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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#37 再会

無事に改修工事を終え、伯爵邸の新しくなった玄関ホールにみんなを集めた。パトリックのお世話を任せるばあやと、メイドのメアリーを紹介するためにね。

メアリーにはね、他にもっといい働き口があるって言ったのよ。だけど。なぜか、伯爵家で働きたいのですって。それも、華やかな王都のタウンハウスではなく、なんにもない領地の屋敷の方でよ!?まったくすすめる要素のない仕事を紹介するのは不本意だけど、本人の希望だから仕方がないわ。

それから。ふたりを執務室へ連れて行き、この屋敷の主である伯爵へ挨拶をさせた。

…予想通り、母と子の感動のご対面には、ならなかったわ。父は、ばあやが産みの親だと気づかなかったから。生まれてから少しの間だけ一緒に過ごしたらしいけど、父にそのときの記憶があるはずがないし。赤ちゃんの頃の記憶があるなんて、リアじゃないんだからね。会ったこともなくて、姿絵を見たこともないのに、母親だと気づくことができるのは、物語のお話だけなんだわ。

ばあやの方は、成長した我が子を前に、泣かないよう自分の感情を押し殺して挨拶していたけど。

まぁ。実際に、泣かずにすんだのは、隣にいるメアリーのおかげ??だったわ…。

自分が産みの親であることを悟られないよう、必死に平静を装って挨拶したばあやに対して、お父様を前にしたメアリーは、自分の名前を言うことさえままならなかったの。

うちのお父様って、無表情だから怖いのかしら??うーん。でも。怖いからと言って、こんなに挙動不審になるのはおかしいわよね…。しまいには、呼吸まで乱れちゃったのよ。ばあやが、心配そうに背中をさすってあげていたわ。メアリーのおかげか、メアリーのせいか。我が子を前にした、緊張や感動はどこかに行っちゃったみたいよ。ばあやに支えながら、メアリーは執務室をあとにした。

部屋に残った、私とウィル様とお父様の間には、なんとも言えない空気が漂っているわ。お父様へは、私の方から改めて、ヴェルナー家からはばあやを、母の実家の男爵家からはメアリーを引き抜いたことを伝えたの。だけど…。お父様には、挙動不審なメアリーの印象が強烈に残ってしまい、ばあやの印象が残らなかったみたい。これには、お父様とばあやの対面を楽しみにしていたウィル様も苦笑いするしかなかった。


メアリーが、お父様に対してあれほどパニックになったことや、王都ではなく領地で働くことを選んだ理由を知るのは、ほんの少し先のことになる。


次の日。

ばあやを連れ、ばあやの実家とミモザのもとへ向かった。再会の場に立ち合いたいと、リアとラザラスも駆けつけたわ。

ばあやは、馬車の窓から、昔とは変わった街並みや農地を眺め、40年という歳月を感じているようだった。

実際に、街並みや農地が大きく変わったのは、私が事業を起こした、ここ10年のことだけどね。リアを笑顔にしたかったから。あの茶畑には、咳に効く茶葉を。あの果樹園には、味覚が過敏なリアでも口にできる果物たちを。畑には滋養にいい食べ物。安価な薬をつくるための薬草。それから。馬車が揺れないよう、道を舗装したわね。


ばあやは、実家を目にしたとたん、泣き出してしまった。再会した弟と抱擁を交わし、家族を紹介されている姿を、感慨深そうにウィル様が見つめている。こうして、41年振りとなる帰郷に、みんなの心が和んだわ。

そして次は、問題のミモザばあさんのもとへ。

ばあやとの再会に、ミモザばあさんは目を丸くさせて、ものすごく驚いていたわ。ミモザばあさんからは、私なんかには、絶対に見つけられないと言われ続けてきたけど。どう?見つけることができたわよ!?ふふっ。ざまあみろですわ。そんなことを思っていたら、ミモザばあさんが肩で風を切るように近寄って来たの。

