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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#2 沈黙の茶会の沈黙を破ったら…

今日の茶会の場である温室へ移動し、ラスの向かいの席に腰をおろす。ラスは、私と真正面から向き合いたくないようで、椅子を少し斜めにして座っている。


━━相変わらず、今日も会話はない。

いつもお茶会の間は、辺りをぼーっと眺めて、この沈黙の時間が過ぎるのを待っている。

だけど今日は、視線をラスへ向け、様子を観察することにした。こんなにちゃんと、ラスの顔を見たのはいつ振りかしら。

情報通のエスターの話では、金髪碧眼で、背も高く、顔も整っている侯爵令息のラスは、次男だけど令嬢たちに人気があるらしいわ。そんな、ラスに想いを寄せる令嬢たちは、私のことを『ずるい』と思っているでしょうね。

だって…。私が、ラスの婚約者になったのは、たまたま親同士の仲がよかっただけだから。


私の家のロックハート侯爵領と、ラスの家のエヴァンス侯爵領は隣接している。

エヴァンス家の人々は、希少な治癒の力を持っていて、その力を活かし、国の医療を担っているのよ。ラスの父親のエヴァンス侯爵様は、エヴァンス侯爵領と周辺の領地を、ラスの兄のルーカス様は王都の患者さんを診てまわっている。この国には、あちこちにエヴァンス家が運営する医院があるの。ラスのお祖父様なんて、現役の宮廷医なのよ。ラスもまた、自身の父親を手伝い、領民のために尽力してきた。

そして最近では、いつか私の父から爵位を継ぐため、家の仕事も手伝うようになっていた。ロックハート家の家業は製薬。領地で薬草を育て、飲み薬、塗り薬、貼り薬、消毒薬など、薬全般をつくっている。

領地が隣というだけでなく、医療のエヴァンス家と、製薬のロックハート家は、昔から切っても切れない関係だった。

そんな、家同士の結び付きが強い中で、特に、ラスのお父様と、私の父は子どもの頃から仲がよかったらしい。父たちは、互いの領地を頻繁に行き来し、親交を深めていった。

そんなある日。体の弱かった母は、エヴァンス侯爵領内にある診療所での療養中に、父と出逢ったのだという。父は何度も母を見舞い、元気づけたそうなの。父が母と出逢うことができたのは、ラスのお父様を頻繁に訪ねていたおかげね。ラスのお父様は、私の両親のキューピットと言っても間違いじゃないと思うわ。それに、母とラスのお母様もまた、もともと友達だったの。そんな、仲のいい親たちは、自分たちの子どもを結婚させようと意気投合したのよ。こうして、私とラスの結婚は、生まれたときから、互いの両親によって決められていたの。

親に決められた結婚でも、相手がラスで、私は嬉しかった。ラスとなら、きっと幸せになれる。そう…思っていた。

あれは、10歳のときだった。


『リアとの婚約は、親同士が決めたことなんだから、仕方ないだろ!!』


手を繋いでいた私とラスを見て、同年齢の公子たちがからかってきたの。そのときラスは、公子たちにそう言い放った。あの言葉を聞いて、私の心は凍りついてしまった。

私とラスの想いは同じじゃなかったと知って、ラスへの好意と、信じていたラスとの幸せな未来は砕け散った。それから私はラスとの間に壁をつくり、常に一線を引いてきた。これ以上、傷つかないように…。

8年も前のことを思い出したのは、きっと先程みた夢のせいよね。あれはただの夢だって、わかってるのに…。やっぱり、どうしても引っかかってしまう。

こんな、もやもやした気持ちのまま結婚したら、後悔するに決まってるわ。


私はティーカップを置き、お茶会の沈黙を破った━━。



「ねぇ。ラスは、このまま私と結婚してしまっていいの?後悔しない??」

私が突然話し出したからなのか、話の内容に驚いたからなのか、慌てた様子でこちらを向いたラスは、困惑しているようだった。

「それって、どういう意味だよ??」

「そのままの意味よ。私たちの結婚は、私たちの意思じゃなく、親が決めたものでしょ?ラスだって、言っていたじゃない。私との婚約は、親が決めたから、仕方ないんだって。ラスは、仕方なく私と結婚するのよね??」

「待ってくれ。リアは、何の話をしてるんだ?」

「もしも、うちのお母様の体が丈夫で、何人か子どもを産めていたら。もしも、その子が男の子だったら、私は婿養子をとらず、どこかに嫁いでいたはず。そして私が嫁ぐ相手は、ラスじゃない。だって、私と結婚しても、ラスにうちの爵位を譲れないもの。うちを継ぐのは、その男の子になるのだから。ラスのご両親は、爵位を継げない次男のラスに爵位を与えるため、養子か婿養子先を探すでしょうね。今の、我が家のように、後継者のいない家門をね。」

