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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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23/57

#23 第六感

「リア。リアっ!」

ラスの声に、深い眠りについていた私は、薄くまぶたを開けた。

「ただいま。リア、体の調子はどうだ??」

「うーん……。」

まだ眠気がとれず、ぼーっとする私に、ラスが口移しで薬を飲ませた。

「…んっ!?やだっ、苦い!!ラス、これなんの薬!?」

「眠気覚ましの薬だ。な?目、覚めただろ??」

ラスは、ふっと微笑むと、焚いていたアロマを消し、窓を開けて換気した。

もう。せっかく気持ちよく眠っていたのに。薬の味で目が覚めるなんて、最低の目覚めだわ。部屋が換気されアロマの効果が薄れていくと、だんだん頭がはっきりしてきて、眠りについたときのことを思い出した。

「そうだわ。エスターはどこ!?」

「エスターは無事だよ。俺は、リアに知らせるために先に帰ってきたんだ。あいつは、あとから馬車で来る。もう大丈夫だから、心配するな。」

「本当?あぁ…、よかった。」

ラスを信じてなかったわけじゃない。だけど…。やっぱり、あの未来の通りになってしまうんじゃないかって不安もあったの。だから。エスターが無事だと聞いて、安心したら涙があふれてきた。

「ラス…。ありがとう。エスターを、助けてくれて。」

「あ…。いや…。」

ラスは、ハンカチで私の涙を拭きながら、口をごもごもさせた。

「…?ラス??」

「念を押すけど、エスターは無事だからな!?無事は無事なんだけど…。ごめん!!あいつを助けたのは、俺じゃないんだ。」

「どういうこと?ラスが助けたんじゃないの??」

「リアが不安になると思ったから、落ち着いたら話そうと思っていたんだけど。エスターを助けたのは、ウィルバート様だ。俺は、間に合わなかったんだ…。」

「ウィルバート様が??なんで?えっ?ラスは、どうして間に合わなかったの!?」

わけがわからず、頭の中に疑問符が飛び交う。

「それが、聞いてくれよ!あいつ、俺がリアからもらった馬用のポーションを盗って、勝手に馬に飲ませたんだ。なぁ、ひどいだろ??俺が、リアからのプレゼントをどれだけ大事にしてるか知ってるくせに。」

ラスが間に合わなかったというから、なにがあったんだろうと身構えたのに…。馬用のポーションと聞いて、なんだか気が抜けちゃったわ。私たちって今、エスターの命に関わる話をしているのよね??それなのに。目の前のラスは、エスターにポーションを使われたと言って嘆いているのよ?

「もう…。またつくってあげるから、そんなにがっかりしないで。今度は、ラスのためにつくるわね。馬用じゃなくて。」

「ほんとか!?だけど。人目につかないよう、こっそりつくってくれよ?リアの生成した水でつくったポーションの効果は、最上級クラスだからな。その効果が知られたら、面倒なことになりそうだ。」

「"最上級"は、言い過ぎだと思うわ。」

「言い過ぎじゃないからな!?それで。世の中には、そんな特別な能力を搾取しようとする奴らがいるんだ。エスターだって、そんな奴らから、イーサンとネーサンを匿ってるだろ?」

「確かに。ふたりの生み出す魔道具はすばらしいから、他の工房からお誘いがくるのもわかるわ。その中には、過重労働を強いる人もいるのでしょうね。」

イーサンさんとネーサンさんの術師の力を悪用や、いいように利用されないよう、エスターはふたりを保護している。一見、術師を引き抜かれないために軟禁しているようにも見えるけれど…。エスターとふたりはそんな関係じゃないのよ。

「リアのつくるポーションも質が高いんだよ。それがバレたら、ポーションをつくってくれって依頼が殺到するだろう。中には、邪な奴もいるはずなんだ。でも。優しいリアは、相手が嘘を言ってるなんて思わないから、泣きつかれたらつくってやるだろう?そんな、リアの力を搾取するような真似は、俺がさせない!」

