#16 おしゃべりな茶会
わーわー騒いでいたラスが、『私の旦那様』と呼ばれた途端ご機嫌になった様子を目の当たりにしたうちの使用人たちは、肩を震わせ必死に笑うのをこらえていたわ。
メイドに頼んで応接室へお茶の用意をしてもらい、私たちはソファに向かい合って座った。
「ところで。ハンカチの刺繍は気に入ってくれた??」
「ああ、もちろん。俺のイニシャルと、色の違う3羽の鳥。ニ枚もありがとな。あの3羽って、俺とリアとエミリオなんだろ??鳥の色は、それぞれ俺たちの瞳の色をしているんだな。絶対、大事にするから。」
「ええ。ラスと、私と、エミリオを鳥に見立ててみたの。」
私はハンカチを二枚用意した。一枚は、ラスのイニシャルから蔦を這わせ、そのまわりに花を散りばめたもの。もう一枚は、ラスと私とエミリオの瞳の色の鳥を、木の枝の上で仲良く寄り添わせたもの。
「大事に使ってね。」
私のお願いに、ラスはニコっと微笑んだ。大事に使ってくれることは、わかりきっているのだけどね。
「リアの刺繍は相変わらず、売り物みたいだよ。」
「そんなことないわ。あれくらい、みんなできるわよ。刺繍は、女性の嗜みなんだからね。」
「リアは、昔からそう言うけどな。リアくらいのはやさで完成させる人なんて、見たことないぞ。」
「じゃー。きっと、あれだわ。裁縫も刺繍も、1日にできる時間が制限さられていたせいよ。長い時間集中すると、体の負担になるからって。だから。短い時間で、はやく完成させようとした結果なんだと思うわ。」
「確かに、そうだったな…。時間になると、道具を取り上げられていたもんな。」
「そうよ。時間に追われていたから、せっせと縫ったり、刺したりしていたのよ。だって。のんびりやっていたら、いつまでも完成しないじゃない。」
別に、誰に頼まれたわけでもないから、そんなに急いで仕上げる必要はないのよ。でもね。なにもせず、ただベッドにいるだけの毎日に慣れるのがイヤだった。刺繍でも、裁縫でも、完成品を見ているとね、1日をムダにしなかったと安心できたの。
「そういえば。読書の時間も決められていたから、本を読むのもはやかったよな。絵本は早々と卒業して、動物や、植物、薬草の図鑑を読んでいたっけ。一度読んだら忘れないから、今じゃリアの頭が図鑑だもんな。」
「それで、私。覚えた動植物を探しに行きたいって言い出して、ラスを巻き込んでいたのよね。」
頭に入っている動植物を実際に見つけると、その度に興奮していた。それが珍しければ、珍しいほどね。その中で役立ちそうな薬草は、採取して栽培を試みたの。
「ラスは、薬草の採取も栽培も手伝ってくれたわよね。本当に私、いつも頼ってばかりいたわ。」
「はじめは近場だけの約束だったのに、だんだん広範囲なって。気づけば、お互いの領民まで巻き込んで、採取や栽培をするようになってさ。今では、薬草の種類が増えた分、薬の種類もだいぶ増えたよな。」
「畑づくりから、薬草の採取、栽培まで協力してくれてありがとう。ラスは、お家の手伝いもあったのに。いつも、ごめんね。」
「いいんだ。俺も、領民も、好きでやってることなんだから。」
好きでやってること…。聞き覚えのある言葉に、なんだか胸騒ぎがするのだけれど。
「リアは、自分にはなんの力もないって言うけど。みんな、リアの力になりたくて、協力してくれてるんだからな。」
「それってまさか…。ラスとエスターが、私を喜ばせようと、うさぎやリスを追いかけたのと同じじゃないわよね??領民まで、私のために無茶していたの?」
「あははっ。うさぎやリスを追いかけるのは、俺とあいつくらいだろうけど。領民は、リアのためになにかしてあげたいんだよ。領民を動かしたのは、リアの言葉の力なんだ。」
「私の言葉の力って、命令に聞こえたのかしら?私が、領主の娘だから。手伝いのお願いが、強制だと捉えられてしまう言い方になっていた?」
「リアの言葉の力は、そんなんじゃない。リアは、全領民の名前を覚えているだろ?それは、一領民にとって、この上ない誉れなことなんだ。領民はな、名前を覚えてもらったお礼をしたくて協力してくれるんだ。」
「名前を知っているだけなのに?その、お礼をしてくれるの??」
「領主の子どもに、名前を呼ばれ、気軽に会話するなんて、普通は考えられないことだからな。リアのところだけじゃなく。いつの間にか、うちと、エスターのところの領民もみんな、リアに心を掴まれていたんだ。」
エスターには、"人たらし"なんて言われたけれど…。私は、下心があって相手の名前を呼んだり、話をしたわけではないのよ?
