ。」
「そうよ。余計、失礼に聞こえるわ。」
「わかったわよ。じゃー。次は、発芽。」
「発芽は、ダグさんだろ??植物を育ててるんだから。」
「ブー。はずれよ。正解は、ほくろから毛が発芽した、お母様の1番目のお兄様のことでした。」
「もう、エスター!!失礼だって言ってるじゃない!」
リアはあきれてるけど、ラザラスは吹き出してるわ。
ミアを引き抜く際、リアとラザラスも一緒に男爵家に行ったの。そのとき。現男爵である、お母様のお兄様にも会ったのだけれど、顔のほくろから毛が生えていたのよね。
「男爵様には、婚約のご挨拶に伺った際にお会いしましたね。穏やかな方ですよね。」
「お母様のきょうだいは、お母様以外、みんな穏やかな性格なんですのよ。ほんとに、どうしてお母様だけ突然変異してしまったのかしら??」
リアとラザラスが、大きく頷き共感している。
男爵家を訪れたとき、伯父様は、咳が出やすいリアの体調や口にする物を気遣ってくれたの。それに、2番目の伯父様はね。抑制剤づくりに携わった人たちみんなを、わざわざ訪ねてまわったの。抑制剤のおかげで発咳の症状が落ち着いたと、お礼を伝えるためにね。咳が止まらないつらさがよくわかるリアは、役に立ててよかったと喜んでいたわ。小さい頃から弟の発咳の症状を見てきたから、男爵の伯父様はリアの体質に気づいて、気遣ってくださったのよ。リアは、そんな伯父様たちに好感を持っているから、さっきから伯父様たちに対して失礼だと注意しているの。
「それに、性格だけじゃなくて。みんなの能力と比べると、お母様のバカ力って、やっぱり残念よね。バーバラは、人の病を発見する力があるし。メアリーは、人の本質や感情の発色を読み取るでしょう。マイクとスザンヌは発酵の力で、酒やパンをつくってるわ。マシューは、人材やスキャンダルの発掘が得意なのよね。ケイトは溌剌とした表情で、人を惹きつけるの。」
「バーバラは客の病気を見つけたら、兄さんに診てもらうよう勧めてるけど、中には、診療所で平民相手に騒ぎを起こす貴族もいただろ?しかも。おまえ、その相手を実名で、"性病の疑いあり"ってゴシップ誌に載せよな。あの報復は、むごいだろ…。」
「バーバラの忠告を素直に聞かない奴らが悪いのよ。バーバラはね、病からお店の子たちを守るためだけじゃなく、客の心配もしてるから、受診を勧めているのに!!」
それに。ルーカス様なら、患者を選り好みしない上、口も固いから、安心して診てもらえるもの。
「目の能力を持つのは、メアリーだけではないのですね。」
「ちなみに。ハンスは先を見抜く、予見力を持っていますわ。」
「そこは、"発"を使わないのかよ!?散々、こじつけておいて。ケイトの溌剌なんて、性格のことだろ。」
「あら。ケイトは溌剌と、メイドの仕事と諜報活動を両立させているじゃない。」
「諜報活動って、溌剌とするものなのか?まぁ誰も、ケイトが諜報員だとは思わないだろうな。」
「そういえば。新年会でも、意気揚々として筆頭公爵家へ潜入すると宣言していましたね。パトリック君の両親の関係を調べるために。」
パトリックの両親についてなかなか情報が掴めずにいたら、ケイトが、筆頭公爵家へメイドとして潜り込むと言い出したの。内部に潜入し、情報を得るためにね。だけど結局、潜入先は筆頭公爵家ではなく、パトリックの父親の婚約相手である令嬢の屋敷になったわ。
パトリックの父親の婚約相手がアルベルティン公爵令嬢に決まったのは3年前、彼が15歳のときだった。そして妊娠していることに気づいたパトリックの母親が、彼のもとを離れたのも、ちょうどその頃なのよ。彼は今月結婚し、相手の公爵家の婿に入るの。ケイトは今、婚約相手の公爵家でメイドとして働きながら情報を集めているわ。
「諜報先が、王宮から別の屋敷に変わっただけじゃないか。ケイトの諜報活動を辞めさせないのか?」
「私だって止めたわよ。だけど。本人の意思なんだから仕方ないでしょ!みんな、仕事をしながら情報収集をするけど。ケイトの場合は、諜報活動するためにメイドをしてるのよ。」
「能力のせいか、みんな特殊だよな。」
「そうよ。能力があっても、普通に仕事をしてるのは、ダグラスとメアリーくらいよ。他のみんなは聴力を活用するけど、あのふたりは、騒がしい王都では暮らせないって言っていたわ。メアリーに至っては目の力があるから、人が多いところは苦手なのよ。」
おじとおばは仕事をしながら、聴力を活かして情報を集めているの。ハンスの裏の顔はね、情報ギルドのマスターなのよ。裏社会の情報にも通じているおかげで、うちの事業が営業妨害に遭うことは滅多にないわ。ミアとコリンナは、販売した商品の値段から購入者の懐事情を知ることができるの。さらには。商品を購入した者が、そのドレスや宝石を誰に贈ったかを把握することで相手との関係性を推測できる。誰と誰が、夫婦円満とか、浮気や不倫関係にあるとかね。マシューは、ホテルで行われた貴族の密談から派閥の繋がりや、その企み、密会する男女のスキャンダルなどを。バーバラは、マナーの悪い娼館の客の情報を。マイクとスザンヌは、酒場と食堂で見聞きした情報を。ケイトは、王宮で手に入れた情報を。それぞれが、ジルベスターへと流すの。ジルベスターはその情報を元に裏を取り、新聞かゴシップ誌の記事にするのよ。情報元が特定されないよう注意を払ってね。これまでに私の怒りを買った者ほど、赤裸々で、過激な内容を新聞やゴシップ誌に載せてやったわ。