「ちょいと、辺境伯令息様。『ばあや』だなんて、マリーはそんな年じゃないさね!?」

「ばあやは父の乳母だったので、僕にとっては祖母のような存在なんですよ。それで昔から、親しみを込めて、『ばあや』と呼んでいます。」

ミモザばあさんの洗礼を受けるウィル様を、私たちはハラハラしながら見ていたけど、ウィル様は圧倒されることもなく、見事に対処していたわ。それも、楽しそうにね。

「坊っちゃん、ミモザの無礼をお許しくださいませ。ミモザの中では、わたくしは19歳で止まっているのかしらね?あれから40年よ。わたくしたちも、随分と年を取ってしまったわね。」

「正確には、42年だからね!」

ミモザは、42年振りに再会したばあやに、これまでの出来事を根掘り葉掘り問いただし、ウィル様にはヴェルナー領での暮らしぶりを尋ねていたわ。どうやらウィル様は、ミモザばあさんに気に入られたみたい…。

ミモザばあさんが、ウィル様やばあやと、平和に会話している様子に一安心したリアとラザラスは、領地の子どもたちと遊んでいるパトリックを見てくれている。

最近やっと、首が座ったばかりのエミリオも、そのうちこの子どもたちと一緒に走りまわるのだろう、なんてふたりで言いながらね。


ミモザばあさんに問い詰められ、観念したばあやの話ではね……。

42年前。

辞表の件で呼び出されたマリーは、お祖父様から、辞めないでくれと懇願されたの。たかがメイドの自分なんかに頭を下げ、すがりつく伯爵の姿に、お腹の子のため、それから伯爵家の世間体を保つために、屋敷を出ると決意していたマリーの心は激しく揺れた。そこに。妊娠初期による貧血や、精神の不安定さも重なり、マリーはその場で倒れてしまったの。

そして。目を覚ましたときには、医師の口からお祖父様に妊娠していることが告げられたあとだった。

ふたりは、お腹の子の処遇についての話し合った。お祖父様はまず、お腹の子が自分の子かを尋ねたそうよ。でもそれは、意味のない質問となった。だって。お祖父様は、マリーが否定してもご自分の子だと確信していたのだから。

マリーは伯爵邸を出て、ひとりで出産し、育てるつもりでいた。それが、子どものためだと思っていたし、伯爵家に迷惑をかけたくもなかった。私生児なんて家門の汚点だもの。けれど。お祖父様は、お腹の子には自分の血も流れていると言い、跡取りのいない伯爵家には、その子が必要なのだとおっしゃった。

伯爵家で育てるか、伯爵家から出て育てるか、ふたりの話し合いは平行線が続いた…。お祖父様は、生まれた子を養子として迎え、大事に育てることで、子どもの幸せを願うマリーの想いに応えようとした。それでも、出生に秘密があることには変わりなく、マリーの不安は消えなかった。養子となった子どもの生まれについて、詮索する者がいるかもしれないから。なにより。お腹の子を養子にすることを、伯爵夫人がお許しになるとは思えなかった。お祖父様は、夫人のことは必ず自分が説得すると言って、その言葉を聞いたマリーの頭に、お腹の子にとって一番いい幸せの形が浮かんだの。

もしも夫人が、お腹の子を受け入れてくれるのなら…。


この子を、伯爵夫人が生んだことにすれば、伯爵夫妻も、生まれた子も、みんなから祝福されるはず。


マリーを療養施設へ送り出したお祖父様は、すぐにお祖母様を呼び出し、事情を話した。それは、提案とは名ばかりの、決定事項だった。お祖母様は、この提案を承諾したわ。このまま子どもに恵まれなければ、遅かれ早かれ養子を迎えることになると覚悟はしていたから、この提案を受け入れるしかなかった。そして。マリーのあとを追うように、療養施設の近くにあるコテージへ向かった。