「…ラスの心配は、わかったわ。つくるときは、十分気をつけるわね。私だって面倒事は嫌だもの。」

ラスの具体的過ぎる妄想を聞いて、ものすごく思い込みが激しいとは思ったけれど、これは私のためを想って言ってくれているのよね。

「ラスには新しいのをあげるから、エスターのことあんまり責めないであげてね。」

「あ…。すでに、結構文句を言ってしまったな。しかも…。」

そう言って、ラスはポケットから見覚えのある小瓶を出した。

「これって、エスターにあげたハネムーンのお土産じゃない。あの魔道具屋さんで買った、素直になるポーションね。…ねぇ、ラス?どうしたの、これ??」

「あいつ、俺がリアからもらったポーションを勝手に使っただろ。だから俺も、あいつがリアからもらったポーションを勝手に使ってやろうと思って…。」

「じゃー、エスターに黙って持ってきたってこと?」

「…そう、だな。」

「ラス、素直になるポーションの使い道はあるの?」

「…いや。ないけど…。」

「盗られたから盗り返すだなんて、子どもじゃない!?」

ラスは、あきれ返る私に、エスターの家で目にした惨状を説明したの。

「あいつの部屋もめちゃくちゃだったから、ポーションひとつなくなったところで気づかないと思ったんだ。」

その言い訳を聞いて、『そういう問題じゃないでしょ!?』って、さらにあきれちゃったわ。


こんな緊張感のないやり取りをできているのは、エスターが無事だったからよ。

それでも。ラスはずっと、私のお腹に手を触れ、エミリオの状態を確認していた。無事に出産するまでは、まだ安心できないみたい。

ラスは、私よりも詳しく未来を見ているから。



家に、ヴェルナー家の馬車が到着した。

私はいても立ってもいられず、ラスの制止を振り切り、大きなお腹を抱えて馬車へ駆けつけた。馬車のドアを開けて見ると、ウィルバート様の肩にもたれかかったエスターと、膝の上には、赤い髪の男の子の姿があった。ふたりとも、ウィルバート様に体を預けて寝ている。そのエスターの腕には、うさぎのぬいぐるみとマンドレイクがしっかりと抱き締められていたの。

「あっ、こいつ。ウィルバート様は、肩を怪我してるのに。」

「僕は、平気ですから。」

大きな声を出すラスへ、ウィルバート様はふたりが起きてしまうからと人差し指を口元に当てた。

「こいつ、起きそうにないな。叩き起こすか。」

「ちょっと。ダメよ、ラス!!いつも、自分がやられているからって。」

「このまま寝かせてあげてください。僕が、部屋まで運びますから。」

「やめてください!肩の治療は途中なんですからね!?悪化してしまいますよ。」

私は無理やり起こそうとするラスを止め、ラスは無理して運ぼうとするウィルバート様を止めた。

「すぐ治療しますので、ウィルバート様はこちらへどうぞ。」

ラスは治療のため、ウィルバート様を連れて行った。

エスターと男の子は、使用人に頼んで別々の部屋へ運んでもらったわ。エスターは、魔力暴走を起こした反動でしばらくは目を覚まさないだろうとラスが言っていた。だから今は、ゆっくり眠って欲しい。


ラスのもとを訪ねると、治療が終わったところだったようで、ウィルバート様が肩をぐるぐる回していたわ。

そして、私たちは3人でお茶をすることにした。

「治療は終わりましたけど。念のため、しばらくは安静にしてください。」

「わかりました。しかし、今は全く痛みはないですよ。治していただきありがとうございます。」

「いえ、すみませんでした。本当なら、伯爵邸で治療をすませるべきだったのに。ここまでの移動も、辛かったのではありませんか?馬車は揺れますからね。」

「魔物との戦いでしょっちゅう怪我をしますから、これくらいはなんともありません。それに、馬車の中も楽しかったのですよ?」

ウィルバート様の怪我は、エスターのお母様である、伯爵夫人のせいだと聞いたけれど。魔物との戦いと比べちゃうほどだったの?

「エスター嬢が話しかけても、あの子…。パトリック君は、緊張していたのか、頷くだけでした。でも。パット・リック・リッキーどの愛称で呼ばれたいかと聞かれたら、全部に頷いたんですよ。よく見ると、彼が寝ていたのでエスター嬢と笑ったいたら、間もなく、彼女も眠ってしまいました。」

「ふたりとも寝てしまったのに、ウィルバート様は楽しかったのですか?私なら、自分だけ起きていたら、つまらないですけど。あっ、エスターが変な寝言でも言ってました?」

「寝言は、言ってませんでしたね。魔力が暴走したあとで、深く眠ってしまったので。ただ。寝ているふたりの姿が似ていて、なんだか微笑ましかったんです。」

エスターとあの子が似ている…。その言葉を聞いたら、ものすごく複雑な気持ちになってしまったの。私が黙り込んだことに気づいたラスは、ウィルバート様へ本題を切り出した。

