#14 お茶会で得たもの
ウィルバート様とのお茶会は、『俺も、リアからの招待状が欲しい!!』とラスが言い出したから、場所はうちの温室に決まったの。ウィルバート様とエスター、ラスの三人へ招待状を送って。それから。強い匂いが苦手だと言っていたウィルバート様のために、優しい匂いの茶葉を選び、それに合うお茶請けを用意した。
そして。お茶会当日。
「ようこそ、ウィルバート様。お待ちしておりました。」
私とラスはふたり並んで、ウィルバート様を歓迎する。ラスは、お茶会のお客様になりたかったわけじゃなく、ただ招待状が欲しかっただけみたい。私たちが挨拶している様子を見て、一足先に来ていたエスターはあきれていた。
「なにあれ!?ラザラスってば、もうこの家の主人になったつもりでいるの??」
ラスは、エスターを一瞥し、小さくため息をついた。
「ウィルバート様、すみません…。あれがお話ししていた友人の、アンダーソン伯爵家のエスター嬢です。」
「お初にお目にかかります。アンダーソン伯爵家のエスターと申します。本日はよろしくお願いいたしますわ。」
「ヴェルナー辺境伯家のウィルバートです。こちらこそ、わざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます。じつは。今日のお茶会、楽しみにしていたのです。」
「まぁ!?それほど、ご令嬢の情報を心待ちにしていらしたのですね。」
「えっ!?違います。いえ…、確かに情報も必要なのですが。王都へ来てから、いろいろな方と交流してみたものの、ただただ疲れるだけで…。だけど、今日のお茶会では腹の探り合いはないだろうから。」
ウィルバート様の率直な思いを聞いて、このお茶会が楽しいひとときになって欲しいと思う。
「ふふっ。正直なお方ですわね。社交の場では、本音はおっしゃらないほうがよろしいですわよ。けれど。今日は、堅苦しいのは抜きにしましょうか?」
「それなら。今日は、私もしゃべってもいいわよね??」
「そうね。リアも、いつも通りでいいと思うわ。」
今日も扇子を持たされていたのだけれど、好きにしゃべってもいいと、お許しが出たわ。
「ウィルバート様も、それで構いませんか?たぶん。普段の俺たちの言動を見聞きしたら、驚くかもしれませんけど。」
「普段通りでいいですよ。その方が僕も気が楽ですから。」
早速。今日のお茶会の目的である、ウィルバート様の婚約者候補についての話がはじまる。テーブルには、エスターが調べ上げた、姿絵つきの令嬢たちの資料が並べられている。エスターは、資料を指さしながら次々に令嬢を紹介していった。令嬢の人柄、趣味、家族との関係、家の財政、派閥、交流関係、結婚した際の利益・不利益など…。
「こちらの伯爵令嬢は、ご存知でしょう?王宮の舞踏会で、しつこく絡まれていらしたものね。」
「あぁ…。あの、香水の匂いがきついご令嬢ですか。」
「この伯爵家は、一家揃って野心が強いんですの。彼女の本命は王太子殿下で、ゆくゆくは皇后の座を狙っているのです。さらに保険をかけ、第二王子殿下にもアプローチを試みていますわ。」
「つまり…。僕は、そのさらなる保険というわけですね??」
「そうなりますわね。裏表がないので、悪い子ではないんですけどね…。ただ。欲望に忠実なだけで。」
困ったようにエスターが微笑むと、ウィルバート様が頭を抱えてしまったわ。
「お前は、どこの諜報員だよ。」
ラスは、エスターが調べた令嬢たちの情報が詳し過ぎるから、唖然としているわ。確かに、令嬢の人となりを詳しく聞き過ぎたせいで、私が胸を張って、ウィルバート様へおすすめできる令嬢は、ひとりもいなかったわ。だって…。婚約者はいないけれど、恋人が何人もいる令嬢や。結婚後、跡取りができたら、愛人をつくるつもりでいる令嬢。義母兄と秘密の愛を育む令嬢。散財の結果、婚約破棄された令嬢。使用人を蔑んだり、手をあげたりする令嬢。その他のまともそうな令嬢たちは、魔物が出没する辺境の地では暮らせそうにない、繊細な方々なんですもの。
「アンダーソン伯爵令嬢。このように資料まで作成していただき、ありがとうございます。ご令嬢方のことは、帰って資料を読むことにします。なので。ここからは、みなさんの話を聞かせてくれませんか??」
ウィルバート様が、私たちの話を聞きたいとおっしゃるので、はじめに、私とラスの婚約が生まれたときから決まっていたことをお話ししたの。それから、私たち三人の出会いを振り返る。
