表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/57

#22 運命の歯車を止めたのは

この回の視点=エスター→ラザラス

目を閉じた私の耳元で、"ゴッ"という鈍い音がした。

━━その直後。

"ドンッ。ガッシャーン。パリパリパリン。"

"バキッ。ガシャン。"

衝撃音が屋敷中に響き渡った。


(痛っっ!!!)

立て続けに聞こえたガラスが割れる音と、腹部の痛みにパッと目を開けた。どうやら、手すりにお腹を強打したようね。私は今、吹き抜けの手すりに、干された布団のような状態になっている。そんな私の目に映ったのは、凄惨な光景だった。

玄関ホールには、砕け散ったシャンデリアと、額縁が壊れたふたつの絵画。使用人たちの様子を見ると、呆然と立ち尽くす者、泣きながら座り込む者、ケガをしている者もいた。

ふと、背後に人の気配を感じ、視線を自分へ向けると、私の体を支えている腕が見えた。誰かに背中を覆われているようで、背中に鼓動が伝わってくる。

私は、背後にいる"誰か"と手すりの間に挟まれていた。

「エスター嬢。大丈夫ですか??」

背後にいる誰かが耳元で尋ねてきた。この声には、聞き覚えがあった。だけど、ありえない。だって、こんなところにいるわけがなんだもの。

背後にいるのが誰なのか、確かめようと振り返った私は、わけがわからず動転した。

「ウィル様!?」

声の主は、想像した通りウィル様だった。

(どうしてウィル様が家に??)

「…エスター嬢。お怪我はありませんか?」

優しく微笑みかけたウィル様の額には、汗がにじんでいた。さらにウィル様から血の匂いがして、私は冷静さを取り戻した。そして、先程目を閉じた際に耳元で聞こえた鈍い音と、屋敷中に響いた衝撃音の正体に気づいたの。あれらの音は、手すりにぶつかった衝撃で風の力を解いてしまい、浮かせていたシャンデリアが落下した音。私に向かって飛んできた、絵画が2階から玄関ホールへと落下した音。耳元で聞こえた鈍い音は、絵画がウィル様へぶつかった音だったのよ。

私に直撃するはずだった絵画は、ウィル様にぶつかって吹き抜けから落下したのね。ウィル様は身を挺して、私を守ってくれたんだわ。

「ウィル様こそ、お怪我をされたのではないですか??額縁が当たったのでしょう?見せてください!!」

「いえ…。これくらい大丈夫ですから。」

「大丈夫じゃありません。血が出てるじゃないですか!?あぁ。はやく、治療してもらわないと。」

ウィル様の背中が血でみるみる赤く染まっていくから、私は慌てふためいてしまう。医者を呼ばなくちゃと、まわりに目を向けたら、母の姿を捉えた。

「ああ、忘れていたわ…。お母様をどうにかしなければいけないんだった…。」

「それなら、もう大丈夫ですよ。僕が、夫人の足を固定して動きを封じたので。」

母をよく見てみると、足が床から離れないようで、確かに身動きがとれない状態だった。この好機に、近くにいた使用人に頼んで魔力を封じる魔道具を取って来てもらい、母へ装着した。これで問題がひとつ解決したわ。

あとは、ウィル様の怪我を診てもらわなきゃ。

ちょうど、そこへ。

「エスターっ!!」

「ラザラス!!いいところに。こっちへ来て。ウィル様の治療をお願い!」

「えっ…!?ウィルバート様??」

ラザラスは驚きながらも、階段を駆け上がって来て、ウィル様の診察をはじめた。

「ラザラス殿。エスター嬢を先に診てください。僕が絵画の勢いを受け止めきれず、エスター嬢を手すりへ押しつけてしまったせいで腹部を強打してるので。」

「絵画の勢い…??」

「ラザラス。私のことはいいから、ウィル様を治療してちょうだい。さっきから、血が止まらないの。」

私とウィル様の板挟みになっても、ラザラスは、『順番に診るから』と言って、医者としての務めを淡々とこなした。

「エスター。どこか、使える部屋はないか?落ち着いて治療したいんだ。」

使える部屋を探すため、改めて家の中を見てみると。どの部屋も酷い状態で、その惨状に言葉を失くしたわ…。その中でも、私の部屋が比較的ましだったから、ふたりを案内した。

