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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#38 共感覚

共感覚 (シナスタジア)

文字、数字、音、人の容姿.性格.感情に色が見えたり、匂いや味に色や形を感じたりする。

国王陛下への謁見許可がおりたため、転移石を使って領地から王都へやって来た。陛下にお会いするのは、パトリックの待遇について助言をいただくためよ。


お父様、パトリック、メアリー。それから。我が伯爵家のゴタゴタなのに、一緒に謁見すると言ってきかなかったウィル様とともに、登城した。

陛下は人払いをしてくださり、メアリーと陛下の護衛たちには部屋を出て、ドアの前で待機してもらった。部屋にいるのは、陛下と侍従、お父様、ウィル様、私、そして、パトリック。

陛下に謁見理由を尋ねられ、説明するより見ていただいた方がはやいため、パトリックが身につけている魔道具を外した。パトリックの赤髪に金眼を目にした陛下は、深いため息を吐かれたわ。

「其方が頼みごとをするなど、めったにないことだからな。一体、何事かと思っていたんだが…。これはまた、面倒事を持ち込んでくれたな。」

「2年ほど前。身寄りのない母親は、我が領地でこの子を出産しました。その後。母親は体調を崩し、この夏を迎える前に亡くなったため、ひとりになったこの子をうちで引き取ったのです。」

「この赤髪に金眼は、間違いなくヴェッティン家の血筋であろうな。昨今、分家には赤髪も金眼の者も生まれていないのだから。それにしても。現在、公爵家の者でさえ、ここまで鮮やかな赤い髪を持つ者はいないというのに、皮肉なものだな。それで?父親は、誰なのだ??」

「それは、あえて調べておりません。わかったところで、何が変わるわけでもありませんから。」

「とはいえ。ほぼ、絞られているがな。」

私も、お父様も、パトリックの父親をあえて特定させないでいる。陛下のおっしゃる通り、候補は限られるのだけれど。父親が公爵家の誰であろうと、婚外子であるパトリックが歓迎されないことはわかりきっている。だからお父様はね、うちでパトリックを守ると決めたの。その優しさは、すばらしいのだけれど…。お父様は、子どもへの接し方がわからないから、から回ってるのよね。パトリックがいまだに懐いていないのが、その証拠よ。

「今は魔道具を使い、髪と目の色を変えていますが、いずれは、本来の姿で生活させてやりたいと考えてます。ただ。そうなると、パトリックの容姿について騒ぎ立てる者や、何癖をつける者たちが出てくるでしょう。陛下には、その者たちを黙らせていただきたく、こうしてお願いに伺った次第です。」

「よし。その時は、任せておけ。心優しいアンダーソン伯爵が、自領の身寄りのない子どもを、善意で引き取ったそうだと、皆に聞かせてやろうではないか。」

「陛下っ!私は、真面目にお願い申し上げているのですよ!?」

「我とて真剣に、"善意"であることを強調してやると言っておるが!?」

顔はいつもの無表情だけど、お父様がこんなに声を張り上げる姿は、はじめて見るわ。それも、国王陛下相手によ!?知らなかった。お父様と陛下の関係って、気安いのね。…なんだか。拍子抜けしちゃったわ。

ヴェッティン家は陛下のお母様のご実家だから、助力は期待していなかったの。パトリックをうちの養子にするなんて、筆頭公爵家に喧嘩を売るようなものじゃない。だから私はね、公爵家の弱みを握っておいて、もしものときはそれを利用して黙らせるしかないって思っていたのよ。

でも。この感じだと、陛下はうちの味方をしてくれそうだわ。

「我はな。伯爵を気遣って、明るく努めてやっておるのだぞ。其方、離縁したばかりであろう??」

「はぁ。陛下のお心遣いに、深く感謝申し上げます。」

あぁ。お父様ってば、あんなに眉間にしわを寄せちゃって。国王陛下相手に、なんて無礼な態度なの…。

「そんな態度をとってもいいのか?いざという時、頼みを聞いてやらんぞ。」

「そうなった場合は、やむを得ませんので、公爵家の弱みに付け込むほかありません。」

「わぁ…!?」

お父様の考えが、私とまったく同じだったから驚いて、つい声を上げてしまったわ。慌てて口を押さえる私を、みんなが見ている。

「もしかしてエスター嬢も、お義父様と同じ考えだったのですか?公爵家の弱みを握り、脅してしまおうと。」

「私は、『脅す』とまでは考えてませんわ!?」

「ほう。つまり、弱みを握ってやろうとは思っておるのだな?同じ思考回路とは、似た者父娘ではないか。おいおい、リーバイよ。其方、ずいぶんと口元が綻んでいるではないか。」

お父様が、珍しく微笑んでいる。…でも、なぜ?