「王都で同年代の子どもの交流会があってから間もなく、うちのお祖父様が危篤だと知らせが届いたため領地へ向かっていたの。その途中、ロックハート侯爵領で、うちの馬の調子が悪くなっちゃったのよね。馬車が立ち往生していたときに、はじめてリアとラザラスと話をしたのよ。」
「そうだったな。交流会では言葉を交わさなかったからな。」
「そうそう。交流会で、ふたりの姿を見かけてはいたのよ。リアにべったりくっついていたから、印象に残っていたのよね。それで。領地でも一緒にいるから、『おねえちゃんこなのね。』って言ったら。こいつ、ものすごく怒ったのよ!!」
「お前が、『姉弟』って言ったからだろ!!"きょうだい"に見えたのは、まぁ…、百歩譲って仕方ないとして。なんで、俺の方が弟なんだよ!?」
あのとき、ラスが怒っていたのは、私の弟だと間違われたからなのね。この前、私がラスのことを弟扱いしたときも、ふてくされていたものね。
「まぁ、いいじゃない。仲よく見えたってことなんだから。それにね。ふたりと領民との関係も、家族みたいに見えたのよ。」
「そうでしょ!?うちとラスのところの領民、みんな仲が良くて家族みたいなの。けど今は、エスターのところの領民だって仲良くしてるじゃない??」
「そうね。人たらしのリアに、み〜んな心を掴まれちゃったからね。」
「エスターっ!"人たらし"だなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ!!」
もう!ウィルバート様がいるのに、変なこと言わないで欲しいわ。
「なるほど。みなさんは家族だけでなく、領民ぐるみで仲が良いのですね。」
『そうなんです。』と、ラスとエスターは即答した。けれど私は、エスターのご両親のことが頭に浮かんでしまって、答えられなかったの…。
思ったことが顔に出ちゃうって、このことなんだわ。否定するような私の反応のせいで、妙な空気になってしまった。
「…それほど仲が良かったのに、おふたりはどうして不仲になってしまったのですか?」
ウィルバート様の発言に、場の空気が凍りついた。きっと。沈黙になってしまったから、なにか話さなければと気を遣わせてしまったのよね…。
「…ぷっ。あはははっ。その話、どこでお聞きになったんですか??」
エスターの笑い声が、沈黙を破った。
「王宮の舞踏会で、耳にしたのです…。」
「それでは。ふたりのすれ違いをそばで見てきたこの私が、お教えしましょう。こじらせた、ふたりの8年間を。」
ラスが止めようとしたけれど、エスターの口を止めることは出来なかったわ。しかもエスターってば、かいつまんで話せばいいのに、赤裸々に話しちゃうんだもの。私とラスは、エスターの口から語られる自分たちの8年間を、いたたまれない気持ちで聞いていたのよ。
「つい最近まで、ふたりきりのときは本当に会話がなかったんですよ。だから。私、ふたりのお茶会を"沈黙の茶会"って呼んでいるんです。そうよねぇ??」
エスターが話を振ってきたけれど、私は唇をとがらせ、むくれていた。
「このように、リアは感情が顔に出てしまうのです。その上、頑固で負けず嫌いなので、ラザラスの失言を8年も許せなくて。『ラスが婚約を、"仕方ない"と思っているように、私だって、"仕方ない"って思ってるんだからね!!』と張り合っちゃって。」
「8年。長いですね…。」
「そう。8年もですよ。ラザラスは、ラザラスで。リアに嫌われるのが怖くて、な〜んにも言えない臆病な小心者なんです。ふたりとも思い込み激しいせいで、まぁー、こじれるこじれる。きっかけは、些細な捉え方の相違だったのに。」
「おまえ。今日は、猫かぶらないんだな。確かに自分で、堅苦しいのは抜きだと言っていたけど、いつものよそ行きの顔はどうした?」
「いいんです。いつも通りでとお願いしたのは、僕の方なので。みなさんの普段の様子を教えてください。」
言いたい放題のエスターに、ラスは言い返したのだけれど、ウィルバート様は構わないと言って、私たちのことをもっと尋ねてきたわ。
「俺たちの普段の様子ですか…??」
それでラスもまた、エスターと同じく、赤裸々に話しはじめたのよ。私たち三人の楽しい思い出も、恥ずかしい思い出も、勇ましい思い出も話しちゃったの。
「あの令息たちが、『あの女の風魔法はヤバイ』と、伯爵令嬢のことを怯えた目で見ていたのは、以前打ち負かされたことがあったからなんですね。」
「リアの髪の色をバカにした、あいつらが悪いんですわ!!」
「そうだ。悪いのはあいつらの方だ!リアの気を引きたいからって!!」