「治療に集中するから。おまえは、部屋の外で待っていてくれ。」

「ええ、わかったわ。だけど、ちょっと待ってちょうだい。」

ラザラスから、治療に集中するために部屋から出るようにと言われ、私は机の上に置いていた、うさぎのぬいぐるみとマンドレイクを回収した。

「そのぬいぐるみ、夫人に壊されたのか?それは、ショックだったよな。リアから、はじめてもらった誕生日プレゼントだもんな。」

気持ちを汲み取ってくれたラザラスに、私は罪悪感を覚え、ポケットから空になった瓶をそっと差し出して謝罪した。

「ラザラス、ごめん…。あんたが、誕生日にリアからもらった馬用のポーション、使っちゃったの。」

「はあ?嘘だろ!?せっかく、今まで大事にとっておいたのに…。ああっ!?そうか!どうりで強化魔法をかけて追いかけても、追いつけないわけだよ!?あのポーションには、リアの魔力が込められてるからな。ほんとおまえ、ふざけるなよ!」

えぇっ!?なにも、そこまで怒らなくてもいいじゃない?こいつ、我が家の惨状を目にしたわよね??それなのに、こんな状況の私を責めちゃうんだ。こいつって、ほんと、リアのことになると…。

「あんたってほんと、リアのことになると頭がおかしくなるわよね…。」

「人のこと、頭がおかしいだなんて言えるのかよ?おまえだって、リアのことになると見境ないだろうが!?」

「あらやだ。私。『頭おかしい』って、口に出しちゃってた??」

「ふっ。はははっ。」

私とラザラスがいつも通り、言い合いをしていると、それを見ていたウィル様が吹き出したの。

「ウィル様?なにか、おもしろいことでもありましたか?」

「いえ、ただ。こんな状況なのに、ふたりがいつもと変わらない様子なので。」

確かに。こんな状況なのに、ラザラスは私に対して変に気を遣うこともなく、相変わらず『リアリア』言ってるわね。ほんと…。こーんな状況なのにね。だけど。なんだか、そんなこいつの態度に救われた気がするのよね。

「ふふっ。ウィル様。笑ったら傷に響きますよ?それじゃー。ラザラス、任せたわよ。」

私は部屋を出ると、父が連れて来た子どものもとへ向かった。

さぁて。ご対面といきましょう。



━━結局俺は、エスターに追いつけないまま、伯爵邸へ着いてしまった。

馬から飛び降り、玄関を開けた俺は、目に映った光景に絶句してしまう。玄関ホールには、ガラクタと化した絵画やシャンデリアが落ちていて、床にはその破片が散らばっていた。まわりにいる使用人は、立ち尽くすか、座り込んでいて、顔面蒼白の者や、泣いている者がほとんどだった。

俺が見た未来では、伯爵家が公表したエスターの死因は、階段からの転落だった。恐る恐る階段へ目を向け、そこから徐々に階段の上へと視線を移していった。すると。2階のホールにエスターの姿を見つけた。実際に、あいつが生きているのをこの目で確認できた瞬間、心底安心したよ。

"間に合った"って。

「エスターっ!!」

俺は、玄関ホールから2階にいるエスターに向かって叫んだ。そしたら。予想もしていなかった言葉が返ってきた。

『ウィル様の治療をお願い!』

なぜここに、ウィルバート様が?と疑問に思いつつ階段を上がり、ふたりのもとへ駆けつけた。ふたりから、相手の治療を先にして欲しいと言われたが、ウィルバート様を優先させた。パッと診ただけでも、明らかにウィルバート様の怪我の方が重症だったからだ。まずは、この血のついた服を脱いでもらわないといけないな…。部屋を貸して欲しいと言うと、エスターは自分の部屋を使うようにと案内した。

どの部屋も泥棒に入られたような…。いや、その表現は違うな。"戦場"の方がしっくりくる。どの部屋も、戦いのあとのような見るも無残な状態だったが、それはエスターの部屋も例外ではなかった。

治療に集中するから部屋の外で待つように言うと、エスターは机の上から、うさぎのぬいぐるみとマンドレイクを持って出て行った。その、リアからもらったうさぎのぬいぐるみは耳が千切れ、マンドレイクは陥没し、もげているところがあった。

あれが、今回の魔力暴走の原因だろうな。あいつからは、これまで何度も見てきた、魔力暴走後特有の魔力の乱れが感じられた。

「ウィルバート様。いったい、なにがあったのですか?これ、骨にヒビが入ってますよ…。」

ウィルバート様の背は血まみれで、服を脱ぐ際、痛みで顔を歪めていた。それはそうだろう。肩甲骨にヒビが入ってるんだから。

エスターの前では、怪我の程度を悟られないよう気を遣って、平静を装っていたのだろう。こんな状態でよく、痛みを顔に出さずにいられたな。

「僕がこの屋敷に入るとほぼ同時に、伯爵夫人の投げた絵画が、シャンデリアへ直撃したんです。エスター嬢は、落下するシャンデリアから使用人を守るため、風の力を使っていました。そこへ、夫人が再び絵画を投げつけて、それがエスター嬢めがけて飛んできていたので、夢中でその間に体を入れたのです。」