だって領民が薬草畑に力を入れているのは、大量生産できる新薬を切望してるからだと思っていたもの。自分たちの健康にも、薬代にも関わることだから。
庶民にも手の届く値段で、効き目もある薬をつくるのが、私の目標なの。それで1番重要なのは、味よ!
「リアにとって記憶することは、呼吸するようなものだから、すごい力だって自覚がないんだな。領民ひとりひとりの名前を覚え、言葉を交わし、その会話の内容も覚えていてくれる。感謝や、労いの言葉をかけてくれる。それも、下心なくな。そんなリアの人柄に、みんな惹かれてるんだよ。」
「名前を呼んで、会話をするなんて、普通のことなのに。」
「リアは領主の子だけど、自分を特別だと思ってない。逆に、自己否定が強いくらいだからな。領民に対して、領主に仕え、尽くすのは当たり前だなんて、考えないだろ?だから自然に、心から礼が言える。そんなリアの言葉は、人の心に響くし、その想いは、領民にもちゃんと伝わっているんだよ。なぁ、リア。みんなが大事に思っているリアのことを、リア自身が、『自分なんか』なんて、言わないでくれよ。」
「…うん。うん…、わかった…。」
「…けど。記憶力がいいってことは、裏を返せば、忘れられないってことだよな。消したい記憶も…。リアが、ずっと俺の言葉に囚われていたのが、記憶力が良過ぎるせいだったとしたら…。その力には、良し悪しがあるってことだ…。」
「あの言葉を忘れたくて消そうとしたけど、できなかった。でもね。ラスがくれた、いい思い出も消えることはなかったのよ。特に、湖で見たあの星空とかね。」
「俺も。何年経っても、はっきり覚えてるよ…。はじめてリアとキスをしたのが、あの星空の下だから。」
私たちは、見つめ合いながら、あの満天の星を思い出していた。そこで、沈黙が訪れる。いつものお茶会では、常にこんな静寂だったわね。
「ねぇ。ラス、今日はよくしゃべるわね?ふたりきりのお茶会では、いつも会話がなかったじゃない。ラスは、あの沈黙のお茶会の時間、気まずくなかったの??」
ずっと、疑問に思っていたことを尋ねてみたの。今のラスになら、なんでも話せるから。
「沈黙が気まずい??」
ラスは、私の質問の意味がわからないみたいで、首を傾げているの。
「なら。ラスは、お茶会で会話がなくても、平気だったってこと?」
「なぁ。リアは刺繍をするとき、黙々と手を動かしていたよな。その隣で、俺も黙って本を読んでいた。だけど。あの会話がない状態でも、気まずくなんてなかっただろ?むしろ、俺たちにとって沈黙は気やすさを象徴する時間…。あ"ぁ…。そうか…。」
私たちにとって沈黙がどのような時間なのかを饒舌に語っていたラスが、急に天を仰いだ。
「つまり。エスターが言っている、『熟年夫婦』って例えは、言い得て妙だったんだ…。」
「私たちは、長年連れ添った、おじいちゃんとおばあちゃんみたいってこと??」
「あいつの目には、そう見えたんだろう。不仲じゃなくて、話す話題もなくなった熟年夫婦にな。」
「プッ…。」
私たちの会話を聞いていたメイドが、こらえきれず吹き出した。
「…そういえば。"ふたりきり"では、なかったわね。お目付け役のメイドがいたわ。」
「完全に人選ミスだけどな。」
メイドたちは、交代で私とラスを監視…見守っているみたい。それで今、私たちを見守っているメイドとは、一番気心が知れた仲なの。