ふたりが、私のために怒ってくれているのは、わかるのだけれど。令息たちと取っ組み合いの喧嘩をした理由を知って、私は首を傾げてしまう。
「私の髪色、バカにされてたの?」
ふたりが、息の合ったため息をついた。
「あいつら。リアのホワイトブロンドを、白髪みたいだって言ったんだよ。」
「こんなにきれいな髪なのに。しかもリアは、自分の髪色が白いから、白髪って言われても気にしてないし。」
「だって…。ラスの髪は金だから、金髪で。私の髪は白いから、白髪でしょ??」
見たままのことを言ったら、ふたりに深いため息をつかれてしまった。
「リアが気にしなくても、私とラザラスは許せなかったの。だから、あとから文句を言いに行ったのよ!そしたらあいつら、謝るどころか言い返してくるんだもの。余計に頭にきちゃったわ!!」
「けど、エスターの口には敵わないから、今度は手を出してきたんだ。そしたらあいつら、こいつのおこした風に、高く巻き上げられてさ…。俺は、それを見上げることしか出来なかったよ。」
ラスが当時を思い出して、空を見上げている。その見上げた先を目で追ってみたら、思いのほか高かったの。
「まさか、エスター…。あんなに高くまで巻き上げたの??」
エスターは否定も肯定もせず、微笑みを返してきた…。
「まぁまぁ。過ぎたことですから、いいじゃないですか。それに、令息たちは生きているのですから。」
「そうですわよね??」
笑顔でそう言う、ウィルバート様とエスターに不安を覚えちゃう。
「私。ルーカス様に、ラスとエスターが暴走したとき、止めるように言われているのだけれど。止められる気がしないわ。」
「そんなの、俺だって。リアとエスターの暴走を止めるようにって、兄さんから言われてるぞ。」
「あらっ??私もよ。リアとラザラスの手綱を離さないようにって。」
私たちが、三人で顔を見合わせていると、ウィルバート様が笑い出した。
「ラザラス殿の兄上は、三人がそれぞれ抑止力になるように手を打ったのでしょう。これまでの出来事を聞くと、三人とも、突っ走ってしまう傾向があるようですからね。」
私たちは、またお互いの顔を見合わせ、笑っちゃったわ。ルーカス様は、心配症だってね。
「では。もしも三人とも暴走してしまって、止める役割がいないときは、僕が三人を止めましょう。」
「そのときは、お手柔らかに止めてくださいね。魔物と戦うような力では、ひ弱なリアはたえられませんから。でも。ちょっとの怪我なら、こいつが治してくれますわ。」
エスターは立てた親指をラスへと向けた。
「やめろよ。その令嬢らしからぬ仕草。」
確かに、令嬢にあるまじき仕草だけれど。エスターだけじゃなく、私とラスの言葉遣いも大概だわ…。普段の三人だけの茶会のように素で話しているもの。それでもウィルバート様は、品のない話題や、態度にも笑ってくださっている。そういえばウィルバート様も、はじめより自然な話し方になったような気がするわ。素のエスターと一緒にいると、こっちまでつられちゃうのよね。だから、私。エスターといるときは、ラスを無視出来なかったのよ。
この前気づいたのだけれど、ルーカス様もくだけた話し方になっていたわね。
「はじめに言っておきますが。三人の思い出話と比べると、僕の身の上話なんて、おもしろくもなんともないですからね。」
そう前置きをしてから。ウィルバート様は、ご自分のことを話しはじめたの。どうして王都まで来て、結婚相手を探すことになったのかを。
「我が領地には、やたらと仲人をしたがるご夫人がいるのですが…。結婚適齢期の男女を、片っ端からくっつけていって。さらに下の世代の婚約まで結んでいき。その結果。今、領内で婚約者が決まっていないのは、10歳以下の令嬢たちしかいないのです。」
「…それはつまり。お相手を、辺境伯領内で見つけようとすると、10歳以下の令嬢からしか選べないということですか。ウィルバート様は23歳でしたっけ?うちの兄と同じか…。」
ラスが、『う〜ん』と唸って首を捻っているのに対して、エスターは国王陛下を引き合いに出したの。
「あら。だけど、国王陛下と現在の皇后様の年の差は18よ??」
「いやそれは、また話が違うだろ。年の差はあっても、皇后様は成人しているんだし。」
「先の皇后様が身罷られて、もう5年…。そういえば、辺境伯夫人でいらした、ウィルバート様のお母様が亡くなられてからも5年になりますわね?」
うん…??なんだか、話の流れが怪しいわね…。もしかしてエスター、話を誘導してる??