提案を受け入れはしたものの、時間が経つにつれお祖母様の心中は複雑になっていく。家門を守るために、養子をとるのは仕方がないと、以前から考えていた。

だけどそれが。夫と、自身に仕えていたメイドとの間に生まれた子になるだなんて…。

子宝に恵まれない自分に対して、誰よりも気にかけ、親身になって励ましてくれていたメイドの裏切りに、お祖母様の心は傷ついていた。しかも。ふたりの子どもを、自分が生んだことにしなければならない。ふたりの裏切りの証である、子どもを━━。

療養施設へ足繁く通い、コテージには顔さえ出さないお祖父様に、お祖母様はあるお願いをした。

『出産後、マリーを解雇すること。』

それが、生まれた子を自分の子として育てる条件だと。

お祖父様は、夫人の代わりに子どもを産んでくれるマリーへの仕打ちに激怒した。夫人の名誉や面子を守ってくれる、マリーへ感謝すべきだって。このことで、伯爵夫妻の溝は、深くなってしまったの。だけど。話を聞いたマリーは、その条件を飲んだわ。ことを丸く収めるために…。

出産後。実家へ挨拶をしたマリーは、用意された馬車に乗り込み、お祖父様から紹介された伯爵家が懇意にしている商家へと向かった。

けれど…。馬車の行き先は、お祖父様が紹介した商家ではなかった。御者から、馬車を降りるよう言われたマリーは、商いのため王都へ向かう業者の荷馬車に乗せられた。お祖父様が用意した馬車は、お祖母様が用意した馬車に変えられていたの。行き先も、伯爵家から半日ほどの商家ではなく、王都よりさらに向こうの領地にある、伯爵家とは縁もゆかりもない家に変わったのだ。

マリーは荷台で揺られながら、お祖母様の怒りを知ったのだった。産みの親である自分の存在を徹底的に伯爵家から遠ざけると決めた、伯爵夫人の強い意思を悟り、マリーもまたある決意をしたの。

それは。行方をくらませ、自分の所在をわからなくし、伯爵家との繋がりを断つというものだった…。

それが、子どもの幸せに繋がると信じて。


王都へ着くと、ここから先は別の者が案内するため、迎えが来るまで待機するよう指示されたマリーは、従うふりをし逃げる機会を伺い、業者の動向に注意を払った。そこで。業者と関係者の会話を耳にした。

『ヴェルナー家では今、秘密裏に乳母を探している。』

その話を聞き、マリーは高揚した。自分の使い道のない母乳が役に立つのではないかと思い、気づけば、その話をしていた者のあとを追いかけていた。

そうして。マリーは業者から逃れ、ヴェルナー家のタウンハウスへやって来たのだった。

王都へ来たばかりで王都の噂話も知らず、貴族の派閥にも属していない。それに加え、訳ありなマリーなら裏切らないだろうと、すぐにガイアスの乳母として採用された。

しかし、勢いで乳母になったマリーは、あとからヴェルナー家の状況を知って恐怖を覚えることになる。秘密裏に乳母を探していたのは、ガイアスの母が毒になり得る食材を口にしたためだった。その毒は、大人にとっては命に関わるものではないが、乳幼児が母乳を通して摂取した場合、大事に至る可能性があるものだった。その食材は、誤って混入したのではなく、意図的にヴェルナー邸へ届けられたと確信したガイアスの父により、ヴェルナー家の使用人はほとんどが解雇されていた。そのため、乳母として雇われたマリーは、メイドの仕事も兼任することになる。

マリーは、自分の子の命が狙われ、心を痛めているガイアスの母をなだめ、一生会えない自身の子どもの分も、ガイアスを守ると誓ったのだった。

ガイアスが5歳になっても、問題は度々起こった。そしてその年。ガイアスの母は、ヴェルナー領で暮らすことを決断した。子どもの命を守るために。


ともにヴェルナー領へ赴いたマリーは、そのまま辺境伯邸で働くことになったそうよ。


「マリー…。あなた、逃げた先でも結局、貴族のいざこざに巻き込まれてたんだね。ほんとに、つくづく運がない子だよ。令息の父君もさ、命を狙われるなんて、大変な目に遭ったね。領地の方は、安全なのかい??」