けれど…。私も、ラスが言うように人選ミスだと思うわ。今だって、主人の会話に反応しちゃうしね。以前から、ラスとのお茶会の度に、気合の入ったドレスを私に着せようとするし。それから、私とラスが夜を共にしたことをエスターに怒られている様子を、覗き見していたわ。そういえば。エスターのあけた大きな穴に落ちたこともあったわね。
「なぁ。俺たちは、どこまでなら触れ合って大丈夫なんだ?」
ラスは、この子なら口を割りそうだと考えたようで、エスターからの指示を聞き出そうとしている。
「許容範囲があるだろ?まさか、手を繋ぐのも駄目ってことはないよな??」
「うーん??手ですか…??では。エスターお嬢様に、確認させていただきますので、それまでお待ちください。」
「あ…。ならいいよ。むしろ、確認しないでくれ。」
口を割らせようにも、そもそもこの子は情報を持っていないと気づいたラスは、下手なことを言ったら手を繋ぐのさえ禁止されると心配になったみたい。
季節は変わり。結婚式は来月に迫っていた。
今日は、引っ越しの手伝いをするため、ラスの家を訪ねている。ラスの部屋に入るのは、久しぶりなのよね。
「あっ!私があげたうさぎのぬいぐるみ。本当に、部屋にあったわ。」
「あるに決まってるだろ。リアからもらった物なんだから。そのぬいぐるみも、連れて行くよ。」
「なら、この子は、家に戻って来ることになるのね。」
「そうか。フィーアは、もとの家に帰ることになるんだな。」
「…え??このぬいぐるみに、"フィーア"って名前をつけたの?」
ラスは笑顔で頷いた。"フィーア"って…。幼い頃に少しの間、ラスが私を呼んでいた愛称じゃない。
「ほら。ぬいぐるみ以外にも、リアからのプレゼントは全部この部屋にあるんだ。」
…ここからまた、懺悔の時間がはじまった。
「ハンカチに、万年筆。ポーション。カフスボタン。枕は、ベッドにあるだろ?」
ラスは引き出しをあけると大事そうに、私があげたプレゼントを並べていった。黒歴史との対面に、また罪悪感が大きくなる…。しかも。その横に、刺繍してあげたハンカチまで並べられたの。適当に選んだ既製品のハンカチと、自ら刺繍を施したハンカチが並んでいるのを見ていると、いたたまれない気持ちでいっぱいになったわ。さらに。追い打ちをかけたのが…。
「ねぇ…、ラス。もしかして。私があげた物、一度も使ってないんじゃない??」
「リアからもらった物を使うなんて、そんなもったいないことできるわけないだろ。」
私が適当にあげた物は、使われずに大事に大事にしまわれていたの。馬用のポーションでさえね。枕はベッドに置いてあるけれど、使っているのは別の枕みたい。あげた枕は、枕元に大事に置かれているだけ。
「この、刺繍したハンカチをあげたときに、大事に使ってねって言ったわよね?」
「大事にするとは言ったけど、使うとは言ってない。」
……??言われてみれば、使うとは言っていなかったかもしれない。ニコっと微笑んだだけだったわ…。
「リアからもらったプレゼントを眺めていると、幸せな気持ちになるんだ。だから。汚したり、壊したりするのが嫌で使えなかった。」
「ラスっ!!ごめんね!本当に、ごめんね。」
ラスにしがみついて、何度も謝った。自分のしていたことが恥ずかし過ぎる…。私も、ラスからもらったプレゼントを使えなかった。でもそれは、意地を張っていただけ…。
「あぁー!!私って、なんて意固地だったのかしら…。ラス、ごめんね。いっぱい、いっぱい、ごめんなさい。」
「リア??」