「お父様?今の話に、笑う要素なんてありましたか??」

「娘と同じ思考回路なのが、嬉しいのだろう?其方のそんな顔、はじめて見たぞ。ぎこちない作り笑いなら、見飽きてるがな。わはははっ!」

陛下の笑い声に嫌な予感がして、とっさにパトリックへ目を向けたの。そしたら、やっぱりパトリックはつられて笑い出しちゃったわ。


パトリックがあきてしまったため、魔道具をつけ直し、庭園で遊んで待つようメアリーへ預けた。

パトリックが退室すると、陛下は口調こそ変わらないものの、精悍な顔つきになられた。

「リーバイよ。本当は、はなから我の力に頼る気などなかったな?頼みたいことは、静観ではないのか?自分が公爵家を黙らせるのを邪魔してくれるな、というのが本音であろう??其方、自分の出自をあの子どもに重ねておるのだな。」

陛下の発言に、お父様はウィル様を、私は陛下の侍従を見たわ。お父様の出生について聞かされ、困惑してると思ったから。けれど。実際に困惑しているのは、お父様と私の方だったの。それを、陛下は察してくださった。

「リーバイと我の侍従はな、昔からの知り合いなんだ。子どもの頃、ふたりに我の側近になってくれないかと声をかけたんだが…。なんと、こやつは断りおった。自分は、出自が卑しいから相応しくないと言ってな。驚かないところを見ると、どうやらウィルバートも知っていたようだな。」

「ヴェルナー辺境伯令息には、私が話しましたの。結婚するのに、隠し事なんてしたくないですもの。」

「本当に、ふたりは結婚するのだな。我は、どちらかの王子と結ばれることを望んでいたのだが、残念だ。まったく、父と娘そろって我の誘いを断りおって。」

「お言葉ですが、陛下。そのお話、私は存じ上げませんわ。」

「確かに。我の、"エスターをどちらかの王子の妃に迎えたい"という誘いを断ったのは、其方の父だが。リーバイが黙っているのをいいことに、知らない振りをしておっただけであろう?いまや、父親よりも王侯貴族の情報を持っている其方が、王子たちの婚約者選びについて知らないわけがないからな。」

う"っ…。陛下には、バレていたのね。

お父様は私へ届いた求婚状を、私へは見せずに放置していたの。だから。それをいいことに、自分への求婚についてなにも知らないフリをしてきたのよ。それに。こっそり調べたてみたけれど、届いた求婚状の中に、私の条件を満たす相手もいなかったしね。

「まったく。王子たちと、ウィルバートの、何がそんなに違うというのだ。」

「ヴェルナー辺境伯令息は、他の令息とは全然違いますわ。彼は、私を魔物狩りに連れて行ってくれますのよ。それに。私の友人を信頼し、彼らの想いを汲んでくれますし。私にとっては、念願の氷属性ですし。それから。彼に、命を救っていただいたことがありますの。私、それで心を奪われないほど、枯れてはいなかったようですわ。」

「そうか。王子たちであっても、命の恩人には敵わないな。それにしても。令嬢が魔物狩りに連れて行かれて喜ぶなんて、リーバイの娘はやはりおもしろいな。ん??なんだ、その反応。其方、娘が魔物狩りに行ったこと知らなかったのか?」

魔物狩りの話をしたら、お父様の顔色がなんだかよくないのよ。魔物狩りの話は、魔物の氷漬けを見せたときにしたわよね?