ミモザばあさんの言う通り、辺境伯様は幼いときに大変な思いをしたのだろう。今のお姿からは、まったく想像できないけどね。昔はともかく今は、人生楽しそうでなによりだわ。

「ええ。僕は、ヴェルナー領で生まれ育ったので、平和に暮らしていましたよ。あんな辺境の地まで、わざわざ悪事を働きに来る者はいないので。」

「ウィル様は、平和って言うけど。ヴェルナー領は、魔物と戦わないといけないじゃないですか。それに。私が嫁いだら、事業の関係上、人の出入りも多くなるし、物流も活発させたいので、閉鎖的ではなくなりますよ??」

「なら。悪意ある者が領内へ入れないような魔道具を、あのふたりにつくってもらいましょう。」

「それは、いい考えですわね。…ただ。やり過ぎないよう、釘を刺さなければいけませんけど。」

「おやまぁ。この娘と、結婚なんて大丈夫かい!?上辺に騙されちゃいけないよ。貴族の令嬢とは思えない、口の悪さなんだよ。」

「あらぁ、イヤですわ。口の悪さでしたら、ミモザばあさんには負けますもの。ホホホ。それに。私の口の悪さは、目には目をですわよ。」

「おやおや。そうやって、自分の口の悪さを人のせいにするのはおよし。」

「まぁまぁ。僕は、騙されてないですよ。エスター嬢の取り繕わない姿が好きですから。逆に、澄ましたエスター嬢には違和感しかありません。」

「あぁ、確かにねぇ。想像したら、全身がゾワゾワするよ。」

おしとやかな私の姿を想像して、ゾワゾワするなんて。毎度のことながら、失礼なばあさんね。

「俺も社交の場で、こいつに話しかけられると鳥肌が立つよ。」

「これは、これは。ヤブ医者様でないかい。」

さっきから、ばあやが顔を青くさせて、ミモザばあさんを止めようとしているわ。とても、貴族に対する言動じゃないものね。

いつも通りヤブ医者呼ばわりされたラザラスは、不服そうな顔をしながら私のそばに来てぶつぶつ言っている。

「腑に落ちない…。俺、いろいろ治してやったよな!?」

「『してやった』っていう上から目線感が、態度に出てるのかしらね。あんたも、私も。」

ミモザばあさんは、リアには優しいのよ。けど、私とラザラスへは当たりが強いのよね。

「それとあれよ。あんたが、『体のあちこちが痛むのは、年のせいだから仕方ない。』って言ったからじゃない??」

そういえばミモザばあさんは、ウィル様へ怒鳴ったのは第一声だけだったわね。

「フィリアお嬢様は、出産しても変わらないね。今度、ご子息を拝ませておくれよ。フィリアお嬢様に似て、かわいい子なんだろうね。」

「ふふっ。うちのエミリオは、お父さん似なんですよ。」

「なんと。ヤブ医者様似とは…。それは、かわいそうだねぇ。」

「腑に落ちない…。なんで、俺似だとかわいそうなんだよ。いや。俺だって、リアに似た子が見たいけど!!」

ラザラスが、またぶつぶつつぶやいている。

「ラスに似ているけど、エミリオはとってもかわいいんですよ!?」

「リアっ!?俺に似てる"けど"、かわいいって。それ、フォローになってないからな!?」

リアは、エミリオのかわいさをアピールするのに必死で、ラザラスをぞんざいに扱ったことに気づいてなかったわ。

その、すべてのやり取りが聞こえていたウィル様は、誰よりも笑っていた。

そしたらやっぱり、パトリックもつられて笑い出したわ。

ガイアスの両親と生まれについての詳細は、番外編にて(*ᴗ ᴗ)⁾⁾

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