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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#21 加速する運命の歯車

視点がフィリア→ラザラス→エスタ→の順に変わります。

どうしてなの、エスター…。私の出産が終わるまでは、なにがあっても伯爵邸へは帰らないでねって。この2ヶ月の間に、何度もそう約束したじゃない。なのに。どうして…。


私の叫び声を聞いたラスが、慌てた様子で駆けつけた。

「リアっ!?」

「ラス…。どうしよう。エスターが行っちゃった。行かないでって言ったのに…。お願い、ラス。はやく追いかけて!!」

しがみついてお願いする私を、ラスは寝室へ連れて行き、ベッドへ横にならせた。

「…ラス??なにしてるの。はやくエスターを追いかけないと、取り返しのつかないことにやっちゃう…。」

「このままなにもしなければ、リアだって取り返しのつかないことになるんだぞ。リアがストレスを感じると子宮が収縮して、切迫早産になる恐れがあるんだ。そうなれば、あの未来の通りになってしまう…。」

ラスは、私のお腹に魔力を流し、子宮が収縮しないように処置をした。それから。ロータスからつくった、気持ちを落ち着かせ、安眠作用のあるアロマを焚いた。

「いいか。リアが今しなければいけないのは、エミリオを守ることなんだ。エスターのことは俺がなんとかするから、信じて待っていて欲しい。」

本当は、歯がゆかった。エスターのことが心配で仕方がないのに、ただ待っていることしかできないだなんて。でも、わかってるの。今の私は、エスターを追いかけられない。こんな大きなお腹では、馬には乗れないもの。それでも。こんな私にも、できることがある。それが、エミリオを守ることだった。

「…わかったわ。ラス。エスターのこと、お願いね。」

「ああ。必ず、あいつを連れて帰るから。それまでリアは、エミリオのために眠っていてくれ。」

ラスは魔道具屋で買っていた、深い眠りにつくことができるスクロールを私に手渡した。エスターの問題が解決するまで、眠っているようにと言って。意識があると、どうしても不安になってしまいストレスを感じてしまうから。その手際のよさから。ラスが、こんな状況になるのを想定して、対処法を講じていたのだと気づいたの。ラスが忙しくしていたわけは、早産を避ける方法を探していたからなんだわ。あの未来とは別の未来を掴むために。


エスターのことをラスに託し、私はエミリオを守るために、スクロールを破り深い眠りについた。

(エミリオ。絶対に、あなたを守ってあげるからね。)



━━リアが眠りについたのを確認すると、俺は、すぐさま用意させていた馬に飛び乗った。自分と馬に強化魔法をかけ、急いでエスターのあとを追う。


"未来を変えたい"

その想いが強ければ運命を変えられるだなんて、俺は信じてなかった。想いだけで変わるなら、あんな残酷な未来が訪れるわけないだろう?未来の俺だってリアへの想いは強かったはずなんだ。それでも、リアを助けられなかった…。

想ってるだけじゃ駄目だと思い、あの未来に抗うために、妊娠中や出産時に問題があった症例を片っ端から調べた。未来のリアと似ている症例を見つけては、詳しく話を聞くため患者の自宅を訪ねて回った。その結果。肉体的か精神的かの違いはあれど、共通しているのがストレスだということを突き止めた。あの未来では、リアのストレスの原因は、エスターが亡くなったことだった。だけど。現在いまのリアの場合は、予定日の2ヶ月前にエスターの死が訪れるいう未来を知ってしまったが故に、妊娠初期から強いストレスがかかっていた。そのため1日に何度も診察し、リアの体とエミリオの状態の変化に細心の注意を払った。必要に応じて、気持ちを落ち着かせる薬を処方したり、安眠作用のあるアロマを焚いたりもした。

以前エスターが、湖の浅瀬を埋め尽くすロータスの増殖力を嘆いていたけど。あのヴェルナー領産のロータスの香りには、心身を落ち着かせる効果やストレス解消効果、免疫力を高める効果があるんだ。リアに使っているアロマは、咳の出やすい体質や、妊娠中でも安全に使えるよう改良を重ねたものだ。

リアは今、スクロールの力で深い眠りについている。ロータスの香りの効果で、寝心地もいいはずだ。それに子宮が収縮しないよう魔力を流し、処置もしてきた。だから、リアとエミリオのことは大丈夫。

あとは。エスターを無事に連れ戻すだけなんだ。


だけど強化魔法を使って追いかけているのに、一向にエスターの背中が見えてこない。

どういうことだ?こっちは馬に強化魔法をかけた上、回復魔法もかけながら走ってるんだぞ!?たとえ、あいつが風魔法を使っていたとしても、こんなに追いつけないのはおかしいだろ。

まさか、この道じゃない道を通ったのか…??いいや、それはないよな。この、道とも呼べない道が、リアの家からエスターの家までの最短ルートなんだから。山を下っていると、エスターの姿を捉えるより先に伯爵邸が見えてきた。


クソっ!こんなことになるなら、魔道具屋で、あのバカみたいな値段の転移石を買っておけばよかった。相場がわからないから、"高過ぎる"と思って買わなかったことを、この状況になって心底後悔している。

俺は未来を知ってから今日まで、運命を変えるために足掻いてきたんだ。ここまできて、間に合わないなんて結末は勘弁してくれよ。俺はリアに、俺を信じて待っていて欲しいって約束したのに。


頼むから、間に合ってくれ!!