「お義父様、ご安心ください。確かに魔物狩りには行きましたが、エスター嬢には危険なことはさせていませんから。討伐は僕がしましたので。」

ウィル様が気を利かせ、心配するお父様へ魔物狩りについて話しはじめたのだけれど…。

「ああ、でも。回復力を高める魔物に遭遇したときは、自ら狩っていましたね。フィリアさんに食べさせるのだと目の色を変え、あっという間に魔物の首をウインドカッターで刈ったんですよ。それから。滋養のつく魔物、薬になる魔物たちを片っ端から狩っている姿に、フィリアさんのことになると人が変わるって、こういうことかと思いました。」

「ちょっと、ウィル様!!お父様の顔色が、余計悪くなってしまいましたわ。」

魔物を狩る私の様子を聞いたお父様は、頭を押さえてうなだれてしまったの。そんなお父様を見て、陛下は、こんなに感情をあらわにする姿ははじめて見ると笑っていらっしゃる。その後ろに控えている侍従の方は、視線を反らして笑うのを我慢しているのよ。

感情をあらわにするのも珍しいけれど、私には、人にいじられ、笑われているお父様の姿の方が新鮮だったわ。

「まぁ、リーバイよ。そう心配するな。其方の娘なら、辺境地であろうと、辺境伯相手でも上手くやっていくだろう。」

「ふふふ。辺境伯様からはすでに、実の娘のように扱われておりますわ。魔道具をつくらせられたり、氷を削らせられたり。ドレスを仕立てるよう言われた…り。」

やってしまった…。辺境伯様とお母様の関係は、まだ秘密にしてないといけなかったんだわ。辺境伯様は、新年の挨拶の際にお母様をはべらせ、陛下を驚かせるおつもりなのよ。でも、でも。誰が着るドレスかは口に出していないから、ギリギリセーフよね!?

「そうでした、陛下。今回は、父も新年の挨拶へ伺うそうです。」

私の余計な一言を、ウィル様がうまくフォローしてくれた。

「まことか!?あやつが王都へくるのは、いつ振りだろうな。いや、待て。まさか。王子の妃にと望んでいたエスターが、自分の息子を選んだから、義理の娘との仲を我に見せつけるために来るのではないだろうな?」

いえいえ。見せつけたいのは、義理の娘との仲ではなくて、新しい嫁ですわ。なんて、今は言えない…。

「あはは。それはありません。父は、陛下が王子殿下の妃にエスター嬢を望んでいたことを知りませんから。」

「それもそうだな。あやつは王都の情報になど、まったく興味がないからな。ところで。ガイアスに氷を削らせられるとは、いったいどういうことなのだ?」

陛下の疑問がドレスじゃなく、氷の方で助かったわね。私は、陛下の記憶からドレスという言葉を抹消するように氷について力説したわ。

「我が領ではこの夏、湖畔で氷菓子を販売したのです。その話をしたところ、辺境伯様も召しあがりたいとおっしゃったので、ウィル様に氷を生成してもらい、それを私が風魔法で削ってお出ししたのです。そしたら。もっと細かくとか、粗くとか、削り具合をいろいろと注文され、私は氷削機扱いされましたの。最後には、毎晩お酒用の丸い氷を削らされていましたわ。」

「これまで、人々を意のままに動かしてきた其方にも、手玉に取れない相手ができたのだな。それが、ガイアスだというのは、我としてはおもしろくないのだが…。それで。なんでまた、氷菓子を売ろうということになったのだ?」

「それは、私が食べたいからですわ。」

「フィリア嬢のためじゃないパターンもあるのか…。」

お父様が、ガクっと体勢を崩した。私の事業が、全部リアのためだと思っていたみたいね。

そんなお父様を見ながら、今度の新年の挨拶を想像してみたの。辺境伯様の隣にいるお母様を見て、お父様はどんな気持ちになるのかしら??まわりから好奇な目を向けられても、辺境伯様とお母様は幸せだからいいとして。まぁ、そもそも…。辺境伯様は、好奇な目なんて気にしないでしょうけど。きっと。その目は、お父様にも向けられるわ。そんなお父様を、陛下は笑い飛ばしてくださるだろう。今日のふたりの様子を見ていたら、そんな気がするわ。

でも…。なにも知らずに、そんな状況に身を置くのはかわいそうに思えてきたの。お父様にはあらかじめ、辺境伯様とお母様のことを話しておきましょう。



『コンコン』

ノック音がして侍従がドアを開けると、パトリックにつけてもらっていた護衛が慌てた様子で入って来た。

「お連れのメイドの様子が、おかしいのです。」

「メアリーが!?」

護衛に案内してもらい、メアリーのもとへ急いだ。


メアリーは庭園へと続く階段の途中で、パトリックを抱き締めたままうずくまっていた。そこに寄り添ってくれているのは、男爵家から私に引き抜かれ、王宮でメイドとして働いているケイトだった。ケイトは、王宮内の情報を集めてくれているの。