「ところで。ウィルバート様は、なぜ、伯爵邸にいたのですか?」

ウィルバート様が伯爵邸へ行かなければ、エスターの未来を変えられなかった。だけどどうして、エスターの家にいたのかしら?ウィルバート様が暮らす、ヴェルナー辺境伯領からエスターの家までは馬車で半月かかるほど遠いのに。

「話せば長くなるのですが…。すべては、おふたりにはじめてお会いした王宮の舞踏会、あの夜からはじまったのです。」

返ってきたその答えに、私とラスは顔を見合わせて驚いた。ウィルバート様は1年半も前から、今日、伯爵邸を訪れるつもりでいたということなの?

「すみません。あの夜。三人が入城したときから、みなさんの会話を聞いてしまっていたのです。」

「聞いていたって、俺たちの会話をですか?」

「はい…。以前、嗅力や聴力が高いとお話ししたと思いますが。じつは、五感すべてが鋭く、そしてそれは人並み外れた力なのです。だから。あの会場内の会話はもちろん、テラスへ出たみなさんの会話も聞くことができました。」

あのとき。私たちは、ウィルバート様へ対してものすごく失礼な話をしていたわ…。

「ごめんなさい。私たち、失礼なことを言っていましたよね??」

「いえいえ。みなさんの会話は聞いていて楽しかったですよ。三人で遅れて入城し、国王陛下への挨拶ではエスター嬢だけ呼び止められ、商品の質を絶賛されていて。その脇で、おふたりに近寄る令息たちに、フィリアさんが悪い虫と言い放ち。それを聞いたエスター嬢が必至に笑いをこらえながら、おふたりをテラスへ連れ出していましたね。」

ウィルバート様は私たちのことが気になって、テラスへ移動したあとも会話を聞いていたのですって。

それと、令息たちの会話も聞こえたそうよ。

彼らは、私たちのことを。

エスターを『魔力の加減を知らないイカれた女。』

ラスを『親に恵まれた奴。』

私を『氷が溶けて昔に戻った。雪解けのあとの春みたいだ。』

と言って、それから。

『俺たち、悪い虫だと思われていたのか。でも待てよ。あのフィリア嬢のことだ。悪い虫の意味は、俺たちが思う意味とは違うかもしれない。』

『いや。考えようによっては、俺たちは虫なのかもしれない。だって。俺たちにとって、フィリア嬢は花みたいな存在だからな。』

『そうだな。俺たちは、フィリア嬢という花に集まる虫なんだ。』

自分たちは、虫だと納得していたらしいわ。それを聞いて、ウィルバート様は吹き出してしまったそうなの。

「私って、花みたいなのかしら??エスターやルーカス様にも、"お花畑"って言われたことがあるのよね。」

「いや、エスターと兄さんの言う"お花畑"って、花みたいって意味じゃないからな。それにしても。あいつら、なんて諦めが悪いんだ…。」

ラスはため息をついた。

「そうやって、盗み聞きしていたら。みなさんの会話に、僕の名前が出てきたんです。女性の誘惑や企みに嵌められないかとか、面倒臭い令嬢に絡まれて大変そうだと。それなのに。その令嬢が悪い子ではないからと、見て見ぬふりをして助けてくれませんでしたね。じつはあのとき、心の中で助けて欲しいと思っていたんです。」

「ごめんなさい…。」

「すみませんでした…。」

私たちはそろって、謝罪の言葉を口にする。

まさか、本人に聞かれていたなんて…。だってあのとき。私たちはテラスから、会場内にいるウィルバート様の姿を目にしながら話していたのよ?あの距離の会話が聞こえていたのなら、本当に、ものすごく耳がいいんだわ。

「そのあと。エスター嬢が、父の後妻の座に興味があると言ったのを聞いたときは、むせてしまいました。そこから、エスター嬢の一挙一動を見ていたのです。」

そう。私たち、そんな話をしていたのよ。エスターは、ウィルバート様の情報は少ないのに、お父様である辺境伯様については詳しかったのよね。後妻を狙っていたから…。

「ごめんなさい…。やっぱり、私たち失礼なことばかり言っていましたね。」

「でも、悪意は感じませんでした。エスター嬢は本気で後妻を狙っているようでしたから。そしてそんな彼女の結婚観を、フィリアさんは心配していましたね。それから。彼女の、命も…。」