「ごめんね、ラス。やだもう…。また、罪悪感の芽が大きくっていく…。」
「芽??大樹になったって言ってたのに、まだ大きくなるのか?けど、なんでだ?」
わけがわからず、ラスの声は戸惑っている。それでも。私は、謝り続けたわ。
もらったプレゼントを使わずにしまっていた。
同じことをしていたようだけれど。実際のところ、私とラスの行いには、雲泥の差があったのよ。
使うのがもったいないから、大事にしまっていたラス。
見るのが辛いから、物置きに放置していた私…。
「フィリアお嬢様。失礼いたします。」
エヴァンス家のメイドによって、ラスにしがみついていた私は、ラスから引き離された。
…やっぱり、エヴァンス家の使用人にも周知されているんだわ。私とラスの過度な接触を阻止するようにという、エスターからの指示が。
唖然としていた私とラスは、顔を見合わせると、吹き出してしまったわ。だってこんな喜劇みたいな状況、もう笑うしかないじゃない!?
これが、あと1ヶ月と少し続くのよ。
結婚式まで、数週間。
今日は、ドレスの最終フィッティングのため、エスターとデザイナーのミアさんが家へ来ていた。
「なんでだよ!金を出してるのは、俺の家なのに。」
ラスがふてくされているのは、結婚式の当日までウエディングドレスは見せないと、エスターに言われたからなの。
「お楽しみは、当日までとっておきなさい。リアだって、我慢してるのよ?」
「えぇー!?本当は、私だって見たいわよ。」
「ほら。花嫁本人もこう言ってるんだぞ!?」
試着の際。ラスは部屋から締め出され。私は目隠しをされ、ドレスを見られなかったのよ。ドレスを見たい気持ちは、確かにあるけれど…。正直、見なくても色は想像できるわ。だって。ラスの希望なのよ?
「ラス。時間のムダだから、諦めましょう。エスターが自分の意見を曲げるわけないじゃない??」
「そうよ。私に結婚式を任せたのは、ふたりなんだから、指示を聞いてちょうだい。絶対に、悪いようにはしないから!!」
私たちは、エスターの言う通り、ドレスは当日の楽しみにすることにしたわ。いい結婚式になるよう、尽力してくれているのを知っているから。
「ところで。今日のお茶、独特じゃない??」
匂いも、味も変わった味がするの。そのことを指摘すると。
「確かに、はじめての味ね。だけど、不味くはないわよ?」
「そ…そうだな。でも、ほら…。飲めなくは、ないだろ??」
そう言うと、ラスはお茶を一気に飲み干した。その反応に違和感を覚える…。
「ねぇ、ラス?このお茶の茶葉は、ラスが用意したものなの??」
「い…いや?この茶葉は、エスターが持ってきたものだけど…。」
「エスターが??」
エスターに視線を送ると、彼女は大きなため息をついた。
「はぁー。ラザラス。あんたってほんと、リアに隠しごとできないわね。」
「隠しごと??ふたりして、なにを企んでるのよ!?」
「この茶葉にはね、ウィルバート様からいただいた薬草をラザラスが調合したものが混ざっているの。独特なのは、そのせいよ。」
お茶から、独特な匂いと味がしたのは薬が混ざっていたからなのね。でも待って…。
「ウィルバート様からいただいた薬草って…。まさか、あの気持ち悪い生薬じゃないわよね!?」
「あぁ。お茶会でいただいたあの生薬を飲ませたのは、もうずいぶん前だな。」
「そうね。王都から戻ってから、わりとすぐだったわよね。」
…嘘でしょ。知らないうちに、あの気持ち悪い生薬を飲ませられていたなんて…。想像したら、ぞわぞわしてきちゃった。