話をしている間、ラスが話を止めさせようと、何度も『リア』と私の名前を呼ぶのも、『待て』と言っているのも聞こえていた。だけど、『仕方ない』と言われてから、何年も言えずに溜め込んできた言葉を止めることは出来なかった。

「たまたま、親同士の仲がよくて。たまたま、片方の家には女の子しか生まれなくて。片方の家には、男の子がふたりいた。そして。たまたま、次男はラスだった。もしも、ラスが長男だったら、私の結婚相手じゃなかったのよ。」

「リア。そんな、"もしも"とか、"たまたま"って話に、何の意味があるんだよ?そんな空想をしたって、俺たちが結婚することに、変わりはないんだから。」

「親に決められて仕方ないって思うような結婚、幸せになれるわけないじゃない。だからね…。」

私は、息を深く吸って吐くと、ラスの青い瞳をまっすぐ見つめた。

「私たち、婚約を解消した方が、お互いのためだと思うの。」

「リアっ!?」

ラスは、私の話を止めるため、大きな声で私の名前を呼んだ。だけど、私は構わず話を続ける。

「私、ラスにふさわしい婚約者を目指したり、寄り添う努力もせず、ラスに向き合ってこなかったわ。結婚は決定事項だからって。"ラザラス・エヴァンス"という人物を、ちゃんと見てなかったって気づいたのよ。だって私、ラスのこと、何にも知らないもの。生まれたときから、18年も一緒にいるのに…。」

「…何にも知らない、ってことはないだろ??」

そう言ってラスは、落ち着こうと、お茶を口にする。その姿に、改めて、ラスのことを見てこなかったんだと自覚した。

今日のお茶会で、ラスの様子を見ていて気づいたの。お茶を飲む所作がきれいなこと。子どもの頃と変わらず、今も甘い物が好きなこと。この会話のないお茶会を、楽しんでいること。私にとってお茶会の沈黙は、気まずい時間だったから、ラスもそう感じているのだと決めつけていた。

だけど、お茶とお菓子を堪能しているラスの表情は、穏やかで、この沈黙を気にしていないようだった。それどころか、居心地がよさそうにさえ見えた。

(あぁ…。私、本当にラスのことを見てなかったんだわ。)

ラスは、私を意識してないのに、私だけが、ラスを意識していたなんてバカみたい。

あの夢でみた出来事が、実際に私たちの未来になる予感がして、不安が押し寄せてくる。そして私は、夢で飲み込んだ言葉を口に出した。

「ねぇ、もしかして。ラスには…、好きな人がいるんじゃないの??」

私の問いに、ラスは、飲んでいたお茶を吹き出し、ゴホゴホとむせ返り、わかりやすく動揺を見せた。

(やっぱり、ラスには好きな人がいるのね…。)

ラスに想い人がいることを確信した私は、ある決意をする。

「…私、ラスの恋を応援するわ。"婚約"のせいで、私たちの関係はぎくしゃくしちゃったけど、それでも友達だもの。」

「リアっ!!勝手に決めつけるなよっ!」

ラスが、"バンッ"と、テーブルを叩いて立ち上がった。私を見下ろす、ラスの瞳が揺れている。私は負けずに、ラスを見上げた。

「大丈夫。ラスのご両親も、私の両親も、きっとわかってくれるわよ。私とラスの意思を尊重してくれるはずだから。」

「リア…。もう、やめてくれ…。俺たち、半年後には結婚するんだから。」

「ラス、まだ間に合うわ。今ならまだ、なかったことに出来るのよ。もちろん、醜聞が立つでしょうけど…。」

「…なんで、そんなこと言うんだよ。俺と結婚するのが、嫌になったのか??」

ラスが、泣きそうな顔をしている。その顔が、夢で、離婚証明書を見たときにみせた表情と同じだったから、私の心は乱れ、どんどん夢の記憶に引きずり込まれていく。

「私は…。エスターのご両親みたいには、なりたくないのよ。」

「俺が、アンダーソン伯爵みたいになると思ってるのか?」

アンダーソン伯爵夫妻は、貴族ではよくある、親の決めた政略結婚で結ばれた。義務で結婚したおふたりの間には、結婚後も愛は芽生えなかった。伯爵邸では夫婦の会話はなく、社交の場でだけ仲のいい夫婦を演じている。夢でみた、夫婦になったラスと私の姿は、冷え切った関係のエスターのご両親みたいだった。しかもおふたりは、互いへの愛がないだけでなく、自分たちの娘である、エスターにも関心がないの…。