「まさか。俺たちが、エスターの未来について話しているのを聞いて、伯爵邸へ行ってくれたのですか!?エスターを救うために??」

「そういうことです。」

「俺たちでさえ、姿見に未来が映っただなんて、現実離れした出来事を何度も疑問に思ったのに。よく、こんな現実味のない話を信じられましたね。」

姿見に映った未来という信憑性のない私たちの話を、ウィルバート様は信じてくれた。

「おふたりの真剣さが伝わったからですよ。それに。僕には第六感があるため、おふたりの言葉に嘘がないと勘が告げたのです。だから。自分の直感を信じ、僕にできることをしようと行動してきました。」

「勘なんて…、不確かなものじゃないですか。それなのに。たった数回会っただけのあいつのために、動いてくれたのですね。」

「自分で言うのもなんですが、僕の勘はよく当たるんですよ。だから。みなさんとの出逢いを大切にすべきという直感に従ったまでです。フィリアさんの出産予定日の2ヶ月前に、エスター嬢の身になにかが起こる。そこで以前、この侯爵邸を訪ねた際に予定日をお聞きしたのです。」

ウィルバート様は、エスターを王都から送ってくださった際、我が家へ寄っていた。あのとき、私に予定日を聞いたのは、運命の日を特定するためだったの?それからエスターを家へ送ってからも伯爵領に留まり、伯爵邸を一望できて、異変があればすぐに駆けつけられる待機場所を探したらしいわ。そして今回、1週間ほど前から伯爵領を訪れ、その待機場所から伯爵邸を見守っていたそうよ。

ウィルバート様はずっと前から、人知れず運命の日に備えてくれていたの。

「確かに。その未来が訪れないのなら、その方がいいと思っていました。エスター嬢とフィリアさんが無事でいること、それが全てですからね。」

「ウィルバート様、ありがとうございます。全部、あなたのおかげです。結局、俺は間に合わなかったから。」

「僕の方も、想定外なことはあったんです。伯爵邸の前の通りでエスター嬢を待ち伏せしていたのですが、いつの間にか、屋敷の中から彼女の声が聞こえてきたんですから。焦って駆けつけたため、屋敷へ不法侵入してしまいましたよ。」

「それは、裏山の道が最短ルートなので、屋敷の裏から入ったからです。裏山の勾配はきついですが、あいつは、俺の馬用のポーションを勝手に使って、馬を強化していましたからね。」

「ここへ来る道中、どのルートを通ったのか本人に聞いたのですが。彼女は急斜面を駆け下りると、裏の崖からジャンプして伯爵邸の塀を越えたそうです。」

「俺も裏の山を通りましたけど、さすがに崖からジャンプはできませんよ。俺の馬用のポーションを勝手に使って、馬の身体能力を強化したことに加え、あいつの風魔法で馬を浮かせたんでしょうね。」

ラスったら、まだ気が収まらないのね。『勝手に使って』って2回も言ったわ。さっき、新しいのをあげるって約束したのに。

「エスターって時々、あっと驚く行動をするのよね。エスターが助かったのは、ウィルバート様が私たちの話を信じ、行動してくださったおかげです。私とラスは、彼女の未来を変えてあげられなかった…。」

「それは違います。僕を動かしたのは、エスター嬢を助けたいという、おふたりの強い想いなのですから。それに。僕が伯爵邸周辺で待機していたのは、"念のための保険"、それくらいの気持ちだったんです。」

「だけど。その、念のための保険が未来を変えてくれたのではないですか??やっぱり、ウィルバート様のおかげです。」

「リアの言う通りですよ。ウィルバート様には、いくら感謝しても足りません。」

「ウィルバート様。エスターを助けてくださって、ありがとうございました。」

私とラスが、深々と頭を下げるのを見て、ウィルバート様は困惑していた。

「頭を上げてください。僕だって、エスター嬢を助けたかったのです。彼女には、感謝しているんですよ。我が領に必要な物資を送ってくれたおかげで、生活に彩りが生まれたとみんな喜んでいますから。」