「薬嫌いのリアに、バレずに飲ませるために、料理やお菓子に混ぜたんだ。」
「薬に携わる家の娘なのに、薬嫌いって。リアってほんと、おもしろいわよね。」
「薬が嫌いなの知ってて飲ませるなんて、ふたりともひどい!!」
「それがね。ウィルバート様が、ことあるごとに贈り物をくださるのよ。ほら。ランタンを強引に譲ったじゃない??そしたら。提供してくれる魔石と一緒に、魔物の素材が送られてきたのよ。だから。魔道具の試作品と一緒に、辺境伯領では採れない果物のドライフルーツを贈ったの。それで。そのお返しが、また送られてきて。ずっと、贈り物の送り合いが終わらないのよ…。」
贈り物でエスターを困らせるなんて、ウィルバート様すごいわね…。でも。その贈り物のせいで、私は薬を…。あら…??そういえば。私は、いったいなにを飲まされているのかしら。
「ねぇ…。ちなみに、このお茶には、なにが混ざっているの…??」
知るのは怖いけれど、恐る恐る聞いてみた。
「今回のは、ヴェルナー辺境伯領にのみ自生する果物の実を乾燥させたものですって。なんでも、疲労回復に効くらしいの。味はあれだけどね。」
「…今回の"は"??他にも、あるの?」
「いろいろいただいたのよ。だけど。私の目には、ただの花や、雑草、根っこ。木の皮とか枝にしか見えなかったのよね。あとは、魔物の肉を乾燥させたものとか。ねぇ、ラザラス?」
「雑草とか、木の枝じゃないからな!?どれも、希少価値のあるものなんだから。あの魔物の肉もな、処理が難しい上に、一体からわずかしか取れない部位で、生命力を高めるんだぞ。」
「へぇ。あんたって、薬に詳しいのね。」
「当たり前だろ。この家を継ぐんだからな。おまえは、俺をなんだと思ってるんだよ。」
「リアの症状に関係のない薬には、興味がないのかと思っていたわ。よかったわね、リア。旦那様が薬嫌いじゃなくて。この家も、安泰ね。」
唇をとがらせ、むくれている私を見て、ふたりが笑う。知らずに薬を飲ませられていたから、怒っているのに。それに…。魔物って、人が食べても大丈夫なの??
「懐かしいな、その表情。昔は薬を飲むのが嫌で、よくむくれていたよな。薬の匂いも、苦いのもヤダって。嗅覚も味覚も過敏だから、無理もないけど。」
「だけど、リア。あなた、先月19歳になったのよ?薬ぐらいで騒がないの。それに。リアひとりに飲ませたらふてくされると思って、私もラザラスも飲んだのよ。」
「…でも私。咳には気をつけなきゃいけないけど、元気なのよ??薬なんて飲まなくたって平気よ。」
「これはね。万全な体調で結婚式に臨めるよう、ウィルバート様からのご厚意なのよ。」
ウィルバート様からのご厚意なんて言われたら、なにも言い返せないじゃない。
「確かに、リアは基本的に元気だよ。体調に悪影響を及ぼすとしたら、ストレスが原因だろうな…。心に負荷がかかり、そこから体を悪くするんだ…。"病は気から"って言うくらいだからな。」
ラスが見た未来では。私が、体調を崩す原因となったのは、エスターが亡くなった悲しみからくるストレスだった…。
「あら。ストレスの心配なら、いらないわよね。ふたりのこじれた関係は、修復したのだから。あとは、結婚して幸せになるだけでしょ!?」
エスターの言葉に、私とラスは笑顔で頷いた。
「結婚式は、もうすぐなんだからね。ふたりとも、体調管理はしっかりするのよ。せっかくの式を、体調不良なんかで台無しにするのはやめてよね。私が一番心配してるのは、つわりよ!」