「メアリー!?」

メアリーは顔面蒼白で、声をかけても反応がなかった。私は小声で、なにがあったのかケイトに尋ねた。だけど。ケイトが見つけたときには、すでにこの状態だったそうなの。抱き締められているパトリックは、きょとんとした顔をしていたわ。どうやら、パトリックは怖い思いはしてないようね。ウィル様が、メアリーからパトリックを引き離し、私はアイテムボックスから気付け薬を取り出した。

これは、我を忘れたイーサンとネイサン用に、ラザラスにつくってもらった薬よ。これをメアリーに使うのは、心苦しいけど…。瓶の蓋を開け、メアリーへ嗅がせると━━。

「いやゃーっ!?」

我に返ったメアリーは、今度は鼻を押さえて身悶えている。

「メアリー、ごめんね。こうするしかなかったの。」

「あ"ぁー、その薬!兄さんたちに使う、臭いが強烈過ぎて鼻がもげそうになるやつ!!」

「ゔっっ!!本当に、鼻が曲がりそうな臭いですね…。」

「やだ!?ウィル様、ごめんなさい!!嗅覚が鋭いウィル様には、絶対に嗅がせちゃダメなのに…。」



私たちは慌ただしく王宮をあとにし、伯爵家のタウンハウスでウィル様とメアリーを休ませた。


「エスター嬢!!いくら急患だからって、金に物を言わせて医者を呼ぶような物言いやめてくれよ!?俺が、積まれた金で患者を選ぶ医者だと思われるだろうが!」

「まぁ、ルーカス様!?その口調、ラザラスそのものですわね。」

「いや、逆だろ!?ラスが俺に似てるんだ。」

ウィル様とメアリーの鼻をはやく楽にしてあげたくて、診察を待つ患者が何人もいる中、ルーカス様を無理やり呼んできたの。

『診察代はいくらでも払うから、はやく家に来て、ウィル様とメアリーを診て!!』

診療所に入るなり、みんなが見ている前で、そう叫んでね。

「私は、使えるものはなんでも使う主義ですからね。お金も権力も!誰に非難されようと構いませんもの。」

「うん。いっそ、清々しいよ。エスター嬢が非難されたくない相手は、リアだけだもんな。」

「ふふっ。そうですわね。」

「それで。このふたりは、気付け薬を嗅いだんだな?ラスは、緩和剤はつくらなかったのか?」

「何度言っても無茶をする双子に、反省させる意味も込めて、あえて緩和剤はつくってませんの。反省を促すために、しばらく苦しませようと思って…。」

「今回のことで反省しなければならないのは、ラスとエスター嬢だぞ。せめて、緩和剤は用意しておくべきだったな。」

「…はい。いつも、迷惑かけてごめんなさい。感謝してますわ。"お父さん。"」

「誰が、お父さんだ!?」

ウィル様は緩和薬を吸入しながら、私とルーカス様のやり取りに微笑む余裕があったけど、メアリーの方は目が据わっている…。

「ありがとうございます。ああ。薬のおかげでだいぶ、楽になりました。あの気付け薬、魔物の血よりも強烈な臭いでした。」

「いいえ。こちらこそ、申し訳ありませんでした。もとはといえば、弟がつくった気付け薬のせいですから。」

うっ…。ラザラスの行いを謝罪する、ルーカス様の言葉が私にも刺さって、いたたまれないわ。

「ウィル様も、メアリーも、ごめんなさいね。」

「兄たちがこの薬を嗅いで苦しそうにしていても、何度言っても無理を繰り返すふたりが悪いと思っていましたけど…。今回のことで、このような薬をつくったエスターお嬢様とラザラス様には、思いやりが足りないということがわかりました。」

「ほんとに、ごめんね。メアリー!?」

この気付け薬、もう使わないわ。いくら、双子が何徹もして意識朦朧になろうともね!?

「お嬢様がメイドに謝るなんて、おもしろい光景だな。さっきの診療所での出来事も、婚約者のためだけだったなら顰蹙を買っただろうけど。メイドのために奔走するエスター嬢に対して、みんな好感を持っていたぞ。」

「私は、自分の都合しか考えてなかったのに…。なんだか、ひとたらしのリアみたいね。」

「ははっ。たぶん今頃、噂が広まり出しただろうな。アンダーソン伯爵令嬢が、メイドのために自らの足で医者を呼びに来た、なんて美化されて。不思議だろ?横暴な態度をとったのに、株が上がるなんて。」

診療所にいたみんなだって、はやく診察してもらいたいってことをわかっていながら、私はズルしてルーカス様を連れて来たのよ。それなのに、好感を持たれるなんてことあるのかしら??