「だけど。ウィルバート様からの贈り物の方が、価値のあるものばかりですからね?」

ラスの言葉に、私はうんうん頷いたわ。私たちへの贈り物も価値のあるものばかりで、私とラスはお返し選びに頭を悩ませているのよ。

「価値のあるものを持っていても意味がないんですよ。うちの領地には、それらを活かせる者がいませんからね。だったら。活用してくれる人に贈った方が効率的じゃないですか。それに。僕だって、感謝しているんですよ。みなさんとの出逢いは、僕の視野を広げるきっかけになったので。」

「そんな…。俺たち、特別なことをしたつもりはないんですけど。なぁ、リア?」

「そうよね。令嬢の情報を集めたのはエスターだし。私たちがしたのは、お茶会にお誘いしたくらいじゃないかしら??」

「王宮の舞踏会で、腹の探り合いに辟易していた僕にとって、おふたりとの会話は気が置けない時間でした。王都に出てきたばかりの僕に、はじめて下心のない厚意をくれたのが、おふたりだったんです。というより、じつは…。下心があったのは、僕の方なんです。」

あの舞踏会で、ウィルバート様は、押しの強い令嬢や貴族同士の腹の探り合いにうんざりしていた。知り合いもいなくて困っていたウィルバート様は、テラスにいた私とラスのもとへ避難してきたのだった。

でもそれには、下心があったそうなの。

「おふたりと繋がりを持てれば、そのうちエスター嬢とも関われるのでは?という下心があったのです。父の再婚に口出しするつもりはないのですが…。さすがに、僕より年下の彼女が義理の母になることには、手拍子で賛成できそうになくて。まずは、彼女の人となりを知らなければと思ったのです。だから。おふたりが、茶会に彼女を呼んでくれたことは、僕としては渡りに船でした。」

「いやいやいや。あいつは、辺境伯様との面識は一切ありませんからね!?辺境伯様の後妻にも、ウィルバート様の義理の母にもならないですよ??」

「それはわからないじゃないですか。エスター嬢の行動力と情報力は侮れませんから。実際。うちの領民でさえ知らない父の情報を、彼女は知っていましたからね。」

ウィルバート様の真剣な表情に、私とラスは言い返せなかったわ。

「でも。どうやら、父は条件を満たせなかったらしいですね。エスター嬢は、フィリアさんと離れたくないようですから。対象外となった理由が、ヴェルナー辺境伯領とロックハート侯爵領との距離が遠いからだなんて。」

「本当に、申し訳ない。辺境伯様の人柄も知らないというのに、勝手な妄想をし、不敬なことばかり言ってしまって。…あの。このことを、辺境伯様はご存知なのでしょうか?」

「勝手に結婚相手の候補にされた上、領地が遠いからと対象外にされたことをですか?」

その指摘に、私とラスは押し黙ってしまう。思い返してみたら、私たちってなんて失礼だったのかしら…。

「ふっ…。はははっ。ふたりとも、そんな顔しないでください。父は知りませんから。たとえ知っても、若い子に結婚相手の候補として上げてもらえたと笑い話にするでしょうから。」

「ウィルバート様…。もしかして、おもしろがってました??」

ラスは、ためらいがちに尋ねた。

「だって、おもしろいじゃないですか。父が、息子よりも若い子の結婚相手の候補に上げられ、あれこれ調査して好物件だったのにも関わらず。最終的に、辺境伯領が友人の住む領地から遠過ぎるという理由で候補から外されて。本人の知らないところで告白され、知らないうちに振られただなんて、笑えます。」

部屋にはウィルバート様の大きな笑い声が広がった。

「しかも。父以外にも候補はいましたよね。エスター嬢の希望する相手は、舞踏会の会場で話しかけていた方々を見れば一目瞭然でした。年の離れた方々ばかりでしたからね。」

「ええ。エスターの希望する条件は、成人した後継者のいる、年の離れた方の後妻です。彼女は、自分で子どもを生む気も、育てるつもりもないので…。」

「そのようですね。だから、用意してくれた令嬢の資料の中に自分を含めなかった。彼女だって、結婚適齢期で婚約者がいないのに。」

「ああ!本当だわ。エスターも、ウィルバート様の婚約者候補に該当しますね。」

目から鱗が落ちたわ。だって。エスターの条件ばかりが頭にあったから全く気がつかなかったんだもの。ウィルバート様から見れば、エスターだって結婚相手の対象になりえるのよね。