「…そうです。よくご存知ですね。」
「辺境伯様は、後妻を迎えるご予定はないのでしょうか?」
「その予定はないと思います…。今は、僕が身を固めることを考えているはずですから。」
「そうなんですの…。」
その、明らかに興味をなくした反応、失礼だわ。ヴェルナー辺境伯領は遠いから、辺境伯様は候補から外していたはずなのに、エスターがウィルバート様の継母に名乗り出るんじゃないかと、ヒヤヒヤしちゃったわ。父親の再婚を問われ、ウィルバート様は困惑顔よ。
「あっ!もしかしたら、そのご夫人が、適齢期の方々をことごとく結びつけていったのは、ウィルバート様のお相手を領地の外から迎えるよう、仕向けるためではないかしら??」
「現に今、その通りになっていますが。でもなぜ、領地の外からでなければならないのでしょう?」
「辺境伯様は王家と距離をとられていて、王都へはほとんどお見えになりませんし、辺境伯夫人も領内の方でしたよね。なので、王都を含め、他領との結びつきが弱いことを危惧したのでは?」
「そう言われると、そんな気がしてきました…。もしかしたら、矢面に立っているのはあのご夫人でも、策を考えた者は別にいるのかもしれないな。…僕は、他領との結びつきを得るために、王都で結婚相手を探すように仕向けられていたのか…。確かにこんな状況でなければ、王都へ来ることはなかっただろうな。」
「ええ。だって、おかしいじゃないですか??領主のご子息を差し置いて、みんながみんな婚約を結んでいるなんて。意図してそのような状況をつくったとしか思えませんわ。辺境伯領は、魔物の脅威と隣り合わせで、雪が続けば陸の孤島になりますからね。有事の際を思えば、他領と縁を結んでおくのが得策ですもの。…でも。余計な争いを生みたくないという、辺境伯様のお気持ちも汲んで差し上げなければいけませんよね。」
「あは…。本当に、よくご存知で…。」
ウィルバート様は、驚愕のあまり上手く言葉が出ないようだわ。私とラスも、顔を見合わせて驚いている。だって、ウィルバート様の情報はほとんど知らないと言っていたエスターが、辺境伯様と辺境伯領については詳しいんだもの!?
「次期辺境伯としは、領民や領地のことを考えなければいけないでしょうけど。どうか、ご自身にとって悔いのない、結婚相手をお選びください。ウィルバート様の人生は、ウィルバート様のものですから。」
「そんな、自分の思いを優先させるようなことが許されるのでしょうか…?」
「自分の相手を他人に決められても、中にはこのふたりのように幸せになれる者もいるでしょう。けれど…。不幸になる者だっているのです。うちの両親のように。」
他人に決められた結婚だからといって、不幸とは限らない。ラスとの婚約は、両親に決められたものだけれど。私は今は、相手がラスでよかったと、心の底から思っているもの。同じく、結婚相手を親に決められたエスターのご両親は、決められた相手を受け入れられず、いまだに背を向け合っている…。
「今日紹介した令嬢たちの情報は確かなものですが、あくまで参考程度に。私がお教えするのは情報だけ。この令嬢たちの中から、どなたかをすすめたりはしませんわ。気になる方がいらしたら、実際に会って言葉を交わし、ご自身の目で確かめられるのがいいでしょう。」
「そうですね。僕も、実際に会って言葉を交わすのは大事だと思いました。」
「あら、もしかして。気になる方がいました??」
「それは、まだなんとも…。」
ウィルバート様は答えをはぐらかし、用意していたお礼の品をテーブルへ並べた。
「オフィオコルディセプス・シネンシスと、熊の胆汁を乾燥させたもの、これは鹿の角で、こちらの瓶は袋角を酒に漬けたものです。」
「滋養に良い、希少な生薬じゃないですか!?」
ラスは生薬の希少さに驚いていて、私とエスターは見た目の気持ち悪さに顔を引きつらせていた。でもね。エスターってば、"希少"だと聞いた途端、話に食いついたのよ。本当、現金なんだから。一応、私だって、薬を扱う家門の一員として知識はあるのよ。でも、虫に寄生したきのこも、熊の胆嚢も、鹿の角も見てると鳥肌が立ってしまうの。だから心ここにあらずで、三人の話も耳に入っていなかったのよね。まさか後日、これを自分が口にすることになるなんて、このときは思いもしなかったわ…。
虚弱な私の体質を改善出来るかもしれない生薬は、ラスとエスターにとって最高の贈り物だったみたい。ウィルバート様は、ふたりが喜ぶとわかった上で選んだのかしら??