━━あぁ…。うちの家庭は、もう修復不可能ね。アンダーソン伯爵家は、このまま家族崩壊するんだわ。

馬を走らせ家に向かいながら、私はどこか他人事のように我が家の崩壊を確信していた。


リアの家を訪ねて来た使者の話では、父が小さい子どもを家へ連れて来たらしいわ。父は、その子どもを伯爵家で育てると宣言すると、子どもを残してまた外出してしまったのですって。

父が女の人を匿っているのは、以前から知っていたの。その女の人のところで過ごしているから、家に寄りつかなくなったということもね。政略結婚をした貴族が、外に愛人をつくるのは別に珍しいことでもないし。うちの両親は、お互いに気持ちはないから、私は不干渉を貫いた。だけどそれは、父が領地の隅で人目につかないようにしていたからよ。それがまさか。子どもを家へ連れて来ただなんて。ほんと、信じられない…。そんなことをしたら、母が乱心するに決まっているじゃない!!いくら母に対して関心がないとしても、20年も連れ添っていればわかるはずなのに。

なによりも信じられなかったのはね、父が猛獣ははの前に小さな子どもを置き去りにしたことなのよ。だって、その子には罪はないもの…。

今、家がどんな状況かを想像すると、その子と使用人のことが心配だった。


険しい山道を抜け、山を下り、急斜面を駆け下りる。崖からジャンプし、風魔法を使って家の裏側の塀を飛び越え、リアの家から最短ルートで家へ着いた。塀を飛び越えたのを見ていた厩番にため息をつかれたけど、彼にいつもの勢いがない。いつもなら。『馬がかわいそうだ』とか、『馬の寿命が縮まる』とか、説教が続くのに。

『ガシャーン!!』

ものが割れる音と、使用人の悲鳴が庭にまで聞こえてきた。こんな状況じゃ、馬の扱いが悪いなんて説教をしてる場合じゃないわね。厩番に、侯爵家の馬を労るよう頼んだら、馬を酷使した私へ皮肉が返ってきたわ。

「ええ、もちろんですとも。わしは、馬をかわいがるのが仕事ですからな。お嬢様とは違って。」

その皮肉のおかげで張り詰めていた糸が緩み、今できる精一杯の笑みを厩番へ向けた。それから私は、玄関へと急いだ。

中へ入り、扉を閉めようとして、扉の内側がへこんでいるのが目に入った。これは。出て行った父に向けて、母がものを投げつけてできた傷だろう。私が帰宅したことに気づいた使用人が、すがってくる。だけど。今は、みんなをなだめるよりもまず、猛獣と化した母を止めなければ。父が連れて来た子どもは、母が暴れるのを察知したメイドと隠し部屋へ逃げたため怪我はないと聞き、ひとまず安心したわ。

母のもとへ向かう途中で目にしたのは、ほとんどの部屋のドアが外れ、中が荒らされていた光景だった。嫌な予感がして、2階の自分の部屋へと向かった。私の部屋もまた、ものが散乱していて、ひどい有り様だったわ。私は、部屋の中をゆっくりと見回した。そして。その散乱しているものの中に、リアからもらった、うさぎのぬいぐるみを見つけたの。ぬいぐるみは、壁に投げつけられたのか、耳が千切れた状態で床に横たわっていた。震える手で、ぬいぐるみへ手を伸ばした。この震えが、悲しみからくるものか、怒りからくるものかはわからないけれど。リアからもらったはじめてのプレゼントをぞんざいに扱われ、なんとも言い表せない感情が込み上げてきたの。その感情が爆発したのは、うさぎのぬいぐるみの下敷きになっていた、悲しげな表情のマンドレイクと目が合った瞬間だった。壁にはマンドレイクがぶつかった跡があり、床にはもげた根の一部が転がっていた。ぬいぐるみと一緒に、壁に叩きつけられたのだと思う。私の目には、下敷きになっていたマンドレイクが、うさぎのぬいぐるみを守っているように見えたの。

宝物リアからもらったものたちを壊され、"ぷつん"と感情の糸が切れる音がした。理性が飛んでしまったのよ。そのあとは。込み上げてくる感情と、本能の赴くままに、魔力を放出した。

母と同じようにね…。


母めがけ突風を放ち、風に煽られ倒れた母を蔑んだ目で見下ろし、さらに怒りを助長させた。

そこから。手加減無しの、母と娘による壮絶な親子喧嘩がはじまったの。手当り次第にものを投げる母に、風をおこして対抗すると、お互いにだんだんとエスカレートしていったわ。

そして。2階の階段ホールまで来たところで、母は廊下の壁に掛けてある絵画を外し、額縁ごと思い切り放り投げたの。絵画は、フライングディスクのように回転しながら、玄関ホールを照らすシャンデリアへぶつかった。シャンデリアが割れ、玄関ホールにいる使用人の頭上に、破片が降り注ぐ。さらに。額縁がぶつかった衝撃で、シャンデリアを支えているチェーンが切れてしまった。落下するシャンデリアから使用人を守ろうと、集中して風を操っていると━━。

「お嬢様っ!!」

悲鳴とともに、大声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ると…。母がまた、絵画を投げつけてきていたの。その絵画は高速で回転しながら、私をめがけて飛んできている。風で防ごうとした瞬間、玄関ホールにいる使用人のことが脳裏をよぎった。絵画の方へ風の力を使えば、シャンデリアが使用人にぶつかってしまう…。

『シャンデリアか、絵画か。』

ほんの一瞬迷っているうちに、絵画はもう目の前に迫っていた。


(ぁ……。)

私はぎゅっと、目を閉じた。

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