みんな、息をするように情報収集をするのよね。でも、イーサンとネイサンは例外よ。あのふたりに暗躍は向かないもの。
「メアリーって、普通のメイドなのか?あの、ふたりの妹なのに??」
「縁起でもないこと言わないでくれる!?あんたが声に出した言葉は、ほんとのことになりそうで不吉なのよ!!」
「それ俺のせいじゃないだろ!?男爵家の血筋の人たちが普通じゃないのは、事実なんだからな!」
「あはは。確かにあの新年会も、きょうだいの集まりという感じはしませんでしたね。あれは、男爵家を盛り立てる一種の組織のようでした。」
そうなのよね…。みんな、お互いのことをきょうだいじゃなくて、男爵家を崇拝する仲間だと思ってるのよ。男爵家の人たちを好き過ぎるの。自分たちだって、同じ血を引いているのに。
「ウィルバート様の言う通り、ほんとに宗教みたいな組織なんですよ。けど。その筆頭が、男爵家を盛り立てる気のないエスターっていうのが笑えますよね。」
「だって。私は、男爵家のために事業を起こしたわけじゃないからね。みんなとは志が違うの。」
「自分は違うと否定するけどな。おまえだって、仕事をしながら情報収集するじゃないか。今なんて、こんなにしゃべりながらも手を動かし続けていたしな。」
「ね?エスターって、すごいでしょ!?いつも、ぺちゃくちゃしゃべってるのに、チャペルがどんどんできていくのよ。」
「マルチタスク能力も、男爵家の血筋なのかもな。で。チャペルはこれで完成なのか?」
「私のやることは終わったわ。あとは。煖房具を増やしても氷が溶けないように、チャペルに保存魔法をかけてもらわなきゃね。当日の照明兼煖房具には、このランタンじゃなく、魔道具のキャンドルを使うのよ。キャンドルや生花の装飾は、リアにお任せするわね。」
「ええ。任せてちょうだい。イーサンさんとネイサンさんが、たくさんキャンドルを用意してくれたの。さすが火の属性だけあって、火や熱の付与はお手の物よね。」
「でもなぁ。その火の力の少しでもいいから、冷やす力もあればなと思ってしまうんだよな。」
イーサンとネイサンは火属性だから、火や熱に特化しているけど、他の属性だって魔道具に付与できるのよ。対極にある水や氷以外はね…。つまり。あのふたりだけでは、冷やす系の魔道具はつくれないのよ。
「僕としては、ふたりに水や氷の力がなくてよかったと思ってます。そうでなければ、エスター嬢に選んでもらえなかったかもしれませんから。」
「私、ウィル様が氷属性だから選んだわけではありませんからね。」
「ですが。氷属性と聞いて、心が揺らいだのではないですか??僕の力があれば、ふたりは氷属性の魔道具がつくれますからね。」
…それは否定できないわね。突然のプロポーズに混乱していたのに、氷属性と聞いて冷静になったもの。いえ。冷静だったのは一瞬だげで、内心は念願の氷属性に発狂しそうなくらい興奮していたわ。
「でも。そのことで、負い目を感じないでくださいね。僕は、氷を生成するだけだと思っていた力が、エスター嬢の役に立てていて嬉しいので。」
「氷を生成するだけの力だなんて、リアみたいなことを言うのですね。リアもよく、自分の力のことを水を生成するだけのちっぽけな力だと言っていたわよね。」
「あっ、それな!おまえが、自分たちの力なんてちっぽけだって共感するから、リアの自己肯定感は低くなったんだぞ。自分の力は役に立たないって本気で思っていたんだからな。」
「違うのよ、リア。あなたの力はちっぽけなんかじゃないって言葉より、私の力もたいしたことないって言った方が、リアの心を軽くできると思ったの。ごめんね。リアの力は、ちっぽけなんかじゃないからね。」
「エスターは、私の気持ちに寄り添ってくれていたのよね。今は、あなたの気持ちをちゃんとわかっているから大丈夫よ。」
リアは、私のとった言動をわかってくれていた。
だけどね。辺境伯邸へ戻ってから、リアがどれほど自己否定の塊だったのかを、ラザラスからこっそり聞いてショックを受けたの。私は、リアのことをわかってなかったんだって…。
感染症が終息し、世間は日常を取り戻していた。
気づけば、私とウィル様の結婚式はもう間近に迫っている。
そんな慌ただしい、ある日。
メイドとして働きながら情報を集めているケイトから、パトリックの父親の現状について報告書が届いたの。
パトリックの父親は、結婚後、寝室を夫婦別にしているそうなの。しかも。結婚初夜でさえも、寝室をともにしなかった。ケイトは、奥様の相談に乗りながら、寝室をともにしない理由を聞き出したの。それは━━。
夫には、ずっと探している女性をがいて、その女性を今も想っているから。
その理由に、やるせない気持ちになったわ。探している女性には、決して会えないことを知っているから。このまま放っておいたら、パトリックの父親は前に進めないわね。すでに生気のない目をしていた彼が、現実を受け入れられるかは、わからないけれど。見てみぬフリはできないわ。
だからこの報告書の内容を、お父様へも知らせることにしたの。
どう対応するか、その判断はお父様へ委ねるわ。