「そんな心配いらないだろ!?俺とリアは、ふたりきりになれないんだからな。おまえが、使用人たちに指示したせいで!!」
エスターのせいで、ふたりきりになれないと怒るラス。
結婚式までは、我慢するようにと言うエスター。
数ヶ月続いたこのやり取りも、あと数週間で終わるのね。
「ところで。ラザラスからの誕生日プレゼントは、なにをもらったの??当日は。こいつが、リアだけに見せるんだって言って、私には見せてくれなかったじゃない。」
教えてもいいかラスに視線で訴えると、ラスは微笑みながら頷いた。
「ネックレスと。うさぎのぬいぐるみよ。」
「あぁ〜、はいはい。ネックレスは、どうせブルーサファイアなんでしょ。でも。うさぎのぬいぐるみは、なにか意図があるの??」
「あのね。うさぎがジュエリーボックスを持っていて、その中にネックレスが入っていたのよ。それで、そのうさぎの目がね、ブルートパーズなの。」
「あぁ。エミリオの色なのね。」
「そうなの!!その淡い青色の瞳で、私を見つめてくるのよ。もう、ものすごーくかわいいんだから。それと今。ラスにあげたのと、私のぬいぐるみも一緒に座らせてあるんだけど。私がつくったうさぎより、小さいから、うさぎの家族に見えるのよ。エスターにも、あとで見せてあげるわね。」
「それなら今度、私のうさぎも持って来ましょうか?」
「本当!?ふたりとも、私のあげたぬいぐるみを大事にしてくれてるから嬉しいわ。ラスなんかね、『フィーア』って名前までつけていたのよ。」
笑ってそう言うと、エスターが冷めた目でラスを見た。
「あんた。男のくせに、ぬいぐるみに名前なんてつけてたの?それも。『フィーア』だなんて。どうせ。リアだと思って、ぬいぐるみに話しかけていたんでしょ?」
「なんだよ。別にいいだろ。なら。おまえは、名前つけてないのかよ!?」
「つけてるわよ。うちのうさぎは、『リア』っていうの。」
「そのまんまじゃないかよ!?」
ラスも、エスターも、私があげたうさぎのぬいぐるみに私の愛称をつけていた。…なんだか、こそばゆいわ。
「ねぇ。リアは、うさぎに名前をつけてるの?」
「私のうさぎはね、『ラヴィ』よ。」
「うさぎの、ラヴィって。それこそ、そのまんまね。」
エスターってば、私がつけたうさぎのぬいぐるみの名前を聞いて、つまらなそうな顔をするのよ。ひどいと思わない??それで、私ね。つい、言い返してしまったの。
「ラスが、『フィーア』ってつけたなら。私は、『らじゃらしゅ』ってつけたらよかった??」
そしたら、エスターから尋ねられた。
「ちなみに。ラザラスからもらった、小さいうさぎにも名前はあるの?」
「あるわよ!『リオ』って言うの!!」
私は、胸を張って答えたわ。だって瞳が、エミリオの瞳と同じ色なのよ?それ以外の名前なんて、思いつかなかったわ。
「まぁ、そうだと思ったわ。つまり。『フィーア』に、『らじゃらしゅ』、それから『リオ』の、三人家族ってことね。」
「ああっ〜!ほんとだな。」
なぜだか、ラスが感動している…。待って、待って。本気で、『らじゃらしゅ』ってつけるつもりはなかったのよ?冗談で言ったのに…。口元を緩ませているラスに、今更冗談だったと言える雰囲気ではないわ。それならせめて、『らじゃらしゅ』のままではなくて…。
こうして。
長年愛用していた、うさぎのぬいぐるみの『ラヴィ』は、『ラシュ』に改名したの。