「あいつは時々、魔力を暴走させるだろ?わざわざ、そんな相手を選ぶ必要はないじゃないか。それにウィルバート様にも、結婚相手への条件はありますよね?」

「強いて言うなら。田舎な上、魔物が出没するヴェルナー領でも、楽しく暮らしてくれる人でしょうか。」

「エスターなら、楽しく暮らせるだけじゃなく、領地の発展にも貢献してくれると思います!!」

エスターを推そうと、前のめりで返答した私をラスが先走るなとたしなめる。

「確かに。あいつはどこでだって、たくましく順応するだろう。だけどな。ウィルバート様にだって、理想や好みがあるんだから。」

「ウィルバート様の理想の結婚相手はどんな方なのですか!?」

「王都で聞いた噂では、理想の婚約者として1番人気なのはエスター嬢らしいですよ?」

答えをはぐらかされちゃったわ。

「あぁ…。あいつ、外面は完璧ですからね。みんな、上辺しか見てないんですよ。本性を見ても、理想の婚約者と言ってくれる相手なんていますかね。」

「そうよね。よそ行きの顔で話しかけられると、知らない人と話してるみたいだもの。」

「それ、すごくわかります。他の人が近くにいると、急に話し方が他人行儀になりますよね!?」

「俺…。あの話し方で話しかけられると、ゾワっとするんだよな…。」

私たちは、エスターの取り繕った話し方にものすごく違和感を覚えるという話題で大盛り上がりしたの。

「おふたりといるときの彼女は、ありのままで表情豊かですよね。僕も、素のエスター嬢の方が親しみやすいです。」

「ありのまま過ぎるけどな。あいつが魔力を暴発させて開けた大穴や、えぐった山を、今度見てみてくださいよ。ほんと、笑えませんから。」

「いえ。逆に、一周回って笑えるかもしれませんよ。」

ウィルバート様の軽口に、エスターが魔力を暴発させる度に居合わせてきた私とラスは、笑えない威力を熱く語った。けれど。不思議なことに、笑えないと説明すればするほど、ウィルバート様が笑顔になるのよ。

だから最後には、私とラスも笑っちゃったわ。

今。こんなふうに、エスターの話題で笑っていると、運命を変えることができたのだと実感する。

「ウィルバート様。エスターを助けてくれて、本当に、ありがとうございました…。」

「フィリアさん。もうお礼は聞きましたから。そう何度も礼を言わないでください。」

「いいえ…。何度でも言わせてください。何度言ったって、足りないくらいなんですから…。」

「そうです。先程も言いましたけど。いくら感謝の言葉を述べたって、足りないんです。ウィルバート様が、あいつを助けてくださらなければ、俺とリアには残酷な未来が待っていたのですから。あの未来を壊してくれて、ありがとうございました。」

ウィルバート様がいてくださってよかった…。本当に。心から、そう思うわ。


「おふたりが見た未来は、鏡に映ったのでしたよね。その鏡は、今どちらに?」

「姿見は手放したので、ここにはもうありません。」

ラスの話に、私は相槌をうつ。

「それは、残念です。話を聞いてから、ずっと興味があったんですよね。」

「ウィルバート様、まさか。あの、姿見を見るつもりでいたのですか??そんなことをするのは、エスターくらいだと思っていました。彼女は、ためらうことなく見ていたので。」

「姿見は、ハネムーンの際に立ち寄った魔道具屋に引き取ってもらったんです。ここに置いていて、エスターが姿見の検証をはじめたら困りますからね。あいつは昔から無駄に勘が鋭いから、自分には未来がないと気づいてしまうでしょう。」

「では。エスター嬢も、第六感の持ち主なのかもしれませんね。」

「いやいや。あいつのは、野生の勘ですよ。」


私とラスは、ウィルバート様へ、エスターを助けてもらったお礼をしたいと申し出たのだけれど断られてしまったの。でも。私たちが折れなかったため妥協して、しばらくの間、あの天秤を貸して欲しいと提案されたわ。そこで私たちは、貸すのではなく、差し上げることにしたの。

ウィルバートのことだから、きっと天秤を返そうとしてくるだろうけど、そのときは、こっそり彼の荷物に紛れ込ませるつもりよ。エスターがしたみたいにね。

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