それから。エスターから聞いて、伯爵様が数ケ月前から家に寄りつかなくなったことをラスも知っている。だから、自分が伯爵様のようになると思われているのが心外だったみたい。

「俺に非があるみたいに言ってるけど、他に想ってる奴がいるのは、もしかしてリアの方なんじゃないのか?」

ラスの言葉からは、驚きと、怒り、嘆きが入り交じっているのが感じられる。

どうして、そんなことが言えるの…?他に想ってる人なんていない。いるわけないじゃない…。私はただ、ラスに好きな人がいるなら応援してあげようって。ラスを、自由にしてあげなきゃって。そう思って、ラスとの結婚を諦める決意をしたのに。

ラスに対して憤りを感じていると。ふと、ラスに似た小さな男の子のことが頭をよぎった。

あぁ…。そうだわ。ラスを諦めるということは、夢で会ったエミリオのことも、諦めるということなのよね…。

エミリオに会えないのだと思った瞬間、私の目から涙がこぼれた。

「リア…。嘘だろ…。本当に、好きな奴がいるのか??一体、どこのどいつだよ!?」

「…エミリオ。」

会えないと思うと悲しくて、堪えられず、エミリオの名前を呼んだ。夢と同じで、エミリオの名前を呼ぶと、とめどなく涙があふれてくる。

「エミリオ?誰なんだよ、そいつ。」

ラスが何度も、エミリオのことを聞いてくる。だけど、泣きやむことが出来なくて答えられない。そもそも、なんて説明すればいいの?

正直に、『エミリオは、夢に出てきたラスと私の子どもなの。』と言ったら、ラスはどう思うかしら?実際に会ったわけじゃない、夢でみただけの我が子のことで、こんなに泣いている私を…。きっと、どうかしてると思うわよね…。

私があまりにも泣くから、ラスは、エミリオについて聞くのをやめて、ハンカチで私の涙を拭い、泣き過ぎてうまく呼吸ができない私の背中をさすってくれた。背中から、ラスの温かい魔力が流れてくる。ラスに治癒してもらうのは、久しぶりだわ。以前よりも、もっと治癒の力が強くなったのね。

あぁ…。また、力の差がついちゃった…。ラスのおかげで、呼吸はしやすくなったけれど、心は苦しいままだった。

「今日は…、もう帰るよ。でも、覚えておいてくれよ。リアが婚約を破棄しようとしても、俺は、絶対に応じるつもりはない。」

(どうして、応じないなんて言うの?私との結婚を、仕方ないって思ってるくせに…。)

言い返したいのに、まだ涙がとまらず、言葉を発することが出来なかった。

「今度の王宮でのパーティも、リアをエスコートするのは、俺だからな。たとえ、リアが、エミリオって奴と行きたいのだとしても。ドレスも、いつも通り、俺が贈ったのを着てくれるよな??…じゃーな、リア。王都で会おう。」

ラスは一方的に約束をすると、人の返事も聞かずに帰っていった。エミリオのことを完全に誤解したまま。

バカね…。エミリオと一緒に、パーティに行けるわけないじゃない。あの子はまだ、この世に生まれていないのだから…。


こうして、沈黙の茶会の沈黙を破った結果。私とラスは、はじめての言い合いをしたのだった。

ラスを説得しようと、話しているときは必死になっていたから平気だったけれど…。温室にひとり残された今。私は、ショックで動けずにいるの。あんなふうに、ラスに大きな声を出されたことは、今まで一度もなかったから…。

婚約を解消しようと提案したのは、私との結婚を、"仕方ない"って思ってるラスのためなのに。どうして、受け入れてくれないの?それどころか私が、婚約破棄を望んでいるような言い方をされたわ。婚約を破棄したいのはラスの方じゃない!!結婚を望んでないのは、自分のくせに。ラスは、婚約をなかったことにしたいんじゃないの??だから私は、ラスの意思を尊重して、円満に婚約を解消してあげようと決意したのに。

それに…。夢でみた、あんな未来は、嫌…。…だけど。エミリオには会いたい…。冷え切った結婚生活を避けたい思いと、エミリオに会いたい想いに挟まれた私は、夢と現実の境界線が曖昧になっていた。


ラスの考えも、自分がどうすればいいかも、わからない…。頭も心も、ぐちゃぐちゃになってしまった私は、話を聞いてもらいたくて、エスターへ『明日、会いに行く』と手紙を書いた。



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