「これも、日頃の行いの賜物だな。教会や孤児院に食料や物資を寄付してるだろ?人々は、その支援に感謝しているんだよ。それらが、エスター嬢の店の売れ残りだとは誰も知らないからな。」

私としては、自分のつくったぬいぐるみや、刺繍したハンカチを寄贈するリアの善意に便乗して、うちの店の売れ残りを処分しているにすぎないのよ…。

「完全に、リアの恩恵ね。」

「それもあるが。以前、診療所であった貴族とのいざこざが好感が高い理由だろうな。傲慢な貴族が、『平民ごときの治療など後回しにすればいい』と自分の診察を優先させるよう騒いだとき、エスター嬢がキレただろう?その場にいた者たちの目には、自分たちのために怒ってくれていると映ったんだ。」

「あのとき怒ったのは。あの貴族の、『平民』という言葉から、庶民を蔑んでいるのが伝わったからですわ。平民という言葉自体には、差別的な意味はないですが。地位の高い者が、『平民』と口にする際、大抵相手を見下す意味が込められていますからね。」

私が怒りをあらわにしたのは、他人事じゃないからであって、決してあの場にいたみんなのためじゃない。だって。私の中にも、庶民の血が流れているもの…。

「その好感がフィリア嬢の恩恵だろうが、庶民の勝手な思い込みだろうが、使えるものは使えばいい。エスターに対する人々の好感は、公爵家と敵対した際に役立つはずだ。少しでも我々に優位なるよう、もう少し情報を操作しておくのも悪くないだろう。たとえ筆頭公爵家といえど、世論を無視することはできないからな。」

「…伯爵様。アンダーソン伯爵家は、筆頭公爵家と対立するのですか??」

パトリックの事情を知らないルーカス様は、お父様の話を聞いて驚愕している。

「そうなるかもしれないし。そうはならないかもしれない。どうなるかわからないからこそ、備えるに越したことはないだろう。」

「あぁ、今。エスター嬢は、やっぱり伯爵様の娘なんだなって実感しましたよ。情報を武器にするって思考がそっくりですよ。エスター嬢も、情報戦を得意としてますからね。」

「お義父様。ルーカス殿に、エスター嬢と思考がそっくりだと言われ、嬉しそうですね。そういえば。陛下から指摘されたときも喜んでいましたよね。」

ウィル様に指摘され、お父様は気まずそうに視線をそらした。

「でも。陛下が、『エスター』と呼んだときや。僕の父が、エスター嬢を実の娘のように扱っていると聞いたときには、眉間に力が入っていましたよ。」

感情をあらわにしたことを暴露され、いたたまれなくなったお父様は、他の患者をこれ以上待たせては悪いからと言って、ルーカス様を帰そうとしたの。

「お待ちください、ルーカス様。どうしましょう。お礼の品の準備が、まだできてないのです。そうだわ!?アイテムボックスに保管してある魔物の氷漬けなら、今すぐ用意できますわよ。」

「魔物の氷漬け!?そんなもの、絶対にアイテムボックスから出すんじゃないぞ!」

「そうですわよね。ここで出しても、運ぶのが大変ですもの。」

「問題はそこじゃないからな。というか…。やっぱり、冒険者になったんじゃないのか!?」

そんな捨て台詞を残して、ルーカス様はお帰りになられたわ。


ルーカス様が帰ったあと。メアリーから、王宮でなにがあったのかを聞いた。

「庭園へと続く階段を下りていたら、上がって来られる方がいらしたのです。その方の纏う色が、パトリック坊っちゃんと同じ色をしていて…。頭を下げてやり過ごそうとしたのですが…。」

「ねぇ、ちょっと待って!?メアリー。"纏う色"って、どういうこと??」

「私の目には、人のまわりに色が見えるんです。それは1色だけでなく何層かになっていて、日によって変わるものと、不変的なものがあります。そして…。不変的な色は、血の繋がりがある者と同じ色をしている確率が高いのです。」

「それじゃあ…。階段ですれ違ったのは、パトリックと血の繋がりがある人だったってこと?」

「同じ色を纏うおふたりのことが、気になってしまい。その方が目の前をお通りになられた瞬間、視線を向けてしまったんです。赤みがかった御髪に、御目は金色…。その首元には、ネックレスが光っていました…。それが…。パトリック坊っちゃんがおつけになっているものと、同じだったので…。漠然と、このお方から、坊っちゃんを隠さないとって…。私は夢中で、坊っちゃんを抱き抱えたのです…。でも…。見つかったらどうしようって、ただただ怖くて…。」