それから。ウィルバート様からのお礼の品に対して、エスターも。
「こちらは、私からのお返しですわ。気に入っていただけると幸いなのですけど。」
「えっ!?お返しですか??生薬は、お茶会へ招待していただいたことと情報のお礼ですから、お返しを受け取ってしまうと、僕はまた別のお返しを贈ることになりますが…。」
「あら。それだと、お返しをずっと贈り合い続けることになりそうですわね。う〜ん。それなら。これは、"試供品"としてお受け取りください。使ってみて良かったら、領地へお戻りの際お土産にぜひ。」
エスターは、自分のお店で扱っているハンドクリームと、魔力を込めれば何度でも使える簡易懐炉を用意していた。
"試供品"という名の初期投資を…。
「本当だ。魔力を込めたら暖かくなりました。そうだ!!王宮のテラスで、ラザラス殿が使っていたタイプのものも、伯爵令嬢のお店の商品ですか??」
「残念ですが、周囲を暖めるほどの魔石は手に入りにくいため、量産出来てないのです。」
「魔石があればいいのですね。では。魔石は、僕が提供するので、加工してもらえますか?魔物を倒した際に魔石を回収しているのですが、使い道がわからず放置したままのものがたくさんあるんです。」
「本当ですかっ!?効果のわからない魔石がたくさん??うちの術師たちが聞いたら、発狂しちゃいそうだわ!!」
「すでに、おまえが発狂してるけどな。」
魔石を提供してもらえることになり、エスターは子どもみたいにはしゃいでいるわ。
「あら…??ところで、私。自分がお店を持っている話をしましたっけ?」
「いえ…。じつは…。」
ウィルバート様は王都のお店をあちこち巡っていて、行く先々で、ある男性を見かけたらしいわ。その男性はどのお店でも、従業員へ同じことを言っていたそうなの。『オーナーが王都へいらしている間、いつ抜き打ちで視察に見えるかわからない。だから、常に見られている意識をするように。』って。そして。その人とすれ違ったとき、『せめて。お嬢様の特徴を従業員へ教えられたら…。いや。そんなことをしたら、風で空高く巻き上げられるよな…。』とつぶやいているのを耳にしたのですって。
その男性は、王都中のエスターのお店を任せられているハンスさんのことだわ。
「その男は、もしかして茶髪の眼鏡でしたか??」
「はい。そうです。」
「ハンスっ!!どこで誰に見られているかわからないのだから、あれほど言動には注意するよう言って聞かせたのに!!」
王都のお店に限らず、他領の店舗でも、ほとんどの従業員はオーナーの正体を知らないの。だからエスターは、客として堂々とお店を視察しているのよ。抜き打ちでね…。
「あーあ。ハンスの奴。大目玉を食らうな。」
「ハンスさんという方が悪いわけではないのです。僕が人より聴力がいいから、聞こえてしまっただけで。」
「そういえば。リアと同じで嗅覚も過敏だと言っていましたよね。」
ラスとウィルバート様の会話を聞いて、エスターの怒りは落ち着いたみたい。
「では。口止め料として、今度私の使っている暖房具のランタンをお譲りしますわ。魔石のものより高性能ですのよ。」
「そんな、受け取れません。心配なさらなくても、決して口外しませんから。」
「ふふっ。ウィルバート様。あげると言っているのですから、遠慮なく受け取るといいですよ。エスターにとってこれは、ただの初期投資ですから。この前のお茶会でも、ご婦人たちにゼリーの試供品を…。」
「ちょっと、リア!!」
エスターは慌てて、私の口を手で塞いだ。その様子を見て、ラスが疑いの眼差しを向けてくるの。
「リア、ゼリーがどうしたんだ??」
「おいしいゼリーの試食よ。そうよね。リア!?」
有無を言わせないエスターの目力に、私はただただ頷いたわ。また、やってしまったみたい…。だから。お茶会では、扇子で口を隠して、話しちゃダメって言われるのよね…。
こうして。婚約者候補を見定める目的だった今日のお茶会で、ウィルバート様は婚約者候補ではなく、魔石の卸し先を見つけたのよ。