「ウィルバート様が、エスターを守ってくれたんですね。…俺は、間に合わなかったんだな。」

間に合ったと思っていたが、そうじゃなかった。俺が着いたときにはすでに、運命の瞬間は訪れたあとだったんだな。

あんなに、未来を変えるんだと言い張ってきたのに、リアに合わせる顔がない。もし、ウィルバート様が体を張ってくれていなければ…。想像もしたくない未来が待っていただろう。


なぜ、ここにいるのか。

なぜ、身を挺してまでエスターを守ってくれたのか。

疑問はあるけど、今はそんな些細なことはどうでもよかった。

「ウィルバート様。あいつを守ってくださって、ありがとうございます。」

「いえ。僕が、したくてしたことですから。それより。僕の治療は、ある程度で構いません。あとは、エスター嬢を治療して、はやく家へ戻った方がいいのではないですか?心配している奥様へ、エスター嬢の無事を知らせてあげてください。」

「それは、そうですけど…。そしたら。治療の続きをするので、エスターを連れて家へ来てくださいね。」

「わかりました。そうさせてもらいます。それから。もうひとり連れて行くことになると思うので、よろしくお願いします。」

ウィルバート様の言葉に甘え、今は、応急処置を施すに留めた。はやくリアを起こして、安心させてやりたいから。

それにしても。この傷を見たら、エスターは負い目を感じただろうな…。見せなくて、正解だったな。あいつには、怪我の状態を説明するだけにしておこう。

応急処置を終え、エスターを探している途中。先程、エスターとウィルバート様がいた2階の階段ホールで足を止めた。飛んできた絵画の威力が強大で、ウィルバート様はこらえきれず、エスターを吹き抜けの手すりに押しつけたと言っていた。

そういえば。『母はバカ力なの』って、あいつから聞いたことがあったな。

怪我の状態からみて、彼の肩甲骨に額縁の角が直撃したのだと思う。もし、ウィルバート様がいなければ…。絵画は、エスターの頭部へ直撃していただろう。たとえ、あいつが腕で頭を守ったとしても、ウィルバート様でさえこらえきれなかったんだ。エスターがたえられるわけがない。この手すりに押しつけられ、そのまま落ちていたかもしれない。

あの未来ではウィルバート様のように、支えてくれる者はいなかったんだろう。階段から落ちたと公表されたが、実際は階段ホールから玄関ホールへ落下したんじゃないのか?受け身をとることができなかったのは、使用人を守るために風の力を使っていたから。この伯爵家を嫌っているのに、あいつは家のために体を張ったんだ。

ははっ。さては、あいつ。使用人や領民を大事に思う、リアに感化されたな。


エスターは、メイドと子どもと一緒にいた。

それは、あの未来で、エスターを伯爵家から連れ出してくれていればと泣いて訴えてきたメイドだった。

そして。そのメイドに抱き抱えられている子どもが、この惨状の原因なんだよな。まさか、たくさんの人の人生を狂わせたのが、こんな小さなこの子どもの存在だったなんて。

「おまえの治療はこれで終わりだ。だけど、ウィルバート様の治療はまだ終わってないから、家に連れて来てくれよ。この状況下で家を空けるのは、気が引けるだろうけど。おまえと夫人は距離を置いた方がいいと思う。それと。リアが、おまえのことをものすごく心配してるからな!!はやく、顔を見せて安心させてやってくれよ。」

「わかったわ。今後の話がまとまったら、すぐに向かうわね。出産まで、そばにいるってリアと約束したもの。そうだ。そのときは、この子も一緒に連れて行くことになると思うわ。」

「ああ。ウィルバート様も、そう言ってたよ。夫人の近くには、置いておけないからな。」

ウィルバート様の言っていた、『もうひとり』というのは、この子どものことだった。実の娘であるエスターに対してでさえ、愛情のない夫人が、夫が突然連れて来た子どもに優しくするわけがない。


運命の日にエスターの身になにが起きるかわからず、怪我や病気、毒にも対処できるようあらゆる種類の薬やポーションを準備してきた。俺は、未来で聞いた、階段から落ちたという死因を信じていなかったからな。

それらの薬とポーションを、怪我をした使用人に使うようにとエスターへ渡し、俺は伯爵邸をあとにした。


置いてきた薬のかわりに、エスターの部屋からとってきたあるものをポケットにそっと忍ばせて、リアのもとへと急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