「メアリー、もう大丈夫だから。ありがとね。パトリックを守ってくれて。」

いつか、パトリックの父親と名乗る人が現れたとしても、こちらは、父親についてなにも知らなかったと主張するつもりだったのよ。知らなければ、たとえ真実薬を使われても怖くないもの。それが今、意図せずパトリックの父親が簡単に特定できる状況になってしまった。

「お父様。王宮にいるメイドに聞けば簡単に、その相手を特定することができますけど。どうしますか?」

「そうか。王宮には、エスターが放ったスパイがいるのか。」

「まぁ!?スパイだなんて、人聞き悪いですわね。ケイトには、噂話を教えてもらってるだけです。でも。潮時かもしれませんわ。今日の騒動で、私との接点に気づかれたでしょうから。」

「では。パトリックと同じネックレスをつけている者の特定が、王宮での最後の大仕事だな。」

この際パトリックの父親を特定してしちゃって、徹底的に相手の弱みを握ることにしましょう。

「わかりました。ケイトへは、そのように指示を出しますわ。」

「えっ!?お嬢様は、王宮でケイトとお会いになられたのですか!?」

メアリーの問いに、思わず目が点になっちゃったわ。

「ケイトはね、あなたに寄り添ってくれていたのよ?記憶にないの??」

「記憶にありません…。私も、久しぶりにケイトに会いたかったです。」

メアリーは、パトリックを守りたい一心で、ケイトがそばにいてくれたことに気がつかなかったみたい。そのあとは、まわりを伺う余裕がなかったからね。気付け薬のせいで…。

男爵家の使用人の子どもの中で、年が1番下のメアリーと、2番目に下のケイトは一緒に育ったのよ。だから今回、仲がいいケイトに会えたら喜ぶと思ってメアリーを王宮へ連れて行ったのだけれど、ふたりには、改めて会う機会をあげないとね。


メアリーとふたりきりなったときに、私は気になっていたことを尋ねてみたの。はじめて伯爵邸へ来たメアリーが、お父様へ挨拶した際、あんなにも挙動不審だった理由をね。あれは、見えた色が原因だったの?と。

「伯爵様の纏うお色は、真っ黒なんです。そんなお方を見るのははじめてだったので、おどおどしてしまいました。そしたらふと、黒色に包まれるように他の色があるのを見つけたんです。そのお色が、隣にいるマリーさんと同じ色だと気づいてしまって…。それで、伯爵様とマリーさんのお顔を見ることができなかったのです。」

「そう…。お父様と、ばあやの関係を知ってしまったから、パニックになっちゃったのね。」

黙ったままうんうん頷くメアリーに、そのことを内緒にしていてねとお願いすると、また、うんうんと頷いていたわ。

メアリーが言うには、大抵の人は何色も層になった色を纏っていて、その色は、その人の本質や性格、感情を表しているそうなの。それなのに。お父様の纏う色がほぼ黒1色だなんて、なんだか悲しいわね。だって。黒は孤独や恐怖を表す色らしいから。

それでも。メアリーは、お父様とばあやの関係を知ってしまったことを私に打ち明けて、すっきりした様子だったわ。おかげで、伯爵邸へ帰ってからは、お父様へ自然に接することができるようになっていた。


じつは、お父様もね。あのとき、怯えていたメアリーの目には、自分の姿がどう映っていたのか気になっていたみたいなの。私は、そのことに全然気づかなかったわ。だって。お父様はこれまで、他人にも自分にも関心のない人だったのよ!?だから、自分を見たメアリーが取り乱した理由を気にするとは思わなかったの。


私は、お父様と思考が似てると指摘されても、まだ認めてなかったんだわ。メアリーに共感覚があると知ったお父様が、私と同じ思考回路をたどり、同じ疑問を抱くなんて考えもしなかったもの。

お母様に似てるってことは、自覚しているのよ。ものすごーーく、不本意ではあるんだけどね。短気なところとか、魔力を暴走させがちなところとか…。 

だけど。どうやら私って、お父様とも似ている部分があったみたい。あんなにも互いに干渉しない家族だったのに、どうやって似たのかしら…。

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